本編じゃぁ!ということで、遅れましたすみません(定期)
時系列やら何やらを整えるのがすごく大変。
↑
視点やらをバラバラにした諸悪の根源。
感想 評価 誤字脱字報告 毎度ありがとうございます!
超励みになります!
「あぁぁあ゛あ゛あ゛!!!!どこ行きやがりました、あのタコ男!」
そこには、最早化けの皮が剥がれ、ポンコツ感を隠すことなく怒鳴りながらオルレアン城を走り回るアサシンさんの姿があった。
何というか、その光景には一周回って微笑ましいものがあったのだが、それはまあ置いておく。
状況が大きく変化したのはその数分後であった。
大量の海魔の処理に追われ、まんまとジル・ドレェに逃亡を許してしまった彼女が城内庭園へと足を踏み入れた。
開けた視界に映り込む水晶の宮殿。
「——は?」
そして、その美しき宮殿を削っていく闇色の"何か"。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
その正体は肉体を失い、殺意そのものへと身を堕とした元英霊シャルル=アンリ・サンソンその人であった。
「アマデウス、しっかりなさい!アマデウス!」
「……ああ、マリー……そんなに揺らさないでくれよ。別に、致命傷って訳ではないんだから」
「……しかし、戦線復帰は望めない程の負傷であるのは間違い無いでしょう。霊基を保てているのが不思議なぐらいですから」
仰向けに倒れている天才作曲家に、彼の出血を食い止めようとしているのが、狂気の原因たる王妃。
二人の側で、鋭い目つきのまま警戒状態を保ち続けているのが竜殺しの聖人。
彼ら三人を守るようにして水晶の宮殿が展開されているが、あれは王妃ことライダー、マリー・アントワネットの持つ宝具だろう。
彼女自身のように、キラキラと美しく輝くその宮殿は"何か"に侵略されつつも、時間稼ぎにはなっている。
最も、物理的な破壊が先か、マリーの魔力切れが先かを考えたのならば、明らかに後者である可能性が大きい訳であるのだが。
何やら面倒な場所にやって来ましたね……
それが、ぱっと見の状況分析を終えて遠い目をしたアサシンさんの感想であった。
なんとも正直で緊張感のない発言である。主従揃って空気を読まない彼らに、これから先もオルガが引き続き苦労するのだが、それはそれとしておく。
その後たっぷり三秒ほど、人生ってままならないものですね……としみじみ感じ入ってから、ようやくアサシンの意識が現実へと帰還した。
抜き足差し足忍び足、なんてゆっくりと城内庭園の出口へ向かってはみるものの、当然ながら警戒レベルを引き上げているゲオルギウスと目があってしまう。
「……あ」
「……はぁ」
次の展開を予想しつつ、ため息を吐いた彼女へとゲオルギウスからのヘルプ要請が入った。
「アサシン……これが神の導きでしょうか……!」
「いえ、私が神ですが何か?」
「「…………」」
秒で沈黙が場を支配する。
それと同時に
「…………っ、ぁぁぁあああああ!!!」
「……結局、私がタゲ取りですか!?そうですか、くそぅ……」
マスター成分が切れ始めたのに加えて、なんか色々散々過ぎて考えることが面倒になり、ヤケクソになったアサシンへと闇色の"何か"が襲いかかった。
一度はアサシンと交戦したシャルル=アンリ・サンソンが、なぜその姿を変貌させたのか。
遡ること小一時間。
戦いの幕は
◇◆◇
「逃げろ、マリー!!!!」
「
姿を見せない奇襲。
当然ながら予備動作なんてものを感じる取ることはできない。
何の細工か、魔力の高まりによる宝具解放の予兆すらもが存在しなかった完璧な初見殺し。
しかし、何というべきだろうか……
シャルル=アンリ・サンソンはただただ単純に、運がなかったのだろう。
簡潔に言えば、
マリーの首を切り落とすように出現したギロチン。
そこから放たれた致死へと至るその一撃を迎え撃ったのは守護騎士の長剣であった。
「させん!」
「……邪魔を、するな!」
こと守護ることだけに関しては圧倒的な実力を誇るゲオルギウスに、生半可な攻撃は通用しない。
持ち前のタフネスさ、巧さを発揮して死神の鎌とも見間違うかのギロチンの刃を、完璧に受け流してみせたゲオルギウスは、ついでと言わんばかりに姿を見せたサンソンへと突貫する。
本来、アサシンクラスというのは真正面からの戦闘では、どのクラスのサーヴァントに対しても敗北する可能性の方が高いと考えられる程にステータスは高くない。
乗り物を失ったライダー。
