カーマさんとイチャコラしながら人理修復する話     作:桜ナメコ

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40話 強化クエスト 結・オルガ(2)

 

 

 

 

 

 パールヴァティーが打ち出した雷光を、強化した身体能力を駆使して紙一重で躱す。

 

 この雷撃だけは、まともに受けてはならない。

 シヴ——間違えた、クソゴリラからの借り物である三叉槍……正確に言えばトリシューラという名のその槍から放たれる一撃は、シヴァが使う場合の本来の威力よりかなり弱められているという前提の上で、軽く俺の意識を吹き飛ばす程度の威力は持っている。

 

 なんとかして雷撃を躱し、懐へと飛び込む。

 それがパールヴァティーに勝利するための最低条件だ。

 つまり、考えるべきは回避の方向。

 上は論外。左、右、或いは。

 

「下、ですよね!」

 

 倒れるぐらいの前傾姿勢を取り、直線上の雷撃を回避していた俺の行動を読んでいたのだろう。

 パールヴァティーは間髪入れずに、地面を縫うような軌道の雷光を前方広範囲へとばら撒いた。

 目先へと迫るその超高エネルギー体に手をかざし、反射的に俺は魔術を行使する。

 

「ま、がれっ!」

 

 代償強化——空間歪曲

 

 代償:魔力

 

 かざした手を宙を掴むようにして握り、捻る。

 紫白に輝いていた目先の空間、そこを半径1メートル程の球体として切り取り、歪め潰す。

 どこかで聞いた話の中には、ある魔眼の所持者が、橋一本丸ごとを捻り割ったという馬鹿げたスケールのものがあったが、俺に出来るのは精々このぐらいだ。

 

 紫電は霧散し、視界は良好。

 パールヴァティーが驚きで目を身開いた姿がよく見えた。

 

「まだ、まだ……ここから」

 

 息を入れ、魔術を使う。

 

 代償強化——瞬間強化・脚

 代償強化——物質形成・魔力線

 

 代償:魔力

 

 

 

 一歩踏み込み、縮地もどき……に、合わせて追加。

 

 

 

 代償強化——認識遮断(瞬)

 

 代償:魔力

 

『……っ!?』

 

 

 存在がブレる。

 意識が現実を離脱するような感覚が俺を襲う。

 この一瞬だけは、()()()()()()()()()()()()()()()()

 感覚が気持ち悪い上に、短時間で多用しすぎると本当に存在自体を世界から抹消されかねないため、時々しか使わないのだが、戦闘時にはかなり便利な技の一つだった。

 

 パールヴァティーの懐へ飛び込んだ。

 速度の緩急、そして俺の気配が一瞬間、無になったことに戸惑う彼女だったが、状況を立て直すために地面へと槍を突き立て、火力に物を言わせた全方位攻撃でこちらに応じる。

 

 ——が、しかし、それは俺の読みの範疇に収まる対応だ。

 

 パールヴァティーの右腕を、四本の線が絡めとる。

 身動きを阻害した彼女と俺の間に距離はなく、後でアサシンに叱られることが確定した。やっちまったぜ。

 

「これ、は?」

『……魔力の糸?』

「大正解……っと!」

 

 棒切れで塞がっている右手ではなく、左手の指先から生み出した四本の魔力線をトリシューラを操作するパールヴァティーの腕へと巻きつけて、ぐいと引き寄せ、彼女のバランスを崩す。

 同時に、右手に構えた棒切れが——正確に言えば、その刀身に刻まれた魔術刻印が——輝きを放った。

 

 "損害転換・魂"

 

 薄紅色の光を纏った礼装を一瞥して、パールヴァティーが頰を引き攣らせた。

 

「……な、懐かしい武器ですね?」

「久しぶりに、食らっとけよ」

「全力で! ご遠慮させて、頂きますッ!」

 

 どこか焦ったような気配が滲む大振りの一撃をスルリと回避して、礼装を振り抜いた。

 サクリ、と拍子抜けする程の手応えと同時にその棒切れは、パールヴァティーの身体を切り裂いた。

 

「……ぅんッ!?!?」

『——え?』

 

 彼女の反応に、戦闘が止まる。

 数秒後、先程、悲鳴と()()の間のような声を押し殺したパールヴァティーが、自分の肩を抱きながらジト目を向けてこちらを見ていた。

 

「……どうして、青の方を使わないんですか?」

「……女性を痛がらせる趣味はないものでありまして」

『どういうことかしら?』

 

 ……あっれれ〜、おっかしぃ〜ぞ〜? みたいな?

