ONE PIECE サイヤ人の変異体 作:きょうこつ
「さて…そろそろ終わらせるか…!」
「…!」
ニソラはそこから脚に力を込め、跳躍すると、一瞬で氷柱の上に立つ青雉の目線へと移動した。
「カッカッカッ!!」
「…!」
ニソラは手に気を込めると青雉へと拳を撃つ。青雉は咄嗟にガードをする。が、そのガードは意味を成さなかった。
「ぐぅ…!?」
青雉のガードした腕から身体の芯全てに激しい衝撃が伝わると同時に青雉の身体はその場から吹き飛ばされる。
「餞別だ」
ニソラは吹き飛んだ青雉に目掛けて槍のような気弾を3発放った。その気弾は螺旋状のような軌道で、残像を飛行機雲のように残しながら的確に青雉へ向かっていった。
「またその技かよ…!」
青雉はすぐさま同じように氷の槍を放ち、気弾と相殺させると、自身が落ちる場所を把握し、その場に氷を張った。
生み出した氷の大地に着地すると、すぐさま態勢を立て直そうと構える。
が、ニソラはその前に動き出していた。青雉が気弾を相殺した直後、その爆煙に紛れ、一瞬で着地した青雉の前へと現れたのだ。
「コイツはどうだ…!」
「…!!」
その瞬間 ニソラの小さな身体が消えると、青雉の周囲から大量の衝撃波が次々と放たれた。
いや、衝撃波ではない。それはニソラの一つ一つの蹴りや拳だった。一撃一撃の威力は今までの技よりも多少は下がるが、それはニソラ自身の感覚だ。青雉にとってはその一撃一撃は重たかった。まるで生身を鉄の塊で殴られるかのように。その上、その打撃が先程よりも何十倍ものスピードや手数で周囲から襲ってくるので、ダメージは先程の打撃を一瞬で上回った。
数秒で数百か所を突く人智を超えた怒涛の連撃
____【朧蓮華撃】
見聞色の覇気でさえ捕らえる事が不可能な程の速さで撃ち込まれる故に反撃は不可能。仮に動きを辛うじて捕らえる事ができたとしても、この技は相手の図体が大きければ大きい程、打撃軌道、そして次の打撃を打ち込む部位も大幅に増加する。故に、身長がニソラの倍はある青雉は圧倒的に不利だった。
防ぐにはニソラの打撃軌道、またはニソラが次に狙う身体の部位を先読みしなければならない。
前者は圧倒的な反射神経を持っていれば可能だろう。だが、後者は絶対に不可能だ。ニソラの攻撃を当てる部位は毎回不規則に変わる。無数にあるその部位へ当たる確率を感知しなければならない。そんな事は超人でも不可能だろう。
「ほらほら!どうしたどうした!」
その声が聞こえてくる場所にはもう何もない。完全になす術なし。
だが、青雉にはもう一つの手段があった。
「氷壁(アイスウォール)ッ!!」
「お?」
周囲360度全域への範囲攻撃。自身の想像した形を氷の地面へと伝達させると、その場から青雉を囲むように円形の氷の壁が作り出された。
壁が作り出された事でニソラの連続攻撃は強制的に中断された。
そして、動きが止まった瞬間に青雉は見聞色の覇気を発動させ、ニソラのいる位置を特定する。
「(…そこだな…ッ!!!)」
感知した場所は空中。空中ならば避けるのは難しいと判断した青雉は自身の周りからその感知した地点に向けて巨大な氷の柱を5つ出現させて、一気に感知した場所へ放つ。
「…!?ガハァ…!?」
青雉の感知は当たっていた。その氷の先端はニソラの小さな身体を捉え、腹へと撃ち込まれていた。ニソラも当たるとは思っていなかったのか、驚きながらも、胃液を吐き出した。
「ぬぅん…!!」
手応えがあったとしても、青雉は決して攻撃を中断しなかった。その場からすぐさま冷気をニソラの辺りに撒き散らせる。そして、
『凍結空間(アイスゾーン)』ッ!!!
「な…!?」
高密度に冷気で満たされた空間を一気に凍結させた。先程よりも狭い範囲に冷気は密集していた上に、量も遥かに増していた為に、ニソラの身体は超高密度の氷に包まれた。
「ふぅ〜…」
多少動きを封じる事ができた青雉は目の前で氷のオブジェとなったニソラを見ながら一息つく。
ここまで追い込まれたのは久しぶりだった。その上、本気を出そうにも出す隙を与えない程の俊敏性に、武装色を纏った自身を軽く殴り飛ばす攻撃力。これが自身が所属する政府が最も警戒する人物『MASK MAN』だという事を改めて認識した。
「さて…そろそろトドメを刺しますかな」
ドガァァァン!!!!
