カーマさんとイチャコラしながら人理修復する話     作:桜ナメコ

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 一ヶ月に一回は更新したい……!

 私事ですが、今年から受験生になりました。
 更新頻度はかなり落ちると思います……
 これまでも学業優先のため何度もおまたせしていましたが、何卒宜しくお願い致しまする。

 …………息抜きで、やるかもだからっ!
     そんときに楽しんでもらえたらと。





33話 絶望降臨

 

 

 

 

「…………あ?」

「…………ん?」

『…………は?』

 

 

 三人が揃って間の抜けた声を発した。

 それと同時に、切羽詰まったロマンの忠告が耳に飛び込んでくる。

 

『結君! 前方に異常な程の高魔力反応有りだ! アサシンがいないなら、正直話にならないレベルだ! 撤退をいそ——』

 

 このとき、俺たちの現在地はオルレアン城最上階へと続く階段の中間地点であり、その魔力反応との距離は数字にして100メートルもない。

 俺はともかく、サーヴァントのエリザや万能超人であるオルガが高まった魔力の気配を感じ取れないわけがなかった。

 

「もうやってる!」

「ウリボー、そこ動かないで!」

 

 切迫したその状況下において、称賛すべきは間違いなくエリザの行動だっただろう。

 数秒も躊躇うことなく壁を破壊し、彼女は俺を抱えて空中へと飛び出した。やだこの子力強い。

 

 瞬間遅れて、轟音が鳴り響く。

 肌へと空気の振動が伝わるビリビリとした感覚に、懐かしさを覚えて苦笑した。

 

『何笑ってるのよ?』

「いや、久々だなぁ……と思っただけ」

『意味がわからない……』

「深い意味はないよ」

 

 あの最終決戦より数百倍はマシだと、心の内で付け足しつつ振り向いた。

 そして頰が引き攣った。

 見れば、巨城オルレアン(俺達が先程までいた階段を含めて)その上部が完全に焼け消えていたのだ……数百倍は言いすぎたか? いや、そうでもねぇな。

 

 

「おぉ、死にかけた……前置きもなく、遺言も残せず燃え尽きるところだった……」

「ほんとよ、ほんと! 冗談抜きでドラゴンステーキになっちゃうとこだったじゃない」

『エリザベートが飛行可能なサーヴァントで助かったわね……』

「そうそう! 感謝しなさいよ、ウリボー!」

「してるしてる……それはさておき、原因はアレか」

 

 

 

 熱の発生源は、爆発点の中央に鎮座する一人の女性だ。ふわりと背中に生やした黒翼で滞空し、結んでいた髪は解けている。

 背丈は少し低く、その目は虚に染まっていた。

 

 しかしだ。

 それだけだった。見紛うはずもない。

 純黒のドレスをその身に纏う彼女の名前を、俺は、俺達は知っていた。

 

 

「……というか、なに、やってんだ! お前ぇぇええええ!!!!!」

 

 絶叫。

 疑問が脳の大部分を占める中、虚な目のまま彼女がこちらへ手を向けたことに気がついて、声を上げる。

 

「エリザ、降りて!」

「へ?」

「早く、しろぉ!」

「お、怒らないでよ!?」

 

 別に怒ってない、と言い返す余裕はなかった。

 魔術なんてものとは縁がないはずの、彼女のかざす手の前に黒色の大魔法陣が浮かび上がる。

 

『…………』

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! それは、死ぬ!」

「なんなら落ちろ! どうにか避けろ、悪いが頑張れ!」

「頑張っ、てる、わよ!!!」

「知ってるけど、なんかもう頑張れ!」

 

 

 沈黙するオルガさん……気絶してないといいけど。

 わちゃわちゃと言い争いながらもエリザは、俺を抱えたまま最高速度で急降下を行い続けた。

 

 だが、間に合わない。

 

 

 "万物融解"

 

 次の瞬間、灼熱が。

 アサシンの第二宝具に勝るとも劣らぬ超高熱の獄炎が生み出された。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「さてと、私は私の仕事をしないといけませんね」

 

 よっと、一伸び。

 関節をポキポキと鳴らしながら、ゆっくりのんびり堂々と少女は歩き始める。

 襲いくる全ての翼竜を一撃で叩きのめし、全ての罠を正面から突破する。

 そんな理不尽とも言えるほどの強者である彼女、アサシンはあるものを捜していた。

 

「全く見つかりそうにないですし、正直クソ面倒になってきたんですが、どうしましょうか」

 

 手がかりもなく、闇雲に歩き続けて十数分。若干気が早いアサシンはすでに、イライラを蓄積しつつある。

 しかし、諦めるという選択肢はない。

 面倒なのでやめました、なんて言葉を吐くのは彼女の美学に反する上に、マスターへ向ける顔がないためである。

 

