カーマさんとイチャコラしながら人理修復する話     作:桜ナメコ

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43話 強化クエスト 立香(3)

 

 

 

「なんじゃ、こりゃぁあああ!?」

『うっさいわね…………これは、固有結界、かしら? 滅多に見ない魔術だから、正直確信はないけれど』

「辺り一面の荒野、残された剣はさながら剣士達の墓のようにも見てとれますが…………カメラ」

「『諦めろ』」

 

 ゲオルギウスにカメラを与えたのは失敗だったかもしれない。

 まさか、たった数日でこうなるとは思わなんだ。

 いつも通りを装う俺たちの前に、この空間の支配者であろう厨房のアーチャーが現れた。

 

「君たちは、結構余裕があるみたいだな?」

「……さあ? 余裕があるように見えてんなら、余裕があるんじゃねえの?」

『さっきまで、なんじゃ、こりゃぁあああ!? って叫んでた人とは思えない発言ね』

『だまらっしゃい』

 

 個人用念話にログ機能とかつけたら、多分真面目な会話を殆どしてないのがバレる気がする。

 

『解除は?』

『無理』

 

 即答っすか。

 しゃーねえ、出たとこ勝負かな。

 

「りょーかい……気合いでタオル奪りますかね……ゲオルギウス、タンク頼んだ」

「任されました」

 

「さて、準備はできたかね?」

「大変お待たせして、申し訳ありませんってか? 慢心は身を滅ぼすぜ、エミヤさんよ」

「どこかの金ピカに聞かせてやりたいセリフだな…………では、全力で来い、結」

 

 おそらく、現在、俺の顔面には獰猛な笑みが浮かんでいるのだろう。決して戦闘狂なつもりはないのだが、無意識に笑みが出てしまう辺り、否定できないのかもしれない。

 俺とゲオルギウスが同時に突撃を仕掛けようとする……直前に、背後へ左手を向ける。

 

『とか言って、奇襲しようとするつもりの腹でしょう? 立香』

「……ッ!?」

 

 放たれた紅の閃光が宙を駆け抜け、背後から接近していたマシュの大楯に激突した。

 

「立香ちゃんってば、善良なマシュをワルの道に引き摺り込むとは……俺でも良心の呵責的なアレで出来なかったのに」

『卑怯上等、勝てば官軍の貴方が何言ってるのよ……』

「そこまで言う?」

 

 まったく、油断も隙もあったもんじゃないね……せっかく背後を取ったんなら、もっとやる気を隠さないと。

 

 アドバイスがあるとすれば、そうだな。

 

 スッて背後取って、スルッと近づいて、シュタッて首元を一閃するのがおすすめ(メイド調べ)なのだとか。うん、わからん。

 シュタッて突っ込んで、ズバッて切り込んで、ズギャンッて防御丸ごと叩っ切るのもおすすめ(理不尽セイバー調べ)なのだとか。うん、わからん。

 

 

 ……使えねえな、俺の知り合い。

 

 

 

『来るわよ!』

「あいよ!」

 

 

 オルガの叫びで、意識を戻した。

 視界の中に、鈍色の輝きを幾つか捉えた瞬間、戦闘スイッチを集中全開へと切り替える。

 

 六つの剣と二つの槍。

 チキン剣をタイミングよく、射線へと滑らせる。

 

 代償強化——衝撃緩和 5回分っ!

 

「いち、にっ、さん! しっ——ゲオルッ」

 

 駆けながら、速度を落とすことなく、向けられた武器の尽くを逸らして突き進む。

 

「任され、ました!」

 

 前後スイッチ。

 前へ出ていた俺が宙へと跳んだタイミングに合わせて、ゲオルギウスが後方から突っ込んでくる。

 

 宙に居る間に、先ほどまで立香たちがいた場所へと目を向けた。

 

「ばらまけ!」

『任せなさい!』

 

 左手の人差し指から魔改造ガンドの5連射。

 砂塵が巻き起こる。

 その中で、マシュたちが足を止めたことを見逃しはしない。

 

 牽制、完了。

 

「まずは——」

 

 

 

 

「『まずは、エミヤを片付ける』なんて、口にするつもりだったのか?」

 

 

 

 

 首筋に衝撃。

 

 

 

 脳が揺れ、視界が歪む。

 

 やらかした、という失態を責める気持ちと、なぜ? という疑念で脳内が埋まる。

 

 と、同時に、意識の喪失を根性で耐える。

 

「——ッ、ぁ、がぁあ!」

「ほう? 今のを耐えるか……ならば——」

『させないわよ!』

 

 俺の頸へと踵落としを叩き込んだエミヤに対して、オルガが障壁を展開した。

 ——が、その、障壁の裏を抜けるように弧を描き、十数本の剣が迫り来る。

 

 視認し、思考速度を爆発的に加速させる。

 

 着弾までの時間。

 距離、角度、体勢、体力、身体は動くか?

