ONE PIECE サイヤ人の変異体 作:きょうこつ
「うぐぅ…!?」
ためらいの橋にて、ゾロは追い詰められていた。相手は口元を隠し、海軍コートを羽織る大佐。戦闘スタイルは刀ではなく、素手だ。普段のゾロにしてはとてもめずらしい光景である。なのに、なぜ彼が追い詰められているのか、それは能力の『相性』だ。
誰しも必ず自身と相性の悪い敵は存在する。仮にルフィの場合、ゴムは絶縁体である為、電気などの能力系統に対しては無敵といえる。だが、ゾロのような刀を主な戦闘スタイルとして持つ敵には最悪だ。切れやすいゴムの特性をそのまま身に宿しており、斬られた際のダメージが通常よりも増してしまう。このように、悪魔の能力の中に相性の良し悪しが必ず存在する。
一方で、能力者ではないゾロでも、最悪な組み合わせが存在する。それは、『刀へのダメージ』
ゾロの持つ刀は鉄管さえも軽く切断する程の業物である。だが、どんな業物でも、防げない物がある。それは刀の表面の金属元素が、空気中の酸素や水素などの気体と酸化還元反応を起こし、不純物となる現象『腐食』すなわち『錆び』である。
相手はまさにその錆の能力『サビサビの実』を食べた錆人間である。
「フフフフ。どうかね?私の触れたモノは全て錆びていく。刀なら一瞬で散り散りさ」
そういい、刀を掴む手を離す。見ると掴まれた刃は柄を残し、崩れさっていた。
「…!!」
『三刀流』という独自の流派であるゾロにとっては、刀一本の消失は負担が大きい。相手の大佐は休む事なく、再び、腕を構えて迫ってきた。
「さて、どう対抗するかな?刀は私には効かないよ」
「!」
刀を掴むために向かってくる手。それに対し、ゾロは咄嗟に向かってくる手の軌道上に自身の腕を突き出す。すると、掴まれた手からは激痛が走り、見ると生身である腕が少しずつ錆びと化してきたのだ。
危機的状況ながらも、ゾロは皆に警告する。
「気をつけろ!!能力者も混じってやがるぞ!!」
そして、ゾロは片方の動ける腕を握り締めると自信を掴む大佐目掛けて拳を放ち殴り飛ばした。ゾロの腕の筋肉は極限まで鍛え上げられており、巨大な岩石を片手で持ち上げる程だ。その豪腕から放たれたパンチは能力者を一撃でノックアウトし、能力を強制解除させた。
「…!」
侵食された腕は元に戻ったが、手には刃が欠けた刀。これだけは戻る事は無かった。ゾロはその刀を鞘にしまうと残りの2本の刀で応戦する。
ーーーーーーーーー
「はぁ…はぁ…はぁ…」
皆がいるためらいの橋の入り口の塔。もはやそれも塔という意味を成していなかった。天井全てが破壊し尽くされており、ルフィとルッチが応戦している部屋が外から丸見えの状態となっていた。そして、今いる場所と、皆が応戦している場所をつなぐ橋が破損しており、断絶されてしまっているのだ。
そんな中、ルフィはその場でうつ伏せに倒れていた。
目の前には人獣型のルッチが立っていた。だが、その姿は通常の大柄な人獣型とは少しかけ離れていた。3メートルに達していた身長が2メートルに縮み、肩幅も大幅に減っていた。分かりやすく言えば、通常時の体格で人獣型へとなっていた。
その体型のルッチの攻撃はパワーは前の筋骨隆々の姿よりも劣る。だが、スピードは比べ物にならない程まで上昇しており、ルフィの血の流れを加速させて身体能力を向上させる形態『ギア2』のスピードにも平然とついてくるほどの速度であった。
ルフィは戦う中で、一瞬の隙をつかれ、六式を極めた者だけが使える奥義『六王銃』を打ち込まれ、現在はうつ伏せに倒れていた。
「もう終いだ」
その時だった。