 

 まだ何の説明もしてねえのに、心なしか、オルガの声音が冷たい気がする。

 冷たくするのは説明してからにしてください。

 

「礼装の効果の話だ……まあ、これもメインアームって訳じゃないけどな。俺が聖杯戦争時に、ガチで戦うって決めてから最初に作った礼装がコイツらなんだが……えっと、うん。ちょっと色々と酷い部分がありまして」

『端的に』

「……エロゲにありそうな性能?」

『ギルティ』

 

 まあ、そうだよね。

 本来の使い方してねえし。

 

「パールヴァティー……ちょっとタンマな。オルガに叱られてくる」

「…………」

「そんな涙目で見るな、罪悪感増すだろ」

 

 

 

 魔術礼装:臆病者の現実逃避(プライド・オブ・チキン)

 

 とある毒舌メイドに皮肉でつけられたその正式名称に対するツッコミは置いといて、効果の説明と参ろう。

 まず、純粋に硬い。めっちゃ硬い。ぶっちゃけただの鈍器。

 そして、特殊効果なのだが、ある程度の魔力を流してコイツは起動する。

 起動後の能力はただ一つ。

 

 この礼装は相手の肉体を無視する。

 

 ただ、これだけだ。

 

 もう少しわかりやすく言えば、痛みだけを与える刃、ということになるだろう。

 傷つけたくない、殺したくない……でも、倒さなきゃいけない、斬らなくてはいけない。

 

 大事なものを守り抜くために、殺さなくてはいけない。

 

 で、結局、殺す勇気が持てなかったチキンな俺が作り上げた失笑ものの逃げ道。

 死ぬレベルのダメージが入った場合、強制的に失神するように魔術がかけられている『絶対に相手を殺さない剣』というわけだ。

 

 うん、あのメイドさんってば、俺のことよくわかってらっしゃる……もしかして、俺のこと好きだったのかもしれない。

 

 ……ここ最近で一番の悪寒がしたから、話を戻すわ。

 

 本来なら、攻撃の全エネルギーが痛みへと変わる礼装なのだが……この礼装をアサシンが弄ったことがあるのだ。

 その頃のアサシンといえば、愛とかなんとかに迷走に迷走を重ねて丁度煩悩が暴発していた時期である。そんな彼女が取り付けたのが、現在問題となっている機能だった。

 完全に余談だが、その時期の彼女に夜這いされたことが、俺が性欲抑制の制限をかけたきっかけだったする。そろそろ解除してもいい気がしてきたな…………と思ったが、男の子な事情でオルガに気を遣わせるのは、物凄い心苦しいので、解除は見送ろう。

 

 あの懐かしの日々から、時間は飛んで、つい先日。

 ダ・ヴィンチちゃんに性能を変えることなく、製作を依頼していた現在の礼装を受け取ったのだが、その際に、アサシンさんが何やらゴソゴソと礼装を弄り……

 

『これも思い出じゃないですか』

『使う予定はないけどな……』

 

 みたいな会話をした記憶があったのだが、やはりその機能……攻撃の全エネルギーを()()へと変換するという頭の悪い魔術は、バッチリ発動しているようだった。

 

『馬鹿じゃないの?』

「俺もそう思う」

『何で使ったのよ……』

「うちの女神様曰く、パールヴァティーへの嫌がらせ五回で、自分を除け者扱いして、模擬戦をすることを許してくれるらしいので、仕方ない」

『あの子、本当にパールヴァティーのこと嫌いなのね』

「別にガチで嫌ってるわけじゃないと思うけどな…………多分」

 

