カーマさんとイチャコラしながら人理修復する話     作:桜ナメコ

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本編から一人称視点になっていきます。



一章 特異点F 冬木
1話 再会


「知らない天井だ……って言いたかったけど、そもそも天井なんてなかったわ」

 

 気が付くと、俺は地面に仰向け大の字状態で寝っ転がっていた。

 ポツリとこぼれたのは独り言のつもりだったのだが……

 

「あなた……突然現れて何言ってるの?」

 

「……何してんすか、所長?」

 

「ほんと、いいクソ度胸してるわね……」

 

 隣には、体育座りをしているオルガマリー所長の姿があった。

 よっこいせ、と体を起こして辺りを見回してみる。

 依然として周りは炎に囲まれていたが、明らかに場所が変わっている。

 

「これが……レイシフト、なのか?」

「ええ、なんだ……話は聞いていたのね」

「……一応ね」

 

 今のも独り言だったんですけど、なんて野暮なことは言わずに所長との会話を続ける。

 

「……いい機会かしらね。私に聞きたいことって?」

 

 それを言われると辛い。

 素人のフリをしたかった、なんて発言をした瞬間、怒鳴り散らされるのがオチだ。

 

「あれは……大したことじゃない。別件で一つ、聞きたいことができたから……と、その前に!」

 

「……別件でって、えーーー?」

 

 頸あたりがピリピリとしていたので、そろそろ来るとは思っていたが……想定外は続くものだ。

 ソレの接近に気がついて所長の体を引き寄せる……浮気じゃないからな!

 俺が誰に聞かれるまでもなく、そんなことを脳内で叫びながら回避行動を取ると、先程まで所長がいた場所を、弾丸のような速度で剣が通過していった。

 

 

「……矢じゃないってのが、既に面倒なんだよなぁ」

「ちょ、今の何!?」

 

 既に、ヒステリック気味た反応を起こしている彼女を庇いながらでは、勝負にならない。

 

「黙ってろ……死ぬぞ」

 

 威圧感を発するように、あえて声を低くして彼女にそう伝える。

 

「ひっ……」

「そこまで、怖がられると傷つくんだけどなぁ……」

 

 まあ、好都合か。

 恐らく相手はアーチャー。

 下手に飛び出てこられて、守れなくなるよりは何倍もいい。

 

「人の身で、抗うつもりか?」

 

 ゆっくりと黒い弓を片手に歩いてきたのは、白髪の男だった。

 

「お前も元は人間だろうに……クラス、アーチャー。サーヴァントだな」

 

 アサシンや、これまで戦ってきたことのある怪物どもとは違う。

 赤い衣に身を包み、所々を闇に浸食されている様子の男から、神性は感じられなかった。

 確かめるように俺がそう言うと、思わぬ所から否定の言葉が送られてきた。

 

「……違います。あれは、シャドウサーヴァント……敗北した英霊の残留思念が、怨念や願望、後悔など、様々な影響で現世にとどーーー」

 

「話長い、結論!」

 

「本来より格落ち!弱くなってる!」

 

「了解!」

 

 このまま行くと、オルガマリー先生の授業時間が始まりそうだったので、端的に説明してもらう。

 格落ち、そう聞いたアーチャーが自嘲のような笑みを浮かべた。

 ……絶対にコイツ、面倒臭い性格してる。

 

「もういいか。始めるぞ?」

「所長、そこ絶対動くなよ?下手に逃げれば撃たれて死ぬからな」

 

 そう言った俺に、アーチャーは急接近して……

 

「他人の心配とは……随分と舐められたものだ」

 

 直前で弓が消え、次の瞬間には双刀を持ったアーチャーが切りかかってきていた。

 身体強化をする暇もなく、得物も持たない人間が英霊相手に接近戦をするなど、ただの自殺行為だ。

 

 よって俺が生き残れた理由には、相手が弱体化状態だったこと……そして、後衛が優秀だったこと以外に存在しない。

 