「ルフィーーッ!!!!!!!」
その場に聞き慣れた声が響き渡った。その声は手前の崩れた橋の先端から聞こえた。
「…ウソップ……お前…来てたのか…?」
倒れていたルフィは首だけをウソップと呼ばれた男へ向ける。ウソップは咄嗟に心配を誤魔化すかのように叫ぶ。
「勘違いすんじゃねぇぞ!!俺はロビンを助ける為に来たんだ!!お前の顔を見に来た訳じゃねぇーー!!」
そう叫ぶとウソップはルフィの目の前に立っているルッチへと目を向ける。
「オイコラCP9のボスネコ!!俺が相手してやる!!掛かって来いッ!!」
「…ほぅ?」
ウソップは手で招くかのように挑発する。それに対して、疲れていながらもルッチは反応し、闘争心を剥き出しにした瞳でウソップを睨んだ。
「おい!やめろ!アイツは俺の仲間だぞ!」
「フン。ボロボロの貴様に用はない。そこで見ているんだな。自分の仲間が無惨に散る様を」
ルッチはそのままウソップ目掛けて飛び掛かろうとした。
その時だった。
ウソップの隣に影が現れ、空からニソラが飛び降りてきた。
「ニ…ニソラ!?」
「え…!?」
突然のニソラの登場に2人は驚く。一方で、ニソラはウソップが何故自身の名前を知っているのか疑問に思いつつもあえて聞かずにウソップの前に出る。
「なんだ、ロビンの気が離れていくと思えば俺の勘違いか。ロビンはどこだ?」
「え…?向こうで闘ってるけど…」
ウソップの答えにニソラはそうかと頷くと、その場から後ろで大量の海兵達と戦う皆の場所へと走っていった。
ーーーーーーーーー
ニソラが現れた事により、その場にいる海兵達は次々と腰を抜かした。
「ひぇぁぁ!!!アイツだぁぁ!!」
「逃げろぉぉぉ!!!」
数十分前の橋で起きた惨劇を目の前にした海兵達はニソラを見た瞬間にその時の記憶が蘇り、涙を流しながら次々と近くの軍艦へと乗り込む。
「な…なんだ!?」
「どういうこと…!?ニソラが現れた途端 海兵達が撤退なんて…」
近くで闘っていたサンジとロビンはその現状に理解が出来なかった。
「なんつぅ様だよ。海軍がこんな慌てるなんてあの兄ちゃん何しやがったんだ?」
「全員の顔を見る限り…すごい怯えているような…」
フランキーやナミも疑問に思う。ニソラがこちらへ近づく度に海軍達は我先にと軍艦へと逃げ込み、遂には海にまで身を投げて逃げようとしている者もいた。
「どうした海軍共、俺を捕らえなくていいのか?」
そう呼びかけるが、それすらも逆効果となる。声を聞いただけで残った海兵達は次々と悲鳴を挙げて逃げていった。
ルッチと交戦していたルフィを除く麦わらの一味を取り囲んでいた何千もの海兵達はニソラの出現だけで全員が撤退してしまった。
だが、代わりに軍艦から3人の影が降り立つ。
『海軍本部中将』
「うぉ!?嘘だろ!?」
「中将が3人一斉に!?」
咄嗟にロビンやサンジ達は距離を取る。一方で、ニソラを取り囲んだ3人の中将はニソラに向けて鋭い目線を向ける。
そして、剣や拳に武装色の覇気を纏い変色させると、一斉に攻撃する。
だが、目線や、覇気を纏わせる事に時間を使ってしまった故に、ニソラに行動を許してしまった。既に中将全員が覇気を纏い、刀で次々と連携攻撃する事自体を読まれており、ニソラは近くにいる一番最初に動こうとしたヤマカジの腹に向けて蹴りを入れる。
「ぐはぁ!?」
中将は一般の海兵よりも、何十倍もの身体の強度が高い。それは鉄と呼ぶに相応しい。故に生半可な体重では中将の身体に傷一つ付かない。…が、ニソラは全くもって違う。拳の威力自体が要塞や塔に風穴を開けるという馬鹿げた威力な上、蹴りに関しては巨大な竜巻を発生させる程だ。そんな蹴りを至近距離でマトモに喰らえば中将といえども、耐える事は不可能だった。