 さて、切り替えるか、とため息を吐いてから、薄紅の光を放つ礼装を構え直す。

 痛みを与える場合が、この光が青色だったりするのだが、まあ今は関係ないだろう。

 

 

「そんじゃあ……あと四回分、いってみようか」

「……ッ、本当に恨みますからね、カーマ!?」

 

 

 パールヴァティーの絶叫が、第二ラウンドの開幕を告げた。

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 黙秘(乙女の尊厳に関わるため)

 

 で、結果。

 

「…………こ、こう、ひゃん……れふ」

 

 パールヴァティーを倒した。

 

 記録的に言えば、俺が三回攻撃を受けて、向こうが五回攻撃を受けた形となったが、思いの外苦戦した。

 

 とはいえ、反撃を受けた理由の中には幾つか実験を挟んだから、ということもある。

 時間を追えば追うほど、こちらの精度は高まっていったので、戦った甲斐はあっただろう。

 

「尊い犠牲だった」

『後でアサシンには説教ね』

「それは、同感」

 

 腕を組み、しみじみ呟くと呆れ声でオルガがアサシンへの叛逆を宣言した。

 ちゃっかりそこに便乗しつつ、ちょいとばかり真面目な声音で彼女に問う。

 

「……参考にはなったか?」

『ええ、とても……有意義な時間だったわ』

「ならよかった……パールヴァティーが無駄死にならずに済んだ」

「べ、別に、し、死んではないですよ……」

 

 足腰をプルプルさせて、トリシューラを杖代わりにしているパールさんが、なんとかそう言い返す。

 

 ……頬が真っ赤で、息が荒くて、涙目のお姉さん。

 

「えっっっっ」

『っっっろいわね』

「誰のせいですか、誰の!?」

「『アサシン』」

「…………何も、言い返せないんですけど」

 

 性欲抑制かけといてよかった。

 一瞬でもパールに欲情でもしてたら、ちょん切られても文句は言えねえ。

 あと、焼かれる(妬かれるではない)かもしれない。あのゴリラに。

 

『そういえば、結局もう片方の礼装の効果を教えてもらってないんだけど?』

「一発ネタみたいなもんだからな……大事な時まで取っておくよ」

「…………セイバーさんの度肝を抜いたアレですか」

『セイバー……聖杯戦争のときの話かしら?』

「そそ、詳しく話してもいいんだけど——」

 

 ここまで話したところで、カルデア管制室から連絡が入る。

 

『二人とも、戦闘が終わったなら、こちらへ戻すよ? 残念だけど、あまり電力に余裕がないんだ。反省会はこっちのミーティングルームでも使ってくれ』

「そうだったな……いつでもいいぞ」

「はい。私も、ようやく落ちついたところです」

 

 セイバーのことについて話すのは、また別の機会になりそうだ。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「…………ふぅ、サッパリした」

 

 自室のシャワーを浴びてから、適当なジャージに着替え、ドライヤーで髪を乾かしていく。

 辺りに人の気配はなく、オルガも現在は意識をとざしている。

 ごーごー、という熱風の音だけが存在するこの空間は、俺の心に静穏を与えてくれる。

 

 鏡に映る自身の姿をぼんやり眺める。

 

 一瞬、その姿がぐにゃりと歪んだことに気がついて、ドライヤーのスイッチを切った。

 

「…………()()()()()()

 

 こちらの呟きに応じるようにして二度、三度と鏡の中の俺の姿がノイズが走ったように震える。

 

 そして

 

『わかったわ。貴方も気をつけなさい』

 

 懐かしい声が聞こえたところで、コンコンとノック音が聞こえ、意識は現実に回帰する。

 

 パチパチと瞬きを繰り返すと、目の前の鏡には、幾度となく見たパッとしない青年の姿が映っているだけであった。

 思考を切り替えて、努めて明るい声音をつくり、来客に応じることにする。

 

「はいはい、ただいま。ちょいと待ってろ」

 

