ONE PIECE サイヤ人の変異体 作:きょうこつ
ルフィがモリアを追い、城から森へと進むその様子を城の一室から見下ろす影があった。それはなんと、モリアだった。
モリアはルフィの視界から一度消えた際に分身である影法師と入れ替わっていたのである。
「キシシシシ。馬鹿な奴め。逃げている俺が既に影法師と入れ替わってるとも知らずに追いかけてやがる」
ルフィの様子を見物し終えたモリアはオーズの様子を見るべく、目線を移す。
「…ん?」
その時だった。モリアは背後から何者かの気配を感じ取った。
「…やはりテメェか」
その気配が感じる方向へとモリアは振り向いた。そこには筋骨隆々の上半身を持ちながら、モリアと同じ背丈を誇る巨漢が立っていた。
「くま…唯一政府の意向に従う七武海…。一体ここに何しに来やがった?」
「…クロコダイル後任の七武海がようやく決まった事を伝えに来た」
尋ねられた『くま』と呼ばれた男は体格に見合わない程の静かな声で答えた。
「ほぅ?んで、今度はどこのどいつだ?海賊はごまんといる」
「名は『マーシャル・D・ティーチ』黒ひげと呼ばれる男だ」
「黒ひげ?聞いた事ねぇな。懸賞金は?」
「0。元、白ひげ海賊団に所属していたらしい」
「成る程。未知数か。んで?要件はそれだけか?」
モリアはくまからの話を受け取ると、最後に尋ねる。すると、くまの雰囲気が一変した。
「もう一つある………」
そう言うと くまはモリアに向けてなんの感情も読み取れない真っ白な目を向けた。
「政府は懸念をしている…。クロコダイルに続き…もう1人 七武海が麦わら若しくは仮面に倒されるのではないか…と___」
「___!!!!」
その言葉が耳に入った瞬間 モリアは額に青筋を浮かび上がらせると言葉を言い終える前にくまの首元を掴む。
「ふざけんじゃねぇ!!!俺が麦わらにやられるだと!?」
「麦わらのルフィでないにしろ、『仮面のニソラ』に押されているのは事実だろう」
「__!!!」
その言葉が更にモリアを刺激させる。
「おいくまぁ!!テメェいい加減にしろよ!俺がアイツに負けると思ってんのかぁ!?あぁ!?」
「……」
モリアに詰め寄られたくまは顔色を一つも変えず、首を振ることもなく答えた。
「……少なくとも奴は一度、単身で大将と軍艦を退けた身だ。エニエスロビーでも中将5人に加えて同乗していた大佐と少将をおよそ200名並びにCP9の内の4人を破っている。苦戦を強いられるのは目に見えている」
「ッ…!」
その言葉にモリアは否定できなかった。大将を撃退できるのは少なくとも四皇が率いる海賊団の幹部以上の実力がなければ無理なモノだ。その知らせを聞いた当時の衝撃は今でも残っている。
今の自身は全盛期よりも遥かに実力が低下し、大将には力が及ばない事も理解している。故にニソラに勝つのは困難を極めるだろう。
だが、それはあくまでタイマンでの場合のみだ。
今の自分にはオーズや大量のゾンビ兵そして影がある。それらを巧みに扱えば奴を倒す事が可能だと考えているモリアは再びくまの胸ぐらを掴む。
すると
目の前から巨大な破壊音が響き渡った。その音を耳にしたモリアはくまの胸ぐらを掴んだまま振り向いた。この破壊音は恐らくオーズがニソラを葬った音なのだろう。
そう考えたモリアはクマに再び向き直る。
「萎縮してる政府の奴らに伝えておけ!『麦わらの一味は全員ゾンビになり、お前らがビビってる仮面は土に帰った』となぁ…!」
それだけ言い残すとモリアはその場から影を操作し、姿を消す。
残ったくまはその姿を見送ると懐から電々虫を取り出す。
「言われた通り伝えたぞ」
『そうか。ではそのまましばらく様子を見ていてもらおう。万が一という事があるかもしれんからな…』
「了解した」
◇◇◇◇◇◇
モリアとニソラ達が戦っていた場所から続く通り道である円形状の部屋。そこでは立ち塞がったホグバックを瞬殺したロビンとチョッパーの姿があった。
