箱イベと人生で一番暇な春休みを満喫してました。
あと、純粋に難産だったりしましたね。すみません。
感想評価誤字脱字 毎度のことですが、ありがとうございます。
ソレは、暗闇の中でニヤリと不気味に口元を歪めていた。
並行世界への干渉。
どこぞの怪物爺には敵わないが、とボヤきつつ、ソレは黒髪の青年を想う。
「さあ、楽しませてくれよ、結クン。そのために、わざわざ種子を撒いたのだから」
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ずっと、考えていたことがあった。
私は、なんで戦っているんだろうってこと。
人類史の危機だから。
最後のマスターだから。
マシュの先輩だから。
やるしかないから、やっている。
確かに、始まりはそうだったかもしれない。
けれど、未だにそう思われているのなら、それは少し癪だ。
自分本位になって、責任を彼らへ押しつけて、私は一般人なんだと引きこもることを、責める人は居ないだろう。私、献血って騙されて、このカルデアまで連行されたわけだし。
けど同時に、そんなことが許されるはずがない、お前が逃げたら彼が大変になる、世界を救えるのはお前たちだけなんだ、そんな幻聴がいつだって聞こえて来る。
結局、私一人で、こんなクソったれ染みた現実から逃げ出すなんてこと、出来るわけないのだ。
あるよ。
戦いへの恐怖も、理不尽への怒りも、命のやりとりへの忌避感も——あるに決まってる。
死体なんて見たくない。
人が食われる瞬間なんて見たくない。
擦り傷だって痛いんだよ、身体に穴? 想像なんてしたくもない。
魔力不足は苦しい。令呪なんて柄じゃない。
戦況判断なんか、いつだって自分の背負う責任の重さに押し潰されそうだった。
これだけ苦しんで、攻略できたのは、七つある特異点の内のたった一つだけ。
ぶっちゃけ、辛い。
心なんて、とうの昔に折れている——————あの、青年が居なかったのなら。
朱雀井結。
私の前でヘラヘラと笑う同国の友人。
そして、私と同じ最後のマスター。
彼の献身がなければ、私も所長も無事では居られなかった。
「……憧れた。貴方の姿に、貴方の在り方に、心の底から尊敬と憧れを抱いた」
でもね、と心の内で付け足す。
最近、一つの夢を見るのだ。
その茶髪の少女は、気丈に振る舞い、絶望に抗い、必死になって死地を駆け抜けていく。
敵わない。
あそこまでできるか、今の私に。
夢うつつな思考状態のまま、それでも一瞬たりとも迷うことなく断言してみせる。
——無理だ。
何か一つ変わっていれば、それこそ、このカルデアに結が居なかったのなら、あの夢は現実のものになっていた。
まるで、誰かからそのことを教えて貰っているような……そんな、妙な確信があった。
……ああ、それで。
カルデアに結が居なかったとして。
そのIFがわかったとして、私はどうすればいいのだろう?
あー、良かった。結がここに居てくれて!
——それで、終わるわけがないだろう。終われるわけがないだろう。
あの茶髪の少女に、負けないぐらいの覚悟が欲しい。
これ以上、彼の強さに甘えることを、許してはいけない。
彼が居たから、私が弱くなった。
そんな事実をいつまで経っても容認できるはずがないのだ。
そして、あと一つ。
最大の理由が残っている。
・
・
・
「立香さーん? もしかして壊れた?」
その一言で意識が現実へと回帰した。
隣のマシュは唐突に笑い始めた私に、ついていけないようで、あわあわと驚きを隠せていない。うん、かわいい。
「結は多分……いつも、最後は一人でどうにかしちゃって来たんだよね」
そう言うと、彼は虚をつかれたかのように、目を丸くした。
どうせ、本人はそんなことないって思っているんだろうけど、なんて考えを頭に浮かべつつ、私は笑顔で言い放つ。
「だから——きっと、どこかで、私は貴方を止めなきゃいけなくなる」
その背中に憧れた。
自らの怠慢を許せなかった。
そして、なにより、他でもない目の前の青年の危うさをずっとどこかで感じていた。
なんでもできてしまう。
自身が見捨てる選択をしない限り、誰かを助ける選択ができてしまえる能力。
そんなもの、いったい呪いと何が違うのだろう。
だから、まず
そのために、力が欲しい。
たとえ、それが愚行だろうと後悔だけはしたくない。
全ては、貴方に向ける最大級の憧れと、尊敬と、戒心のために。
