例の如く連続投稿
31話目も同日投稿したので、見てない方はそちらからどうぞ!
感想 評価 お待ちしてます!
ぶつかり合う大旗。
至近距離で交差する視線。
互いの息遣い迄もが聞こえるその距離で。
「貴方に聞かなければならないことがあったのを、思い出しました」
「あら、そう。奇遇ね、私もよ?」
二人の聖女が殺し合っていた。
話し合いを推奨し合うその言葉とは裏腹に、互いの大旗はミシミシと軋み続け、力の拮抗状態を示し続ける。
「「…………」」
沈黙。
「いい加減に、力を緩めてみてはどうかと?」
「それは、こちらの言葉ですが」
ニコリと微笑み合ってから、再び戦闘はペースアップする。
黒剣の攻撃を往なし、大旗を一閃。
白聖女の攻撃を体勢を低くして避けた黒聖女は、そのコンマ数秒後に自らの失策を呪う。
黒聖女が回避することを前提としていた白聖女は、完璧なタイミングで右足を蹴り上げた。
「…………っ!」
「そこ、です!」
黒聖女の顎を捉えたその一撃は重く、彼女は宙へと跳ね飛ばされる。そこを逃すほど、白聖女では甘くない。
重撃。
白聖女の全筋力、全気力を以ってして放たれた大旗の振り下ろしが黒聖女を襲う。
「…………まだ、まだっ!」
「舐めんなぁ!!」
追撃は終わらせない。
ここで決めに行くと言わんばかりの、突貫に待ったをかけたのは当然ながら黒聖女。
「燃え尽きろ!」
「……っ!」
黒剣を一振り。
黒聖女が生み出した地獄の業火が白聖女を襲い、追撃を行うその足を止まらせる…………そのはずだった。
「その、程度で……」
「——は?」
視界に映ったのは
想定外に思考が固まって。
「私は、止まらない!」
再び、大旗が横一線に振われる。
この一撃は、黒聖女の腹部へ直撃して彼女の身体を十数メートルは軽く吹き飛ばした。
スペックは同等か、それ以上。
聖杯を持ち、本物である私がどうして押し負ける。
黒聖女の脳裏に影がチラつく。
「…………な、わけない」
炎に包まれた最上階。
目の前には誰よりも憎んだ愚かな自分。
眩しいほどの金色の髪が、澄み渡った紫色の双眸が、迷いを膨らませ、そして突き詰める。
追い詰めていたのは、私の方だ。
決別をするのは、私の方だ。
そのはず、だ。
そうでなくては、いけないはずだ。
だって、あの人は。
私をジャンヌ・ダルクと呼んだ、あの人は。
「…………っ!?」
「考え事ですか、余裕ですね」
動揺が白聖女の接近を許した。
あまりにも初歩的な、そして致命的なその隙を白聖女は見逃さない。
反射的に炎で視界を塞ごうと考え、そして
「——っ」
黒聖女の視界全体を潰すようにして投げつけられた、彼女の大旗が邪魔をした。
腕で身を庇ってしまったところで、すぐさまその場から離れなかったことを悔やんだ。
己の武器を捨て、黒聖女の動きを封じ込んだ。
次に取る白聖女の行動は何だ?