「っぶな……お前もクラス詐欺かよ。所長、助かった!」

 

 薄く、カルデア制服の胴体部に切れ跡が残っているのを見るに、本当にギリギリの回避だった。

 所長が俺にかけてくれた身体強化の魔術が無かったら、と思うとゾッとする。

 

「お前も……か。お前に縁のある英霊が呼び出される前に、片付けた方が楽そうだ」

 

 アーチャーはこのまま接近戦で押し切るつもりらしく、双刀を構え直す。

 出し惜しみする余裕はないため、こちらもある程度のリスクは侵さなければならない。

 

「【代償強化(コストリンク)】全能強化 代償:三分後から一時間の行動不能」

 

 全身に青の光が走る。

 かなり重い代償を払った……これで、勝てないならば諦めがつく。

 

「……ハァ!」

 

 アーチャーが地を蹴った、その瞬間にこちらから男の懐に入っていく。

 突然高速移動した俺に、アーチャーは驚きの表情を浮かべながらも、流石の反射神経で双刀を振り払った。

 

 全能強化

 

 文字通り全ての能力を向上させる。

 魔力量のようなどうしようもないものは別だが、戦闘に関係する能力の殆どは大幅に上昇していた。

 

 例えば……動体視力にも、である。

 

 先程に比べれば、かなりゆっくりに見える双刀の腹を、掌底で弾くようにして斬撃の軌道を変えた。

 そして、防御姿勢を取ることのできないアーチャーの腹へと全力で右拳を叩き込む。

 

 かなりの勢いで、アーチャーは吹き飛んでいくが……思っていたより手応えはない。

 受け身の技術が、相当高いのだろう。

 

「…………くっ、いきなりの、超強化だな。舐めていたのは、こちらだったようだ」

 

 それでも、一撃で仕留めるつもりで放った拳のダメージは大きいのか、アーチャーはフラフラと時折倒れそうになっている。

 

「いいじゃない!これなら、あのアーチャーなんて、簡単にーー」

 

「どんだけ弱体化してようが、簡単に英霊が倒せるわけがないだろ!」

 

 所長の言葉に、つい熱くなってしまった。

 なんなら、対英霊戦において最もピンチなのは、相手を追い詰めた時と言っても過言ではないのだ。

 

「よく、わかってるな……全投影(ソードバレル)連続層与(フルオープン)。何、闇に堕ちた今、宝具は撃てないがこれぐらいで十分だろう?」

 

 アーチャーの背後から数十に及ぶ剣が生み出されていく。

 

「……っ」

 

 相手が遠くにいるのが、またいやらしい。

 

 せめて得物があれば……そう思うも魔術礼装は、そもそもカルデアに持ってきてすらいない。

 

 さらに、所長を守りながら戦うには彼女の元を離れられない。

 

 

「その超強化。長くは持たないのでは?」

 

「……っ、性悪」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

 そう。

 残された時間は少なかった。

 あと一分半程で、俺は一時間の行動不能に陥ることになる。

 

 この瞬間、俺は自分の手でこいつを仕留めることを諦めた。

 

 すぐさま()()()()()()()()B()へと切り替えようとした俺の耳が……強化された聴覚が、聞き覚えのある声を捉えた。

 

 

「……藤丸?」

 

 

 それは紛れもなく、彼女の助けを呼ぶ声だった。

 ほんの一瞬。

 文字通り、たった一瞬き分の時間だけ。

 俺は注意をアーチャーから外してしまった。

 そして、その瞬間を彼は見逃さなかった。

 

「……気を抜いたな」

 

 飛来する大量の剣。

 回避は間に合わず、所長の前で剣を捌き続けることになる。

 所長も援護魔術はかけてくれるのだが、量が量だ。

 

 次第に、捌き切れなくなった剣が、俺の頬をかすめ、額をかすめ、太腿に刺さり……そして、左肩を貫いた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

「……嘘」

 

 