「貴方を支えるのはオルガの役目。貴方を抱きしめるのはアサシンの役目。だから——」
目が合った。
覚悟は、とっくに決まってる。
脳裏を巡るあの少女の姿を掻き消して、右手から紅の輝きを放ち、叫んだ。
「貴方を止めるのは私の役目だ! 守られるだけじゃ、ダメなの。私は、貴方と遠慮も心配も何もない混じりけのない戦友でありたい」
お願い。来て、ジークフリート。
何にもできない私だけど、この戦いだけは絶対に負けられない。
その願いに、竜殺しの英雄は青白い真エーテルの輝きで応えてみせた。
◇◆◇
「さて、結には悪いが、決着とさせて貰おう」
目の前で剣を構える最大警戒対象者。
たらりと冷や汗が流れるのがわかる。
「……くっそ、忘れてた。令呪使えば、結界抜けられんのか」
『時間もないわよ。どうするつもり?』
「気合いと根性と勢いでぶっ飛ばす!」
『つまり無策ね、上等じゃないッ!』
邪んぬちゃんとのパスは通ったままであるので、なんだかんだいって彼女はジークフリートとのタイマン勝負で負けはしなかったらしい。普通にすげぇ、どうやったんだろ。
一応、ほんの足しにはなるかなと、邪んぬちゃんを閉じ込めていた結界を遠隔で解除して、魔力を回収。
代償強化の条件発動型は、分類で言えば永続発動型に含まれるため、術式の解除をしておくことで、若干楽になるのだ。
あわよくば、結界から解放された彼女が加勢してくれれば尚良い。
「そんじゃ、巻きで行くぞ」
意識を爪先へと向ける。
ジークフリートの重心が、僅かに揺らいだその瞬間、右足を踏み込んだ。
——瞬間強化・脚
体勢を低くし、電光石火の速さでジークフリートの懐へ飛び込もうとして——彼の間合いの限界ギリギリで完璧に止まる。
制動距離がゼロという物理的にありえない動きを前にして、流石のジークフリートも身体を僅かに硬直させた。
——摩擦強化
俺にとって、想像力とは力だ。
どのような理不尽にも柔軟に対応し、相手に未知を押しつけて翻弄する。
それこそが代償強化の強みであり、真骨頂。
まだ、まだ、これから。
「攻め手は、譲らねえよ……」
地を蹴り、空を蹴る。
背後に回る——と、同時に次元を越える。
ジークフリートの背中に回る?
なんだその無謀、死ねるわ。
凄まじいほどの反応速度と直感で、ジークフリートは背後へと大剣を振り下ろす。
その一撃を、身体に染み付いた防衛本能による光速の一撃を、見逃さない。
戦闘センス、判断能力、そして剣技の腕。
どれを取っても、目の前のコイツには敵わない……勝負ぐらいにはなるかもしれないが。
だから、この一手だけを読んでいた。
——次元跳躍(瞬)
地面を蹴ると同時に、世界から、ほんの一瞬だけ姿を消す。
大剣が俺の身体のあるはずだった空間を通過した直後、世界へ回帰する。
大剣の上へと降り立った。
目の前の大英雄が、目を見開くのを視界に捉えつつ、高速で腕を振り抜き——
「……クソッ」
その腕が、仰け反ったジークフリートの頭のタオルを掠めた。
生まれた俺の隙をついたのは後方から飛び出してきたマシュだ。
躊躇いなく脇腹直行コースへと盾を振るった彼女の勇気は称賛ものだが、それを易々と通すわけにはいかない。
——魔力放出・蒼
エミヤへと牽制のために向けた際とは異なり、ある程度の密度を重視して、薄刃を型作った蒼炎を飛ばす。
が。
「……ッ! ハァアアアッッ!」
その一撃を身体で受け止め、マシュは前進を続けた。
そして、注意の比重が彼女へと傾いた瞬間、俺が踏みつけていた大剣から手を離したジークフリートが、拳を突き出してくる。
『——まか、せて!』
張られた障壁が、半瞬間ほどジークフリートの拳を止めた。
その僅かな時間で。
先程、結界の解除により、回収した魔力を使って、計算外の代償強化を追加で行使する。
——閃光弾
世界が真っ白に染まる。
直後、怯むことなく振り抜かれたジークフリートの拳を、肌感で躱す。
「そ、こだぁああああああッッッ!!!」
二度目の交錯。
視覚の潰れたその世界で、伸ばした腕は届かない。
——もしも、マシュ・キリエライトが、閃光に怯んでいたのなら。
背中に衝撃。
そして、世界が加速する。
数瞬後、掌に収まったヒラリと踊る白色の帯を見て、気を緩めることなく、魔力を奮わせる。
「時間は!?」
『あと、40!』
身体が重い。
エミヤからの一撃が原因か、頭が揺れている感覚は未だに残っている。
それでも、動く。
身体は動く。
あとはただ、我慢比べをするだけだ。
