息抜き。
全てカーマさん視点です。おかげで苦戦しました。
糖度全開、というほどではありませんが、こちらの世界線での彼女のバレンタインの様子です。
2月12日
あと二日でバレンタインデー……というやつである。
愛とか恋とか、あーだ、こーだと五月蝿くてたまらない。くだらないにも程がある。
日本で慣習化された文化だかなんだか知らないが、チョコレートを送ることが愛情表現に繋がるだなんてアホみたいだ。
かつてはチョコレートを媚薬に利用していたなんて話も聞くが、それを踏まえてこの文化を眺めてみれば、揃いも揃ってお猿さんですか、という話にすらなってくる。
加えて、ここに"手作りだから愛がこもってる"なんて偏見がついて回るのだから、本当に頭が痛くてしょうがない。
「…………でも、結さんは貴女がチョコレートを手作りしたら、泣いて喜ぶと思いますよ?」
ちっこいサンタがなんか言っている。
私は愛の女神ですよ?
こんなイベントごとに一々振り回されるわけないじゃないですか。
ハッと鼻で笑って、私は言う。
「何当たり前のこと言ってるんですか完璧で完全で最強に無敵なパーフェクトなチョコレートを作るに決まってるじゃないですかぶっ飛ばしますよ」
「凄い早口な上に怒られました!?」
二日後はバレンタインデー。
これは、彼女が最
「あの、別に波乱はいらないんですけ——」
「フォウッ」
「異論は聞かないと言わんばかりのドロップキックをやめなさいこの獣畜生!」
◇◆◇
さてさて、そんなわけで食堂へとやってきたのですが——
「密が! 酷い!」
嘘みたいに混み合うキッチンを見て、人生絶叫ランキングの第八位ぐらいにランクインするレベルの叫び声をあげてしまった。
多い、多すぎる。アリか何かなのだろうか。
これが全員英霊なのだというのだから、冷静になったらダメ。気にしたら負けというやつだ。
「あら、カーマ? 貴女もチョコ作りですか?」
気に障る声——いえ、器が同じな以上、声質に違いはないのですが——の発生源に目を向けるとそこに居たのは、パールヴァ……
「牛!?」
「はい! 見てください、このナンディーを!」
「馬鹿じゃないですか!?」
牛が居た。
速攻で人生絶叫ランキングの第八位が入れ替わった。
いや、クオリティーは確かに高い。めっちゃ高い。高すぎて燃やしてやろうかと悩んだぐらいに高い。
でも、それ以上にデカい。
ふざけてるほどにデカい。
誰か止めろよと頰を引き攣らせるぐらいにデカい。
「…………誰用ですか?」
「え、マスター用ですよ? あ、今から結さん用にも作りますけど、邪魔しないでくださいね。友チョコ、というやつですから」
「…………スケールを13000分の1ぐらいにするのなら、構いませんよ」
「13000ですね? わかりました!」
650万キロカロリーの行方を思い、立香へと合掌してから、話を本題へと戻すことにする。
「で、人が多過ぎると思うのですが」
「まあ、マスターに日頃の感謝を伝える良い機会ですからね。こうなってしまうのも仕方がないことかと……」
「感謝で留めておけば文句は無いんですけどね……どうしてそこに好意を上乗せしようとするのかが解せない所です」
「人のこと言える立場なんですかね……」
あー、煩い。やかましい。
何言ってんのか、全くわかりませんね。
「全く、貴女は…………人が多いのが気になるなら、真夜中——になると、逆に夜なべ勢が働き始めますし、夕刻頃にもう一度、こちらを訪れてみたらどうですか?」
「夕刻、ですか。なら、そうします。こうもキラキラキャピキャピと騒がしい場所に居ると吐き気がしてきますし」
「いつも通りでブレませんね、貴女は……」
当然です、と言い返そうとして……
「あっ、かまちょ、はっけーんっ! 聞いて聞いて、ちゃんマスを超ハッピーにするチョコ思いついたんよー!」
「…………ふーん、そうですか。一切興味がないですし、全く意味もありませんが、参考になるかもしれませんし、聞くだけ聞いてあげますよ、早く言ってください、メモを取るので」
「前言撤回です。貴女、相当浮かれてますよね?」
失礼な女神です。
私のどこを見て、浮かれてるだなんて感想が出てくるんでしょうかね。
◇◆◇
——夕刻
