アンケートの試験運転、ご協力感謝です。
どんなもんなのか、なんとなく把握できました。
感想評価誤字脱字 毎度の如く感謝です。
「ハァッ! セイッ! おらァァアア!」
「よっ、とっ、ほい。はしたないですわよ、邪んぬちゃん」
「だ、ま、れえええええええっっ!!!」
「うん、5点」
「ふぎゃる」
感情任せの大ぶりの一撃を絡め取り、後方へと投げつつの固め技。
完全に身動きを封じられた目の前の女性——ジャンヌ・オルタは悔しさを隠そうともせずに、こちらを睨みつけてきた。
「あんた、徒手だと強すぎない!?」
「まーね、年季が違えわ、小童」
「小童!?」
こちとら最低でも10万回は、死んでんだよ。
そこから数えるのやめて、時間を忘れて死にまくったから、総合計死亡回数は分からんが。
むしろそこからが本番だった気もするぐらいだ。
時間と才能の都合で、剣、双剣、徒手の三つしか鍛えてもらえなかったが、実戦経験の時間の合計ならば、相手が英霊だろうが負ける気はしない。
普通に考えてみて、英雄様のようなセンスの塊達に対して、俺みたいな凡人が対抗するには、より時間を費やすほかないのである。
そう考えると、じつは精神年齢がそろそろ中年だったりするのか、俺?
「なんで勝手に落ち込んでるわけ……?」
『そっとしておきなさい。勝手に復活するわ』
「オルガさんってば、辛辣」
さて、今更だが、現状確認といこうか。
俺達——俺とオルガと邪ンヌちゃんの三人は、現在、組手を行なっているところである。
場所は、流石にこの短期間で何度もシミュレーションを使うわけにはいかないそうなので、カルデア基地内にあったトレーニングルームを利用していた。
邪ンヌちゃんを解放してから、そのまま胡座をかいて呼吸を整える。
彼女は隣で横になったまま、目一杯に両手両足を伸ばして、天井を見つめていた。
「それにしても弱いな、お前」
「ぐぬぅぅ…………しょうがないじゃない、格闘術を習ったことがあるわけでもないし」
「だろうけどよ……なんというか、センスが感じられねえ」
「気合いと根性でどうにかならないかしら?」
「それは最終手段だ、あほ」
組手の意図は、単純に邪ンヌちゃんの戦力強化である。
武器の一つも持たずに、今回の召喚へ応じた邪ンヌちゃん。
彼女は唯一無二のクラスゆえのとある特殊能力は持っていたのだが、それだけでは、これから先、早い段階で手詰まりになることは明白であった。
筋力ランクがEとはいえ、人間と比較してみれば、邪ンヌの身体能力には化け物じみたものがある。
うまく身体を動かすことができれば、デフォルト状態の俺ぐらいなら簡単に遇らうことができるはずなのだ。
「さて、何回でもやるぞ」
「……ええ、望むところよ」
起き上がり、七歩分の距離を取る。
向かい合い、目が合った。
——
視線をやってから、拳を放つ。
「……ッ!? ——こ、のッ」
「防ぎ方が、甘え! 一度の回避で完結すんな! 次で終わるぞ!」
「…………くぅぅっ!」
次、俺がどこに打つか。
それを読め、ジャンヌ・オルタ。
ただそれだけが、弱者に許された勝ち筋なのだから。
先読み。
そのために必要となるのは「直感」だ。
正確にいえば、擬似「直感」。
理性的判断を自分自身ですら分からないほどの極小の時間で行い、感覚では思考を通さずに身体を動かしているかのような状態を作り出すこと。
瞬間的な情報処理能力を高める、とも言い換えることができるそれは、つまるところの俺の理性側の全力解放の状態と同一だ。
近接戦闘以外の選択肢を持たない邪ンヌさんには、是非ともこれを最優先で身につけてもらいたい。
だから、やっている特訓の内容は必然的に特殊なものになる。
具体的に言えば、俺が直前で攻撃する場所へと目線をやり、それを邪ンヌちゃんが防ぐ(できるのなら反撃してくれても結構)というものだ。
この特訓を攻守を入れ替えて、交互に行う。
邪ンヌに攻め手もやらせているのは、彼女の攻め勘を養いたいという意図からだった。
役割を考えると、彼女にとって攻めの力はそこまで重要ではないのだが、
何十と、何百と。
組み手を繰り返していくうちに、その身には傷が増えていく。
そして、それは——唐突に起こる。
"餌"として、上段へと左から右に左腕を薙ぎ払った。
明らかに隙の大きな一撃に、邪ンヌちゃんは半瞬間ほどの戸惑いを見せてから、ヤケクソになって飛び込んできた。
懐へと入られる。
その直前に、殺気を"そこ"に飛ばす。
「……しまッ——」
「よーく、気づいた。褒めてやる」
腕を薙いだ際に、俺は重心を無理やり後ろへと傾けていた。
本当はこの時点で俺の意図に気がついて、その小細工を食い破るべく、躊躇いなく全速力で突っ込んでくれるのがベストだが、その対応を今の彼女に求めるのは少々、苦だろう。
こちらの本命は、右足。
減速はかなわず、ゆえに回避は許されない。
放たれる膝蹴りを前に、邪ンヌは咄嗟に腕でブロックを作る。
ミシッと音がして、邪ンヌの体が後方へと飛ぶ——が、決め手にはならない。
完全には衝撃を伝えられていなかった。
かなり上手に受け身を取られたな。
さて、肉体的にダウンってことはなさそうだけど……そろそろ、精神的には限界を迎える頃じゃないか?