◇◆◇
「——強すぎ、でしょ。バカじゃないの……」
大英雄をも下してみせた青年の姿を視界に捉えて、思わず表情が歪む。
これでも、まだ届かないのか。
諦めが脳を侵していく——けど、負けてたまるか。
まだ、やれる。
勝たなきゃ、いけない。
絶対、勝つんだ。
そんな、私の決意を嘲笑うかのように、結の魔力が爆発的に膨らんでいった。
——
そう分かったのは、直感か。
「マシュッ! 全部、守って!」
隣に立つ少女にも同じことが言えるだろう。
私の指示に動揺することなく、マシュは一度深く呼吸をしてから、真っ直ぐに目の前に立つ青年を見た。
「真名、偽装登録……完了しました!」
大楯が白い輝きを放ち、青年に呼応するかのように、マシュの魔力が高まっていく。
そのとき、風にのって、彼の声が聞こえてきた。
「——、——。この一撃は—————を染める——の調べである」
ゾクリと、背筋に悪寒が走る。
「全ては、譲れない——の為に」
一瞬、結の灰の瞳が、金色に輝いているように見えた。
彼は右手を高く空へと掲げていて、その右手へと、緋色に輝く幾つもの粒子が集められていく。
「マシュ、全開でお願い!」
「——はい! 障壁、展開しますッ!」
叫ぶように、吠えるように。
勇気と魔力と気力の全てを注ぎ込んで、マシュはその障壁を展開した。
「仮想宝具
それに対して笑みすらもを浮かべてみせるのが、結という男である。
「本物にゃ、随分と劣るが支障なし……はぁ、食いしばれ、後輩ども」
「
直後、視界の全てを緋色が埋め尽くす。
そして、これまでにないほどの早さで、障壁へとヒビが入った。
ファヴニールの力を呑み込んだナイトメアの超火力すら受け止めきったマシュの守りが、たった一人の人間の攻撃により、破れようとしている。
「………………ッ!」
「それ、で——限界か、マシュ・キリエライト!」
マシュの足が土を抉るようにして、僅かに後方へと下がり始める。
玉のような汗を流して、大楯を支える彼女の表情に翳りが生まれる。
それをみて、無力を想う。
けど、それでも——私はマシュを信じているから。
「お願いしか、出来ないけどさ……背中を押すぐらいしか、出来ないけど。ねえ、マシュ、酷いこと言うよ…………私は、貴女なら、まだもっと、どこまでだって、出来ると思ってる」
だから。
「勝て、マシュ・キリエライト!」
彼女は、私の言葉に俯いた。
世界が緋色に染まる。
全てが、緋色に——否。
世界を埋め尽くさんとする勢いで押し寄せる緋色の嵐に、青の輝きが、マシュの大楯が放つ信念の輝きが、押し負けぬように放たれていく。
——貴女が、信じてくれるのなら。
そんな言葉が、聞こえた気がした。
「ハァァァアアアアアアアアッッッ!!!」
雄叫びをあげて、彼女は再び立ち上がる。
やがて、その輝きは、マシュの身体を覆う黒の鎧全体に満ちていき、ある瞬間を境に、障壁の質が明確に変わった。
輝きはより強く、青の色は濃いものへと変化していき、魔力すらもが向上していく。
余力がある——そんな姿には見えなかった。
じゃあ、これはなんだ。
特に時間をかけることなく、思い当たる。
それは、荒療治の大好きなケルト人こと、冬木のキャスターが教えてくれたことが、ヒントになっていた。
単純な話だ。
霊基の
要するに、マシュへと力を貸しているサーヴァントが、彼女のことをより強く認めたということになるのだろう。
気がつけば、身につけている鎧は頑強さを増していて、所々の防御機能が向上しており、わかりやすいものでは、新たに黒のグリーブが追加されている。
覚醒とも言えそうなマシュの変貌に、鳥肌が立った。
表情は凛々しさを増し、その守りに綻びは見られない。
宝具の衝突は、詰まる所、互いの信念のぶつかり合いであった。
それは、長い間続いていたが、終わりは唐突に訪れる。
時間感覚も狂いそうになった頃に、プツリと前方からの攻撃が途絶えたのだ。
それと同時に、マシュの宝具も限界を迎えて、障壁が解かれる。
土埃が収まり、視界が開ける。
そこに、大楯を杖のようにして、なんとか立っているマシュと、離れた場所にて、仰向けで大の字になっている青年の姿を見つけて、私は思わず拳を握って小さくガッツポーズをした。
「……これで、結に——」
思わず、溢れた呟きに。
「勝ったとか、言わないでしょうね」
黒の聖女が微笑んだ。
追記。
過去編執筆開始しました。
連載開始 未定。