「空き時間に材料の確保は終わらせましたし、そろそろ私も作業に入りましょうか……キッチンの様子はどうでしょうか」
レイシフトを強制使用して、色々と狩り尽くすこと三時間ほど。
『もう少し手加減をしてくれ、時代が壊れるから!』と軟弱な軽薄男に頼み込まれたので、こちらへ帰ってきた私だったが、キッチンの様子は確かに先程よりも随分と空いているように見える。
「たまには使える情報を寄越すじゃないですか……」
軽く頷きつつ、予め用意しておいた材料を冷蔵庫へと取りに行ったところで、何やらめちゃくちゃ聞き覚えのある
「わかった、わかったから! ちょっと待って。手慣れてねえんだから、手間取るのはしょうがねえだろ!」
『いいから、キビキビ動く! 立香達に最高の友チョコを渡すんだから』
「作ってんのは俺なんですけど、そこんとこについてはどうお考えで?」
『あら、指示は私が出してるじゃない。サーヴァントの功績はマスターの功績でもある……当然よね?』
「使い魔扱い!?」
『いいから、いいから。チョコあげないわよ?』
「俺、自分で作ったチョコをプレゼントされんのか……」
な に し て ん の ?
絶句する。
人間、本当に驚いたときは声が出なくなるらしい。
え、本当に何してるんですかね。いえ、話の流れで何やってるのかはわかるんですけど、タイミングの悪さが致命的なんですがどうしましょう。
「と、とりあえず、バレないように……」
冷や汗がたらりと流れる。
まさか、気配遮断を持っていないことが、ここまで悔やまれる日が来るとは思っていなかった。
そろり、そろり、と移動していると、キッチン全体の様子を見守っていたらしい厨房のアーチャーさんと目があった。
「…………」
「何、目を逸らしてグーサインしてるんですか、燃やしますよ?」
「いや、少し面白いことになっているな、と思っただけさ……君も一緒に作っていったらどうだ?」
それは、願ってもない提案である。
チョコ作り……普通に問題なくこなせるであろう作業だが、目の前のどこを目指しているかわからないレベルの調理スキル持ちを頼れるのは、ありがたいと言うしかない。
…………だが、それではダメなのだ。
「……遠慮しておきます」
「……そうか。確かに、サプライズは大事だな」
「いえ、確かにそれもあるんですが——」
彼らと一緒に作りたくない……というより、作れない理由が、一つあるわけでありまして、と頭の中で言い訳を始めたところで、キッチン奥の会話が耳へと届いてきた。
『私が(指示して)作ってあげる、っていう事実と気持ちが大事なのよ……これでも、結構本気で貴方に感謝しているのよ?』
「まあ、それは嬉しいことだけどよ……あ、気持ちが大事、とかアサシンに言うなよ? 一昨日ぐらいにアイツにチョコをねだったら『私、バレンタインデーっていう文化、大っ嫌いですので、今回は何もあげませんからね』ってハッキリ口にされたからな。ガチ泣きしたわ」
『…………まあ、仕方ないわね。あの子、結構拗らせてるし……私と立香の義理チョコで満足しておきなさい』
「え、本命は?」
『あげてもいいけど、アサシンに何されても知らないわよ』
「ごめん、お前の気持ちは嬉しいんだけど、俺には好きな子がいるから——」
『な ん で ! 私がフラれたみたいになってるわけ!?』
わー、楽しそうだなー。
アーチャーさんからのジト目をサラッとスルーして、現実逃避を行う。
あ、そこ! 露骨なため息を吐くのやめてください。
「……カーマ」
「何も言わないでくださいわかってるんですつまらない意地というか私のスタイルと言いますか原点回帰って大事だよねとか色々考えた結果こうなったんですとか色々建前つけてみたわけですが結局直接本命チョコをあげると言うのが恥ずかしくなって逃げたと言いますかなんというか全面的に私が悪いのはわかるんですけど仕方ないと思いませんかだって私元々めちゃくちゃ拗らせてバレンタインデーの批判とか日常茶飯事に行ってきたのに唐突の手のひら返しとか失笑超えて嘲笑ものですよ本当にもうなんでこうなったんでしょうかね……マスター以外燃え尽きればいいのに」
「…………動揺はわかったが、破壊衝動を抑えてくれ。シヴァの残滓なんて持ち出された日には全員のチョコが溶け落ちてしまう」
