ONE PIECE サイヤ人の変異体 作:きょうこつ
『世界政府』それはニソラが最も憎む相手である。時は遡る事数年前。自身の会得した拳法の師範である2人の老人の最後を看取ったニソラは住んでいる島を飛び立ち世界を放浪していた。
時に海を越え本を見つけては三日三晩読み尽くし、時には奴隷を積んだ船を襲撃しては金品を盗みついでに奴隷を解放したり、無人島に籠り武術の向上に励んだりと略奪と読書そして武者修行の日々を繰り返していった。
目的は2つ。自身の正体を知る事と『オハラを滅ぼした犯人』を葬る事。
ニソラの心の中にはロビンの師であるクローバー博士から多くの事を教えてもらった感謝の念が残っていた。
ロビンを守る事に執着しているのもクローバー博士から教えられた『最初に出来た友は一生を掛けて守るもの』に基づいている。
彼らを亡き者にした“元凶”はニソラにとって“憎むべき相手”であった。
そんな時にたどり着いた場所はシャボン玉が次々と生み出される不思議な島『シャボンディ諸島』
その島は巨大な樹『ヤルキマンマングローブ』が密集したことによって作られた磁気のない島である。
この島は海賊王を夢見る若者達が新世界へと向かう際に必ず立ち寄る場所かつ無法地帯でもあり、昼夜 人攫いや騒ぎが絶えない島である。
その島にてニソラは1人の白髪の老人と出会った。同じレストラン内でその老人は金を払えず困惑していたが、ニソラはそれを見て気まぐれに金を立て替えた事によりその老人から感謝されると共に中心街の離れにあるバーへと招かれた。
「君は…心の中に闇を持っているね。それもかなり深い」
「…!」
その際に言い放った老人の言葉にニソラは驚くと共に自身がオハラの生き残りである事と共にバスターコールを起こした犯人を探している事を話した。
そして その老人ならば何かを知っているのかと思い、尋ねた。
「それを指示した奴は誰か知っているのか?」
尋ねられた老人はバーの女主人から出された水を喉に流し込みながら答えた。
「差し詰め…世界政府といったところだろう。彼らは世界の均衡を保つ為ならどんな手段も厭わない。オハラもまた…生き急ぎ過ぎたのかもしれんが…あれは酷いものだったな」
「世界政府……」
その言葉を聞いたニソラは頭の中の憎悪が沸き立ち始める。
「それが博士やロビンの母親達を殺した奴らか」
自身の親友であるロビンと多くの事を教えてくれたクローバー博士達を消し去ったバスターコールとそれを指示した世界政府。
この時よりニソラの中では『世界政府は敵』であるという事が認識された。
◇◇◇◇◇◇◇
くまの傍に現れたニソラは宙に浮きながらその電々虫を睨みつける。
「いま、世界政府って言ってたよな?」
「…だから何だ」
「代われ」
ニソラの言葉にくまは躊躇する事なく電々虫を近づけた。その内容を聞いていたのか、電々虫から老人の声が聞こえてくる。
『なんだ?貴様は』
「知ってるだろ?お前らが仮面仮面って呼んでる奴だよ」
『な…!?くま!どういう事だ!?奴は瀕死ではなかったのか!?』
電話の相手は先程とは違う状況に驚きくまに問い詰めた。それに対してくまは何の動揺もなく答えた。
「俺は自分の目で奴が疲労していると見た故に状況を言ったまでだ。それに瀕死とは一言も言っていない」
『ぐぅ…』
その答えは全くの正論である。それに対して五老星の1人は歯を食い縛るとニソラに向けて尋ねる。
『一体何の用だ…?いまは貴様と話している時間などない』
それに対してニソラは頬に筋を浮かび上がらせながら自身の目的を言い放った。
「端的に言ってやる。ロビンに二度と手を出すな。出せばこの先の数年間の内に俺はお前ら政府を滅ぼしにいく」
『……いきなり何を言っている?』
「ロビンを狙うなって言ってるんだよ。理解できないのか?青雉って奴からもう情報は届いてるだろ?俺もロビンと同じオハラで育った。奴は俺の親友だ。だが、お前らがバスターコールとやらでそれを全て消しロビンをあれやこれや使って追い詰めてるらしいじゃねぇか」