後方から大爆音が鳴り響き、司法の塔が柱一本と橋の僅かな部分を残し、それ以外が全て砲弾によって爆破された。
「あっちもそろそろケリがつきそうじゃないの」
そう呟いた時だった。
パキッ
「…!?」
ほんの少しだけ鳴った氷の割れる音。それを聞き取っただけで、青雉の額からまた汗が流れ始める。
「おいおい…嘘だろ…?念のため氷の密度は倍にしてたんだぜ…?」
その予想とは大きく外れた事態が遂に発生する。
「ハァァァッ!!!!」
氷の中で叫ぶ声と共にニソラを覆っていた氷が一瞬で砕け散った。
「もう出てきちまいやがったのかよ…。こりゃ参ったぜ…」
完全なる絶対零度の空間に閉じ込められていたにも関わらず、全く応えていないようだった。
「カッカッカッ。しかし、結構効いたぞ?ちょいと体力が削られちまった」
氷から出たニソラは燃え盛るエニエスロビーへ目を向けると首を鳴らす。見る限りロビンの気が離れていく。もうここには用はない。
そう考えたニソラはある提案をする。
「どうだ?ここで勝負は預けとくか?」
「なに…?」
突然の提案に青雉は驚く。あんなに息しゃあしゃあとはしゃいでいた相手がまさか休戦を申し込むとは思いもしなかった。
「ニコロビンの奪還が成功したからか?生憎だが、この海域は潮の流れが限られてる。奴らの船じゃ脱出は不可能だ」
「んな事はどうでもいい。だったら担げばいいんだよ」
「…は?何を言ってんのかさっぱりだな。……ここでアンタを逃すと俺ら海軍は大失態間違いない。もし、お預けはなし…と言ったら?」
予想だ。あくまで予想。そう思いながら青雉は問う。だが、その瞬間
「…!」
先程よりも更に濃密で広大な殺気がその場を侵食した。目は血走り、鋭い眼光が遠目でも分かる程、鋭かった。そして、青雉に向けてただ一言いった。
「お前を殺す。他の中将5人もまとめてな」
「ひゅ〜…」
その言葉に嘘はない。脅しでもない。確実に自分を葬る事ができる力をこの男は持っている。その上、先程とは殺気の濃度が圧倒的に違っていたので完全に遊ばれていた事を理解する。
ならば、甚大な被害が起こるよりも交渉に応じた方が良いだろう。
「おいおい。そんなマジになるなって」
青雉はニソラを宥める。確かにこのまま闘えば確実に負ける。それは明らかだ。先程から応戦はしているものの、体力を削る以前に完全に遊ばれていた。その上、武装色に似た覇気を纏っておりその上に見聞色でも見破れない打撃を繰り出してくるので明らかにコチラが不利だった。故に呑む以外にない。
「…まぁ、アンタには単独じゃ部が悪いな。本気を出しても勝ち目がなさそうだ。分かった。ここいらでお開きといこう。ただし、海軍としてはただでは見逃せん。ニコ・ロビンとの関係およびその素顔は更なる情報として公表させてもらうぞ」
「好きにしろ」
交渉は成立。ニソラは立ち去ろうとすると、突然と脚を止めた。
「あ、そうだ。五老星って奴らに伝えておいてくれるか?もし、またロビンを付け狙ったら…
________政府もろとも消し炭にしてやるッ!!!!
「ッ!!」
青雉の身体は能力を扱っていない状態であるにも関わらず、氷のように固まってしまった。
自身の所属する海軍の英雄『ガープ』よりも巨大な威圧感。そして、大将である自分を固まらせる殺気。
何度目だ。驚かされるのは。怪しい能力を纏い、氷を簡単に破壊し、空中でもあるのにアクロバティックな動き、あろう事か声色だけで威圧する。
そして、この言葉が発せられた直後、今までの驚きが全て嘘のように吹き飛んだ。
海が先程とは比べ物にならないくらいに荒れ狂い、小さいながらも激しい波がニソラの中心から次々に発生した。
そして、波が止むと、ニソラの姿はもう消えていた。