カーマさんとイチャコラしながら人理修復する話     作:桜ナメコ

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52話 雷光

 

 

 

 

 

 

 静寂は一瞬だった。

 

「――ハァッッ!」

「んな、っ!」

 

 目の前に立つ赤毛の少年の体がほんの少しだけ揺らいだと思えば、次の瞬間にはこちらの首筋へと長剣が迫っていた。

 その挙動に目を剥いたアサシンだが咄嗟の判断にて、その細い綺麗な指を振り、金剛杵による迎撃を行う。

 

 彼女の注意、その比重が僅かに傾いた。

 そのタイミングに合わせて、少年の後方から閃光が放たれる。

 緩やかに弧を描き、アサシンの防御範囲をギリギリで避けて俺へと向かう一撃を――

 

「甘いわね!」

 

 飛び込んできた邪ンヌが受け止める。

 

「いや、それは君の方だ」

「は?」

 

 彼女の煽り文句にそう答えたのは凶弾の射出者。

 スーツ姿の青年が手にした扇を軽く振るうと、邪ンヌの足元に起動済みの魔術紋が浮かび上がる。

 

 直後、爆発。

 

 チュドーン、という音と共に邪ンヌの身体が遠くの茂みへと吹き飛んでいく。

 うわぁ……あれは絶対痛い。

 

『設置式の魔術罠!? なんて、古典的な原始人トラップよ!?』

「――ん、その声は――いや、関係ないか」

 

 スーツの男は一度困惑のような表情を浮かべたのだが、小さく首を横に振ってから再びその扇をこちらへ向ける。

 

「私個人に恨みがあるというわけではないのだがね……これも、仕事のようなものだ」

「仕事ね……人類滅亡計画ってか? 冗談じゃねえよ」

「…………?」

 

 見た目だけではただの現代人としか思えないその男だったが、今の一瞬の攻防だけで油断できない相手であることはわかった。

 単純な魔力の質だけで言えば、あの赤毛の少年よりもこいつの方が圧倒的に高い。

 なんなら、俺が出会ってきた相手の中でもトップクラスなんじゃねえのか。

 さらに加えて、相手はどう見ても卑怯上等、搦手万歳の手合いと見える。

 

 理性側じゃ、相性が悪いと見るべきか。

 というか、そもそも俺とコイツの相性自体が悪い気もする。

 

『結君、交戦状況の簡易解析が完了した。君たちの前に立っている内の一騎は、アサシンと同じ擬似サーヴァントだ。神性は感じられないから、神霊サーヴァントではないことは確かだけど、どんなイレギュラーがあるかわからない! 注意して応戦してくれ!』

 

 それを聞いて、少し安心する。

 まだマシか、なんて思考が過った所を――モノの見事に狙われた。

 

 迅雷一閃。

 俺の顔のすぐ横を貫いたのは雷の槍か。

 

「おや、凄いね……うん、それは予想外だ」

 

 パチパチと、空気の震えが音を鳴らす。

 現状を把握した瞬間から、冷や汗が止まらなくなった。

 

「まさか、自力で避けるだなんて……君、ほんとに人間?」

 

 咄嗟に背筋に走った悪寒が、無意識下にて俺の首を僅かに傾けさせていた。

 髪をかすめたのかチリチリと、空気の焼けた嫌な匂いを感じ取った。

 

 

 

 そして――

 

 

 

「――代償強化(コストリンク)ッ!」

 

 

 

 迷わずに、その札を切った。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 代償:魔力

 効果:対雷耐性

   :認識強化

   :身体強化・中

 

 

 魔力を回す。

 痺れにも似た感覚だ。

 魔力の奔流を回路に循環させる。

 青の光を全身に奔らせてから、集中力を一段階引き上げた。

 

 とは言え『過剰絶倒(オーバーエフェクト)』は使わない。

 というより、こんな序盤の応戦じゃ使えない。

 

「アサシン、逆頼んだ」

「あの猫ワンコ借りますね」

「あいよ」

 

 互いに示し合わせていたかのようなスムーズさで立ち位置を入れ替える。

 そして弾けるように二人して、その場から飛び出した。

 

 最速最短、小細工抜きの直線突破。

 その先に立つは赤毛の少年。

 