『だから我らを消すと?同じオハラで育ったならばその気持ちは分からなくもないが、随分とくだらないな』
「あ…?」
ニソラの言葉を盾で弾き返すかのように老人は言い放つ。
『我ら政府は信用と絶大な力によって成り立っている。いくら大将を退けた貴様でも我らを潰す事は簡単な事ではない。貴様はニコ・ロビンと関係があるが故に我らを恨んでいるようだが…__
_____ハッキリと言ってバカバカしい。オハラを消し去ったのも彼らが我ら政府が触れる事を禁止としていたモノを秘密裏に研究していたからだ。関わった者が罰を受けるのは当然。それはニコ・ロビンも例外ではない。いくら貴様が何をどう言おうと奴を捕らえる手は緩むことはない』
すると受話器から聞こえてくる老人の声が一層低くなった。
『あまり粋がるなよ小僧…!。貴様の感情など知った事ではない…。ここで断言してやる。ニコ・ロビンの罪は消える事なくこの先残り続け、奴を捕らえる手は止まらん。そして我らを潰すなどと言う戯言を軽々しく口にするな…ッ!!』
受話器越しからでも伝わってくるその威圧感。それは並の人間が聞けば言葉を発せなくなってしまうだろう。
だが、ニソラは違っていた。寧ろその“逆”であった。
「…軽々しく……バカバカしい…戯言……だと?」
五老星の放ったその一言がニソラを黙らせるどころか怒りを湧き上がらせ一瞬にして頂点へと上昇させていった。彼らによって自身や博士達は大砲の炎に焼かれロビンはこの数十年、裏切りを繰り返す地獄を味わった。
それをバカバカしいと言い放たれた事によってニソラの内に抑えられていた怒りが遂に鎖を断ち切り巨大な気と共に解放された。
「まさかできねぇとでも…思ってんのか…?」
___その瞬間
スリラーバークどころか魔の三角海域全体を巨大な殺気と威圧感が覆い尽くした。先程まで静かに波打っていた海は震え出し巨大な水飛沫を発生させていく。
いや、海域という可愛い範囲内ではない。この新世界前半の海…
____否、この星の半分を巨大な殺気と威圧感で覆い尽くしていた。その中心であるスリラーバークは激しく揺れていき、辺りでニソラを見つめていたルフィ達はニソラから発せられる巨大な殺気によって硬直してしていた。
そして
その殺気は海を渡り遥か遠方にある『赤の大陸』上に聳える聖地マリージョアの中心に立つパンゲア城の五老星の所にまで届いていた。
パリーンッ!!!
『…!?』
その時 受話器越しからガラスが次々と割れる音が聞こえてくる。それはニソラが気を解放した直後の事だった。
その殺気を感じ取った五老星は受話器越しでも分かる程まで動揺していた。その濃密な殺気を間近で感じ取っていたくまの頬からは一筋の冷や汗が流れていた。
『…』
すると 五老星も先程の言葉が戯言ではない事を多少は理解したのか、先程と比べて少し勢いの失った声で尋ねてきた。
『……要件はなんだ…?言っておくが…ニコ・ロビンの手配を無効にしろというのは叶わんぞ。それとも…我らへの宣戦布告か…?』
「そのつもりだが、ロビンを含みここにいる奴らを見逃すなら何もしない。俺にとってはロビンが生きていれば何でもいいからな。それに、コイツらもロビンの仲間らしいし。
もし拒否するなら目の前の七武海とまだ息のあるモリアの首を手土産にお前らの住処を襲撃する。お前らが不利益を被るためならあと10日は動けるぞ…?10日もあればお前らの住処を更地にできる」
『ぐぅ…』
その要件に五老星は歯を噛み締める。ニソラの実力が確かならばくまであろうとも倒される可能性がある。それに仮に要求を呑まなければ七武海を2人落とされた事が世間に露呈し世界政府の信用が更に落ちるとともに七武海の抑止力が格段に下がり海賊達の暴走を掻き立ててしまうだろう。
先程のニソラの威圧感と突然割れた窓ガラスによってその言葉に濁りはないと感じていた。
その一方で、ニソラも本気であるのか目の前に立ちながら此方を見つめているくまに向けて殺気を放っていた。それに対してくまも戦闘態勢を取っているのか、自身の手袋に手を掛けていた。