「かと言って、このまま歩き続けるのも癪に障りますし、どうしましょうか……あっ」

 

 不機嫌オーラを全身に振り撒くアサシンに絡みに行く愚者は流石に居なかった。

 いなかったのだが……

 

「おお! ジャンヌゥゥウ——ん?」

 

 絡まれる相手は存在した。

 こうして、不運にもその男は再び彼女と遭遇することになったのだ。

 

「…………」

「手がかり、発見です」

 

 逃す間もなく首元を掴み、地面へとその男、ジル・ド・レェの顔面が叩きつけられる。

 呻く男の背後を取り、慈悲なく関節を決めたアサシンはニコリと微笑み、ドスの利いた問いかけた。

 

 

「このクソッたれじみた結界の『核』が何処にあるか、教えてくれませんか?」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「っ! クソっ、代償——」

『ダメっ!』

「あっ、こら! オルガ、何魔力堰き止めてやがる!?」

 

 障壁展開でも、と無理矢理魔術を行使しようとして失敗した。

 というか、オルガに失敗させられた。

 

『次はない、死にたいの!?』

「退くも進むも地獄なんですが、どうしろと?」

 

 背後から迫る炎。

 気がつけば、地表がすぐそこまで近づいていた。それが指し示すことはただ一つ。

 

「ウリボー、ウリボー!」

「何だよ! エリザ!?」

「逃げ場、無い!」

「知るか、アホ!」

 

 ここで、ゲームオーバーなのだろうか? 出来ることならアサシンの腕の中で死にたかった。

 そんな思考が割と本気で脳裏を過ったとき。

 

 

『右方へ向かって!』

「——ッ!」

 

 

 オルガが何かに気がつき、指示を出す。

 意図を問う時間はなく、エリザが反射的に飛行方向を切り替えた。

 無茶苦茶な軌道修正に目が回り、視覚が封じられる。

 よって、その存在を認識できたのは聴覚のみ。しかし、それだけで十分であった。

 

 

 

 

「……マシュ!」

 

 

「真名——偽装登録、完了 宝具、展開します!」

 

 

 

 頼もしい後輩たちの声が聞こえ、俺たちを取り込むようにしてその輝きは放たれる。

 

 

 

 

疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!」

 

 

 

 

 張られたのは、少女の意志を形に表した守護の障壁。

 光を放つその結界は荒ぶる灼熱を受け止め、そして押し返した。

 

 

 

 無理矢理な飛行を行ったエリザが、一応俺を庇いつつ墜落してから十秒ほど。

 目を瞑り、思考を落ち着かせるついでに視界のブレを収まらせる。

 周囲の様子を伺ってみれば隣に寝転ぶエリザベート、少し離れた位置にマシュと立香、そして清姫がいて。

 

「……こっちだ、結!」

「あ? なんでお前まで……」

「話は後だ。一度、下がるぞ」

 

 銀髪の大男が、座り込んでいた俺へと手を差し出して立っている。

 大男、ジークフリートが俺共々エリザを抱え上げて、立香の元へと向かう。地面へ下ろされるまでの数秒の内に思考を巡らせ、状況を整理してから、口を開く。

 

「援護助かったよ……それで、()()()()()()()()()()、間違いないか?」

「……っ! うん、間違いないよ。アサシンは?」

「わからん。会えなくて寂しい」

「それは聞いてないから……」

『一々ツッコミ入れなくていいわよ、立香……ありがとう、さっきは助かったわ』

「えへへ、どういたしまして。まぁ、頑張ったのは、マシュなんだけどね」

 

 ジト目でため息を吐く立香に、優しく声をかける所長……俺にも優しくしてほしい。

 再会に喜ぶ二人の様子を微笑ましく思う。

 だが、しかし……

 

『そろそろいいかい? 結君は把握しているかもしれないが、少々マズイ事態になった』

 

 ロマニの言う通りだ。

 余裕はない。

 立香達との合流によって、戦力は整ったように思われる。普通ならば問題はない。

 

 三騎のサーヴァント、一騎のデミ・サーヴァントに、二人のマスターと守護霊(オルガ)が一匹。

 しかし、これだけの戦力を以ってしても、相手が悪いと言うしかなかった。

 

「状況の説明を……っ! ますたぁ、下がってくだ——」

「上だ!」

『嘘だろッ! 回避を——』

 

 

 清姫、ジークフリートの警告に数瞬遅れて空を見る。

 

 そして……

 

 

 "万物融解"

 

 

 天より再び放たれるは灼熱の炎。

 表情が歪む。これが——聖杯による暴力的なまでの理不尽か。

 

 

「マシュ!!!」

 