 感覚を、研ぎ澄ませろ。

 

 雷を扱う英雄。

 ただそれだけの情報を頼りに、少年の真名を明かすことは難しい。

 

 だから、残念ながらの出たとこ勝負。 

 

 要するに――いつも通りだ。

 

「さあ、ぶっとべ、英雄!」

「そうだね……少し気掛かりなことがあったから、様子を見に来たんだけど――」

 

 代償強化――瞬間強化

 

 チキン剣と少年の剣が交錯し、ほんの少しだけ彼の身体が浮き上がった。

 

 ――ここ、だろ。

 

 代償強化――烈風生成

 

 その華奢な身体の重心を動かしてやろうと姑息な小細工をぶつけた俺を見て、彼はギラギラと目を輝かせて笑っていた。

 

「もう少し、楽しんでもいいよね!」

 

 俺の生み出した風に翻弄されることなどなく、あまつさえそれを利用して少年は空へと駆け上がる。

 舞を踊るが如き軽やかさを見せながら、天へと翳した長剣へと雷を纏う。

 

 振り下ろされたソレは、もはや雷霆そのもののようだった。

 

「……ゼウスよ、ここに」

「――ッ」

 

 ()()()()()()()()

 

 そう肌感で理解する。

 

 だから、こそ。

 そんな一撃だからこそ、攻めに転じるタイミングとしては今が最適なのだ。

 

『領域、構築完了――間に合わせたわよ!』

 

 オルガが裏で組み上げていた術式は、俺の代償強化を支えるためだけの魔術領域を構築するためのもの。

 自然界、地脈、歴史的背景、地域伝承その他諸々込み込みetcを含んだ一定範囲領域の白紙化。

 

 それ即ち、因果律の平定。

 

 

「墜ちろ」

 

 

 少年が吼える。

 その叫びに追随するかのようにこの身に迫る雷光を、猛き天の怒りを――嘲笑え。

 

 土台の用意をされたからには、それを巧く使うのが俺の役割。

 アホほどコストの高い転移とは違い、それなりにお安く尚且つ隙の生まれぬ移動法。

 

 確か何と言っていただろうか。

 オーダーチェンジ、だったか?

 

 コレは、もっと疾い。

 

 

 代償強化――戦域改編(エリア)・廻

 

 

 他者との位置座標の交換。

 どこぞの外科医よろしく入れ替わったのは、一度は遠くへ吹き飛ばされた頑丈な彼女。

 

「む、ちゃ、ぶりして、くれるわね!?」

「――ハハッ、全く……勉強になるなぁ」

 

 気配を消して裏を取っていた彼女と位置を入れ替わると同時に、オルガが速攻で起動した魔術に一手間加えて、構えを取る。

 

「ぶちぬけ」

『ぶっとびなさい!』

 

 代償強化×魔改造ガンド――威力300%

 

 両手で作った拳銃より放たれたその赤雷は、雷撃を受け止めきった邪ンヌを巻き込み、少年へと直撃した。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「……痛た……中々、効くものだね」

「なんで私まで巻き込むのよ!? 無事だから良いけどね!?」

 

 衝撃により、舞い上がった土煙が晴れるころには、少年は僅かに顔を顰めながら立ち上がる所だった。

 

「で、まだやんのか?」

 

 思っていたほどのダメージはないが、こちらにもまだまだ余裕は残っている。

 これ以上やるのなら、とことん付き合ってやらぁ、と言った心持ちである。

 ……ごめん嘘、できることならもう戦いはしたくないです。

 さらっとスルーしていたけど、あの子、()()()とか言う禁句発してたもの。

 主神格はまずいっての。

 もう二度とやり合いたくないし、やり合うつもりもない。

 

「…………うん、その顔を見るに、やっぱり僕たちが本気で殺し合いをしに来たわけじゃないことは伝わっているみたいだね」

「…………ま、対話って言ってたしな」

 

 少年が長剣を下げたところで、俺も起動していた代償強化を解除した。

 そう言えば、とアサシンたちの戦闘がどうなっていたのかを確認してみれば――

 

「にゃははははっ!」

「……何なんだ、コイツ。戦略性に知性すら微塵も感じ取れない動きを繰り返して――く、面倒な」

 

「あ、終わりましたかー、マスターさん?」

 

 ふわふわと空中で膝を抱えてのんびりしている女神天使様と、苛立ちが抑えきれていないスーツさん、満面の笑みでわちゃわちゃしているキャットの姿が見えた。

 

 これが茶番と見抜いたアサシンは相性が最悪だったらしいキャットを相手にぶつけることで休憩時間を作っていたらしい。

 

 おサボり上手なようで何よりです。

 そんな所も可愛く思えて仕方のない今日この頃……そろそろ末期か?

