セプテム編 何も思いついてないので滅茶苦茶時間かかります。
ぐだぐだ行きますが、ご許しください。
感想評価誤字脱字 毎度ありがとうございます。
前回、評価が多くて嬉しかったので少し早めの投稿です。
人理継続保障機関 フィニス・カルデア
その所長にして、実動部隊の一人でもあるオルガマリーの一日は、二人の友人を起こすところから始まる。
『……朝よ、起きなさい』
「…………ん、あと、5分…………を3セット」
『それ、15分一回じゃダメなのかしら……?』
呆れたような声。
それでも、確かな優しさがその声には込められている。
『あと、アサシンは起きてるのバレてるから。寝ぼけたフリして、結の胸元にしがみつくのはやめなさい』
「……………………なんのことですかね」
『耳、真っ赤よ?』
友人にして恩人にして戦友の愛しき相棒達。
穏やかに頬を緩めて——身体なんてものはないのだが——ベッドの上で、ゴロゴロとする二人を見るオルガだったが、二度寝を見過ごすかどうかはまた別の話だ。
『はい、起きる。さっさとしないと脳内で百物語始めるわよ』
「新手の脅しだな」
「……よく考えると、マスターって常時オルガに弱みを握られてますよね」
「まあ、気にしてないけどね……そんじゃ、とりあえず——」
寝癖でぴょこんと立ったアホ毛をペタペタと抑えるアサシンが。
上半身を起こし、大きく伸びをしてから、欠伸を噛み殺した結が。
「「おはよう、オルガ」」
揃って挨拶をするこの瞬間を、とんでもないぐらいの幸せだとオルガは思うのだ。
『ええ、おはよう、二人とも』
◇◆◇
自分が死んだあの日のことを、今でも時々思い出す。
結果論で言えば、オルガマリー・アニムスフィアという少女は、あの事件で
立場による責任、どうしようもない劣等感、存在しないレイシフト適性、ロードの一角としての自覚——呪縛ともいえるだろう。
少女の思考はいつだって過剰なストレスに押し潰されて、その意志は縛られて、だからこそ、たどり着いた結論が決断の放棄だった。
レフ・ライノール。
あの悪魔のような男に、依存した。
そう簡単に絆されるような少女ではなかった。
少女が、本来の冷静さを持っていたのなら、あそこまで良い様に翻弄されることはなかった。
その『たら、れば』に意味はない。
確かなことがある。
あの日、オルガマリー・アニムスフィアという名の魔術師は、死んだのだ。
あの日。
残されたのは「オルガマリー」という名前と「オルガ」という愛称だけ。
ただ、それだけでいい。
ただ、それだけがいいのだ。
失敗ばかりだったあのときを、その過去を、振り返りたくないと思うのは、自分の弱さが故なのだろうか。
ふとした瞬間に、懐かしい過去を思い出す。
その事実に、何かしらの意味があるというのなら——私は、その過去に未練でも持っていると言うのだろうか。
わからない。
わからない、けれど。
星の形。宙の形。神の形。◼️の形。
魂に刻まれたと言っても過言ではないほどに、繰り返したその言葉が思考の中で残響している。
さて、立香は足を踏み出した。
その先に待つのが絶望か希望か、そんなことは誰だってわからないだろうけど、それでも前へと歩みを進めた。
では、問おう。
お前はどうする、オルガマリー。
◇◆◇
『魔術講義をするわ』
「——はい?」
肉体の疲労を取りつつ、軽めの肉体トレーニングを行う。
最近では、立香やマシュも俺とトレーニングのタイミングが一緒になることが多く、必然的に構われる時間の減ったアサシンさんが、若干拗ね気味だったりする。
オルガが唐突にそう告げたのは、シャワーを浴びて、汗を流し、本格的にアサシンへと構ってやろうとした矢先のことだった。
「ちょ、待ってくださいよ、オルガ! ここに来てお預けはないですってば!」
『いつもベタベタしてるでしょうが。焦らしプレイってことで我慢しなさい』
「それが好きなのは、私じゃなくてバカの方です!」
『結が脱いだ服なら、洗濯機に入ってるわよ』
「………………ごくり」
「アサシンさん!?」
ナニをする気なんですかねぇ。
いや、別にナニしてもいいんだけどさ。洗濯しろよ?