そんなことは決まっていた。
もとより、彼女に……細やかな技術が勝敗を分けるような"試合"は似合わない。
腰に受けた衝撃。
それと同時に視界が回る。
背中から地面へとぶつかって呼吸が止まった。
腕は抑えられ、上体を起こせず、抵抗はできない。
「…………っ」
「捕まえましたよ、黒聖女」
どうしてだろうか。
本当に、どうしてなのだろうか。
憎悪の対象であった目の前の白聖女は
「何故……泣いているのですか」
「何故でしょうかね……私にも、わからないです」
疲れたような泣き笑いを浮かべて、そう言ったのだ。
◇◆◇
「…………さい!…………なさい!」
頭の奥がズキズキと痛む。
全身が焼けるような感覚に加えて、耳鳴りまで聞こえてきた。
相当な無茶をやらかしたから仕方がないと言えば、仕方ないのだが、やっぱり痛いものは痛かった。
だが、まぁ……俺のすべきことは終わっただろう。
残る相手は、敵方のアサシンと邪竜、黒聖女に黒幕さん。
こちらにはジークフリートにアサシン様、そしてジャンヌという主力メンバーが軽損傷ほどで生き残っており、立香の下にもマシュと清姫が無傷でいるため問題はないはずだ。
誰か忘れているような気もするが、俺はゆっくりと休んで身体を労ることに専念させてもらおう。きっと、今回ばかりはオルガも許してくれるはずだ。
あー、そうだ。
ロマンにどうやって言い訳しようか、考えねぇと。
セイバーとやり合ったのは、正直言って無謀だった気がしなくも無いからな……かと言って、お説教を受けたいわけでも無いわけでありまして———
「起きなさい、ウリボー!!!」
「うっさいわ、アホ!?」
そんなわけで起床した私こと、結です。いぇい。
どうやら耳鳴りは気のせいではなく、声で殴る系アイドルことエリザちゃんが原因だったらしい。何そのアイドル怖い。
「……何だ、エリザか。おはよう、そしておやすみ」
「え、あっ、おはよう……じゃない!寝るなっ、つってんの!」
素敵な笑顔で挨拶までしたのに、サボタージュは認められなかったみたいです。
律儀に挨拶し返すあたり可愛くていいと思う。アイドル活動頑張ってね、そして、できることなら寝させてください。
「……はぁ、アンタ何こんなところでぶっ倒れてるのよ、軽く心臓止まったわよ?」
「そりゃ失礼したな。ただ無茶しすぎで、体動かしたく無いだけだ」
俺の返答に軽く首を傾げてから、まぁいっかと表情を切り替え、彼女はこちらに質問を投げかけた。
「ウリボー、アンタ今どうなってるか把握してる?」
「呼び方はそれで固定なのね……聞かれてるぞ、オルガ」
『一応はね。貴方が倒れてから十分も立っていないわよ。調子はどう?』
「問題なく全身が痛いわ」
「『それは、問題じゃないの!?』」
「わぁ、息ぴったり」
何というか、流石オルガとしか言いようのない抜かりのなさである。
広範囲の魔力探知により、マリー、ゲオルギウス、アマデウスが高魔力生命体と激突中、同じく立香達が邪竜と激突、アサシンさんは自由闊歩しており、ジャンヌが単独で黒聖女とぶつかり合っていること、基本的に大体全部が把握完了である。
カルデアからの魔力供給によって魔改造ガンド程度を数発程度ならば、発動できそうになった上、右腕以外はピンピンしているエリザというボディーガードもゲットした。
そろそろ動き出しても良い頃合いだろうと判断して、立ち上がる。
「痛っ……くそぅ。それで、エリザはどこに行きたい?」
ひどい筋肉痛のような感覚に顔を顰めてから、問いかけたその言葉に、彼女は不敵に笑って答えてみせる。
「……一番、目立つ奴んとこ!」
「いいね、アイドルらしいじゃん」
肩をバキバキミシミシと鳴らしながら、回してほぐした。
両脚、両腕、腰に首。
ある程度の強張りを崩してから、三度ほど大きくその場でジャンプして準備運動を終わらせた。
「んじゃ、行くか!」
『まさか……本気?』
「本気も本気、超本気……一番、想定外が起こる可能性があんのは、多分そこだろ?」
『まあ、そうだけど』
少し困ったような声音で、こちらを気遣うオルガに少し悪いと感じながらも、足を止めずに進んでいく。
目指すその先は
「……ふーん、てっぺんね!中々いいセンスしてるじゃない!」
聖女同士がぶつかり合う決別の戦場であった。
◇◆◇
命を大切にしなさいと、言われたことがある。
