また、投稿間隔が随分と離れました。
夏休みが終わり、うまく時間を作れていないのが原因ですね。
エタるつもりはないので、見守って頂けたらと思っています。
感想や評価を送ってくれる方には感謝で一杯でございます。
追記
アサシン様の幕間やべぇ……尊い。
Box皆で頑張っていきましょう!
25話 「因縁」
「……二つ目の聖杯、か。ダ・ヴィンチちゃんの懸念が見事に的中したな」
頸あたりを右手で摩りながら、青年はポツリとそう呟く。
アサシンは、その仕草は青年が思考に耽る際に無意識に行うちょっとした癖であることを、知っているので、少しの間、大人しく待つことを決めたようである。
彼らの眼前に映るは、漆黒の巨城。
都市オルレアンを丸ごと城として取り込んだその城の姿は、何よりも先ず禍々しく、それが放つ重圧は、ズシリとこちらの精神に負担をかけ続けているかのようだった。
『……最悪の事態として考えていたとはいえ……まずいわね。結、思考中で悪いけど、まずは、立香達と合流しましょう……正直、カルデアからの存在実証が行えない、なんて状態が長時間続いたら、それだけで詰みよ』
青年こと朱雀井結に声をかけたのは、勿論我らが所長、オルガ様である。
先程まで、ジャンヌを通してカルデア本部のロマンと連絡を取っていたのだが、これからの方針が決まったらしい。
「存在実証……ですか。私、正直言って、そこら辺の仕組みがどうなってるのか、いまいち理解してないんですよね……」
コテンと首を傾げながら、純粋に疑問を抱くアサシン。
素が一番可愛いとかお前神かよ、神だよ、神じゃねーか(錯乱)
『まあ、アサシンがそこらへんの知識を持っていないのも、無理はないわ。結に立香も同様。その二人ともが、私にビンタされて説明会から退出しているもの』
「そのお陰で今生きてんだから、難儀なもんだよなぁ」
頰を張られたジンジンとする痛みを、しみじみと思い出していると、同じ光景を思い出したのか、オルガも俺と似た声音で同意の言葉をぼやく。
『ほんとよね……って、そうじゃなかったわ。えっと……存在実証についての話だっけ?……とりあえず、レイシフトの仕組みはなんとなく理解しているわよね?』
「ああ」
「私もですけど」
「…………?」
二人が頷き、一人が顔を逸らした。
『あ、えっと……ジャンヌは、分からなくても全然大丈夫だから……その、一人だけ分からなくて悲しそうな顔するのやめなさい……』
「むぅ……なんて、冗談ですよ。私の理解の範疇を超えた話であることは、わかっていますから……」
拗ねたような雰囲気から一転して、ニコリと笑うジャンヌ……やっぱ、こいつ素は結構おてんばだろ。
仄々とした雰囲気も良いが、状況が状況だ。
オルガは、コホンと咳払いをした後、先ほどとは違い真剣な声音で概要を伝え始めた。
レイシフト
これまで幾度となく使ってきた用語だが、詳細を記したことは少なかったように思う。
簡単にその一連の流れについて説明してみる。
通常、レイシフトには専用のコフィンを使用する。
緊急事態の不可抗力的なものであったため、仕方のないことであったが、特異点F……つまり、冬木へのレイシフトを行った際には、コフィンは使われなかった。
後に聞いたところ、その成功率は格段に低下していたとのことだ。
レイシフトの原理について説明する際に、大切なのはコフィンに入る、入らないという話ではないので、その話は、ここらで一度終えるとする。
さて、話は戻るがレイシフトについてだ。
コフィンに入った人間を擬似霊子化、要するにデータ化して、任意の時間軸、空間に放り込む。
これが第一段階である。
所長が持っていなかったレイシフト適正、それはつまり、擬似霊子化を行うことのできる体質ではなかったことを示す。
肉体を失ったことで、データ化が容易になったため、冬木へとレイシフトできていたのだ。
そして、問題の第二段階。
擬似霊子化を行い、目標点へと対象を送り込んだ時……レイシフト先の人間、及びコフィンの中の人間は、それぞれで
どちらにも存在しているようで、どちらにも存在していないようにも思われる、そんなあやふやな状態におかれた人間を、レイシフト先で観測し続ける。そうすることで、
これが所謂、存在実証という奴なのだ。
と、殆ど全てオルガの受け売りなのだが、何が言いたいのかは理解できた。
まあ、そうだ。
端的に、結論だけを述べるのであれば……
立香達が危ない。
◇◆◇
「……っ、マシュ、前方からまた一匹来る!まだやれる?」
「はい!問題ありません、マスター!」