「まあ、それはそれとして、急にどうした?」
『……別に、理由はないわよ。思いついたことがあるから、検証に付き合って欲しいだけ』
「ほーん」
「へー」
『……もしかして、私、嘘つくの下手?』
「「下手」」
というより、これだけ短期間で膨大な会話を行なっていれば、互いの癖ぐらい秒でわかる。
魔術講義をしたい、ということは本当らしいので、隠したいのは動機の方か。
そっちの方なら、わざわざ聞く必要はないか。
隠し事ゼロを目指しましょう! なんて、やってられるか馬鹿野郎って話だ。
ただでさえ、体を共有しているのだ。変なところで、ストレスを溜め込んでほしくない。
「んじゃ、図書館でも行くか。アサシンは今日は腕枕して寝てやるから、機嫌直してくれ」
「むぅ…………」
『むくれないの。相談しなくて悪かったわね』
「別に、いいですけど……」
アサシンは図書館へと歩き出した俺の隣へとトテトテと慌ててやってくると、手のひらを重ねてきた。
「今は、こっちで我慢してあげます」
「おう。さんきゅ、愛してるぜぃ」
「ふにゃっ!?」
『不意打ちすぎない?』
最近、我慢させすぎてる……ということは、俺も我慢しすぎている、のと同義であることを忘れてはいけない。
無意識のうちに溢れた『愛してる』に、アサシンがノックアウトされる様子を見て、ふぅ……と息を零す。
「初心だなぁ」
『一応言っておくけど、相手は愛の女神よ?』
「ついで言えば、煩悩の化身でもあるな」
『なんで初心なのよ、この子。可愛すぎでしょ』
「ズルいよなぁ。惚れる」
『わかりみが深い』
「あの、二人とも、そろそろやめてください」
手を繋いだまま、俯いたアサシンの表情は見えないが、サラサラとした髪の間から覗く真っ赤になった耳を見て、口角が緩む。
にぎにぎ、と恋人なソレへと力を伝えてみれば、ピクリと彼女の肩が揺れ、やがて同様の力加減で返事がくる。
『…………なんで、この距離感で接してるのに、少し構われないだけで拗ねるのかしら』
「そりゃ、人理の危機じゃなきゃ、年がら年中、一日中でもイチャコラしてるからに決まってるだろ」
「マスターと永遠にイチャイチャ……」
『はいそこトリップしない』
なんて会話を続けて移動すること十分弱。
『さて、早速だけど本題に移りましょうか』
人気のない図書館へとやってくるやいなや、俺たちの興味が陳列された多種多様な本の数々へと移る前に、オルガはそう言った。
「さっきから聞きたかったが、授業ってのはなんだ? 俺は代償強化以外の魔術は戦闘じゃ使わねえぞ?」
『そんなの、言われなくてもわかってるわよ。その邪道魔術についての話よ』
「……マスターの魔術について、ですか」
首を傾ぐアサシン。
ちょいちょいと、その髪を掻き梳きながら、オルガの言葉を待つ。
『使い方に関して口を挟むことはないわ。その魔術は、下地が一切なしの状態から、次々と適応していった末に生まれたものなのだろうし……』
「まあ、そうだな。代償強化は、人から教えられた魔術って言うよりは、実戦で鍛え上げた技術って表した方が適する」
『ええ、だから使い方に文句はない。ちょっとばかし、危なっかしい気はするけどね』
彼女が苦笑したのがわかった。
アサシンもそうだが、オルガも俺の行動を見て「しょうがないなぁ」と、笑って背中を蹴り飛ばしてくれる人なのだと、強く実感する。
『だから、私が考えたのは、代償強化の効率化と多種化。歴史とか、外聞とか、今更どうだっていいの』
一息置いてから、オルガは断言する。
『——ねえ、結、貴方まだまだ強くなれるわよ?』
邪道と王道が、ここに融合する。
誰かが言った。
革命とは、価値観の境界にて起こるものなのだと。
ゾクリと、鳥肌が立った。
『まずは、効率化について。ロード直々の授業だから、死に物狂いで着いてきなさい』
◇◆◇