 血が飛んだのか、その銀髪の一部を血に染めた所長が、俺の様子を見て呆然と呟いた。

 突き刺さった剣は時間経過で消滅していき、塞いでくれていた物質を失った傷からは、大量の血が溢れ出てくる。

 

 しかし、プランBには好都合。

 これで必要なものが全て揃った。

 

「……はぁ、はぁ……一撃で、仕留めなかったのは……失敗、だったな。アーチャー!」

 

「……?……何を言って」

 

 ボロボロな俺に文句をつけられて、アーチャーは本当に困惑したようで、素の表情を見せた。

 

「所長、魔術ってのは……形式が、大事なんだよ、な?」

「え、ええ。あなた、一体何を」

 

 今も流れる続けている血を指につけ、円を描く。

 

 召喚魔法陣なんて、書くことなどできないけど。

 

 彼女が『お揃いです……別に、他意はありません』と赤面しながら渡してきたアクセサリーを中心に置いた。

 

「まさか……龍脈もないのに、触媒も無しで……そんなの、認められるわけがないでしょ!」

 

 俺が何を考えているのか理解した彼女は、大声でこちらを非難してくる。

 

「魔力は……ある」

 

 懐から取り出したのは……虹色に輝く結晶体。それも円の中央に置いておく。

 これは、俺と彼女が得た、大量の魔力を物質化したものだった。

 聖杯の半分程度の魔力……下手な龍脈なんかより、よっぽど上質で大量の魔力が用意されている。

 

「触媒は!?縁がなければ、魔力なんていくらあってもーー」

「縁は既に結んである……一応、物は置いといた。問題があるのは、魔法陣だけだ」

 

 そこには、円が一つ書いてあるのみ。

 

 だから……

 

「30秒、耐え凌ぐ……全力で、マシな形にしてくれ」

 

 所長に全てを託す。

 

 

 

 

「【代償強化】腕力強化・右 代償:左腕の感覚」

 

 飛んでくる大量の剣、上手くタイミングを合わせて右腕を横に薙ぎ払う。

 重ねて強化され続けている右腕は、それらを纏めて吹き飛ばした。

 

 毎度の強化の際に、魔力回路を酷使しているため、そちらの面でも限界は近付いている。

 お陰で全身には激痛が走り続けていた。

 

 多数の剣による遠距離攻撃は無駄と判断したのか、アーチャーは漸く弓を取り出すと矢の代わりに剣を番える。

 

 

 

 そして、弾丸()が放たれた。

 

 

 

 避ければ、所長に当たるという性悪ショットを、仕方なく右腕で迎え撃とうとして……そこに浮かびあがっていく赤い紋章の存在に気がついた。

 

 

 

 

「本当に、どこまでもバカなのは変わりませんね、マスター。そんなことやったら……腕が爆ぜて、終わりですよ」

 

  

 彼女の放った矢で弾き飛ばされる剣。

 

 本当に……お前、最高。

 マジで愛してる。

 

 そして、体の限界と【代償強化】の影響が同時に来る。

 魔術回路を使用し続けたこともあり、疲労感……そして、彼女の声による安心感で眠気がピークに達した。

 

 倒れる直前まで、なんか色々言っていたが……面倒なので、こちらの指示だけ先に言う。

 

「……とりあえず、早くイチャイチャしたいから、さっさとあのアーチャーやっつけてくれない?」

 

 それを指示と呼んでいいのか?

