文字数も少なめです。
「……殲滅完了。オルガ、様子は?」
『第二波のワイバーンに紛れて、複数のサーヴァント反応があるわ。こちらに辿り着くまで五分というところかしら……作戦の第一段階は成功ね』
オルガの返答を聞き、ニヤリと自分の片頬が上がったことを自覚できた。
作戦の肝となるのはここから先。
俺達……いや、俺がどこまで化け物どもの相手を出来るかにかかっている。
「【
効果 身体能力 向上
代償 適当量の魔力
「重ねて……」
効果 脚力 向上
代償 左腕感覚封印
「これで、最後」
効果 聴覚能力、視覚能力 向上
代償 効果時間内の
体に浮かび上がった魔術回路から、パチパチと青白い閃光が迸り、淡い光が全身を包みこんでいく。
三つ合わせての『対英霊戦闘専用強化』。
ここまで身体強化を行うことで、漸く対英霊戦闘の土俵入りが許されたのである。
「久々に、勝ちに行く戦闘だからな……ちょっと真剣になるわ」
『そんなこと言って……また泣き言溢さないでよ?』
そう言いながら、肩を回してボキボキと音を立てていると、オルガからジト目つきであろう言葉がかけられる。
それに対して、俺ではなくアサシンが答えた。
「大丈夫ですよ、オルガ。なんだかんだ言って、その人。私が認めた相手ですから……ね?マスター?」
……時々、信頼が重い。
「お、おう。任せとけって……多分」
しら〜っと目を逸らして返答した俺の様子に、オルガはため息をついたのだった。
◇◆◇
オルレアン郊外の草原にて、次々と青年が行使していく【代償強化】に、私は目を見開いていた。
驚愕した理由は最後の一つ……令呪の使用を自ら封印する、という代償にある。
それはマスターの判断として、正気の沙汰ではないものだったからだ。
通常の聖杯戦争では、サーヴァントへの抑止力として一画分の令呪は残すべきものと考えられている。
滅多に起こるはずもないが、サーヴァントによるマスターへの反逆を防ぐためには、令呪の存在が必須であるからである。
「マスター、無茶はいけませんからね?」
「わってるよ。ロマンにも約束しちまったしな」
彼らの様子を、その尊ぶべき信頼関係を目の前にすると、私は彼女との会話を思い出しそうになる。
『接敵まで、カウント10秒前……4、3、2、1……』
「……ッ!」
思考の海に呑まれそうになっていた私の耳に、マスターの声が届いた。
慌てて意識を外界へ向けると、視認できる距離に敵影は存在している。
全部で四人のサーヴァントと、数えるのがバカらしくなる程のワイバーン。
そのうちの一人、黒き鎧に身を包んだサーヴァントが、かなりの速度でこちらへと飛びかかってきていて……
「A r r r r r r r r!」
「……ッ!」
激突。
衝突により生じた轟音が、開戦を告げる合図となった。
『ジャンヌ!?』
黒きサーヴァントの突撃を受け、後方へと吹き飛んでいったジャンヌへと、オルガが焦ったように声を飛ばす。
「もん、だい……ありません!……ハァッ!」
振り向けば、ギリギリで大旗の防御を完成させていたらしく、膝をつきながらも相手サーヴァントの攻撃を凌いでいるジャンヌの姿が目に入った。
『よかった……』
「マスター、伏せて!」
視線を前に戻す……前に、アサシンから飛んできた警告に従い、その場で伏せる。
次の瞬間、俺の頭上を三本の矢が掠めていった。
それらの姿を見送ると同時に、矢が飛んできた方向へと突貫を開始して、警棒を抜き放つ。
「また、アーチャーかよ!」
「殺す……殺してやるっ!!」
正気は失われ、その瞳に残るのはドロドロとした悍しい殺意のみ。
本来ならば緑の髪を持つ美しき女性なのであろう、そのアーチャーと視線が交錯して……
「殺す!」
「……っ、やれるもんなら……やってみろよ!」
次々と撃ち込まれる高速の矢を、強化された動体視力で捉え、警棒で弾き落とした。
そのまま接近……ガトリングガンのような勢いで叩き込まれる矢を次々と受け流し、警棒による一撃を叩き込める距離へと近づいていく。
しかし、誘い込まれたのはこちらだった。
ある程度接近し、矢を防いだ次の瞬間、完璧なタイミングで放たれた彼女の膝蹴りを、腹部にもらってしまう。
膝蹴りの衝撃で体が吹き飛ばされる。
そんな俺へと、間髪入れずに大量の矢が放たれていき……
「……っ!"吹き荒れろ"!」
瞬間的な判断で、魔力と引き換えに生み出した暴風が放たれた矢から、俺の身を守る。
