めちゃんこ短いので、人物紹介(ネタバレあり)を30分後に投下しますね。
戦いは終わった。
驚く間もないほど呆気なく、唐突に。
最後に意識に残っているのは、アイツが私を組み伏せね馬乗りになった状態で涙を流している姿。
なぜ、泣いていたのだろうか。聞いたらきっと教えてくれるのだろうが、私からアイツへ話しかけることなどできるはずがない。
静かだな、と思った。
中庭には焚き火の光が灯っていて、未だに人の話し声が聞こえて来る。
ああ、これは……
「静か、じゃなくて……孤独なのね」
「誰が、ですか?」
「——————ッ!?」
誇張抜きで、心臓が止まるかと思った。
振り向けば、そこには当然のようにアイツが立っていた。ニコニコと微笑むその間抜け面からは、何を考えているのかなど推し量れない。
「何か、用?」
「ええ、貴女とお話をしようと思いまして」
「……そう。何かしら?」
「えっ!?」
争う気も起きなかった上に、聞きたいことはこちらにも幾つかあったのでそう聞き返すと、失礼なことにアイツは驚愕の表情でこちらを見てくる。
「何よ、そんなに可笑しいかしら?」
「いえ……いえっ! 少し嬉しくて、つい驚いてしまいました」
「……チッ、能天気な奴ね」
「残念ながら、よく言われます……さて、貴女のことを何と呼びましょうか?」
アイツは少し照れ臭そうに、恥ずかしいところを見つかった子供のように苦笑してから、表情を真剣なものに戻してそう聞いてくる。
「…………別に、なんでもいいわ。そんなことより、本題に入りなさい」
「そんなこと、ではないですよ。貴女と私は一度その身を同じにした。だから……隠し事なんて、できるわけない……貴女は名を持つべきです。他ならぬ、自分の意思で
「…………」
「それが、貴女の悩みでもあったはずです」
「——厄介ね。相手に自分のことの何もかもを知られているなんて……呪いか何かとしか思えないわ」
顔を背ける。
不思議と怒りはなかった。
……いや、違う。
怒りなんて、元々、私は——ジャンヌ・ダルクは、決して。
「私、貴女が嫌いよ」
「そうですか? 私は結構好きですよ」
「うっさいわよ」
「てへかくひにほほをつれならいでほひいんれすけろ?」
「不細工な顔ね」
「そういうの、特大ブーメランって言うらしいですよ」
「喧しい」
ああ、どうしてだろうか。
身体の奥が、底冷えしていた芯が——温かいと思うのは、きっと。
「……私の代わりに生を叫んでくれませんか?」
「——嫌よ。私は、アンタなんかの代わりじゃなくて」
この思いはきっと。この願いはきっと。
「私が、ジャンヌ・ダルクが生きたいと感じたから、生きるわ。アンタはアンタで勝手に善人やってなさい」
私だけのモノなのだ。
私が選んだ道なのだ。
だから、きっと……
——————
月が沈みゆく空の下、二人の聖女が語り合う。
復讐の旗は地に伏した。
哀れな報復と憎悪の竜の魔女は死に絶え、生を渇望せし無様な愚者が生誕する。
「じゃ、アンタがオルタね。つまり別側面、私が本流」
「ちょ、いくら何でもそれは見過ごせませんよ。話し合いを希望します!」
「あら、随分と心の狭い聖女様ね」
「私はその呼ばれ方認めてませんから! 貴女も聖女ってことになりますからね!?」
「ゔぇ、それは……ちょっと」
「ジャンケン! ジャンケンしましょう!」
「その勝負乗ったわ。二本先取よ」
「え、一本勝負にしません?」
「「………………ジャンケンで決めましょうか」」
役割の終わった戦地にて、人々は語らい、ゆったりと時は過ぎていく。
「ますたぁ……もう、夜も遅いのですから……ほら、こちらへ、きよひーの胸はいつでもますたぁのために」
「ダメです! ダメですからね、清姫さん!」
「まあまあ、落ち着いてよ。二人とも、一緒に固まって寝よう? 少し肌寒いから、くっつけば皆あったかいと思うな?」
「…………子ジカ、対応うまいわね」
「モテモテですね〜。では、私もそろそろ結の方へ夜這——コホンッ、夜這いしに行ってくるとしますか」
「せめて、言い直しなさいよ!?」
空へ浮かぶ光輪。
道は果てなく、旅路は未だ始まったばかり。
「四人とも、肉が焼けましたぞ」
「すまない。何から何まで、任せきりにしてしまったな」
「サンキュー、ワイバーンのお肉。上手い部位は喉元って情報が本当か知りたかったんだよね、何かの本で見たんだけど」
『一応、コレってゲテモノ枠に入るんじゃないかしら?』
「そこのタコ使いの使い魔よりはマシだろ」
「海魔ですねぇ……!」
『ゲテモノにも限度があるでしょうが……はぁ、まあいいわ。毒はないのよね、そのワイバーン』
「簡易的な治療なら僕に任せてください。食あたり程度なら、僕でも診れるはずですから」
「なるほど、そりゃ、心強い…………ん? この音は」
『…………優しい、音』
風にのって特異点オルレアン全域へと天才の音色が広がっていく。優しく、懐かしく、そして温かい心に染み入るようなピアノソナタ。
「あら、上機嫌なのね? 女神様」
「……いえ、別に普段通りですが」
「私、貴女の鼻歌は初めて聞いたわ♪」
「ボクの演奏を気に入ってくれたようで、何よりだよ」
「自惚れないでください、変態音楽家」
「天才音楽家?」
「その耳、腐ってますよ。今すぐに音楽家やめた方がいいですね」
「僕から音楽を取ったら、それこそ世界最悪の糞野郎の誕生じゃないかな」
「ふふっ……でも、いつもより饒舌じゃないかしら?」
「そう……かもしれないですね。少し……良いことがあったのは、確かなので」
「結くんも罪な男だねぇ〜」
「貴方ほどじゃないと思いますが」
「それはそうだ。ボクってばクズだし」
「さっきから思っていたのだけれど、自分で言うのは違うのではないかしら?」
夜が過ぎていく。
やがて、日は昇り朝が来る。
——————
うたたかの夢は覚めた。
失ったのは、憎悪と復讐に塗れた過去への妄執。
手に残ったのは、限りない未来の可能性。
どう足掻いても消えゆく定めだった私を勝手に救った大馬鹿者がいる。
「…………ここからですよ、オルタ」
「…………」
「全部全部、ここからです。一緒に頑張りましょう?」
面倒くさい姉を持ったものだと。
我ながら絆されるには早すぎるが、悪くない。
そう思えるのも全て……
「ええ、当然よ。サーヴァント・クラス
だから、きっと……間違いじゃない。
間違いなんて言わせない。
私の物語はここからなのだ。
この選択を後悔なんてさせてやらない。
この物語の結末をもって、私はアイツにその証明を叩きつけてみせる。
◆◇◆
神の手による
その困難を、その犠牲を、その代償を。
「なぁ、アサシン……俺は間違ってなかったよな?」
「ええ、絶対に。いつまでも、何があっても、貴方は私の誇りです」
「……ありがとう」
「どういたしまして、です」
まだ誰も知らない。
邪竜欲望魔境都市 オルレアン
生誕の凱旋歌 了