剣を折られたセイバー。
魔術を使えないキャスター。
さすがに上記の例は過剰であるが、要するに……暗殺に失敗し、能力の露見したアサシンなど恐るるに足らない存在であると言えるのだ。
もちろん、我らがアサシン様は言うまでもなく例外であるのだが。
宝具解放と同時に姿を現したサンソンは、自身の宝具を当然のように受け切って見せたゲオルギウスの姿に目を見開いた。
動揺おさまらぬ彼に向かってゲオルギウスは猛攻する。
互いに得物はロングソード。
筋力に大きな差はなく、勝敗を決めたのは実戦経験の差であった。
処刑人と守護聖人
そのどちらが"実戦"を、死線を多く潜り抜けてきたのか。
そんなことは、考えるまでもなく
「……っ、ぁあああ!!!」
「甘いっ!」
暫しの攻防。
やがて、理性を失いつつあるサンソンが硬すぎる守りに攻め切れず、そのもどかしさが苛立ちの限界を迎えて激昂した。
感情任せで振り下ろしたサンソンの長剣を、憎たらしいほどの冷静さでゲオルギウスは受け切った。
そして、彼はそのまま隙だらけとなったサンソンの首をあっさりと刈り取った。
「…………ふぅ、どうにかなりましたか」
「僕としては珍しく、これは本心からの言葉なんだけど……君がいてくれてよかった、ゲオルウオス。マリーと僕だけだったら、確実にやられていた。なんといっても、そいつは僕らとの……特にマリーとの縁が
首を落とされ、血に伏したサンソンの身体へと視線を落としたアマデウスが神妙な顔で感謝の言葉をゲオルギウスへと伝えた。
その言葉に含まれていたのは、少しの後悔と安心だろう。
シャルル=アンリ・サンソン
アマデウスが彼へと向ける印象をたった一言で現したとしたのならば、その答えは簡単である。
「処刑具ギロチン、確かに流石の貴方も、アレに何も感じることがないとは言い難いものがある、ということですか」
「当然だろ……?あと、アレだ。多分彼、本質的に僕と馬が合わないのさ。きっと」
息を吐き、肩に入った強張りをほぐすためか、冗談げにそう笑うアマデウスだったが、数秒後にその笑みが硬直する。
「…………おいおい、冗談だろ?」
視線の先には、
「………………」
首を落としたまま、立ち上がった処刑人の姿があったのだ。
本来ならば、霊核を失った英霊の身体は存在を保てず、彼らは座へと帰還する。
ならば何故、サンソンの身体は消滅しないのか。
その場にいた誰もが疑問を抱いた。
思考が固まり、隙が生まれる。
次の瞬間。
ゆらりと亡霊、亡者のごとく体を揺らしたその首無しの男の姿が変貌した。
身体はなく。
魔力はなく。
知能はなく。
ただその場には
一つの
その対象は定まらず、理由すらもが存在しない。
ただ命ある者全てを死へと連れ去る……そんな
身体を闇に落とし、人としての原型は保てずに膨張した異形の怪物。
それがシャルル=アンリ・サンソンの成れの果てであった。
その姿を目にしたとき、アマデウスの中で一つのスイッチがカチリと切り替わったのがわかった。
「……ははっ、僕達全員を殺すまで死なないつもりかい! 全く、筋金の入ったストーカーだな、処刑人!」
「…………!」
やめろ、煽るな。
こいつは危険だ、と理性が言う。
だが、逆に。
こいつを許さずにはいられない、許してしまってはいけないと、本能が言うのだ。
タクトを構え、そして振る。
所詮はただの音楽家。
生涯を音楽に捧げて、死の深淵に触れた程度だと、そう笑った一人の青年が絶叫する。
ああ、どうして今となってしまったのだろうか。
やはり、この対面は。
どうしようも無いほどに遅すぎた。
「ふざけるなよ、君の哲学はそんなにも軽いものだったのか?」
問いかける。
目の前の人ならざる
「彼女の首を落としたのか? その程度の矜持すら張れずに!」
答えはない。
闇は深く、絶望を現世へと映し出す。
「その程度の覚悟で、マリー・アントワネットの首を落としたのかと、聞いているんだ! シャルル=アンリ・サンソン!」
絶叫のその先に。
「……す…………ろす、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!」
光などなく。
闇がアマデウスの腹部を貫いて……
「それ以上は、私が許さない!」
「
光り輝く水晶の宮殿が"闇"と王妃達を隔てるように展開された。
◇◆◇
「要するに、貴方が煽り散らかしたってことじゃないですか……責任取って詫びたらどうです? 特に言えば、私とかに」