これまで延々とこの修行を続けていた俺ですら、多少の疲労は感じている。
受け身を取ってから、動きを見せない邪ンヌに対して「今日はこれぐらいにしておこうか」なんて口を開こうとして。
ようやく、離れた場所で膝をついた邪ンヌさんの様子がおかしいことに気がついた。
彼女は顔を俯かせて、何やらぶつぶつと小声で言葉を溢している。
ちょっと、追い詰めすぎたか? そんな一抹の不安が脳裏を過ぎた直後のことだった。
「……次、行くわよ」
「——ッ!!」
殺気が、溢れ出る。
全身に鳥肌が立つぐらいに。
武者震いと同時に、思わず俺の片頬が上がってしまうぐらいに。
濃密な『凄み』が、彼女の全身から迸る。
「——いいね。最高だわ、お前」
「ぶち殺すッ!」
理性が揺らいだ。
それでも、戦意は薄れない。
ああ、本当に最高だ。
この負けん気の強さは、じゃじゃ馬根性は。
「ぁああああああああああッッッ!!!」
『……これ、は——』
ジャンヌ・オルタの本能が、覚醒する。
策も何もない突撃。
だが、低い。
これまでで、一番の低さと
接触の直前。
更に下へと飛び込み、死角へと姿を消し、直後、跳ね上がって、勢いそのままに拳を振り抜く。
緩急をつけて、俺の意識を刈り取りにきたジャンヌ・オルタに、花丸を献上しながらも——紙一重で拳を躱して、完璧なカウンターを叩き込む。
スタンッと芯を撃ち抜いた確かな感触があった。
これは、殺った。
誰にでもそう思わせるような一撃が入った。
「か、は——」
カクッと彼女の膝から力が抜け落ちて、身体がブレる。
床へと倒れる前に、その身体を抱き止めようと腕を回したところで、目を見開いた。
「よっと。大丈夫か、邪ン——っ!?」
確実に、意識を飛ばしたはずだった。
虚ろになったその瞳を視認したはずだったのだ。
直後——ジャンヌ・オルタの瞳に光が甦る。
「…………!?」
「な、めん、なぁあああ!!」
頭突き。
至近距離にいた俺の頭に躊躇いなく、自分の石頭をぶつけてみせたその度胸には、多量の呆れを混ぜた賞賛を送りたい。
目の前がチカチカと眩む感覚に、思わず膝をつく。
そんな俺の目の前で、ジャンヌ・オルタは仁王立ちをして…………
『オルタ、ストップ。今のは反省』
「…………ごめんなさい。めちゃくちゃ失礼なことしたわ」
「……ほんとだよ、助けようとした俺がバカみてぇじゃねえか、アホ」
自身の主人に嗜められて、土下座をした。
◇◆◇
邪ンヌちゃん曰く「殴れなさ過ぎてストレスが爆発した」とのことだったので、今度、ダ・ヴィンチちゃんに頼んでサーヴァント対応用のパンチングマシーンでも作ってもらうことにした。
自室へと戻って、シャワーを浴びてから、ベッドへと寝そべり、邪ンヌとの組み手のことを思い返す。
それにしても、最後の粘りは素直に驚いた。
流石、ステータスが耐久全振りなだけあるしぶとさである。
ジークフリートとタイマンで戦って、意識喪失をしなかったことにも納得だ。
サバイバー:ジャンヌ・オルタ
その最大の特殊能力が『生を渇望することを条件とした不死性の獲得』というものだ。
「それにしたって、アレ耐えるのか……」
『認識外の一手で意識を刈れば、オルタの能力も関係ない…………その考えは間違ってないとは思うわ。私もカウンターがモロに入ったのを見て警戒を解いてたから、少し焦ったわ』
反省、反省と呟くオルガに同意しつつ、少しの間、思考の海に身を沈めてみる。
考えなければいけないことが、幾つもある。
整理しなければならないことが、幾つもある。
すぅ、と息を吐いて。
瞼を下ろす。
ジャンヌ・オルタの成長は、冠位指定の遂行に多大な影響を及ぼす。
それこそ、立香の修行の有無と重要度は大して変わらない。
——どう育てるべきだ?