 策はある。

 いざというときに、彼女らの力を借りることを躊躇ってはいけない。

 叶うことなら、もう二度と……()()に剣を握らせたくはなかったのだが。

 背に腹は、というやつだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドアを開け、パチクリと瞬きをした。

 

 

 そこには、緊張したように肩を震わせる一人の少女が立っていた。

 真っ直ぐにこちらの瞳の奥底を貫くぐらいに透き通った目を向け、彼女は口にする。

 

 

「私を、弟子にしてください」

 

「…………そうきましたか、立香さん」

 

 

 拝啓、天国にいらっしゃるであろうお師匠様。

 

 

 弟子入りを断る方法を教えてください。

 

 

 

 

 

 

 

 …………アンタ、天国行けたんだよな?

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

『なんで、起床直後に土下座を見なきゃいけないのよ…………しかも、二つ』

 

 呆れ声が脳内に響く。

 魔術師としては圧倒的に俺より格上である彼女なら、この行き詰まった現状を打開できるはずだ、と待ち望んでいたオルガの復活だったが、届けられたのは冷たい声音だった。

 

「綺麗に出来てるだろ?」

「私の方が綺麗だよね?」

『バカじゃないの?』

 

 「因みに結の方が綺麗」とつぶやいてから、オルガは俺たちに状況説明を要求する。やったぜ。こちとら、土下座なんて日常茶飯だからな。熟練度が違うんだよ。

 それにしても、状況説明なんて一言で済むのだが、見てわからんのか、コイツは。

 

「まず、私が弟子入りしたい! って言ったんだよ」

「んで、俺がお断りします! って即答したんだ」

「そのあとに、立香がどうしてダメなのって聞いてだな」

「次に結が考えが甘いって反対してきたの」

 

『貴方達、わざと分かりにくく説明してるわよね?』

 

「「バレた?」」

 

『仲良しか』

 

 この流れ、結構最近に別のやつとやったな。

 もしかして、俺、友達増えたのでは?

 

『なんで、貴方は土下座しながらガッツポーズしてるのよ。怖いんだけど』

「面を上げろって言われてないので」

『急に湧いたのね、その身分差』

 

 いい加減、オルガがゲンナリしてきたので姿勢を普段通りの胡座に戻す。

 立香は正座を崩して女の子座りってやつになったみたいだが、身体柔らかぇのな、お前。

 

 

 オルガに事情を説明して、程よく場が和んだところで、改めて論争を引っ張り出す。

 

 

 

「別に魔術師を目指すことが悪だとは言わない。こんな状況下で、何の武力も持たずに危険へ突っ込めって言われる方が酷なのもわかってる」

「だったら——」

 

 オルガが目覚めるまでに何度もした会話。

 

 彼女は俺とオルガに魔術を教わりたい。力をつけて、みんなの役に立ちたい。

 俺は、これ以上彼女を魔術に触れさせたくない……もっといえば、彼女に力を持って欲しくない。

 

 互いに譲らぬ主張は平行線で、交わる気配は微塵も感じられない。

 

 だから、俺の言い分に納得してくれというのは、ただこちらの意見の押し付けでしかない。

 お互いに、やってることは変わらないのだから、正当性なんてものはどちらにもない。

 

「でも、お前は強いから……お前は、多分()()()()()()()()。だから、魔術は教えられない」

「…………でも、私は!」

 

 立香も理解はしているはずだ。

 戦える人間だからこそ、戦える力を持ってはいけない。ましてや、立香はマスターなのだ。

 自分の身の危険をいの一番に考えなくてはならないはずの彼女に、そもそも、戦うという選択肢を与えることは、愚行でしかない。

 

 それを理解した上で、それでも納得ができないのは、やはり——

 

『貴方の存在、そういうことね』

 

 俺が、彼女に守らせるべきルールから、逸脱した存在であるということが大きいのだろうから。

 

 

 沈黙が流れる。

 その、直後のことだった。

 

 バンッ、と大きな音を立て、ドアが開く。

 

 

「やぁ、諸君、お困りのようだね。この万能の天才、ダ・ヴィンチちゃんが、力を貸してあげようじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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