表情を引き攣らせるアーチャーさんに、宥められること三十秒ほどで現実へと意識が回帰した。危ない危ない……獣堕ちも悪くないなぁとか考えるところだった。
「あ、そういえば……貴女はどうするつもりです?」
「……ん? ああ、あっちの方か」
一瞬、怪訝そうな顔をしたアーチャーさんだったが、私が誰に話しかけたのかを理解したらしい。
その誰かさん……マーラは、のんびりした口調で意外な回答を返してきた。
『そうですねー……渡すときに感謝だけ伝えたいので、そのときに変わってください。チョコ作りは貴女に譲りますよ』
「…………やけに、簡単に身を退くんですね?」
『まあ、私は既に作り終えてますし』
沈黙。
「は?」
『あ、私はしっかり結に渡す約束してますから、貴女は貴女でご自由にどうぞ』
「は?」
◇◆◇
「信じられない、信じられない! ありえませんよ、貴女最低です! 何勝手にちゃっかり自分だけ良い思いしようとしてるんですか!? 羨ましいにも程があります、私とその役代わりなさい!」
『貴女はただ自爆しただけじゃないですか……』
「うぅぅ…………」
目の前がぼやけてくる。
信じられない、この女。人の身体で何してくれてんですかね!? と泣きべそをかきそうになりつつも、どうにかダムの決壊を防ぐことに成功する。
いい加減、私も準備を始めなければ、というところで暇をしてそうな二人が食堂へと入ってきたことに気がつく。
「あれ、アサシンさん? ……って、半泣きです!?」
「ホントだ…………あれ、結局、チョコ作りすることにしたんだ」
「ましゅにりつか……いえ、べつにないてませんが」
トレーニング後にシャワーを浴びたのだろう。ホカホカと血行の良い立香とマシュは、こちらへ近づいてくると私が用意した材料を一瞥してから、こちらをしげしげと見つめてくる。
「……あの、なんかいつもより更にちっちゃくなってませんか?」
「心なしか舌足らずな気もするし……大丈夫? 結、呼ぶ?」
「ぜったいダメです……というか、だれがろりですか…………えいっ! さて、ではチョコ作りを行います。アシスタントは任せました」
「アシスタントですか!?」
「唐突すぎない? 別にいいけどね」
どうやら半泣きメンタルになっている間に、ロリにロリを重ねるようにロリ化していたらしい……ロリにロリを重ねるロリ化ってなんだ。
気合いを入れ直すために、姿を女子高生レベルまで戻して、マーラの権限を勝手に使って異界からエプロンを引き摺り出す。
「こうなったら、建前とかメンツとかその他諸々面倒なことを全部忘却するレベルで脳髄惚けさせるチョコというものを作るしかないですね……」
「先輩、気づけば、何やら超がつくほどの高レベルクエストに巻き込まれていたらしいです!」
「リタイア……は、出来なそうだね」
久しぶりに本気でいくとしましょうか。
・
・
・
「あれ、本気でバレてないと思ってるから可愛いんだだよなぁ」
『人が本命チョコを作ってあげてるのに他の女の話をしないの』
「何、面倒くさい女ムーブしてんのさ」
『因みに宛先はアサシン』
「超納得」
◇◆◇
バレンタインデー 当日
「な、難敵、でした」
「そうだね……まさかここまでの強敵だったとは、想定外だったよ……秒速四人のペースで増えるエリちゃん、ティアマトちゃんとの生死を賭けたインディアンポーカー、消えたウルク王と盗まれたミニクーちゃんの謎を解き明かした後、バニ王と一緒にサモさんの授業参観、最後の最後は伝説のカカオの実を巡る30メートル級の神霊●ャガーマンとの大決戦……手に汗を握る冒険の数々だったね」
「流石に、私も巨大ペンギン(リヴァイアサン)に飲み込まれたときには死を覚悟しましたが、なんとか、究極のチョコレートを完成させることができました……マシュ、立香、ありがとうございます」
私はマシュと立香と軽い抱擁を行い、感謝を伝えてから、マスターの姿を探そうとしたのですが……
「『待って、何してんのお前ら!?』」
「え、チョコ作りですが」
どうやら、向こうの方から、やってきてくれたみたいだった。
できることなら作りたてホヤホヤのチョコをあげたいところでしたので、好都合ですね!