正に一触即発。五老星の言葉次第で世界の情勢が崩れ掛けようとしていた。
すると 五老星は決断を下した。
『……仕方ない。貴様の要求を呑んでやる』
それは前者。ニソラの要求を呑む事だった。
その言葉が聞こえた途端に先程まで辺りに漂っていた殺気が一瞬にして晴れ、荒れ狂っていた海も穏やかに静まりかえっていった。
『だが、七武海を落とした事を軽々しく口にしてくれるなよ…?』
「お安い御用さ。あんな奴1匹倒した程度、数日もすれば忘れてる。それより…次にロビンを狙えば命は無いと思えよ…?」
『く……この小僧め…』
____ガチャ_。
悔しみの混じった声と共に電々虫の通信は切れた。それを確認したニソラは受話器をくまに手渡す。
「もうここにいる理由は無くなったな」
「そのようだ…」
要件が無くなった事で、くまはニソラ達に背を向けるとそのまま姿を消した。
ようやく全ての難が去った事でニソラは深呼吸をつきながらその場から地面に着地する。
___すると
「うぅぅ…」
バタン。
一瞬にして力尽きるかのようにその場に倒れた。
「ニソラ!」
その様子を見ていたロビンは誰よりも早く彼の元に駆け寄り、身体を抱き起した。
◇◇◇◇◇◇
一方で 世界を二つに分ける巨大な大陸『赤の大陸』の上に聳え立つパンゲア城内にて。
五老星の集う一室では衛兵が集まり怪我の有無の確認や割れたガラスの処理が行われていた。
その中でニソラと通話していたスーツを着用し碇のような髭を生やした五老星は額に手を置いていた。
「数年前にサカズキを殴り飛ばして以来…身を潜めたかと思えばエニエスロビーの事件を機に再び姿を表してきたか…」
「Dの一族もそうだが…此奴もまた野放しにはできんな。まさか遥か遠方からこのマリージョアにまで殺気を放つとは…」
ニソラについて議題が上がり始めたのは数年前。各地で奴隷を乗せた船が襲撃され、金品と奴隷が次々と解放される事件が相次いで起き始めていた時であった。
当時はそれ程までの危険性を感じてなどいなかったのか、全て海軍に一任していた。だが、ある一つの件によって、ニソラの危険度は五老星達が議題として上げるほどまでに発展した。
それは天竜人を殴り飛ばした上に更に駆けつけた大将を行動不能になるまで追い詰めた事である。
「こちらは白ひげについてもあるというのに…あの小僧め…」
「まぁいい。今はこちら二つの方が先だ」
辺りにいる五老星達も頭を悩ませる。だが、悩んでも何も答えは出てこない。
五老星はニソラに対しての苦悩を持ちながらも目線を変えた。テーブルの上に出されたのは二つの手配書。そこには白い髭を生やした巨漢と炎を纏った青年の顔写真が貼られていた。
そしてもう一つ。それは手配書とは全く関係のない古びた資料。そこにはテーブルの上に置かれた一つのジャケットが映されていた。突き出た肩と腰のパッド。更にその横には球体型の機械が映し出されていた。
「白ひげと火拳のエースはもちろんだが、15年前にオハラの跡地にて発見された謎の装備と機械。ベガパンクによるとこの装備と機械の素材が世界のどこを探しても未だに発見できていないようだ」
15年前に発見されて以来、何度も何度もこの資料について議論が交わされて来たが、誰一人として真相に辿り着くことは叶わなかった。世界一の天才科学者である『ベガパンク』でもだ。
「一つ思うんだが…」
その議題が出された際に1人の刀を手入れしていた五老星がある考えを抱いた。
それは__
__オハラ出身であるニコ・ロビンとニソラならば何か知っているのではないのか。というものであった。
それはニソラの身元が発覚する前から考えられており、ロビン捕縛の目的にもそれが関わっていた。
故に今回のエニエスロビーの一件について青雉からの報告を得た世界政府は海軍に対して一つの指令を出した。
『ニコ・ロビンかつ仮面のニソラの両名は確実に生捕りにすべし』__と。
その指令は後に海軍本部総大将であるセンゴクの頭痛を引き起こす種となった。