難産過ぎて困ってました。
戦闘シーンの描写が辛い……イチャイチャさせたい。
お待たせしすぎで、すみません
「言葉を交わすつもりはない。君が僕のことを罵ろうが、嘲笑おうが返す言葉があるわけでもないからね……けれど、手加減をするつもりもないし、キミをここから先へと通す道理もない」
セイバーの持つ細身の刃が、明るくなった空に浮かぶ月光を反射し、眩く輝いた。
語り終えると同時に、ゾッとするほどの殺気をこちらへと向けてくる彼……彼女?の姿は、セイバー自身の持つ誇りのようなものを感じさせる。
凶化されてなお、その忠義を果たそうとするその精神には心の底から称賛し、敬愛するべきものがあるのだが、敵を褒め称える暇も余裕もあるはずがない。
唯一の救いは、その精神の強さが仇となり、この結界の影響を受けている様子が見られないことだろうか。
それでも、対英霊戦闘。
こちらの札は、警棒とガンド(笑)……要するにオルガのみ。
代償強化はまともに使えない上に、令呪も残り一画まで追い込まれたこの状況下に加えて、
息を吸い、吐く。
目を閉じて、開いて……もう一度ゆっくりと瞼を下ろした。
どのような状況に置かれても、やるべきことは変わらない。
相手サーヴァントの撃退、そして何より戦場からの生還だ。
そのことだけに意識を集中させる。
精神の準備は整った。
右手に持った警棒へと魔力を流す。
最後に一度、深く深く息を吐いてから
「んじゃ、まぁ……行くわ」
瞼を上げ、真っ直ぐと相対するその騎士の目を見てそう言った。
指先や足先、身体の先端部まで意識を伸ばし、限界まで精細な身体操作を行わなくては英霊の身体能力から繰り出される攻撃には対応できない。
己が行動の全てから、無駄を削ぎ落とせ。
瞬間的に、反射的に……押し寄せる選択の数々をたった一度でも誤れば、命はない。
加速する思考、湧き上がる高揚感に身を任せた。
先のことは何一つ考えることなく、目の前の戦いへと没頭していった。
打ち合い、転がり、飛び込み、弾かれ、転がり、また立ち上がって打ち込む。
何度も何度も、幾度も幾度も、致命傷だけを回避して、そのたびにこちらの体に汚れが、傷が増えていく。
鋭く、そして何よりも凄まじい速さを伴った突きを連続で繰り出し、舞い踊る。
そんな優雅さすら感じさせる剣士に対して、傷だらけで土埃に塗れながらも、必死になって抗い続ける不恰好な人間が俺だ。
自嘲か、恐怖か、高揚か、絶望か。
それともただ単に、頭のネジがぶっ飛んでいるのか。
「……あははっ」
恐らくそれら全てを理由に含んだ笑い声が無意識のうちに溢れ出る。
硬い。
硬すぎる。
鉄壁の守りだ。この守りを崩す為に、いったい俺はどれだけのリスクを背負えば良いのだろうか。
細身の剣を自由に操ることで敵の接近を許さず、また軽やかに攻撃を往なすその剣技には驚嘆を通り越して、称賛の言葉を送りたくなる。まあ、そんな余裕はないので黙っているのだが。
合理的に、機械的に……何度も何度も数えきれない程の正答を叩き込み続けることで、セイバーとの戦いは漸く拮抗という一応の形を取っていた。
だが、それも偽物の拮抗。
こちらがほぼほぼ全開で飛ばしているのに対して、セイバーは慌てる素振りすら見せていない。このままでは、体力が尽きたのちに瞬殺されるのは目に見えていた。
だから
「……いく、ぞっ!」
覚悟を固めて、死神の元へと踏み出した。
集中し、思考回路のギアを上げろ。
大事なのは初撃への対処だ。
最も危険でありながら、勝利を求めるならば、必ずどこかしらで越えなければならない生と死の別れ道。
