リハビリ兼生存報告
二部七章でもう得られないと思ってたあの子の絡みを見れたモチベからの執筆投稿。
文字数そんなだけど許してください。
——真紅の夜に気をつけなさい。
そんな忠告を頭の中で転がしながら、いつも通りの星空をぼうっと見上げていた。
光の円環は変わらず天に浮かび続けている。
あの輝きで幾つもの星屑の姿が見えなくなってしまっていることを思い、さっさと消えて貰いたいものだと一つ息を吐いた。
「どうかしましたか、マスター?」
「いや、特に何もないよ」
『本当かしらね……隠し事は極力なしよ?』
「隠し事ってほどでもない……ちょいと思うことがあっただけで、もう少し考えがまとまったら話すよ」
パチパチと音を鳴らした焚き火の火の粉が、宙へと弾けて地に落ちる。
適度に乾燥した木の枝を焚べていると、近くの茂みからガサゴソと音がした。
「……はぁ、疲れた。今、戻ったわよ」
「にゃはははっ! 異常なしなのだな、ご主人!」
「サンキュー、邪んぬちゃん。一応、キャットもね」
周囲の偵察へと出向いていた邪ンヌとタマモキャットに労いの声をかけながら、焚き火の中からアルミホイルに包まれた塊を三つほど取り出す。
「さて、いい具合に出来てると良いけど」
「呑気に焼き芋なんか作ってたのね」
「食料セットに入ってたもので」
ジト目の邪んぬちゃんだったが、それはそれとして焼き芋は頂くつもりらしい。
アルミホイルから美しい黄金色が顔を覗かせるのを今か今かと待ち侘びていたので、邪んぬちゃんとアサシンの目の前で芋を割ってやる。
「…………へぇ」
「……! いい感じに出来てますね!」
「おぅ、ご主人はまさかの料理男子なのか? 我のアイデンティティーの一つが崩壊してしまうので、我的にそれは好ましくないのだが」
「お前は十二分に個性強いから大丈夫だぞ」
アイデンティティーの一つ、って言ってる時点で自己を複数の観点で観測してんだよな、こいつ。
そろそろ補足を入れたいのだが、ナチュラルに俺たちと共にいるこの犬猫謎サーヴァントについてだ。
彼女が今ここにいるのは、ぶっちゃけ俺たちにとっても誤算である。
ステンノのいた島からアサシンの神器(仮)を利用して大陸に移動した俺たちだったが、気づけばコイツは側にいた。
なんなら、知らないうちにサーヴァント契約を結ばれていたので唖然という他にない。
わぁい、同行者が増えたよー(脳死)
みたいなノリでアサシンすらもがツッコミを放棄したので、スルーしていこう。
俺のせいではないと思うのでステンノには許してもらいたい。
大陸へと移動した後は、オルガの指示に従って最寄りの霊脈へと向かっている。
兎にも角にも、今俺たちがするべきなのは立香達との合流及びカルデアとの通信回復だ。
いざとなれば代償強化を使用して、立香たちの元へと強制転移なんてこともできなくはないだろうが、流石に代償が大きすぎる。
どれだけ距離があるのかすらわからないので、今は正攻法のターミナル設立を行う予定である。
「ん、甘っ。結構、美味しく出来たな」
「……まあ、悪くないわね」
「ええ、悪くないです」
『……二人とも、素直じゃないわね』
誰よりも勢いよく焼き芋を食べている邪んぬちゃん、頬をゆるゆるにしているアサシンを見て、オルガがボヤく。
そこがまた良い所だとこちらも笑顔になりながら、まだホカホカの焼き芋を再び口に含んだ。
さて、そろそろ本格的に野宿の準備でもするかな。
◇◆◇
——同時刻。
霊脈エトナ火山 山頂
そこには地獄のような光景が広がっていた。
赤い。紅い。真紅い。
視界全部が、真紅に染め上げられたような。
そんな、異常極まりない世界。
「……ッ、ぁぁ」
頭が割れるように痛む。
やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ。
私の中に、入ってくるな。
理性が薄れていくような感覚。
コレはヤバいと本能が察知したが、時既に遅し。
膝をつく。
呼吸が苦しい。
えずき、むせかえりそうになるほどの◼️の匂いを覚えた。
赤い、紅い、真紅の世界。
思考にノイズが走る。
直後、自身の脳が
「——ッ、……!」
迷わずに、剣を握った。
間に合うだろうか。
否、間に合わせるのだと。
自身の首へと走らせたその刃を、何者かが受け止める。
「……なるほど。君はそうするのか、面白い」
誰かの声が聞こえた。
やられた。
間に合わなかった。
意識に靄がかかる中、後悔と絶望、そして恐怖の感情が自身の中に湧き上がる。
「でも、それじゃあ、つまらない。全くもって面白くない。輝きを見るためには、それ相応の絶望が必要だとは思わないか?」
パチン、とソレが指を鳴らした。
そして、流れ込んできた。
最悪の過去。
絶望を
殺意を
あかい
怨念を
鉄の匂い
妄執を
怨嗟の声が
死ね
殺してやる
叫びが
死ね
泣き声が
死ね
失意を
死ね
憎悪を
絶対に——
「うん、これで堕ちたかな」
殺してやる
「さぁ、それじゃあルールを決めようか。ブリタニアの女王よ」
悪意は踊る。
愉しげに、朧げに。
・
・
・
「あれ、ここで良いんだよね、マシュ」
「はい。お疲れ様です、先輩。私はターミナルポイントの設立に移りますので、少しの間、休息をとっていてください」
「わかったよ。ありがとね、マシュ」
「いえいえ、こちらこそです」
「ますたぁ、ご休憩なさるのなら、膝枕などどうでしょうか?」
「大丈夫だよ。きよひーもしっかり休まないと」
「……そうですか」
「なんでそんなに残念そうなの……って、あれ? あそこに見えるのって、女の人?」
「え、本当です! ど、どうしましょうか、先輩?」
「いや、どうするも何も……」
「とりあえず、怪我とかないかを確認しよう……えっと、その、大丈夫ですか? あの、
◇◆◇
「……ふわぁ、んぅ……ん? もう朝ですか」
「お、起きたな、アサシン」
「……おはようございます、ますたー」
「おはよう、今日もお前は可愛いなぁ」
寝ぼけ眼での上目遣い。
破壊力が凄まじいな。
若干、呂律が回っていないところから感じられるあどけなさもポイントが高い。
『……わしゃわしゃ、ってしたくなるわね』
「母性というか父性というか、まあ、庇護欲掻き立てられはするよな」
「なんの話です?」
段々と頭に血が回り始めたアサシンの疑問に、大したことではないと返答してから、空を見上げる。
「……快晴、か」
『…………そうね』
まあ、雨に降られるよりかはマシだな。
「キャット、朝食の準備はどうだ?」
「当然、下準備は完璧なのだな。もっと感謝しても良いのだぞ、ご主人」
「お前のご主人になった覚えは本当に無いんだけどな。とりあえず、ありがとうとは言っておくけど」
このやけに便利な混沌、どうしてくれようか。
いや、害はないから良いんだけどさ。
「…………ふん」
「邪んぬちゃんもお手伝い、ありがとな」
「別に何もしてないわよ……ほとんど、そのバーサーカーが一人で終わらせたようなものだもの」
『ふふ、今度、一緒に料理の練習でもしましょう?』
「…………マスターちゃんが言うなら、考えとくわ」
不器用なりにキャットの手伝いをしていた邪んぬちゃんは自分の不出来さに少々苛立っているようだが、本当にクソ真面目だなこの子。
「そんじゃ、全員起きたということで、飯にするか」
各々、適当な返事をしつつ、俺たちはキャットの用意してくれた朝食へと手をつける。