 そんなツッコミは知らない……あ、コレ無理。

 もう倒れて、寝ます。

 

◇◆◇

 

 

「あのですね〜、マスター。私、こう見えても結構怒ってるんですよ……なんでか、わかります?」

 

 理由は理不尽なものだ。

 自分で別れを決めたのに、座に帰ったら寂しくなった……なんて、まるで自分が恋する乙女になったかのようで……自分のことながら反吐が出そうになってしまう。

 

 

 愛の神として、全ての人間を愛してあげる……その考えを特に変えるつもりはなかったが、彼の前でその事を口にすることは少なかった。

 別に、尻軽だと思われるのが嫌だったわけではないです。

 ええ、断じて違いますとも。

 痴女だと思われたくなかったから、そういう発言も減らしてた……なんてことは一切ありません。

 ないったらないです。

 

 ただ時々……具体的に言えば、一日にたった三回程のペースで『あなたを愛してあげましょうか?』と聞いていた程度。

 彼が私に嘘をつけないことは、契約した時から知っていたので、即決で断られた時には少しだけプライドが傷ついたり、寂しかったりもしましたが……それは、それ。

 

 

 最後の最後に、愛をくださいと言ったのだから、彼の負けです。私の勝ちです!(誇張表現)

 

「……とりあえず、早くイチャイチャしたいから、さっさとあのアーチャーやっつけてくれない?」

 

 ほら、マスターもこう言ってますし……相思相愛じゃないですか!

 あ、間違えました、相思ではなかったですね……って、え?

 ええ?ちょ、急に素直になりすぎじゃないですか!?

 デレ期ですかね?

 マスター()離れてて寂しかったんでしょうか?

 

 ……あ、倒れた。

 

 

「なんだ、傷だらけで疲れ切って、いつもの余裕がなかっただけですかぁ……」

 

 ……はぁ、と溜息をついてから漸く心を落ち着けた。

 少しはしゃぎ過ぎたかもしれない。

 私は愛を与える神なのだから、もっとしっかり余裕を見せていかないと……あ、マスターの寝顔を見るのも、久しぶりですね!

 

 完全に眠っていることを確かめてから、屈み込みその頭を撫でてみる。

 

「ゆっくりと休んでくださいね、マスター」

 

 そう呟いた後……

 

 彼女の様子が変貌した。

 

「さて……そこの残りカス(アーチャー)さん。この依代の子と多少なりとも縁があるようですけど……そんなこと、考えられるほど精神的に余裕はないので、さっさと愛します(殺します)ね?」

 

 姿は少女の姿から妖艶な美女へと変化し、髪は腰あたりまで伸び、衣装もその美しい身体を見せつける扇情的なものへと変わっていく。

 身体無き者(アナンガ)、としての属性が強まったその姿の所々は透き通っておりシヴァに焼かれたとされるその身には、かの最高神の残り火が宿っていた。

 

 滅多にマスターへと見せることのないその姿は、彼女が戦闘面で全力を出すという意思表示に他ならない。

 

 ただでさえ、英霊と比べて格が高い神霊。

 その、全力開放にシャドウサーヴァントであるアーチャーが耐え切れる道理はなく。

 

 数秒と経たずに戦闘は終わりを告げる。

 

 仮に並のマスターがこの姿をした彼女を使役すれば、その昂りは簡単には収まらず、彼女が格の高い神霊であるという状況も働き、制御すらもが難しくなっただろう。

 

 しかし奇跡的に彼女は、今のマスターに懐いてしまったのだ。

 

 頭を撫でられただけで、内心ではなんでも許してしまえそうなぐらいのデレっぷりを見せている彼女に、マスターによる行動の制御なんてものは関係なかった。

 

 

「マスター……お隣失礼しますね」

 

 

 姿を少女へと戻した彼女は、眠りこけてるマスターの胸にしがみつくような状態で横になる。

 

 離れていた時間の反動もあり、やけに素直なアサシンは幸せそうな表情でその時間を堪能していた。

 

 

 

 

 身体強化の補助により一人のマスターの命を助け、最短で召喚魔法陣の中枢となる要素だけをかき集めたオリジナルの魔法陣を作り上げ、アサシンが眠りについた後も倒れたマスターへ回復魔術をかけ続けた。

 

 今回のMVPが彼女、オルガマリー・アニムスフィアであったことは、間違いなかった。

 




プロローグに比べて、主人公が弱体化しているのには理由があります。
安心してください。
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