頭の中でスイッチがカチリと切り替わる。一秒が引き伸ばされていく感覚が俺の中へと生まれていく。
見る
セイバーの体勢、剣の鋒の位置を
己の体勢、己の位置を
観る
周囲の状況を
セイバーの視線を
相手の力みを
視る
相手の表情を
相手の狙いを
相手の心を
全身全霊、全感覚で
そして
「把握、完了」
「早まったな、異邦のマスター……終わりだ」
次の瞬間、俺の無謀な切り込みに己の勝利を確信したセイバーの突きが放たれる。
絶妙なタイミング、距離感は完璧で、起りを見てから回避に移るにはあまりに近く、そして疾すぎるその一撃に合わせて、俺は
紙一重、他に表現の仕様がないほどに完璧な回避に加えて、溜めをつくった。
ただ単に面を減らす為に身体を回したのではない。突撃の勢いを最大限に利用して、
『え……』
「——は?」
驚愕の色に染まるオルガ、そしてセイバーの思考を置き去りにして、俺は華奢なその身体の胴体部、つまりは相手の気管支あたりへと肘鉄を叩き込んだ。
全力のカウンターを受け、流石のセイバーも苦悶の表情を浮かべる。
叩き込んだ場所が場所だ。
一瞬、呼吸困難に陥ったセイバーへと容赦なく追撃を開始する。
「しっかり、ついてこいよ……
『っ、ええ!』
叫びながらも、前方への疾走を止めることはない。イメージのほんの僅かなラグの後に放たれた紅の閃光を追いかけた。
相手との距離は意地でも離さない。
先程の動きを警戒するセイバーに再び接近できる、そんな甘過ぎる考えを浮かべるほど、俺はバカじゃない。
今が全てなのだ。
見えぬ勝機を強引に引き摺りだし、光明を見出した今が最高で最大の好機であるのだ。
魔改造ガンドの着弾。
そのコンマ数秒遅れで、立ち込める砂埃へと飛び込んだ。
接近の勢い全てを乗せ、体勢を崩したままのセイバー目掛けて警棒を振り下ろす。
「……まるで、嵐のようだね」
「今のを飄々と止められると、正直困るんですけどねぇ?」
脳天をカチ割る勢いで躊躇なく警棒を叩き込んだ。
しかし、流石と言うべきか。
視線の先には膝立ちの上、
純粋に感心したように笑う彼女?に、軽口を返してから呼吸を繰り返した。
ほんの数秒、硬直する俺とセイバーに流れた時間だ。互いの視線がぶつかり合う。
この均衡が崩れるのは間も無くだろう。
集中する。
再びギアを叩き上げる。
思考回路を酷使し、スイッチをもう一度入れ直す。
状況、把握。
状態、確認。
気合を入れ、覚悟を固め直す。
そして、深く息を吐き……
◇◆◇
『甘い、甘過ぎるぞ、結。これで千五百七十八回目』
『……っ、かはっ、はぁ……はぁ……っ!……ふぅ、次、頼む!』
『気力は充分とな……よい、次だ』
襲いくる刃。
切り落とされる腕。
貫かれた胴体部。
潰された視界、途切れた太腿、途絶えた幾百もの生命。
死んで、死んで、死んで、死んで……そして、死んだ。
目の前に立つ和服姿の凛々しい女性は汗の一つもかくことなく、悠然とした態度でこちらへと剣を向ける。
頰が引き攣るのがわかった。
痛みから来る恐怖心などとうに乗り越えたと思っていたのだが、無意識のうちに体が硬くなってしまう。
両の手に握る双剣を構え直して、向き合った。
交錯する視線。
お互いの瞳にお互いの姿を写すこと数秒、俺が踏み込むと同時に目の前の女性も飛び出していて、一瞬の内に鍔迫り合いへと持ち込まれる。
『少しは、いい反応をする様になったが……』
『っ、この、ばか、ぢか、ら、がぁぁぁあああ!!!』
絶叫と共に全力を振り絞る。
切り結んでいた彼女の長剣を弾き飛ばしてから、懐へと潜り込もうと接近して……
『ほれ、千五百七十九回目。あまり、雑にするな……それではただの、死に損だ』