 手足に力が入らない。

 じゃあ、ゲオルギウスは、という思考が脳裏を過——————ちょっと、待て。

 

 

 

 お前は、今まで、誰かの助けを期待する生き方をしてきたか?

 

 それは、信頼とはまた別の思考。

 自身の諦めを、失態の尻拭いを、他人へと任せる責任放棄。

 頼れる相手が増えたからって、テメェがやらなきゃならねえ仕事は、減るわけないだろうが。

 

「す、と……リン、ク!」

 

 空間歪曲

 

 次々に向けられた刃の隊列を、触れることなくばらまきにして、息を入れた。

 まだやれる。

 追い詰められた環境でしか全力を出すのは難しい……確かにそれは、ある。

 今ある全てを超えなきゃならないときは、超えるしかないのだから、こちらの力は引き出されやすい。

 でも違う。

 それだけに任せるのは、努力の放棄だ。

 

 まだまだやれただろ。

 あのときは、もっともっと粘れただろ。

 まだまだこれから、常に全力を超えていけ。

 

 改めて状況確認。

 すぐに、ゲオルギウスが援護に回れなかった理由に気がついた。

 

 空を舞う白い線。

 切り離されたのは、腰元のタオル。

 

 

「……せーかく、わりぃな?」

「お互い様だろう」

 

 

 ゲオルギウス 脱落。 

 

 無数の剣による連打の中で、不意を突くことに成功したみたいだった。

 

 

 

 

 

 そのとき、あまりにも絶望的なこの状況を見て、唯一笑みを浮かべた者がいた。

 

 

『これは、久しぶりに見れそうですね……マスターの第二段階!』

 

 

 それが誰かなど、言わずもがな過ぎるだろうが。

 

 

◇◆◇

 

 

 

「申し訳ない、結殿……」

「気にしなさんな、十分助かったっての……こっからは、俺の番だ」

 

 ゲオルギウスが遅れをとったのは、単に相性の問題だ。

 尻尾取りのルールを取り入れた今回の戦いだが、どう考えても身軽な奴の方が有利である。

 もっと言えば、身体を張って守る系男子に優しくないルールであるのだ。

 そう考えれば仕方がない。

 邪ンヌちゃんに至っては、武器すら持たない近接戦闘しか出来なさそうだったので、結界解除条件を意識喪失にすることで尻尾取り対策をしていたのだが……ゲオルギウスには何もサポート出来なかったしな。

 

 

『どうするつもり?』

「まあ、真正面からやり合うしかないわな……」

 

 パキパキと指の骨を鳴らして、プラプラと腕を揺らし、クルクルと頭を回して、二、三度ジャンプ。

 お優しいことに、俺の準備運動を待っていてくれたらしい。

 

「さてさて、そろそろこの結界も時間切れだったりしないのかな?」

「……とのことだが、どうするマスター? 残る相手は結のみ、こちらには英霊が2騎揃っているが」

 

 己のマスターを試すかのような問い。

 エミヤが彼女に、お前はそれで満足なのか? と、問いかける。

 その問いに、立香は即答で返してみせた。

 

「当然、全力で倒す。魔力もまだ残ってる……宝具は維持したまま、決着をつけて」

「……ふむ、英断だな。了解した」

 

 やっぱ、強い。

 立香の心は、強い。

 こと、精神面においては俺を上回っている可能性だって十二分に考えられる。

 

「……だから、気になるんだよな」

『……何か、あったの?』

「いや、なんでもねえよ」

 

 風が吹き抜ける。

 沈黙を挟んだ。

 

 向き合った立香の瞳に迷いはない。

 その瞳を見て、こちらも最後の覚悟を決めた。

 

 

「…………じゃあ、やるか」

 

 

 見せてくれ、立香。

 お前が胸張って、その道を志すと言うのならば、この壁を越えて見せろ。

 

 魔力を練る。

 身体に残った全部の魔力を掻き集め、搾り取り、残り滓が消え去るぐらいにまで使って、たった一つの魔術を行使する。

 

 これが、現時点での俺の全力。正真正銘、後遺症なしでぶっぱなせる最後の切り札だ。

 

 集中しろ。

 限界を壊せ。

 追いつけ、ブチ抜け、駆け抜けろ。

 あの過去を、越えていけ。

 

 

 

「天秤は傾いた。これより扉は開かれる」

 

 代償強化(コストリンク)過剰絶倒(オーバーエフェクト)

 

 詠唱と呼ぶには、余りに短すぎる言の葉を前置いて。

 

 

「汝が望むは——刹那なる傲慢なり」

 

 

 

 —— 紅焔蒼炉 ——

 

 

 

 その切り札は放たれた。

 

 

 

 

 

 

 これは言ってしまえば、対・神霊戦闘用の強化術式である。

 代償強化・複合強化型——ありとあらゆる代償強化を使用した後の完成系を一つのゴールと定め、そこまでを一度の代償強化ですっ飛ばす裏技によるもの。

 そんな数ある複合強化型による戦闘形態の中で、選んだそれは()()()()()