数時間後、図書館の机に俺は突っ伏していた。微笑みながら、アサシンが俺の髪を撫でていく。
これが、幸せだな。
「鬼すぎる……」
「何語だったんでしょうかねぇ……」
『そういえば、貴方ってビンタ組だったわね』
「該当者が二人しかいないんだが」
オルガが行った授業なのだが、その概要と言えば、代償強化による魔術が本来どのようにして行使されるのか、を知るためのものであった。
これまで、ブラックボックスとして放置してきた魔術の過程について、とことん掘り下げていったのである。
なんのためにそんなことを、なんて考えが当然ながら頭に浮かんだので、聞いてみると簡潔に返答された。
なんでも「過程を知ることで代償強化の消費魔力量が減少する」とのこと。
考えてみれば、当然だ。
代償強化で消費される魔力量は、随時
過程を知る、ということは、その
具体的に述べてしまうのなら、知っている魔術を使うか、知らない魔術を使うか。
王道による魔術の練習をして、実際にその魔術を実戦へとぶち込めるレベルまで育て上げろ——そんなことを言われているわけではない。
ただ構造を知れ、と。
それだけで、道を探るための魔力は、代償から消える。
ぶっちゃければ、基礎の鍛え直しというわけだ。
これまでのツケ払い、とも言えるかもしれない。
ゆっくり、地道に、一つずつ。
全ての努力は、明日の生存のために。
まあ、そうは言っても。
「わからねえもんは、わからねぇですけどね!?」
キレたくなるのが、お勉強というものだ。
正論ばっかに従って生きていられるのなら、受験生は誰も苦労しない。
『圧倒的に基礎知識が足りてないわ……貴方、よくこれで魔術師を名乗ってたわね』
「個人的には、魔術使いの気分だったがな……まあ、これでも歴とした魔術師の弟子なので」
『どんな師匠に師事をこいたのかしら……』
「えーっと、なんて言ってたかな……ゼルレッチの爺が、どうのこうのっていつも言ってたけど」
『超重要人物じゃないッ!?』
「いや、そんな大層な人じゃないぞ。生活力皆無だし。知り合いの人形師には借金してたらしいし」
『とんだパンドラ箱じゃない!? 聞きたくない! 私、もうその人の話聞きたくないから!』
大袈裟だなぁ。
ただのしがない魔術師だって、本人が言ってたんだから、間違いない。
「オルガ、本当に聞かない方がいいですよ。正直に言って、ただの化け物ですから。その人のお師匠様」
『そうよね。そこまでの大物だと、私会ったことあるかもしれないし……深堀はしない方向で行くわ』
なんか、コソコソとオルガとアサシンが会話をしているみたいだけど、何をそんなに恐れているのか、わからん。
「気になるなら、データベースでも行ってみるか? 自称“伝説の魔術師”さん、らしいからな。名前でも打てば出てくるかも」
『……………………やめときましょう』
「なら、いいけど」
師匠、か。
あんな風に、俺はなれるのだろうか。
思い浮かんだのは、立香のことだった。
「——さて、そんじゃ、帰るか」
『はいはい、私は少し休んでいるわ』
「お気遣いあんがとよ」
「…………?」
立ち上がり、アサシンの手を握る。
まだ、何の話か理解していなさそうなアサシンの手を引いてから、一気に抱え上げる。
「……ぇ? あれ? なん、ですかね?」
腕の中に収まった小さなお姫様への体温を、心地良く感じながら、自室へと歩き始める。
「目一杯、イチャつくとしようか? 流石に、久々の座学は精神に来るわ」
ニッと笑って、顔を覗き込んでみれば、首へと細腕が回されて、グイッと体が引き寄せられる。
彼女の左頬と俺の右頬がくっついて、吐息に耳元をくすぐられる。
「……痛いぐらいの抱擁の所望します」
「おう、喜んで」
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