幸い蹴りそのものの威力は、そこまで高くなかったようで、体に支障はきたしていない。
体勢を立て直す……それと同時に、警棒をアーチャーへ向けて全力投球した。球体じゃねぇけど。
「【代償強化】」
効果 瞬間強化 脚力
代償 3秒後 2秒間の行動不能
さらに、姿勢を低くして【代償強化】を使用。
地面を全力で踏み込んだ。
瞬間、爆発的な加速力が生みだされる。
「……っ!?」
「まず、一本!」
投げられた警棒を、矢で撃ち落とした直後だったアーチャーの懐へと潜り込み、全力で掌底をガラ空きな腹部に叩き込む。
全体重、そして加速分のエネルギーを乗せたその一撃は、英霊である彼女の体を簡単に吹き飛ばした。
アーチャーが、少しよろめきながらも体勢を整える。
その頃には、先程の代償による行動不能状態は解けていた。
「……っ、殺して……やる」
「もういいから……さっさと楽にしてやるよ」
加速する攻防。
痛ましいものを見るような表情を浮かべた青年が、アーチャーに向けて走り出したのを見て、オルガは考える。
(これが、結の本来の戦闘力……流石、擬似的なものとはいえ聖杯戦争を勝ち抜くだけのことはあるわね……)
そんな彼女は現在、魔力探知用の魔術を、超広範囲で展開し続けているのだった。
「二人……ですか。私も随分と、舐められたものですね」
戦闘中とは思えない程、気怠そうな様子でアサシンはそう呟いた。
その言葉通り彼女を挟み撃ちにする形で、相手側のサーヴァントである二人の男性は立っていた。
「……余裕、だな?」
「舐められているのは、私達の方ですか……」
そんなアサシンの態度に対して、槍を片手に正面に立った老人は苦笑いを浮かべた。
アサシンの実力を知るランサーとは違い、今が初対面である白髪の青年は、顔を顰めながら手にした大ぶりの剣を彼女に向ける。
大勢のワイバーン共は、周りを大きく囲むようにして留まっているため、逃がさないつもり……彼らがここでアサシンを討とうとしていることがよくわかった。
「……はぁ……いいですよ、いつでもどうぞ……私には、敵わないでしょうけど」
「……ふっ……それが本当か、この身をもって確かめさせて貰おう」
「……苦痛なく、逝かせてあげましょう」
ため息を吐いた後、ニコリ笑って挑発をかましたアサシンに、二人の英霊が襲い掛かった。
アサシンは攻撃を回避し続ける。
背後からの大剣による一撃を、首を傾けるだけで、前方から絶妙なタイミングで放たれた神速の突きをヒラリと体を半身にするようにして、それぞれを完璧に避ける。
全てが紙一重の超高度な回避技術。
紙一重……その一枚分の距離がとてつもなく遠い。
繰り返される攻防に、ランサーと白髪の青年の息が上がってくる。
対するアサシンの表情には、微笑を浮かべる余裕まで存在していた。
全力の攻撃を仕掛け続ける竜の魔女陣営の英霊二人に対して、最小限の動きで回避行動を続けるアサシン。
どちらの体力が先に尽きるかなど、明白なことであった。
今、彼女の姿は幼女のそれであった。
マーラを引き摺り出すまでもない。
彼女はそう判断して戦闘を行なっている。
猛攻を仕掛け続けるランサー達。
防御に回り続けているアサシン。
戦闘の光景とは裏腹に、その戦いは既にワンサイドゲームと化していた。
◇◆◇
その頃 竜の魔女こと、黒聖女。
つまり、もう一人のジャンヌ・ダルクは、結達の戦闘を、側近であるジル・ド・レェの魔術を通して観察していた。
「……何、あれ。本当に人間なの……?……コホン、もう一人の善性にマスターがついたのは予想の範疇ね。あの人外アサシンは足止めだけでいいとして…………ファヴニールをぶつけるべきかしら?ねぇ、ジル?ジルはどう思うのかしら?」
ブツブツ呟き、対策を練る黒聖女の姿からは、嗜虐の心を垣間見ることができて、その表情はどこか人間味の強さを感じさせる。
そんな黒聖女が声をかけた先には、大柄な一人の男性が立っていて……
「ええ、ジャンヌ。全て、貴方の思うがままに」
◇◆◇
『……やっとよ。やっと!全く、待ちくたびれたわ!』
嬉しそうに、一人の女性がそう言った。
『ファヴニールが動く!各自、オルレアンに突入して市街戦に持ち込んで!』
彼女の言葉を聞いて、青年は呟いた。
「頼んだぜ、軍師オルガマリー殿?」
完全決着まで 約一日。
ここから決着までイチャイチャ少なめです。
書きたくなったら番外を書くので、そちらで補給できればと。