こんな感じでやっていきます。
プロローグ 〜お別れ〜
「……あの、マスター。そんな目で見ても、私のクレープはあげませんからね?」
「一口だけでいいから……だめ?」
「あのですね、マスターはさっき自分の分をムシャムシャ勢いよく食べていたじゃないですか……」
「俺は、一口献上してやったというのに……」
「貰うものは貰っておくのが私の主義です……私がマスターに与えられるのは、愛だけですよ?」
「あ、うん。別に、
「清々しいまでの即答ですね。ちょっと、傷つきました」
「そりゃ、すまん。お詫びにボンタンアメでもいかが?」
「なんで態々そんな渋めのチョイスなんですか……頂きますけど」
ゆったりと会話を続けながら、街を歩く青年と少女の姿がそこにある。
青年の右手には、赤の紋章が浮かんでいるが、三層構造だと思われるその紋章の二層分は掠れてしまっている。
今はただ、中心部に赤い模様が見えるだけであった。
暫くの間、青年と少女は雑談をしながら歩いていると、街中から音が消えたことに気がつく。
"人払いの結界"
それが存在することは、裏世界の住人が動きを見せる、ということと同義だ。
肌がピリつく感覚に、青年は片頬を上げて隣に立つ白髪赤眼の少女へと声をかけた。
「さてと……残念ながらもぐもぐタイムは終了みたいだ。気張って行くか、アサシン」
「……もうひょっほえ、むぐ……食えおふぁるほで、待ってくらはい」
「……本当に、締まらないなぁ。そこがいいんだけど……ほら、クリームついてる。取ってやるから、ジッとしてろよ」
「子供……扱い、しないでください」
「そう言いながらも、大人しくしてくれるあたり優しいよね〜。ほんと、最初に比べて随分、丸くなったな」
「煩いですね……愛しますよ?」
「新手の脅し方すぎない!?」
緊張感なく、イチャイチャ?し続けている彼らに何処からともなく湧き出てきた竜牙兵が襲いかかる。
「待てコラ、落ち着け……"爆ぜろ"」
一言、青年がそう口にすると前方に見えていた竜牙兵の集団が爆散していく。
その様子を横目に、青年は白髪の少女……アサシンと呼んだ女性の口周りをナプキンのようなもので拭き終えた。
「よし……あと、よろしく。援護はするから、やっちゃって?」
「はいはい……しょうがないですね」
言葉とは裏腹に、その少女は愉しげな笑みを浮かべながらゆったりと竜牙兵達へと歩み寄り……蹂躙を開始した。
「いつも通り聞くけど……アサシンなのに主武器が弓ってどうなの?」
「……時々、私自身もアーチャーじゃないことに疑問を持ってるので、返答し辛いんですよね」
サンモーハナと呼ばれる花の弓を使い、彼女が目の前にいる大量の雑魚敵を殲滅し続けること三分。
宝具としての権能を一切使わずに、戦闘を終えた少女の機嫌は割りと良いようで、鼻歌を歌ったりしている。
本当に、初対面とは大違いだ。
『人間なんて大嫌いですし、聖杯にも興味なんてありませんから……私はただ、愛を与えるだけ……え、何?そんな子供っぽい見た目で言われても?ちょ、初対面で、そこにツッコミいれてくる!?』
……いや、結構簡単にボロ出してたな。
そんな随分と昔に感じる彼女との出会いを思い出していると、先程から竜牙兵を召喚していたであろう十数名の魔術師が青年とアサシンを囲むようにして、攻撃詠唱に入っていた。
「……撃ち落とせる?」
「……余裕です。私を誰だと思っているんですか?」
「超可愛い俺の相棒」
「そこまで言えとは、言ってませんけど……というか、本当に結構来るものがあるので戦闘中に口説くのやめてくれます?」
「そゆとこ、そゆとこ」
「口が……減りません、ね!」
引き絞られた弓から分散した状態の魔力が、矢となり放たれる。
それらは空中で向きを変え、魔術師達の攻撃をミス一つなく叩き落としていく。
暫く観察に徹していた青年は、リーダー格であろう人物を確認した。
そして、その人物の方へと歩いて向かっていく。
「ま、魔力を寄越せ!【ガンド】!」
リーダー格の魔術師が青年に向けて放った魔力弾は
「"うるせぇ"」
彼の放った一言により、展開された障壁に受け止められる。
彼はそのリーダーらしき男の襟元を左手で掴み、引き寄せた。そして、その目を真っ直ぐに見据えてから言う。
「……あのなぁ、練度が違うんだよ。死にたくないなら、出直してこい」
ドスの効いた声でそう言い終えると同時に、男を突き飛ばす。