貴方はもう戦わなくていいと、諭されたことがある。
十分に頑張ったと、認めてもらったことがある。
気づけば周りには沢山の人がいた。
守るべき沢山の人がいて
救うべき沢山の人がいて
倒すべき沢山の人がいて
愛すべき沢山の人がいた。
違うのだ。
そうではないのだ。
私は別に、聖女なんてものではないのだ。
己を聖人だと考えたことなどない。
己が特別に優秀なのだと考えたことなどない。
救国の聖女。
その名に恥じぬ誰かになることなんて、到底できやしなかった。
黒の貴方。
貴方を初めてみたとき、私は酷く動揺した。
怒りはあった。当然だ。
しかしだ。
しかし、同時にそこに驚きとほんの少しの極小の喜びが私の中で生まれていたことを、私は認めなくてはならないだろう。
だって、それは。
その『憎しみ』という名の感情は。
私が人であることの証明だったのだから。
私が決して聖女なんてものではなかった根拠となったのだから。
自身でも感じ取れなかった
不謹慎ながらも、喜びの想いをきっとどこかしらで薄々感じていたのだ。
けれど、違った。
それは、ただの勘違いだった。
私は、私が思うように……私が思いたいようにしか、彼女を見ていなかったのだ。
勘違いの魔法が解けた後はただ、哀れみの念だけが彼女に向けられていた。
作られた生命。
作られた虚構。
偽物の感情を、偽物と疑うことすらすることのない哀れな
いや、違うか。
誰か、なんて抽象的な言葉ではなく、もっと明確に明瞭に彼女のことを示すのならば……
キャスター ジル・ド・レェが望んだ私。
ということなのだろう。
しかし、それでも……彼女の行った残虐非道なその行動は、決して許されることではなかった。
沢山の命を奪い、その営みの悉くを破壊し尽くした。
だから私が、元凶たるこの私が、彼らを止めなくてはならなかったのだ。
結さんに立香さん、アサシンにマスター。
多くの人に助けられてここまでやってこられた。
黒聖女との一騎討ち。
彼女の自由を奪い取り、勝利した。
後はただ、その命を終わらせるだけ。
余りにも短かった彼女の人生を、ほんの少しの同情と共に断ち切るのみ。
ああ、だが……しかし。
なんて、虚しい心持ちだろうか。
彼女からの問いかけに、私は答えることができなかった。
貴方が作られた存在だった、なんてことを伝えることなどできるはずがなかった。
目を閉じた黒聖女。
白銀の剣を剣帯から引き抜き、鋒を彼女の胸にあてがう。
ふと、そのとき妙な感覚が私を包んだ。
同調と呼べばいいのだろうか。
目の前のジャンヌと触覚がリンクしたかのような、そんな感覚。
腕が震える。
鋒が揺れる。
涙が溢れて止まらない。
これ以上はダメだ。
感覚的に、本能的に理解した。
これ以上、時間をかければ殺せなくなる。
感情を殺して、両腕に力を込めた。
ズブリと、嫌でも慣れたその感覚が脳に伝わったそのときに。
「……もう少し、だけ」
掠れた声が、耳に届いた。
弱々しいその声がくっきりと、耳に届いてしまったのだ。
「……生きて、いたかった……」
その言葉を聞き取ったと同時に、電源が切れたかのように私の意識は途絶えてしまう。
◇◆◇
偽物だったのかもしれない。
理想は理想で
本物の彼女ではなかったのかもしれない。
ああ、ならば——
本物に為ればよいだと。
狂いに狂ったその愚者は
ついに禁忌へ手を出した。
その身体のほぼ全ては聖杯から生み出された者だった。
存在しないものは復活できない。
聖女ジャンヌダルクには、祖国フランスを憎む復讐心など微塵もない。
だから創り出した。
復讐に、憎悪に満ちた理想の魔女を。
聖杯と
火刑に処された聖女の
結果として、ほんの僅かだけ……
それはジル・ド・レェのただの自己満足。
そう……ここに、偶然を超えて最早運命的とも言える奇跡の術式が噛み合ったことで、最後の悲劇は開幕を告げたのだ。
対象:聖女ジャンヌ・ダルク
欲望認証:『永遠の生存』
もう一つの聖杯によって施された、この砦最大の魔術が行使された。
一人の少女が当然の如く抱いていたその思い。
憎しみでもなく。
復讐心でもなく。
懺悔でもなく。
後悔でもない。
ただの生存願望により、その術式は起動する。
今、ここに。
二人の聖女を呑み込んで。
第一特異点 オルレアン
その最後の敵が目を覚ましたのであった。
さあ、クライマックス
第一特異点 最終決戦です。