「エリザベートは、清姫と協力して後方の対応をお願い。ジークフリートは自由に行動しちゃって!できることなら、数を減らしてくれると嬉しいかな」
「了解よ、子ジカ」
「任された、期待に応えられるよう頑張るとしよう」
巨城内部にて、次々と新米マスターによる指示が飛ぶ。
槍が、炎が、大楯が、それに呼応し、多方向から押し寄せるワイバーンを薙ぎ払う。
息を切らしながらも、その少女は苛立ちを隠さずに一言叫んだ。
「……っ、数、多すぎ!」
私たちがオルレアンへと足を踏み入れてから、数十秒と経たないうちに、その異常事態は発生した。
足元が激しく揺れ、空が
驚き、不安になった私は、オルレアンからの脱出を図ったのだが、先ほど足元が揺れた際に地形が変化したらしい。
都市の入り口が存在するはずの後方は、城壁のようなものに変化しており、空でも飛ばない限りは脱出などできそうにない。
仕方ない、と割り切った私たちは変貌を遂げたオルレアンの探索を行い始めたのだが……
「……っ、ふぅ。ワイバーンの数が多い上に……一匹一匹が弱くない……しっかり、気張らないと」
サーヴァント達が飛竜を撃退する様子を見ながら、額を流れる汗を拭い、思わず私はそう呟いた。
オルレアンに突入してから、何度もワイバーンと交戦しているが、その強さは格段に外で出会ったそれらの上をいく。
理性を失っているようにも見えるので、結達が度々口にしていた『凶化』状態になっているのかもしれない。
仮に、今ここに私とマシュだけしか居なかったら、五、六体のワイバーンに囲まれただけでも、速攻で窮地に落ち入ってしまうだろう。
……たらればの話をしても仕方ないか。
「……皆、疲労は大丈夫?」
「はい!」
「勿論」
戦闘を終え、近くへと戻ってきた彼らに一声かけると、マシュが多少息を切らせながらも笑顔で返答し、エリザベートがふんっと鼻を鳴らしながら、同意を示した。
ジークフリートに至っては、物足りなげに肩を鳴らしている始末……対竜系の戦闘においてこれほど頼りになる人も少ないだろう。
「……ますたぁも、体調は問題ありませんか?」
「……!?っ、き、清姫……びっくりしたぁ……勿論、大丈夫。まだまだいけるよ」
「ふふっ、気軽にきよひーと呼んでくれていいんですよ?」
「あ、あははは…………うん、善処する」
気配ゼロで耳元に話しかけてこられると、心臓に悪いです。
……アサシンより、アサシンやってるんじゃないかな、この子。
「一先ずは、順調……といってもいいのでしょうか?」
「……いや、カルデア本部との連絡が途絶えているのが痛手だろう。後続の遊撃部隊と逸れてしまっていることも考えると、状況はそれ程、芳しくない…………個人的な見解で、すまないが」
マシュの疑問に、ジークフリートが鋭い眼光のまま答える。
この人もこの人なんだよなぁ……謝り癖が凄いというか、なんというか。
しかし、それはともかく、確かにジークフリートの言う通りである。
私達は、現在マリーさん達と行動を共にしていない。
突入に時差があったからかもしれないが、先程の地形変化の際に合流できないよう引き剥がされた可能性もある。
「……でも、一番に最初に考えないといけないのは、死なないこと。油断せずに進もう!」
「はい、マスター!」
話が落ち着いたところで、探索を再開しようとした。
それは、その、直前のことだった。
横から受けた衝撃により、私の体が宙へと浮かび上がる。
コンマ数秒後、それまで私が存在していた空間は
黒く、鋭く、凶々しい三本の爪により、
ギタギタに切り裂かれていた。
◇◆◇
少女は
女は
ああ、やっとだ。
やっと、
エリザベート・バートリー/カーミラ
◇◆◇
「……さて、と……立香ちゃん、そして結君とも逸れてしまった僕たちなんだけど……これから、どう動こうか?」
「どちらかと合流できれば、状況は格段に良くなると思うのですが……」
片やロクでなし天才音楽家。
片や重っくるしい頑強な鎧をまとった守護騎士
そんな、男二人のため息が重なる。
遊撃部隊として行動していた彼らは、サーヴァントのみで構成されたチームであったため、立香や結との連絡手段をオルガとのリンクの他に所持していなかった。
遊撃部隊、とサポート担当のメンバーを纏めてしまったことが、ここに来て最悪の一手と化した。
立香達をサポートすることはおろか、仮に何らかのトラブルで対ファヴニールの構図となってしまった場合は、全滅の可能性すら余裕であり得てしまうだろう。
次の一手がどれだけの意味を持つのか、それを踏まえて考え込んでいた彼ら二人の様子を見て、彼女が動く。
ひどくむさっ苦しい絵面に対し、中和剤としての役目を果たす一人の少女が、眩しい笑顔を浮かべて言ったのだ。
