ONE PIECE サイヤ人の変異体 作:きょうこつ
__ラ!
何だ?声が聞こえて来る…。
何も映ることのない暗闇の中で自身を呼ぶ声が聞こえてきた。それは何とも聞き覚えのある声だった。
__ニソラ!!
その声が鮮明に聞こえた時 ニソラは意識を回復させると共に目を開けた。
◇◇◇◇◇◇
「……んん…?」
目を開けた時に灯りが差し込み、眩しさに目を強張らせながらもゆっくりと全開する。すると、目の前に人の顔が映り込んできた。
「ロ…ビン…?」
「気がついたようね」
それは何と随分と前に別れたロビンであった。
数日前に別れたばかりだと言うのにこんなに早く再開するとは思ってもいなかった為に驚いてしまう。
目を覚ましたニソラは状態を起こすと、辺りを見回す。自身が寝ていたのは病院に置かれているような寝台のベッドであり、辺りは鮮やかな黄緑色の壁で囲われていた。
「ここはどこだ?」
「ここはサニー号という船の中よ。貴方が海の上を小舟に乗りながら漂っていたから引き上げたの。覚えてない?」
「船……んん…思い出した…!!!」
その瞬間 ニソラの頭の中にある記憶が蘇った。それは自身がゴーストにすり抜けられてから意識を失ったことを。
だが、自身にゴーストを放ったあの少女の声だけは鮮明に覚えていた。
姿形は分からない。だが、声からして幼い少女である事は確かだ。それを思い出した途端に腹の底からイライラが込み上げてくる。
「あのクソガキ…今度会ったらバラバラにしてやる…!!」
「落ち着いて。取り敢えず何があったのか話してくれる?」
「…あぁ」
それからニソラは粗方、記憶を呼び覚まし、覚えている限りの事を話した。城が立つ妙な島に辿り着き、ゾンビに遭遇。その後、城の中の一室に閉じこもり、その部屋の中にあった本を丸一日かけて全て読み、部屋を出てからゴーストによって意識が飛んだ。
「成る程ね」
ニソラの下手な説明を聞きながらもロビンは頭の中で整理し自身が分かるように解釈すると頷いた。
「あ、そうだ」
そんな中、ニソラはスリラーバークに降り立つ前に奇妙な男性と会った事を思い出した。
「何かボロい船を見つけてな。そこに全身が骨だけの奴がいたんだ」
「全身が骨だけ?あぁ。彼の事ね」
すると、それを聞いたロビンは何故か会ったことがあるかのような口ぶりで頷いた。それに対してニソラは首を傾げる。
「知ってるのか?」
「知ってるも何も…さっきまでこの船で一緒に食事をしていたの」
「え?…どういう事だ?」
「取り敢えず外に出ましょう」
◇◇◇◇◇◇
医務室にある扉を開けて潜り抜けると目の前に広がったのは深い霧に包まれた不気味な海であった。
「ここは…」
ニソラはその景色に見覚えがあるのか、ついつい見つめてしまう。そんなニソラの手を引きながらロビンは甲板へと向かった。
すると
「お〜い!そろそろ俺にもミニメリー乗らしてくれよ〜!」
「それどころじゃねぇだろボケ!ナミさんが無事かどうか確認しなきゃだろ!!」
ルフィとサンジの声が聞こえてくる。よくよく見ればその後ろにはゾロと海パンのフランキーもいた。
歩いてくるニソラの足音に気が付いたのか、ゾロが首をこちらに向けた。
「よぅ。目が覚めたか」
「アンタは確か…三本刀…それに海パンと料理長も…」
ニソラの独特な呼び名に次々とサンジとフランキーも振り返る。そして能天気なルフィもこちらへと振り向くと声を上げた。
「よぅニソラ!久しぶりだな!」
「ルフィも……なぜお前らがここに…?それにあの島…」
ニソラは再び島を見る。あれは間違いなく自身が降り立った島だろう。それよりも、なぜロビン達がここにいるのか。ニソラは尋ねた。
「それは私が説明するわ」
首を傾げるニソラにロビンは簡潔に説明した。
なんでもロビン達もブルックという骸骨と遭遇しており、食事を共にする中、この島に遭遇したらしい。彼の目的は影を取り戻す事らしく約数十年もの間、この暗い海を漂っていた様だ。
そしてこの島を見た途端 ブルックはなんと海の上を駆け抜けて島へと消えていったらしく、それを追いかけるために小型船を出したが、それを試し乗りしていたナミ達が操作ミスを起こしあの島に漂着したらしい。
そして現在に至る。
「ふぅん。じゃあそのブルックって奴は影を取り戻す為に島に入ったと」
「えぇ。あと、貴方も影が消えていたわよ」
「…え?」
ニソラは身体をペタペタと触る。だが、特にこれといった違和感は無かった。
「特に影響はないらしいけれど、その状態で日差しを浴びると灰になるらしいわ」
「…!!」
その言葉を聞いた瞬間 ニソラは衝撃を受けた。
「灰になるってことは…死ぬって事なのか?」