「あはははっ、土下座で赦してくれるのだとしても願い下げだね」
「アマデウス、静かになさい。傷が開くでしょう」
ゲオルギウスからの状況説明に、ご立腹のアサシンさんだったが、ぶっちゃけマズイが本音であった。
不規則にこちらを飲み込まんと暴走し続ける闇は、アサシンの反応速度ギリギリの速さで蠢き続けている。
中途半端に人型をとっていることが、余計に攻撃の初動をわかりにくくさせている。
剣を持つなら、その剣を使って攻撃してこいという話だ。
どうして顔面やら、腕やらから触手みたいなのを生やしてこちらへ飛ばしてくるのだろうか。
「はぁ……まあ、別になんでもいいですけど」
アマデウスへ向けた、殆ど口癖のような言葉とため息が、ブレた思考と集中を目の前の"何か"へと切り替えさせる。
何がマズイと言えば、物理的手段の行使で相手を止められる気が全くしないということだ。そもそものところ、宝具を考えない場合、現状のアサシンの最大火力は例の如くあのクソッたれの残滓である蒼炎なのだ。
、現状のアサシンの最大火力は例の如くあのクソッたれの残滓である蒼炎なのだ。
「これで、どうですか!」
圧倒的熱量の炎を金剛杵に纏わせ、殴打。
左手の指先だけで金剛杵を完全に制御して、乱打を行うアサシンがその顔を歪ませた。
「………………殺す」
攻撃の初動を見極めて"起こり"の全てを封じ込んでいたアサシンだったが、『殺意』の学習能力は異常であった。
叩き込まれた金剛杵を飲み込むように闇が侵食、咄嗟の判断でアサシンが火力を引き上げて制御権を奪取し返すも、流石に追撃の手が止まる。
アサシンの追撃が止まったところが、攻守交代の潮目となった。
多方向から押し寄せる『殺意』という概念。
飲み込まれたならば、相当の精神力、耐性がなければ、あの世行きだろう。
チラッと背後の王妃へ視線を向けてから、退くわけにはいかないとアサシンはその場で立ち止まる。
そして……
「……っ、はぁ!」
限界まで引き寄せた触手全てを弾き返すように、黒帯状に練られた魔力の壁を発生させて防御した。
紙一重で全てを回避した後に矢を放つ。
さながらそれは散弾銃のごとく、至近距離で放たれた五つの弾丸はダメージこと与えられている感覚はないが、衝撃は伝わるようで"闇"が十数メートル後ずさる。
そして、暫くの睨み合いが続いた。
恐ろしいほどの連続攻撃、そして包囲攻撃に互いが互いを脅威と認めた証拠であった。
アサシンが冷や汗を流しながらも、質問する。
「あの、仮に私がこの戦線から離脱した場合ですが……幾らもちます?」
「限界まで頑張れば、十五分ほどかしら?」
「私一人ならば、二十分は」
それぞれマリーとゲオルギウスの言葉。
あの音楽家には期待していなかった。
考える。
思考を回す。
残存魔力、マスターの限界。
残された令呪、途絶えた連絡手段。
立香、そして聖女の状況。
考えて、考えて、考えた。
その結論を口にする。
「なら、一時間もたせてください。勝手に消えることも許しません」
暴論だと、その場に居た誰もが頰を引きつらせた。
しかしだ。
話を聞けと、反論しようとしたその誰もが彼女の顔を見て閉口した。
「仕方ないので最後の手段です……時間も手間もかかりますし、疲れるわ、回りくどいわ、いいことなんて碌に無い。その上、私を使い潰すんですから……せめて、生き残るぐらいの努力はしなさいと言っているんですよ」
その紅眼に余裕の無さが現れていたからだ。
「最後の手段、ですか? それに使い潰すとは?」
ゲオルギウスの問いかけに、微笑を返して即答する。
「別に大したことはしませんよ、ただちょっと……格の違いを見せつけてやろうと思っただけですから」
これから彼女の取ったその行動に最も驚いたのは、マスターである結だっただろう。
だってそれは、全てを諦めて投げやりになっていたいつかの彼女からは、考えられない程に優しい
情けだろうが、同情だろうが、憐れみだろうが、なんだろうが。
他人の感情に触れたことで、アサシンが影響を受けたことには間違いないのだから。
優しさに期待することを嫌がって、自分一人の世界に閉じこもっていた彼女の姿は、もうそこにはなかったのだから。
だから、彼女は口にする。
「私がどうにかするので、貴方達は凌ぎ続けてください」
その理不尽を終わらせるために。
「これは……そうですね。ただ貴方達が私と、私のマスターを信じていればいいだけの話なんですから」
後数話でオルレアン編完結です。
なるべく早めに仕上げます……… 多分。