一刀両断。
脳天からケツまでを、まるでバターを切るかのように切断されて、意識が飛んだ。
…………
『力で負けているのは大前提、耐久も脆く魔力も低い、俊敏さも運も何もかもが相手の方が上……それでどう勝つ、お前の持つ小細工が悉く通用しない。そんな相手を前にして、お前は何を望む?』
地べたに這いつくばり、血反吐を撒き散らし、痛覚なんてものはとうの昔に失っていて、自分が生きていることを忘れそうになりながらも、粗い呼吸を重ね続けた。
弱々しくも鼓動を鳴らし、全身へと血を巡らせて、思考を回す。
文字通り、幾度の死を重ねて。
地べたに転がる数多の屍を踏み越えて。
命を燃やして望む、その願いは変わらない。
間違いなく不相応な夢を見ていた。
どうしようもないほどに我儘で、非現実的で、愚かで滑稽で、自己満足的なその夢は……
『……愛する女の笑顔が見たい』
『よく吠えた。何度でも挑みかかってくるが良い!』
繰り返す。
何度も何度も、何度も何度も繰り返す。
人の身でありながら神へと挑む、その為に。
『ぶっ殺す!』
『ふっ、らしくなってきたではないか……これで、四千二百九十四回目!』
その青年は、無数の終わりを重ね続けた。
◇◆◇
カツリ、カツリと自分の足音だけが廊下へ響いていく。
その静けさだけは好ましく思うが、悪趣味な装飾のなされたその廊下は、正直言って……
「私の趣味じゃないんですよね……無駄に長いので、移動に時間もかかりますし」
不機嫌そうに呟いた彼女はしばらくの間てくてくと歩き、やがて一つのドアの前で立ち止まる。
コンコンコンと礼儀正しくノックをしてから、ドアを蹴破って部屋の中へと侵入し、部屋の中央にて水晶玉を覗きこんでいた一人の大男に笑いかける。
「どーも、こんにちは。あっ、こんばんはでしたかね?まあ、そんなことは置いておいて、死ね」
「んなっ!?」
そして、一本だけ矢を放った。
雑に撃ったその矢は大男の胴体から少しだけ逸れて、彼の右肩を深く抉った。
「がぁぁっ、ぐふっ……な、何者か!?」
「それ、答える義理がありますかね?ま、いいですけど……」
いつもと同じだ。
面倒臭いとぼやき、ぶつぶつとダウナー調にやさぐれて独りごちる。
不機嫌な態度を隠すことなく、全てのものに興味などないかのような冷たい瞳を携えて、彼女はそこに立っていた。
「あなたを暗殺しに来た、しがないアサシンさんですよ……ええ、本当に。"なんちゃって"なんて言わせませんから」
「な、何を、言っ——」
「というわけで、二度目です。さっさと死んでください」
二本目。
放たれた矢は大男の脳天へ一直線で向かった。しかし、本当に運の良いことに、タイミング良くよろめいたその男は、再び彼女の攻撃を回避する。
「無駄に、しぶとい……って、あれ?」
間髪入れずに三本目。
そう考え、実際に行動へと移しかけていた彼女だが、その美しい紅の瞳があるものを見つけた。
「マスター?」
水晶玉だ。
その中にはセイバーと彼女が愛するそのマスターが剣を交える様子が映し出されていたのである。
動きを硬直させた彼女の思考は爆発的に加速する。
……あっ、これ、やばいです。
土や返り血やら何やらで汚れた戦闘衣、流れる汗に真剣な表情。
唆ります、滾ります、やばいです。
まずいです、本当に狂おしいほど愛おしい。
簡単にご飯三杯はいけるレベルです。
視界に彼の戦闘風景を捉えてしまってから、その水晶玉から目が離せない。というか、カメラアングルがなってません。ベストポジションが他にあるでしょうが、これだから全く無能なキャスターは!
