新章 突入
結局、脳死で書き始めたので多分絶対ぐだります。
精一杯、書くのでよろです。
感想評価誤字脱字 毎度ありがとうございます。
48話 第二特異点
朝が来た。
上半身を起こして、大きく伸びをする。
目覚めはいい。
不自然なぐらいにスッキリとした意識の覚醒に、小さく首を傾げてから、まあ、いいかと疑問を適当に放り投げる。
すぐ隣には、こちらに体重を預けてすやすやと眠りこける少女の姿。
サラサラの髪を撫でると、無意識ながらに、すりすりと掌へと頬を擦り付けてくる彼女の姿に、頬が緩む。
すべすべ、もちもち、ふにゅふにゅ。
撫でて、つまんで、つついて。
その度に心地よさげに、俺の身体へとしがみつく力を強める少女。
どうやら、彼女も意識の方がハッキリしてきたみたいだ。
「…………どうしましたか、ますたーさん」
「どうもしてねえよ。ただ、まぁ、そうだな」
寝ぼけ眼の瞳を擦りながら、すぐ隣に座り直したアサシンを見て、しみじみと幸せだなぁ……と感じながらも、口には出さずに穏やかに笑う。
「おはようさん」
「……はい、おはようございます」
本日 午前八時。
第二特異点 西暦60年 古代ローマ帝国
冠位指定 その二つ目。
戦いの刻は、近い。
◇◆◇
「よっす、立香。体調はどうだ?」
「あ、結! おはよー……体調は、そうだね。筋肉痛が永遠になくならないぐらいかなぁ……?」
「あー、うん。ほどほどにな」
食堂にて、エミヤ特製朝食プレートを食べていた立香と合流する。
マシュは? と聞けば、いつものメディカルチェックとの答えが返ってきた。
唯一のデミ・サーヴァントという存在であるマシュ・キリエライトには、いくつかの特殊な事情があるらしく、ロマンはかなりの高頻度でマシュのメディカルチェックを行なっている。
一度、オルガに聞いてみたところ、かなり個人の深い事情に関わることである上に、オルガ自身も思うところがあるらしく、その事情とやらを教えてはくれなかった。
各々に秘密があることなど、当たり前の話だ。無理に聞き出そうとは思わないし、生半可な覚悟で向き合うのは侮辱に値する。
本当に危機的な状況であったのなら、話は変わってくるのだが、現状に問題がないと言うのならば、傍観の体勢を続けていく方針で良いだろう。
昨日の夜から、エミヤに仕込んで貰っていたフレンチトーストを口へと運ぶ。
メープルシロップ、イチゴを筆頭としたジャム、粉砂糖、蜂蜜にバニラアイス……合わせの品のバラエティーが富んでいるのは素晴らしいことなのだが、あまり多すぎても迷って困る。
それは隣のアサシンも同じだったらしい。
むむむ、と眉を顰めながら、フレンチトーストを凝視する彼女の姿をもう少しだけ見ていてもよかったのだが、生憎と時間に余裕があるわけでもない。
「別の味にして、シェアしようぜ」
「ちょうど、その提案をしようと思っていたところです」
速攻で了承のグーサインが返ってきたので、二切れあるフレンチトーストを半分に切って、まずは粉砂糖と蜂蜜のオーソドックスな組み合わせを頂く。
フォークを突き刺し、一口分だけ齧る。
ふわっとした食感と口の中で広がるくどすぎない甘さに、思わず至福のため息が溢れそうになる。
その様子をキラキラとした目で見ていたアサシンに、一口齧ったそのフレンチトーストを差し出すと、待ってましたと言わんばかりの勢いで彼女はフレンチトーストに食いついた。
「〜〜ッ! 口の中が、幸せです」
「だよなぁ……」
「二人とも、甘いもの好きだよねー」
「「何を当然のことを」」
声を揃えて、立香の言葉を肯定する俺たちに、彼女は苦笑気味だった。
『……ん、ああ、もう起きていたのね』
「お、ようやく起床か?」
「今日はお寝坊さんでしたね、オルガ」
『少し、最近のアレの疲労が抜けきらなくてね……時間が経てば本調子を取り戻すわよ』
と、そんなタイミングで、これまで意識封鎖をしていたオルガが目を覚ます。
『食事中だったのね……これまた、食欲を唆るものを……』
「我慢しなさいな」
『わかってるわよ』
「今日から特異点攻略ですしね。帰ってきたら、アーチャーさんに甘味を頼みましょうか」
『秒で終わらせるわよ』