ロビンとの連携によって、見事にホグバックを撃破したが、その直後にオーズの発した攻撃の余波によって、その部屋が半壊し外の景色が丸見えとなってしまった。
「うわぁぁぁ!ルフィの影が入れられたゾンビだぁあ!」
「あれが…!?なんて大きさなの…!」
その巨大な図体にチョッパーは悲鳴をあげ、ロビンも驚きのあまり立ち尽くしてしまう。そんな中、そのゾンビ『オーズ』の手に誰かが捕まっていた。
「…まさか…あれは…!」
その姿をロビンはすぐにオーズに捕まっている人物を理解した。
「ニソラ!」
「なんだって!?」
それは自身達よりも先にモリアの元へと向かっていったニソラだった。ロビンがその名を叫んだ事により、チョッパーも驚愕する。
すると、オーズはニソラを掴んだ腕を持ち上げると、地面に向けて叩きつけた。
巨大な衝撃波が発し、その余波が自身らの立っている場所へと届き、2人は吹き飛ばされないように踏ん張る。
衝撃はすぐに収まり、追い風も勢いを収めた。ロビンは顔を覆っていた腕を退け、目の前の景色を見た。
「…!!」
その瞬間 ロビンの顔が絶望に染まった。目の前には巨大なクレーターとそのクレーターの中心に重ねられた瓦礫の山。先程のオーズの腕からニソラが投げ落とされた場所であった。
「そんな…ニソラ…!!」
だが、それだけでは終わらなかった。その中心部へとオーズは再び腕を振り上げると、次々と拳を叩きつけていった。その拳が叩きつけられる度に瓦礫の破壊される音が次々と響き渡ってくる。
そして その拳の乱舞がようやく終わった時には既に拳が叩きつけられていた地点は瓦礫の海に埋もれていた。先程の叩きつけに加えて連続の乱舞。これ程までの攻撃を受けてしまえば、たとえ猛者だろうと命はないだろう。
「ニソラ…」
その光景を目にしたロビンは現状を受け止め切れず瞳を震わせながら立ちすくんでしまう。
「おいロビン!ロビン!しっかりしろ!」
隣に立っていたチョッパーは彼女の身体を揺さぶり、目を覚まさせようとするが、彼女はその声に耳を傾けられず、涙を流していた。
その時だった。
「「__!?」」
突如として“謎の威圧感”が2人を襲う。チョッパーはそれを感じ取ると身体を静止させてしまう。それはロビンも同じだ。感じた“謎の威圧感”によって無理やり正気を取り戻し、身体を静止させてしまう。
すると
オーズの殴りつけた地点にある瓦礫の山のある地点だけ盛り上がると、瓦礫の山を掻き分けながら黄緑色のオーラを纏ったニソラが姿を現した。
「ニソラ…!」
「あ!よかった!アイツ生きてたんだ!」
ニソラが生存していた事でロビンは安堵の息と共に笑みを浮かべ、チョッパーも歓喜する。
先程の威圧感がまだ残っているものの、ロビンはすぐさま救援するべくその場からチョッパーと共に駆け出した。
その一方で、謎の威圧感を感じたのはロビンとチョッパーだけではなかった。
ナミを攫ったスケスケの実の能力者『アブサロム』と彼女を救出する為にアブサロムと対峙していたサンジ。
ブルックの影を取り戻すべく、彼の影が入れられた剣豪『リューマ』と睨み合うゾロとその戦いを見守っていたブルックとフランキー。
ゴーストプリンセスと呼ばれる少女『ペローナ』を追いかけるウソップに加えて、モリア達に立ち向かうルフィ達を見守っていた影を奪われた者達。
そしてモリアを追いかけていたルフィとそのモリア。
ニソラが瓦礫から姿を現した瞬間 スリラーバークにいる全ての人間とゾンビは達は戦いの手を止めその方向を見つめていた。
◇◇◇◇◇◇
「うぉ〜!!ゴムゴムの〜……【銃】ッ!!」
オーズは雄叫びを上げながらもう一方の拳をニソラに向けて放つ。向かってくる拳に対してニソラは空中で構えると、向かってくる拳に向けて飛び立つ。
「ふん」