 

 

 

 紅焔蒼炉

 

 

 灰色の瞳が紅に染まる。

 身につけているのはカルデア制服ではなく緋色と白を基調とした着物に、黒袴という和風の戦装束。

 左腕の魔術刻印からは蒼の焔のようなベールが生み出され、その腕を覆う。

 

 刀こそ、()()ないものの、その姿は武士そのものであり、なによりも——

 

 

『魔力反応がアサシンに、迫る勢いで上昇し続けてる…………なに、これ』

 

 

 これまでとは、強さの格が違う。

 

 

 

 

「三分間だけ、本気出す」

 

 

 次の瞬間、蒼炎が大地を焦がし尽くした。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 小手先の技術で誤魔化し続けて戦い続けていたこれまでの結とは違い、真正面からサーヴァントと殴り合えるほどの身体的スペックを保持したその姿は、英霊であるエミヤから見ても、畏怖の対象となり得るものであった。

 

 警戒心が最大限に高められていた、それ故に——幾多の経験と直感が、迫る危機を察知し、本能は回避行動を促した。

 

 

「——ッ!?」

 

 

 地を這うように広範囲に放たれた蒼炎。

 跳躍し、炎の攻撃範囲から脱したエミヤは、すぐさま背後へと双剣を振り下ろした。

 

 響く金属音。

 結のチキン剣を、干将・莫耶を交差して受け止める……のを、視認したときには、次の攻撃が顔面へと飛んでくる。

 

「マジで? これ、止めんのお前」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()の回し蹴りを、遠隔操作した剣で防ぎ——

 

「んじゃ、もういっちょ!」

 

 ()()()()

 

 エミヤの後方上空へ移動した結が放った踵落としを。

 

「させ、ませんッ!」

 

 飛び込んできたマシュの大楯が、防いだ。

 そこで、ようやく連撃が止まる。

 

 

「……化け物が」

「失礼だぞ、お前」

 

 

 悪態をつきたいところだが、その余裕すらない。ヘラヘラと笑う目の前の青年のコレは、ただの身体強化じゃない。

 

 エミヤはここで自分の読みが外れていたことに気がついた。

 この男の身体的スペックは、決して自分を凌駕しているわけではないのだ。

 あくまでも、殴り合うにはギリギリ足りているぐらいのスペックを保持しているだけである。恐らくは、全ステータスがCぐらいに収まるのではないだろうか。

 

 だが、そこではない。

 この強化の真髄は、洗練された我流の戦闘術。その、最大開放を可能にするところにあったのだ。

 

 先程、結は当然のように、()()()()()()。当然のように、()()()()を行った。

 近接戦闘戦、そのプロフェッショナルたる結が、その戦いを勝利するために、選び抜いた特殊能力を結集させたもの。

 恐らくは、選んだ能力の全てを一定時間の間、無制限に使用することのできる能力。

 

 なるほど、確かに……

 

 

「……気を抜いたな」

「——ッ!」

 

 透明な線のようなものが視界に入る。

 次の瞬間、自らの失策を悟った。

 

「冬木での借り、返したぜ」

 

 ——物質生成・魔力線(透明) 

 

 初手だ。

 あのときしか、考えられない。

 

「蒼炎に、忍ばせていたのか」

 

 シュルリ、と解けたタオルを見て、完敗だなと苦笑する。

 さて、ここからどうなるものかね、とマスターの表情を伺って、喫驚する。

 

 そして、同時に理解した。

 

 ああ、そうか。

 君は、だから結と戦っているのか。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 一瞬、視界が真っ白に染まる。

 瞬きの後、そこには懐かしの森林が存在した。いや、別に懐かしくねえか。

 

「……さてさて、残りは二分ぴったり」

『もう、ツッコミ疲れたわよ、私』

「気にしない、気にしない」

 

 先程までの変態軌道に対して大声でツッコミを入れ続けていたオルガさんは、休暇をご所望のようである。

 あと少ししたら強制的にぶっ倒れるわけだかは、もうちょい頑張って。

 

「それで? 降参の予定とかある?」

 

 ニヤッと笑って、俯いてしまった立香の前に立つ。

 不安げにマシュが立香の表情を伺った。

 

「え——?」

 

 そして、硬直する。

 

『……ほんと、罪深い男の子なんだから』

「オルガさん? それ、どういう意——」

 

 唐突に、ボヤいたオルガに、言葉の意図を問い質そうとした瞬間、彼女が笑った。

 

「……ふふ、あははは…………あー、強い! 超強い! ほんっと、ズルい…………ほんと、心の中、めちゃくちゃにしてくれるよね…………」

 

「立香さーん? もしかして壊れた?」

「壊れてない……あ、やっぱ、少し昔に壊されてたのかもしれない」

 

 誰に? なんて、聞こうとして。

 

 

「結は多分……いつも、最後は一人でどうにかしちゃって来たんだよね」

 

 

 立香は笑って、そう言った。

 

 

 

 

 

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