「そうなるわね。けど安心して。私も貴方の影を取り戻すのを手伝うから」
そう言いロビンは安心させようとしているのかニソラの頭を撫でる。
だが、
ロビンのその優しい声は届いていなかった。『死ぬ』と聞いた瞬間 ニソラの頭の中に『自身の正体を確かめる』という目的が思い浮かぶ。死んでしまえば自身は何者であるか分からなくなってしまう。
何者であるのか分からないまま死ぬと言うことに危機感を覚えたニソラは咄嗟に目的を変更した。
『影を取り戻す』『奪ったやつ殺す』
という様に。
「…!!」
ニソラはゆっくりと島に目を向けると、飛び立つべく状態を低くする。
「待って。貴方一人でいくつもり?」
「あぁ。奪った奴の目星はついてる…!!」
ニソラの頭の中にホロホロホロと少女の笑い声が再生された。恐らくこの少女が自身の影を奪ったのだろう。まずはその少女を捕まえる事が優先だ。
全身に怒りを纏いながらニソラは飛び立とうとした。
その時
「…!」
ニソラは何かの気配を感じ取り飛び立とうとした姿勢を持ち直すとロビンが立つ場所に向き直る。
「あら?どうし___」
言葉が言い終わる直前。ニソラの拳が握り締められると共にロビンの左側にある虚空に向けて放たれた。
一直線に拳が放たれた瞬間 辺りには強風が吹き荒れ拳の軌道上にある海が音を立てながら波打った。
「ニソラ…どうしたの…?」
「……」
ロビン自身はニソラが自身を的にしていない事を見抜いており、驚きはしなかったが、その突然の行動に理解ができなかった。
その一方で、ニソラは拳を引き下ろすと、首を傾げる。
その時だ。
「おいお前!!ロビンちゃんに何してんだ…ッ!!」
背後から声が聞こえ、振り向くと憤怒の表情を浮かべたサンジが脚を構えていた。
それだけではない。フランキーも腕を外し標準を合わせていた。
確かに他から見ればニソラがロビンを殴ろうとしていたと見れるだろう。
「…。いや、すまん。何か気配を感じたから反応しちまった」
「気配…だと…!?」
ニソラの言葉にサンジは驚きながらもその構えを解かなかった。
一方でロビンの近くに立ち刀を抜かずただ腕を組みながら見ていたゾロはニソラが最初からロビンを狙っていない事を分かっていた。それは感知能力が高いルフィも一緒だった。
「…!」
その時 ゾロは何かを感じ取り刀に手を掛け、辺りを警戒する。
「お前ら気をつけろ!コイツの言う通り船内に何かいるぞ…!」
ゾロの戦闘能力や戦闘に対しての勘の良さを皆は理解しているのか、ニソラ以外の全員は辺りを警戒する。
すると
__ザッ…ザッ__ザッ
サニー号の芝生の上を何者かが歩くかの様な音が聞こえる。だが、どこを見ても誰もいない。
そんな中 ニソラは精神を研ぎ澄まし、持ち前の感知能力によってその足音の正体の場所を絞っていた。
「…!!」
ニソラはその気配を確実に捉え、場所を絞るべく感じ取れる場所に手を向けた。その目の先にあるのはルフィが先程まで立っていた船の柵の部分。
そこの空間だけ
___少し歪んでいた。
「そこだ…!!!」
『!?』
全員がその声を聞き終える直前に既にニソラの身体は動いていた。脚を踏み込み一瞬で狙いを定めた場所へ移動すると、目の前にあったその空間に目掛けて身体を回し遠心力を纏った蹴りを放つ。
その瞬間
バシィィィンッ!!!!
脆い音と共に何かが吹き飛ばされ、その直後に目の前にある島に何かが降ったかの様に巨大な音と共に嵐の様な砂煙が巻き起こった。
その音の方角にニソラは目を向ける。
「逃がさねぇぞ…!!」
何かを蹴った感触を確かめたニソラは全身に気を纏い身体を上昇させるとその島に向けて飛び立っていった。
一方で、船に残った皆はその様子を見て唖然としていた。
「やっぱり何かいやがったのか…あの兄ちゃんすげぇな…」
フランキーは自身らさえも気づかなかった気配を感じ取り、その上的確に蹴りをいれたニソラの芸当に腰を抜かしていた。
「それよりも早く行きましょう。ナミ達が心配だわ」
「よぉし!いくぞ!!探検だぁぁ!!」
ニソラに続きルフィ達も真相を確かめるべく島へと上陸するのだった。
◇◇◇◇◇◇◇
一方で 島へと上陸したニソラは巨大な土埃をあげながら凄まじい速度で森を駆け抜けていた。
「どこだぁぁ!!さっきの奴ッ!それにホロホロ女ァ!出てこぉぉぉぉい…ッ!!!!」
目の前に立ち塞がる障害物がたとえ木であろうと建築物であろうとニソラは次々と手を振り回し破壊していった。
それはゾンビも例外では無かった。
「邪魔だぁぁ!!!!」
『『『『『ぎゃぁぁぁぁ!!!!!』』』』』
スリラーバークに夥しい数のゾンビ達の悲鳴が響き渡った。