「貴方までボケに回らないでください、オルガさんや」
もぐもぐと、アイスを乗せた一切れを頬張っていたアサシンと、それを見て羨ましそうにため息を吐いたオルガの会話を聞いて、じんわりと胸の奥が温かくなる。
平和だなぁ……と、素直にそうぼんやり感じ入っていると、気がついたときには、お皿の上のフレンチトーストが一切れ姿を消していた。
「アサシンさん?」
「あむ、ん……ん? なんですか、マスター?」
『冤罪よ、結』
咄嗟に、容疑者最有力候補へと目を向けるが、彼女が特に何かをした様子は見られない。
頬を膨らませたまま、首を傾げるアサシンを見ながら、犯人が誰なのかをようやく理解して、こめかみに手を当てた。
「……まじか、すげぇ悔しいんだけど」
「〜〜! 美味しい。今度、私も頼もうかな」
気配遮断——と呼ぶにはいささか、未熟だろう。
けれど、確かにその片鱗が垣間見える。
才能か、或いは努力か。
どちらかだと一辺倒に割り切って考えることはできないが、なんであろうと関係ない。
どれだけ気が緩んでいようとも、俺が今、藤丸立香の気配に気がつけなかったのは事実なのだから。
「どやぁ……」
「いらぁ……」
「イラァ……」
『結はともかく、なんで、アサシンまでイラついてるのよ』
「いえ、私の食べる分が減ったのでつい」
『理解』
勝利報酬として、持って行かれたフレンチトーストについては見逃してやることにする。
アサシンも冗談一つで立香の行動を許容しているあたり、なんだかんだで信頼関係の構築は順調に行われていると考えてもよさそうだった。
それから立香は準備のために離席し、誰も居なくなったことを良いことに、仲睦まじく食べさせ合うこと十数分。
オルガに関してはコーヒーが飲みたい……とどこか疲れ気味だったので、今度マックスコーヒーでも奢ってあげようと思う。
「ごちそうさんでした」
「ご馳走様でした」
両手を合わせて、声を揃えて、そう言って、食器を片付ける。
大事そうに両手でお皿を抱えるアサシンを、丁度、厨房の方から顔を見せたエミヤが、穏やかな笑みを浮かべて見ていた。
「…………」
「どうした、結?」
「いや、なんでも。美味かったわ」
「それは何よりだ…………気をつけて行ってこい」
「おう、宴会の準備でもして待ってろ」
適当に言葉を放り投げて、その場を後にする。
自室に向かう廊下の途中で、アサシンが、ぎゅっと手を握ってきた。
「少し緊張気味ですか、マスターさん?」
「ん、まあ、それなりにな。大丈夫だ、
お前がいるからな、なんて態々、今更言わなくても伝わるだろう。
部屋に戻ってから、特別に何かをしなければならないわけではない。
淡々と、粛々と。
感情は揺らさずに、緊張の糸は程良くハリがあるぐらいが丁度いい。
俺用に改造してもらったカルデア制服とチキン剣、短刀を身につけて、最後に一度瞼を下ろした。
吐いて、吸って。
吐いて、吸って。
ゆっくりと、息を吐く。
大丈夫だ。
コンディションは絶好調。
体力、気力、魔力は十分。
瞼を、上げる。
いつも通りのルーティン。
スイッチが切り替わる。
「さて、そんじゃあ、行くか」
「はい!」
『ええ!』
管制室へと足を向ける。
臨戦体勢は、既に整っていた。
◇◆◇
「さて、それじゃ、第二特異点攻略に向けての最終確認を始めようか……とは言っても、向こうについてみないことには、話は始まらないからね。準備不足がないかの確認時間かな」
苦笑しながら、ロマンは第二特異点へと乗り込むメンバー全員の顔を見渡した。
具体的に言えば、俺とアサシン、立香にマシュ。
そして——
「大丈夫ですか、ますたぁ」
「ふん、無駄に緊張してないでしょうね?」
とある事情によってリソース問題の影響を受けにくい邪ンヌちゃんと、有無を言わさせずに同行を宣言した清姫の二人。
どこぞの良妻賢母系善性サーヴァントの方は、呼ばれてかなりの時間が経つくせに、未だに特異点へと出向くつもりがないらしい。
「心配してくれるとは随分と優しいじゃねえか、邪ンヌちゃん。お父さん嬉しい」
「お母さんも嬉しいです」
「今すぐ叩きのめすから、アンタら、そこに直りなさい」
え、お母さん?