ああ、流石マイ・フェイバリット・マスターです。普段のダメ人間っぷりからの差がこれまたいい……
といった具合だ。
もうコイツダメだ、とオルガに諦められてしまいそうな表情をだらしなく全開で晒したその少女、アサシンに放置されていた大男が激昂する。
「貴方、一方的に攻撃をしておきながら、今度は無視とは……いったい何のつもりか!?」
「うっさいです、黙ってて下さい。後で相手してあげるので、しゃらっぷ」
こ れ は ひ ど い 。
結、オルガやロマニ、適切なツッコミ要員がこの場に居たのならば、アサシンの暴虐を嗜められたのかも知れないが、そんなifなど考えたところで意味をなさない。
「んん!なんて、傲慢な……」
秒で黙らされた大男ことキャスター、ジル・ド・レェは、アサシンへの対話を諦めた。
自身の頭がイカれていることには気がつかないくせに、アサシンの内に眠る狂気を察し、話し合いが意味をなさないことを理解したのだろう。
しかし、相手の力量差は推し量れていたようで、温存も何も考えずに不意打ち上等で彼は己の宝具を展開した。
「さぁ、恐怖しなさい!絶望なさい!その、傲慢の果てに身を滅ぼすが良い!」
大仰な仕草で手に持った分厚い本を開いて、魔力を解き放つ。
「宝具・
「あっ、ちょっと!? まだいいところなので、後にして下さ———は?」
そんなキャスターの行動によって久々に、本当に久々に、ランサーの宝具ですら笑って受け止めたアサシンの表情が固まった。
「何ですか、この気色悪いヒトデダコは!? 何処のエロゲです!?てか、多い!本当多い!何考えてんですか、貴方!」
恐らく結もびっくりの怒鳴り声である。
もし聞いていたら、ダウナーな性格は何処にいったと問いただしてやりたいぐらいの感嘆符であった。
「……海魔です。私の順従なるしもべよ、名もなき異形の魍魎よ! その娘を押し潰し、汚し尽くせ」
現れたのは、五十にも迫ろうかという数の怪物達。
ジル・ド・レェの宝具『螺湮城教本』によって召喚された無数の海魔。
それらによる数の暴力が、アサシンに全方位から襲いかかった。
あのね、別にビジュアルが本気でダメなわけじゃないんですよ。
たかだか雑魚が数十匹ならいくらでも相手ぐらいしてやるので構いませんし、ぶっちゃけ余裕なんで問題ないのです。
ですけどね、そうなんですけどね?
そんなことをぶつぶつと脳内で愚痴りながら、イライラを隠さずに矢を放つ。
「ああ、もう! 対軍宝具を使うほど、余裕はないんですよ!」
再び矢を構え、心の底から絶叫する。
彼女の願いは一つだけ。
「さっさと、失せろ! マスターの戦闘観戦の邪魔をしないでください!」
物量作戦すんなら後にしろや、コラ。
そんなことを考えながら、彼女は全力を解放する。
◇◆◇
数々の策を弄した。
数々の犠牲の末、漸くこの場へ辿り着いた。
多くの覚悟と因縁と争いを踏み越えて、何人もの勇敢なる戦士達に背中を押されてここに来た。
さあ、対話のときだ。
己の我儘を押し通した最終決算だ。
「このときを待っていました。随分と苦労しましたよ、ここまで来るのは」
「ええ、本当に長らく待ったわ。このときを」
オルレアン城 最上部
相対する聖女と魔女。
「全てを終わらせにきました」
「ええ、これが真の決別ね。これで私は、全てを新しく始められる」
沈黙を
「貴方を」
「お前を」
「止めます」
「殺す」
ぶち壊し
「貴方にだけは、絶対に負けません!」
「お前にだけは、絶対に負けるものか!」
二人の聖女が激突した。
29話 「そして終焉へ」
感想、評価 作者のモチベに直結するのでいつでも受け付けております(露骨なアピール)