 

『今更よね』

「だよねー」

 

 知 っ て た 。

 

 オルガと二人でアサシンを眺めていると視線に気がついた彼女は、ぷかぷかと宙へと浮かんだままコテンと首を傾げる。

 

『鼻血出そう』

「俺の身体だからやめてね?」

 

 アホなこと言ってないで、そろそろ真面目な話に移るとしましょうかね。

 

「んじゃ、仕事の時間だぞロマニ。コイツらとの情報交換ついでに立香たちの様子も聞きたい。茶菓子食ってんなよ?」

『流石の僕も君が戦っている最中にお菓子を貪るほどの度胸はないからね!?』

「にゃは!? お菓子、お菓子とな!? ご主人ご主人――」

「これでも食って、大人しくしてなさい」

「ありがとうなのだな!」

「あ、私のボンタンアメ!?」

 

 上機嫌な猫とアサシンの悲痛の滲む声。

 思ったよりも仲が良好な二人を視界に捉えながらも、意識は赤毛の少年とスーツの男へと向ける。

 

「さてはて、どっから話そうか……やっぱり、まずは自己紹介からいっとく?」

 

 警戒は緩めない。

 意識の片隅に最悪のイメージを置き続けることをやめることはない。

 

「…………ふむ、これで十分か?」

「うん、ありがとう先生。面白いことがわかったよ……とりあえずは、自己紹介だったね」

 

 赤毛の少年はそう言って無邪気に笑う。

 何やら、含みのある言い方をされた気はしたが、そんな細かなことにまで気を遣っている余裕はない。

 

 そして、彼はこちらへと手を差し出した。

 

 

「うん、そうだね……僕の名はアレキサンダー、アレキサンダー三世だ。好きなように呼んでくれ」

『…………頭痛が痛い』

「現実逃避やめなさい」

 

 オルガさんってば、最近フランクになりすぎじゃないかしら。今更だったな。

 

「それで、彼は先生――」

「ロード・エルメロイII世。ただのはぐれだ。まっとうな英霊ではない。故に、私の名など忘れてもらって構わないとも……まあ、まっとうと言える存在の方が少ないこの場に適した自己紹介ではないかもしれないがな」

 

 スーツ姿の男はアサシン、邪んぬちゃん、俺(オルガさん)、そしてキャットと視線を送り、ため息を吐く。

 

 野生で捕まえた癖に、奇天烈さで俺たちと肩を並べているキャットさんが、怖いを通り越してもはや面白くなってきた。マジでなんなんだ、コイツ。

 

『………………』

「どうした、オルガ?」

『……なんでもないわ。ええ、そういうこともあるのでしょう』

 

 世界は広いわね。

 なんて呟く彼女を放っておくとして、こちらも自己紹介をしていく。

 こら、アサシン。駄々こねてないで、挨拶しなさい。

 

 

 

 

「……それで人理修復、か。凡そはアレキサンダーから聞いていた通りだな」

「こっちの事情は今話したの全部だ。可能なら、助力を願いたい」

 

 適当な岩に腰掛けて、膝の上にアサシンを乗せた状態で会話を進める。

 僅かに眉を顰めたエルメロイと笑顔のアレキサンダーの反応が対照的だったが、俺が日本人であること知った瞬間、エルメロイは悩みを放棄したらしい。なんでも、考えても意味のないことについて思考するのは愚行なのだとか。

 

『アレキサンダーから聞いていたってことは――』

「想像の通りだと思うよ。君たちからすれば、僕は人理焼却側の存在によって召喚されたサーヴァントだ……まあ、どうにも馬が合わなかったから、今はもう連絡を取っていないけどね」

 