「おや、マスターにオルガ、こんにちは。ハッピーバレンタインです」
「え、チョコ作り? 本当に? オルガ、俺ってもしかしてチョコ作ってなかった?」
『……制作過程がぶっ飛び過ぎていて、アサシンを揶揄うどころじゃなくなったわね』
おや、どうしてそんなに驚いているのかは、わからないですけど、私がバレンタインに参加することについてのツッコミはなさそうですね。
となれば、特に問題はない。
チョコはできた。なら、後はただ渡すだけ。
ささっと渡して、愛の言葉でも囁いてやりましょうか!
「では、マスター……えっと、その……ですね」
口を開く。
心臓の鼓動が、動悸が、はやい。
あれ、おかしいですね。
チョコの味は完璧。私の理性が飛びそうになるくらいなんだから、自信を持って渡せばいい。
コクリ、と唾を飲む。
手が震えてきて、視界が狭く。
深呼吸、深呼吸を繰り返す。
ああ、そうか。
ここで、私は理解した。
これが、恋かと。
知っている。
話すときに胸が高鳴ること。
デートなんかは待ち時間すらもが楽しかったこと。
手を握れば汗が心配になること。
抱きしめられたら心臓の鼓動が聞こえてしまうこと。
一緒に居るだけで、幸せになれること。
知っているとも。
私が何回、自分の気持ちを知るために、あの戦争の最中に迷い彷徨ったと思っている。
でも、そうか……と腑に落ちた。
恋なんて知っている。
でも、もう乗り越えた。もう終わった。
私とマスターの気持ちは通じ合っていて、今更好意を伝えることでどうこうなるとは思っていなかった。
けど、違った。
女の子は、いつだって。
それこそ、きっと、仮に貴方と私が結婚したとしても。
終わりなんてないんだ。
この思いが、尽きるまで。
きっと、絶対、永遠に。
私は貴方に恋をする。
「……なーにが、恋の波動です。あの女神の宝具の方が、ずっと楽じゃないですか」
これが、恋。
これも、恋。
たとえ、相手の答えがわかっていても、こんなにも胸が締めつけられるほどに痛くて、辛くて、そして、どことなく甘いのが、恋というやつだ。
「私の、作ったチョコレート……受け取って、くれますか?」
震える声で、けれども真っ直ぐ彼の灰色の瞳だけを見て、問いかける。
ポンポンと、いつも通りに頭へ置かれる手のひら。
その手の上に、両手を重ねて瞼を下ろした。
「いつまでも、お慕いしていますよ」
そっと小声で、消えてしまいそうな声音で、小さな小さな宝物を抱きしめるように、愛おしさを込めて。
「大好きです、マスター」
言の葉を零した。
ごめん、やっぱ結構糖度全開だったかも。
もしよかったら、感想、評価、ここすきでも、なんでも喜ぶのでよろしくお願いします。