 息切れは収まらず、魔力も不足している。

 精神的な疲労は膨大に蓄積しているだろう。

 そんな事は、理解している。

 

 吠えるようにして、その少女は言い放つ。

 

「護れ!」

「はい!」

 

 紅の輝きが世界を照らす。

 最後の令呪が、マシュの力へと変わっていく。

 

 

「……宝具、再展開します。真名偽装登録……完了!」

 

 迫る炎に怯える事なく、尻込む事なく、立ちはだかる。

 

「疑似展開/人理の礎!」

 

 先程の光景の焼き直しにさせるわけにはいかない。

 マシュの宝具が展開されると同時に声を発した。

 

 

「ジークフリート!」

「……どうする?」

 

 少し考え、簡潔に一言。

 

「——落とせ!」

「頼まれた」

 

 結界が消え、炎も消滅する。

 視界がクリアになった瞬間を見逃さずに、ジークフリートが空へと飛び出していき……

 

 

「ハアァァッ!」

「……っ!?」

 

 大剣による一撃で、宙へ浮かんでいた襲撃者を地上へと叩き落とした。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「貴方の手を借りるのは、非常に癪なんですが」

 

『ええ、でも? 頼むしかないですよねぇ?』

 

「やっぱ、私一人でどうにかします」

 

『またまた、だって——邪魔でしょう?』

 

「…………はぁ、そうですね。こっちは、私がやるので」

 

『向こうを手伝え? まさか、対価がないとは言わせませんよ?』

 

「…………っ」

 

『まぁ、今回ばかりは見逃してあげますよ』

 

「……は? 頭でも打ちましたか?」

 

『失礼すぎません? 簡単なことですよ、だって会うのは久しぶりでしょう? 十分対価に値しますから』

 

「そういう……では、任せます」

 

『素直になりましたねぇ……絆されすぎでは?』

 

「どの口が言うんですかねぇ……?」

 

『それもそうですか……じゃ、任されましたので、さようなら』

 

「…………」

 

『それでは…………結を襲ってきます!』

 

「こうなると思ってたから、閉じ込めてたんですよ!? 待ちなさい、バカマーラ!」

 

『貴方は仕事に追われてますから、そんな余裕ありませんよね? 私だけ楽しんでくるので、お仕事頑張ってください、バカーマ』

 

「その略し方をやめなさい!」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「前衛正面にマシュ、防御だけ考えとけ! エリザとジークフリートは、連携とって左右から抉れ! 清姫、全体のサポートを頼む! マシュ以外は、立香のことを考えなくていい!」

 

 矢継ぎ早に指示を出しながら、荒い呼吸を繰り返している立香を右肩に担いだ。

 

 カルデアからの支援を受け、徐々に回復している魔力を使用してオルガが身体強化を行なっていく。

 代償強化は魔術回路に大きな負担をかける荒技だ。先程、止められたようにボロボロになった現在の状態では、使用に大きな負担がかかる。

 そのため、頼りにできるのはオルガのサポートだけだ。正しい魔術で実戦レベルに使えるものを俺は持っていない。

 苦手を放置しておくと碌なことがないな。

 

 

「え、えっと? む、結!?」

「ちょ、そこの! 私のますたぁに、なに手を出して——」

「うっさい! 集中しろ、バカ!」

 

 ワタワタと慌てた声を上げる立香だが、担いだ状態では表情はわからない。まあ、一々気にする余裕もないのだから、どうということはないのだが。

 ピシャリと清姫へと言い返し、正面へと向き直った。

 落下の衝撃により舞い上がった土埃が、次の瞬間に掻き消える。

 

 そこに、()()はいた。

 

 

『前方生命体の魔力反応。ファヴニールを大きく上回り、尚も増大中……嘘だろ、コレは——』

「弱音吐いたら、ぶっ飛ばす」

『……ッ! うん、ごめんよ。君に励まされていちゃ、まだまだだね』

「貶してる?」

『まさか…………勝算は?』

 

 

 声を震わせ、恐怖に耐え、ロマニはそう口にする。目の前に立つ存在は、それほどの脅威であった。

 

 

 

 背中には邪竜の両翼。

 黒のドレスに汚れはなく。

 無造作に解けた金髪、煤だらけの素足。

 虚な瞳に、光が宿る。

 ニヤリと気味悪く口元を歪ませて、彼女は笑う。

 

 

 ジャンヌ・ダルク。

 

 聖杯の力、結界の力、邪竜の力。

 そして対なる彼女の力。

 

 その全てを取り込み、特異点そのものと言えるほどにまで歪み切った一人の聖女。

 

 

 

 

 

「——————ある」

 

 

 

 真っ直ぐと、その現実(ぜつぼう)を見据えて俺は断言した。

 

 

 

 

 

 

 




 次回 「魔王」

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