「が……」
ヤマカジは腹を押さえながら胃液を吐き出すとその場に倒れた。
「…!ヤマカジ!」
気を取られる。その行為はニソラに対して命を放り捨てるも同然だ。ニソラはその言葉を発したストロベリーが気を許したと見て攻撃目標とし、超高速で迫る。
「く!?」
ストロベリーは咄嗟に拳を構えてカウンターを放つ事を目論む。だが、それをニソラは感知。すぐさま軌道を変更し、ドーベルマンへと狙いを定めた。
「…!」
つい1秒前までストロベリーを狙っていた動きが一瞬でこちらに向いた事で素手のドーベルマンは戸惑う。
「ハハッ!!」
ニソラは脚を水平に振り回すと回し蹴りを放つ。その回し蹴りはドーベルマンの身体に刺し込まれ、横から吹き飛ばし、ドーベルマンを声を上げさせる事なく、近くにある軍艦に叩きつけた。
スピードが完全に違う
いくらパワーがあったとしても、捕らえられなければ意味がない。故に残ったストロベリー中将は見聞色の覇気を発動し、ニソラの動きを読もうとする。
だが、
「ごふ!?」
読んだ瞬間からその攻撃は迫り来る。巨大な身体に小さな拳が突き刺さり、その身体を向かい側にある軍艦に叩きつけられた。
「なんだぁ?歯応えがないぞ?」
ニソラはその場で1人で倒れているヤマカジに目を向けると、脚を掴み振り回し、同じように軍艦の甲板に叩きつけた。
中将3人は数分経つ事なく、ニソラによって撃破されたのだ。
その光景を目の当たりにしていた皆は口を開けたまま、何も言う事ができなかった。
「嘘だろ…!?中将をあんなアッサリ!?」
「おいニコ・ロビン…コイツ人間か…!?」
フランキーはロビンに聞くが、ロビンは驚きのあまり何も答える事が出来なかった。
一方で、中将を片付けたニソラは先程の殺伐とした雰囲気が消え失せ、ロビンと再開した時のように活発な雰囲気を取り戻した。
「ロビン!大丈夫か?」
「え…えぇ…」
走り寄ってきたニソラはロビンに駆け寄ると、ロビンの服についた泥を次々と拭き取る。ニソラにとって、もう邪魔者は1人もいない事に等しく、船を見つけて帰ろうかと考えていた。
「そうだ。さっき停泊してた船はどうした?」
「そ…それが」
ロビンは停泊していた護送船が爆破された事を伝えた。それに対してニソラは何も困る様子を見せず、頷くと軍艦に目を向ける。
「なら、一隻奪うか」
「「「「は!?」」」」
ニソラの答えに一味は騒然とする。
「お前何言ってんだ!?確かに軍艦はでけぇがその分海兵も山積みなんだぞ!?」
「なら殺して奪えばいいだろ」
「そんな簡単に言うもんじゃ……ん?」
ニソラを説得しようとしたサンジは突然動きを止めた。背後にある司法の塔跡から巨大な音がしたからだ。
ーーーーーーーーーー
ニソラが去った直後、ルフィは再び立ち上がる。体勢を低くし、片方の手を地面につけながら足をポンプのように弾ませると、全身の血に命令を出す。
“もっと速く巡れ”
それに呼応するかのように血は流速を高めて、ルフィの身体能力を限界まで引き出す。それを知らせるかのように身体からは蒸気が吹き出した。
【ギア“2”(セカンド)】ッ!!!!!!!
「無駄な事を。さっさと片付けてやる…!!」
対するロブ・ルッチも獣のような姿勢で構える。
向かい合う2人の鷹のように鋭い目によって両者の空間が歪み出す。
時間は有限。隔絶された司法の塔跡地にて、2人の能力者の最後の闘いが始まる。
因みにニソラはウソップがそげキングである事は知りません。