迫り来る拳に向けて飛び立ったニソラは直前で軌道を変えると、螺旋状の気の軌跡を残しながらその拳を避け、腕へと着地した。
「遅いんだよ__
____このノロマ」
その言葉が聞こえた時には既にニソラの身体はその場所から消え、オーズの顔面の目の前に移動していた。
「ふん」
「がぁ!?」
その直後にオーズの下顎に向けてニソラの脚が振り上げられオーズの身体を打ち上げた。数十メートルもの高さを誇るオーズの巨大な図体が地面から離れ宙を舞った。
そこから更に姿を消したニソラは、今度はオーズの頭上へと脚を振り上げた状態で現れた。
「…!!」
その脚が振り下ろされ飛び上がるオーズの脳天へと深くめり込むと飛び上がっていたオーズの巨大な身体を巨大な衝撃音を轟かせながら地面へと叩きつけた。
「い…いでぇ〜……」
倒れたオーズは全身から感じる巨大な痛みに声を溢していた。その様子をニソラは上空から見下ろしていた。
「弱い弱すぎる。図体だけのデカブツが。お前よりも爺様との組手の方が100倍面白いわ」
そう言い頭の中に自身の数ある武術の中の内、2つを伝授してくれた2人の老人の顔を思い浮かべると、倒れるオーズに向けて両手に赤いオーラを纏いながら構える。
「_____もう終わりだ。ロビンに手が出せない様にお前からバラバラにしてやるよ」
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ーーーー
ーー
数分後。ニソラの目の前には手脚、顎、そして腰から下までを両断され、力なく白目を剥きながら倒れるオーズの姿があった。肉体は完全に崩壊しており、これでもう再生は不可能だろう。
見るとオーズの身体からは一つの影が現れ、森の方へと向かっていった。それを見届けたニソラは夜空に向けて背伸びをする。
ニソラはオーズに関しては微量ではありながらもその伝説を知っていた。ある本に記されていた『国引き伝説』一つの国を持ち帰り住処にしたという何とも信じられない内容であったが、この肉体があるならばそれは真実といえるだろう。
だが、自身のたった数発の攻撃で敗れた事により、ニソラはそれに対して興味が失せてしまっていた。
「はぁ…つまんねぇな」
その時だった。
「ん?」
背後から何者かの気配を感じ、ニソラは振り向いた。そこには額に青筋を浮かべ拳を握り締めながら此方を睨みつけるモリアの姿があった。
「テメェ…!!よくも悉く俺の計画をぶち壊してきやがって…!!その上俺の最高傑作であるオーズを…!!!」
その目にはもう理性がなかった。
「許さねえ…!絶対に許さねぇ…ッ!!!」
あるのはただ____怒りのみ_。
「モうこの島ごとテメェを砕いテやルッ!!!」
その瞬間 モリアは空を見上げると巨大な咆哮を上げた。
「ヴォオオオオオオオ!!!!!!」
モリアの巨大な叫び声がスリラーバーク全土に響き渡る。島の周囲の海が荒れ、森に凄む鳥達も次々と逃げる様に飛び立っていき、島そのものを揺らしていった。
【影の集合体】…ッ!!!
すると 辺りから次々と黒い物体がモリアの足元へと集まり吸い込まれていった。影が吸い込まれていく内にモリアの身体は次々と膨張していき、集まる影の数も増加していった。
「キシシ…キシシシシ…!!この俺に喧嘩を売ったことを後悔サセてやル…ッ!!!」
「…ほぅ?影を吸収か…」
ニソラの目の前には先程のオーズを悠に超える超巨体へと変貌したモリアの姿があった。首元や身体は風船の様に腫れ上がり、二つの巨大な手はまるで巨木の様に大地に立ちその全身を支えていた。
「この姿になっチマッたからニはもウ簡単には止めらレねぇぞ…ッ!!自分でも制御が効かなクナるかラなぁぁ!!!」
空へと響く不気味な笑い声と共にその巨木のような腕の人差し指がニソラへと向けられる。
それに対してニソラは腕を軽く回すと鋭い目を向ける。
「無駄だよ」