現地調達の影響か、はたまた作り手の問題か、若干の野生味溢れる料理の数々はそれでも美味と思えるものばかりで、食事を進めるにつれてキャットの株が上がっていく。
文句のつけようのない食事を終えようとしたそのときだった。
ザッ————ザザ、————
砂嵐のノイズのような掠れた音の後に、ピーという電子音が鳴った。
やがて、聞き覚えのある軽薄そうな男の声が聞こえてくる。
『…………える、かい? ——び、くん!』
「……ロマニ?」
ロマニ・アーキマン。
医療部門トップにして現カルデアの実質的な代表ともいえる彼の声だ。
『……ああ、良かった。ようやく繋がった……僕の声が聞こえるかい、結君?』
「おう、通信良好だぞ」
『なら、よかった……しばらく連絡が取れていない上に、立香ちゃんたちとはレイシフトのポイントがズレていたからね……アサシンがいるとはいえ、心配していたよ』
ロマニの声音からして、緊急事態というわけではなさそうだ。
となると、恐らくは立香たちが当初の予定にあった霊脈へのターミナル設置に成功したのだろう。
「こっちに問題はないよ。ええと、まあ、サーヴァントが一騎増えて、神霊とエリちゃんに会ったりはしたけど、全員無事だ」
『…………後で、詳しく聞くことにするよ』
「おう、まずは立香たちとの合流だよな? あいつら、今どこにいる?」
『そうだ。立香ちゃんたちの方にも動きがあってね、今回の特異点の原因となった大元の正体にも見当がついている』
仕事が早えな、立香さん。
そういう星の下に生まれてきたのか、師匠風に言うのであれば『彼女は運命力が強い』のだろう。
『それで、私たちはどこに行けばいいのかしらね?』
「まあ、細かいことは合流してからだよな。なあ、ロマニ、俺たちはどこに向かえばいい?」
『……そうだね。今、立香ちゃんたちが向かっているのは戦地ガリア。ピレネー山脈とライン川に挟まれたケルト人たちの居住地だった場所だよ』
「…………オルガ、位置情報は大丈夫か」
『ロマニに詳細を伝えて貰いたいところね。多分、大丈夫だとは思うけれど――ッ! 待って、全員臨戦体制!』
突如として声を上げたオルガにいち早く動いたのは、やはり彼女だった。
直後、周囲の体感温度がぐいと上がる。
第二段階。
姿を少女から高校生ほどへと変えたアサシンが、俺の目の前へと現れて蒼炎を纏った金剛杵を携える。
「…………マスター」
「わかってる。割とヤバめな雰囲気はするな」
チキン剣を構える。
こちらのメンバーは気配察知には長けた構成ではあったはず。
アサシン、オルガの探知。
俺の直感。
そして、今に至ってはカルデアからの支援もあった。
その全てを潜り抜けて接近してきた相手だ。
ただものではないのは道理と言えるだろう。
「…………ふむ、やはりこの辺りが限界か」
「十分だよ、先生。これだけ近くに来れたのなら、対話をするに問題はないさ」
そんな会話をしながら、彼らは姿を現した。
そこに居たのは、まだどこかあどけなさを面影に残した紅色の少年とこの場には似つかわしいとは言えない黒髪スーツの男。
少年から発される異様な圧迫感に、頬がひきつるのがわかる。
肌感の判断で彼の魔力は高いことはわかった。けれど、
この否定は、決して目の前の少年を軽く見ているからではない。寧ろ、その逆だ。
今まで出会ってきたサーヴァントの中でも高水準と言える魔力量を以てして、少年の持つ圧倒的なまでのオーラ、風格、器の大きさに魔力量が見合っていない。
『対話、ね……なら聞きたいのだけれど――その手に握った剣で何をするつもりなのかしら?』
オルガの放ったその言葉に、少年は獰猛な笑みを浮かべた。
「当然、