先程、最強になりかねないと考えたのは純然たる事実だ。
潜在能力だけで言えば、ジャンヌ・オルタという英霊はアサシンすらもを上回っている可能性がある。
……いや、本業が戦闘ではない女神様が、ここまで強いことも謎ではあるのだが、今はそれはそれとしておこう。
そのポテンシャルの高さを証明するのは簡単だ。
擬似的なものとはいえ、不死身の英霊。
代わりに、火力が乏しい?
いいや、そんなことはない。
彼女の宝具は、凄まじいの一言に尽きるのだから。
「————ああ、クソッ。柄じゃねえんだけどな、こういうのは」
無意識の内に、愚痴のような言葉が口からこぼれた。
人を導く。
そんな高尚な人間になった覚えなどない。
誰かに何かを与えられるほど、出来た人間なつもりなどない。
そんな余裕があるわけがない。
最近、こんなことを考えてばかりいる。
面倒なら、辞めちまえ。
そんな思考が浮かび上がる。
だけどさ、と思考が続く。
助けたのは、お前だろ。
責任は、お前以外の誰が持つんだ?
心の中でそう問いかけて、溢れそうになる弱音を建前という名の鈍器で叩き潰した。
——間違っていない。間違えていない。
「……師匠は、凄えな」
虚勢を張れ。
余裕を被れ。
不敵に、不遜に、笑みを浮かべろ。
『大丈夫?』
「……例え、大丈夫じゃなくても、大丈夫でも、俺は大丈夫って応えるしかねえんだよ」
『——ごめんなさい、よりも、ありがとうの方がいいのかしら』
「ま、そっちの方が元気は出るな」
『なら、ありがとう。あまりカッコつけ過ぎるのはどうかと思うけど』
「カッコいい男ってのは、誰だってカッコよくなりたくて、目一杯の背伸びをし続けてるから、カッコいいんだよ」
『それは、初めて知ったわね。なら、今の貴方はカッコいいと思うわよ』
「……アサシンに聞かれたら、浮気を疑われそうなことを言うんじゃない」
『あの子なら、私に便乗して貴方のことを褒め称え始めると思うんだけど』
「それは………………割とありえそうだな」
軽く雑談を挟んでいると、ドアからドンッとなかなか重めなノック音が聞こえた。
その後「私です」との簡潔すぎる身分紹介が続く。
『上機嫌みたいね?』
誰が訪れたのか、なんて愚問はしない。
たった五音の言葉から、その気分すらもが予想できてしまう誰かさんのために、ドアを開けに行ってやるとする。
「エミヤに甘味でも作ってもらったに一票」
『じゃあ、私はパールヴァティーがドジをして醜態を晒したに一票で』
中々に、性格の悪いオルガの物言いに苦笑を返しつつ、ドアを開けると、そこには表情筋をゆるゆるにした女神様の姿があった。
その手には、イチゴのショートケーキが半ホール乗ったお皿が収まっている。
「……パールヴァティーとの争いの戦利品です! あのアーチャーさん特製ケーキですよ、マスターさん!」
『私の負けかしら』
「今回は俺の勝ちだな。当たらずともなんたら、って気はするけど」
「あの、何の話です?」
テンション最高潮! って感じのアサシンは、俺の前でコテンと可愛らしく首を傾げたが、特に深掘りすることもなく、ケーキを机の上へと置きにスタスタと部屋の中へと入っていった。
ケーキ切りますね、と一緒に持ってきたナイフを構えたアサシンを横目に、紅茶の用意をする。
両手が塞がってたみたいだけど、ノックは? なんてオルガが尋ねてみれば、頭突きですけど何か? なんて返事をアサシンは送る。
つい、どこぞのアホに頭突きを叩き込まれたほんの少し前のことを思い出してしまった。
『……美味しそう』
「まあ、そうだな」
『……別に、変に気を遣う必要はないわよ? ただ、ちょっとだけ羨ましくなっただけだから』
3ピースに切られたショートケーキを前にして、オルガが何気なく呟いた『美味しそう』の言葉が、やけに頭の中で引っかかる。
アサシンがわざわざ3ピースなんかで切り分けたのが、原因なのかもしれないが。
あれ、わざわざ、3ピースで?
「………………………………ん?」
「私は、できると思いますよ」
思考が止まる。
アサシンは動きを止めた俺を見て、ジト目でぼやく。
「できると思ったから、こう切ったんです。まあ、その可能性について気づいたのは、ついさっきのことなんですけどね…………それと、そうじゃなきゃ、流石の私もケーキ一つでここまで浮かれませんよ」
どうして、これまで思いつかなかったのだろうか。
「同調、接続、リンク、言い方はなんでもいいですけど————オルガとマスターの二人でやれないなんて道理はないですよね?」
ニコッと極上の微笑みを湛えて、アサシンは言った。
「五感共有、してみたらどうですか?」
500000UA達成いたしました。
皆様のお陰でございます。
カーマさんの過去編についての情報を、活動報告にあげておきましたので、興味の持たれた方は軽く見ていってくださいねー。