男が醜態を晒しながら逃げていくと同時に、周りにいた仲間らしき魔術師達も撤退していった。
……ここまで、格の違いを見せつければ、リベンジマッチに来るやつなどいないはずだ。
そう考えて、一息ついていた青年に彼女は声をかけた。
「甘すぎますね……反吐が出そうです」
「出すならエチケット袋使えよ?」
「……私、最近あなたと真面目な会話をした記憶が一切ないんですけど……気のせいですかね?」
彼女のため息も随分聴き慣れたものだ。
魔術師達が求めていた魔力。
それは、俺たちが勝ち取った戦いの戦利品のことだろう。
あの戦いを聖杯戦争だ、とは言えない。
実際にそれに込められた魔力量を測れば、本物の聖杯の半分にも満たないのだろう。
後に話す機会があるのかはわからないが、気がつけば巻き込まれていた擬似聖杯戦争……形式で言えば、亜種聖杯戦争に近いその戦いを、俺と彼女は生き残り、生存を勝ち取った。
今行っているのは最後の散歩。
オマケのようなものだ。
願うことなど何一つなかった青年とアサシンには、使う宛のない大量の魔力が残されていた。
強いて言えば、戦いで負った傷や呪いの類のものを回復するために使用したぐらいである。
青年がアサシンと過ごした時間は、ただ単純に楽しかった。
残された魔力を使えば、彼女は1、2年ほど現界したまま生活できたのだろう。
俺も、彼女もそれをわかっている。
それでも……彼女が選んだのは消滅の道だった。
あの夜、全ての決着が済んだ後のことだった。
『あ、私は多分すぐ消滅すると思いますよ?長くて……二日持てば良い方ですかね〜』
『残る気はない?』
『…………』
『わかってるよ……寂しいけど、止めはしない』
それから三日が経過していた。
彼女はもう、いつ消えてもおかしくない状況のはずだ。
今日が"その日"だ、ということを悟ったのだろう。
彼女なりに最後は目一杯楽しみたいのか、今日は一日中遊び尽くした。
聞けば、後悔など一切ないらしい。
よって、消滅を選んだ彼女の目には、迷いはなかった。
その夜……彼女の体は光に包まれていた。
消滅が始まる、その直前になってから……彼女はポツリ、ポツリと言葉を紡ぎ始める。
「人間なんて大嫌いで」
よく知ってる。
「愛を与えることだけが、私の役割で」
何度も聞いた。
「恋とかに浮かれてキラキラしてる、そんなリア充みたいな存在は大嫌いで」
一緒に愚痴ったりもしたね。
「宝具を使えば、灰にされたトラウマを思い出しますし」
ご愁傷様、そればっかりはどうも出来ないな。
「巡り合ったマスターは変わり者で」
そんなつもりは毛頭ないのだけれど?
「…………初めてでした。マトモにコミュニケーションを取ろうと思ったのは」
道理で人見知りを拗らせてたわけだ。
「あなたの魔術……【代償強化】。私は好きですよ?」
そりゃどうも。いきなりどうした?
「あなたは、私がそう簡単に心を開かないことに気付いてましたよね?」
もちろん。だから……
「だから常に魔術を使ってくれてましたね。【代償強化】代償:嘘をつけない……なんて、さっきも言いましたけど、
表情筋コントロールするのが?
「そうそう……って、気付いてたんですね」
顔真っ赤だったからね……可愛くて良いと思うよ?
「……煩いですよ。バカマスター……あんまり揶揄うと……本気で愛しちゃいますよ?」
消滅の光が強くなった。
ああ、もう。
お別れの時間だ。
「別に、それはそれでアリなんだけどね?」
軽く仕返し代わりに、ポンコツで性格が悪くてツンデレな最高の相棒へと、予想外であろう返答を送った。
「…………へ?……え、あっ、ちょっと!?……それは、卑怯ですよ!?」
彼女の体がゆっくりと、足先から消えていく。
最後に顔を真っ赤に染めて、喚き散らしている彼女を微笑ましく思いながらも、その赤い目を見つめた。
最後に聞きたいことは、決めていた。
「……それで、二度目の人生は楽しかったかい?愛の神こと、カーマさん?」
「……っ、ふふ。……一度目よりはマシでしたよ……ええ、本当にお陰で楽しかったです。マスター」
最後にとびきりの笑顔を残して、彼女は空へと消えていった。
その場に座り込み、暫くボーッと彼女が消えていった空を眺め続ける。
そして
「……仕事、探すか」
呟いた青年の元へ
『人理継続保障機関 カルデア』
無駄に名前の長い施設から手紙が届くのに、それほど時間はかからなかった。