「去年カチューシャ達が勝ったところに負けるなんて」
「勝負は時の運と言うでしょ」
準決勝で黒森峰に敗北した後、ダージリンはプラウダ高校にやって来ていた。
応接室に案内され、紅茶とジャムとお菓子のもてなしを受ける。紅茶にジャムを入れようとすると、それを制止される。
「ちがうの。ジャムは中に入れるんじゃないの。舐めながら紅茶を飲むのよ」
ダージリンは視線を紅茶から対面に座っている少女に移す。
見た目は小学生とほとんど変わらないが、歳はダージリンと同じで見た目に似合わず誰よりも勝ち気で横暴な性格の人物、プラウダ高校の隊長カチューシャだ。
ジャムを舐めたからカチューシャの口元にジャムがついている。ついていると指摘しようかと思ったが、指摘するとプライドが高い彼女が怒るのは想像しやすく、自分が何も言わなくても彼女の右腕である少女、ノンナが言うだろうと考えてスルーすることにした。
「ついてますよ」
「余計なこと言わないで」
ほら。想像通りだった。
「次は準決勝なのに余裕ですわね。練習しなくていいんですの?」
「燃料がもったいないわ。相手は聞いたこともない弱小校だもの」
「でも、隊長は家元の娘よ。西住流の」
えっ、と息を飲むカチューシャ。ダージリンはやっぱり知らなかったのかと紅茶を飲みながら思った。
「そんな大事なことを何で先に言わないの!」
「何度も言ってます」
「聞いてないわよ」
「ただし、妹の方だけど」
「え……なんだ」
ほっ、と息をはくカチューシャ。彼女にとって姉の方は脅威と感じてるが妹の方はそうでもないらしい。
「黒森峰から転校して、無名の学校をここまで引っ張ってきたの」
「そんなことを言いにわざわざここまで来たの?ダージリン」
「まさか、それだけじゃないわカチューシャ。あなたは、本城紅葉を知ってる?」
「誰よそれ」
未知の言語を聞いたような反応を示すカチューシャ。ダージリンはフッと少し挑発的な笑みを浮かべる。
「あら、彼女のことも知らないの。昨年優勝したからといって天狗になってるんじゃないの」
「言ってくれるじゃない。……で、誰よそいつ」
ダージリンは、写真を1枚取り出すと机の上に裏向きに置いた。
カチューシャは何故わざわざ裏向きに置いたんだと思ったが、特に言及せず写真を表に向ける。
写真に写っていたのは1人の少女。長い黒髪のポニーテール、青いパンツァージャケットを着こなし、背中には間抜けな面構えのカバのマークがのんきな面構えのこの少女に非常に似合っていた。
「本城紅葉、大洗女子のエース的な存在で、今ちょっとした噂の人ね。流石だわ」
「なんでちょっと自慢気なのよあなた」
カチューシャは興味なさげに写真を手に取る。良く言えば平凡、悪く言えば無個性的な顔立ち、強いて特徴を挙げるとすれば、死んだように正気を感じさせない黒目。のほほんとした間抜け面とミスマッチで歪さを感じさせられる。
それが紅葉に対するカチューシャの第一印象だった。
「特徴のない面構えね。で、こいつが何なの。どこかの流派の娘だったり経験者だったりするの?聞いたこともない名前だけど」
「いえ、一般家庭出身ね。戦車道を始めたのも今年の4月から」
「……ダージリン、あなたどうかしたの?そんな素人カチューシャが気にかけるまでもないわ」
カチューシャは完全に興味を失くしたらしく、写真を机の上に戻した。
ダージリンは写真を大事にしまうと、それから数時間紅茶とお菓子を楽しんだ。
色々と言葉を交わし終えたダージリンは、そろそろ自分の居場所に帰ろうとして立ち上がろうとした時、カチューシャにこう告げた。
「カチューシャ次の試合勝ちたいのなら、本城紅葉に気を付けなさい。まだ素人だからといって甘く見ていると痛い目を見ることになりますわよ?」
それだけ伝えると、ダージリンは去っていった。
※
これでいい。あれだけ念入りに警告したのだ。これでカチューシャは、本城紅葉のことを気にかけるはずだ。
私は周りに人がいないことを確認してため息をつく。こんな姿、他の子達には見せられない。
本当に、本当に本当に本当に本当に本当に残念だ。彼女とは決勝戦で戦いたかった。それが叶うまで後一歩だったのに、負けてしまった。
私だけじゃない、アッサムやオレンジペコ、他の子達も彼女達との再戦を望んでいた。
だけど誰よりも彼女との再戦を望んでいたのは自分だと私は自信を持って言える。
カチューシャが本当に羨ましい。4月のあの日から成長を遂げた彼女と試合できるのだから。
私は気持ちを何とか切り替える。どれだけ彼女との試合を願っても私達が負けたのは変わらない事実。いつまでも引きずるのは優雅じゃない。みっともないだけだ。
今は彼女の準決勝を見に行く準備をしなくては。さて、本城紅葉は次の試合どのように切り抜けるんだろうか。
カチューシャ達プラウダ高校は、昨年の優勝校だ。決勝戦での出来事のせいで、色々と心のない事を言われたりするが実力は確かだ。
ああするのだろうか、こうするのだろうかと頭の中で彼女が取りそうな行動を色々と想像する。
それは、アッサムが呼びに来るまでずっと続いていた。
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