夫婦……夫婦かぁ……いいね。
「やはり、呼び方は『あなた』一択でしょう」
「異論なし」
「ねえ、マスターちゃん? 手綱ちゃんと握ってるのよね?」
『私は名前呼びの方がしっくりくると思うわ』
「救いが潰れたわ。もう、終わりね」
おい、邪。
オルガはどちらかといえば、こっち側の人間だぞ? 俺たちが染め上げました。なお、反省はしていない。
「また『邪』って言われた……ああ、助けて、お姉ちゃん」
「お前もシスコン悪化してんじゃねえか」
「なんで、ちゃっかり、自分だけは正常です、みたいな顔してるんですかねぇ……」
項垂れる邪ンヌちゃんに、ジト目を向けるアサシンが可愛い。
あと、あんまりシスコンチックな発言は慎んでいただきたい。妹オーラ的なものを察知したジャンヌが、管制室の入口で『呼んだ?』と●フロスキーよろしく顔を出してるんだよ。
「お姉ちゃんですよ?」
「帰れ」
「泣きました」
いい加減、話に収拾がつかなくなってくるので、貴方の参戦は拒否します。
まあ、意図してかは知らないが、邪ンヌちゃんのお陰で身体へと無駄に入っていた力みは解れた気がする。
集中は解かず、身体の負担は最小限に。
ただし、前回の特異点——最終決戦時に集中がプツリと途切れたあの醜態を省みることは忘れない。
「さて、では話を戻そうか。これから僕たちが臨むのは、一世紀のヨーロッパ。具体的に言えば、古代ローマ帝国だね。イタリア半島から始まり、地中海を制した大帝国。時期的に言えば、カリギュラ帝やクラウディウス帝、ネロ帝が国を統治した頃の話かな」
カリギュラ、ネロ……これまた大物の予感。
まあ、散々、英霊に会っておいて、今更なんだと言う話でもあるのだが、現地人となると感慨深さはまた別物になってくるのは、きっと俺だけではないはず。
「また、これは、同時に古代ローマ帝国が最盛期を迎えている時代でもある。古代ローマの繁栄と滅亡は、人類史において大きな意味を持つ。それこそ、古代ローマの存在なくして人類史は成り立たないと言えるほどにね……確かに、特異点となるには十分過ぎるぐらいだ」
要するに、そのローマに何かしらの異常が起きている、というわけだ。
ターニングポイント。
そこから、異変の原因であろう聖杯を取り除く。そして、可能であれば黒幕一味の仲間であるレフとの対峙。
それが今回、俺たちが請け負う使命だ。
「……そういや、今回は聖杯の数はわかってるのか?」
「ああ、そうだった。正直に言うとね——わからない」
「……魔力反応はどうなってる?」
「
空気中に魔力反応あり、と。
現地に行ってみないことには、わからないことがあるのだろうか。
『普段よりも、周辺探知に意識を割くわ。各自、不自然なことがあったときは報告を怠らないようにすること。特に結とアサシンは、ね』
「信用がねえなぁ……」
「心配性ですねぇ……」
『 わ か っ た ? 』
「「はい」」
あらやだ怖い。
ばちこり手綱握られてるじゃねえですか。
「僕たちの目的は、聖杯回収による特異点の解消だ。だけど、最優先事項は君たち自身の命であることを、忘れないでほしい。死んでしまったら、本当にそこで終わりだ。どうか、生きて君たちがここに帰還することを、心から願っている」
「……うん、わかってる。任せてよ、ドクター」
ロマンの言葉に、立香は微笑んだ。
『さて、それじゃあ、行きましょうか』
話が落ち着いたところで、オルガが覇気のこもった声音で、管制室内に居る全員へと呼びかけた。
『目標、一世紀の古代ローマ帝国、その首都ローマ。オーダーは、聖杯の破壊又は回収による特異点修復』
呼吸を入れる。
『疲労が溜まっているのはわかる。復旧作業と並行に行わなくてはならず、万全とは程遠い状態でのレイシフトになることを、申し訳ないと思う。けれど、それでも——だからこそ、貴方たちの力が必要です』
真摯に、そして激情を猛らせて。
『人類の存亡は今ここにいる全ての者の双肩にかかっているのだと、魂に刻み込み、そして発奮せよ。貴方たちの健闘に、私たちは必ず応えてみせます』
魂を震わせるぐらいに、心の熱を伝えて、彼女は告げるのだ。
『これより、第二特異点攻略を開始する。さあ、気張って行きましょう!』
目には見えないけれど、その声を、その姿を、眩しく思った。
眩く、尊く、美しいものだと感じた。
「「「「了解ッ!!!」」」」
揃った返事。
管制室の中に確かな熱が宿る。
ポッドに入り、目を閉じた。
機械音声のアナウンスが、聞こえる。
『 アンサモンプログラム スタート 』
『霊視変換を開始します』
『レイシフト開始まで あと3、2、1……』
そして。
『全行程 完了
グランドオーダー 実証を 開始 します』
光に包まれる
◇◆◇
星なき暗闇の空。
円環は空を焼く。
夢に揺蕩う哀れな凶王。
復讐に焦がれる緋色の女王。
失われた夜。
堕ちた女神と薄れた神秘。
魔神は嘲笑う。
救世主が笑う。
求めたのは「永遠の繁栄」
降されるは「滅びの肯定」
杯が二つ。担い手は二つ。
————そして、銀星は瞬いた。
狂宴神託乖影国 セプテム 開幕。