 それを聞いて、満面の笑みで俺の懐にて丸くなっていたアサシンが薄らと瞼を持ち上げた。

 その頭を優しく撫でつけて、アレキサンダーの方を見る。

 

「そんなに警戒する必要はないよ。君たちのことは理解した。今、僕の興味は別のことに向いている」

「……ナチュラルに我欲的だな、お前」

「まさか、僕はただ知りたいだけさ。自分がどのような道を辿るのか……それを知った上でもね」

 

 やれやれ、といった風に嘆息したのはエルメロイだった。

 ここで、事情説明の後は引っ込んでいたロマンが口を開いた。

 

『アレキサンダー王、単刀直入に聞いてもいいかな』

「……王と呼ばれることに違和感はあるけれど何かな?」

『君たちがこれから先、僕たちカルデアと敵対することはあるのかい?』

 

 おっと、Dr.チキンの癖にいきなり物事の核心を突くとは、少し予想外。

 多分、勇気を振り絞って質問したんだろうなぁ。

 

『何か言われようのない非難を受けた気がするのは気のせいかな!?』

「キンキンとうっさいわね」

『君もそっち側なんだな、ジャンヌ・オルタ! 知ってたけど! 知ってたけどさ!?』

「やかましいですよ」

『ちょっと黙っててくれないかなぁ!?』

 

 いつの日か、アサシンがロマンに心を開く日は来るのだろうか。

 その日が来たら、絶対に記念撮影を忘れないようにしなければ。

 

『脳内メモリの準備はバッチリよ』

「でかした、相棒」

『何話しているかは知らないけど、しっかりしろ保護者!』

 

 

 

 

 ……さてはて、真面目な話に戻ろうか。

 

 

 結論から言って、彼らが俺たちと敵対することは“基本的には”有り得ないとのことだった。

 ここでポイントとなるのは、二つ。

 まずは基本的にという条件がついた理由だ。

 これについての説明は、非常にわかりやすい。

 この特異点における人理焼却陣営側の命令などによる不本意な敵対の可能性がゼロではない、ということだ。

 そして、少し面倒なのが二つ目の方。

 

「カルデアには君以外にもマスターがいるみたいだけど、場合によってはその子と対峙する可能性はあるね……特に、そのマスターが現ローマ皇帝陣営に居るのなら尚更だ」

「…………ローマと敵対したいわけでもなさそうだけど、なんでまたそんなことを?」

「さっきも言った通りだ。君たちと会う前から決めていた。僕は現ローマ皇帝とちょっとした問答を行いたくてね…………少しばかり、“ちょっかい”をかける予定だ」

 

 コイツ、爽やかな笑みを浮かべてさえいれば、何でも許されるとか思ってないよね?

 

 ……後に征服王とか言われる相手だったな。その片鱗が見え隠れしていてもおかしくないか。

 

「……マスターさん、こういう手合いに説得は無駄ですよ」

「俺もそう思ったとこだよ…………わかった。一応、理解はした。どうせ手加減をするような人種じゃねえのも知ってる。そこは、立香を信じることにする」

 

 そろそろ、頭が痛くなってきたな。

 元々、こうやって思考を回すのは柄ではないのだ。

 陰謀とか策略とか、どちらかと言えば、俺は念入りに練られたそれらを被る側の人間である。

 代償強化とか実質「その場しのぎ」と言い換えてもいいような魔術だし。

 

「いい加減、そろそろ終わりにするか。最後にお前らの陣営についての情報をよこしやがれくださいな」

「……君、よくブレない人だって言われない?」

「言われないけど。むしろその逆。ヘラヘラ、へにょへにょと生き続けていることに、定評があるぐらい」

 

 ソースは毒舌メイド。

 アサシンや邪ンヌちゃんからの目が怖いけど、気がついていないことにしておく。

 なんか文句でもある? とか聞くと、凄い勢いで反論が来そうなので無視一択だ。

 

「情報だね、構わないよ……けれど、そちらが一方的に得をするというのも面白くない」

 

 面白くないと口では言っておきながら、露ほども不満げな様子を見せずにアレキサンダーは言葉を続ける。

 

「一つ、取引をしよう。アレを託しても良い相手か……それを判断するために、僕は君たちと戦ったのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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