「やるべきことは、変わらないでしょう?時代が違えど、私が愛したこのフランスを守り抜く……そのために、ここまで来たのだもの……」
姿こそ、華奢で可憐な美少女であるとは言え、その輝きはどうであろうと変わらない。
誰よりも国に愛され、誰よりも国を愛したその王妃の本質は変わるはずなどないのである。
「前を向きなさい、二人とも……そして、皆を迎えに行きましょう?」
凛々しく、それでいていつも通りの微笑みを浮かべて彼女は、二人の仲間の背中を支える。
「……本当に、君は…………」
嬉しそうに、やれやれといった風にため息をついたアマデウスは、次の瞬間……
「…………逃げろ、マリー!!!!」
「『
◇◆◇
『……本当に、こんな術式があり得るのかしら……いえ、実際に目にしているわけなのだから、あり得てしまったのが事実なのだろうけど……』
黒き城壁を触れた俺の体を通して、オルガが巨城内部全体を覆うようにして張られた結界の解析を行うと、その異様な性質を聞いたアサシンとジャンヌは、珍しく同じような感想を抱いたようで、二人して顔を顰めていた。
「まあ、理解したくなくなる現実を、あっさりと押しつけてくるのが聖杯だからな……理不尽の塊みたいなもんだ…………と、それにしても、そうか……」
「マスター……どうかしたんですか?」
俺の呟きを拾ったアサシンが、心配するようにこちらの顔を覗き込んできた。
……現在、少女姿のアサシンがそういう仕草をやると、あざとさのかけらもなくて、本当にただただ可愛いだけだからずるいと思う。
彼女からの質問に対して、答えを誤魔化すついでに、彼女の頭をわしゃわしゃと撫でてみた。
「あっ、ちょっと、いきなりなんですか?……髪が崩れるじゃないですか」
嬉しそうに、それでも不満そうに頬を膨らませるという器用な表情を作る彼女の表情筋に少しばかりの尊敬を抱きながら、彼女を愛で続けていると、揺らいだ心の平穏が戻ってきた。
「……ん、何でもない。ただちょっと、
青年がボソッと呟いた独り言は、誰の耳にも届くことはなかったが。
情報を読み解き、策を練った。
準備完了、覚悟も決めた。
二つの聖杯……不安材料はまだまだあるが、そこに関しては適宜対処していくほかないだろう。
ぶっちゃけ、現状では対策のしようがない。
そんな俺たちは今、唯一存在していた巨城の入り口前に立っていた。
『タイムリミットは、長くても後一時間。存在実証ができない今、立香の存在はこの時代において曖昧なものになってるからーー』
「不測の事態が起きた際、何が起こるかわからない、でしたよね?」
『ええ……ロマニ達も、色々試してはいるみたいだけど、モニター越しに時折聞こえる叫び声からして、期待はできそうにないわね』
現在進行形で立香達に迫る危機、その最もたるものは、今オルガ達が話していたように存在実証が不可能であることだ。
その結果が、この世界からの強制退去……だけで済めばいいのだが、何が起こるかは、万能の天才たるダ・ヴィンチちゃんでも予測できないらしい。
この状況を打破する方法はただ一つ。
巨城全体に張られた結界の
さらに、結界の表面を覆い、それを黒く染め上げている膜のようなものが原因であることも、オルガが単独で解析した……マジでこいつなんなの?ウチの所長のどこに、欠点があるというのだろう。
……まあ、結論をいえば、その膜さえ打ち破ることができれば、大至急で解決しなくてはならない問題は解決できると判明したのである。
「それでは、今度こそ……参りましょうか。皆さん、サポートお願いします!」
にこやかに、堂々と、不安など感じさせぬ笑顔を浮かべて、そう言い切った聖女の旗の下、俺達は入り口へと足を進める。
「おう、大船に乗ったつもりで任せとけ……基本、頑張るのはアサシンなんだが」
『ほんと、貴方が居ると締まらないわね……ロマニと同じよ?……しっかり、気張りなさい』
「それは、やだ……ま、適当に頼むわ、アサシン」
いつもの様にため息を吐く頼れる所長が、青年を鼓舞し、やる気なさげな
「勿論、です。それじゃあ、マスター……まずは、手筈通りに行きますよ?」
珍しく、獰猛な笑みを浮かべてから、その少女は自らの身を妖艶な美女へと変化させ、蒼炎を全身に纏わせた。
そして、
侵入者を感知し、現れた十数匹のワイバーン。
逃げ場をなくす様に閉じられた背後の城門。
竜の魔女陣営が仕掛けた罠、弄した策の数々を……
「やったれ、アサシン」
紅の輝きを以ってして放たれる、その一撃で粉砕する。
「はい、やっちゃいます♪……
次の瞬間
破壊神の蒼炎が、天高く放たれた。