ONE PIECE サイヤ人の変異体 作:きょうこつ
意識が途切れ、その場に倒れたニソラの意識は闇の中を彷徨っていた。ただ無意識に縦も横もない空間の中をずっと。
__あ〜…腹減った〜…腹が減りすぎてもう動けねぇ…。
感じるのは極度の空腹。それもそうだ。ウォーターセブンを出発してから数日間なにも口にしていないからだ。
それが原因でモリアのトドメも刺し損なった。
本当にいつも肝心な時に締めが悪い。思えば何度もこんな展開になった時があった。今回もそうだが、エニエスロビーの時も。
その時だった。
「元気にやってるようだな。俺の闘い方をベースに新しい武術も得てるらしいじゃねぇか」
……え?
突然と暗闇の中に声が響く。聞き覚えのあるその声が耳に入ったニソラはゆっくりと目を開けた。
「うんうん。それにカッコよく育ってるじゃない」
そこには黒く長い髪を逆立てた青年とその青年よりも頭一つ小さいオカッパ頭の女性が立っていた。
「…!!」
その姿を見たニソラは驚いた。目の前に立っている青年は自身がオハラから脱出した直後に漂着した島で出会い、格闘術を教えてくれた相手に酷似していたのだ。
すると 青年の隣に立っていた女性がゆっくりと歩み寄り自身の右手を握った。
「…それにしても随分と人を殺めているようだね…。まぁ…生き残る為には仕方のない事だとは分かってる…。けど、あまり殺してはダメよ。命は尊いモノなんだから」
そう言い女性は自身の右腕を強く握る。その感触はとても懐かしいモノであった。
「アンタは…一体…」
「それを知るのもまた人生よ。しっかり生きて“ロビンちゃん”と一緒にこっちにいらっしゃい。ずっと待ってるから」
その言葉と共にその女性は自身の身体を抱き締めてきた。
「…!!」
その感触は更に懐かしさを感じさせてくる。先程の手の感触に温かな体温。まるで幼少期の頃から身体に染み込む程まで感じているかのように。
そして
「あれ…?」
自身の頬からは涙が溢れており頬を伝わりながら女性の肩に落ちていった。悲しみなどない。寧ろ感じられるその懐かしさが嬉しすぎるあまりの『嬉し涙』というものが流れていた。
彼女の温もりが深く身体に伝わり温かくさせていく。それがとても心地良かった。
すると その女性はゆっくりと離れると、顔を見つめながら微笑んだ。
「さて、そろそろ時間かな。ほら、早く目を覚ましな。大切な友達が待ってるよ」
「いや、恋人と言った方がいいかもな♪」
「…え?」
その言葉と共に女性はニソラから離れると青年の元に戻った。
「お…おい!何でその事を__うぅ!?」
その女性に手を伸ばそうとした時 2人の後方から光が現れ、自身の視界を覆い尽くした。その光に吸い込まれるかのようにゆっくりと2人の身体が遠ざかっていく。
「お…おい!」
ニソラは諦めずに彼女達を捕まえようと手を伸ばすが、2人の場所まで追いつく事は叶わず、2人の姿はゆっくりと小さくなっていった。
それと共に自身の視界が意思に関係なく閉じられていく。
それでもニソラは何度も叫び手を伸ばした。
「待てよ!ま___」
その瞬間 声を発する事もできないまま、視界が暗闇の中に沈んだ。
だが、暗闇の中で再び女性の優しい声が聞こえて来た。
「頑張るんだよ。私達の可愛いニソラ」
ーーーーーーーー
ーーーーー
ーー
「……」
ゆっくりと目を開けるとそこに広がっていたのはロビンの顔だった。
「ロビン…?」
「ニソラ…!」
名前を口にすると、ロビンは笑みを浮かべながら頬を撫でてくる。
「良かった。目が覚めたのね」
「……」
先程 自身の目の前に現れた青年と女性。その姿を探すべくニソラは頭を起き上がらせると辺りを見回した。
だが、どこを見ても2人の姿が見当たらなかった。あれは一体何なのだろうか。女性を見た時にほんのり感じた懐かしさと抱きしめられた時に感じた暖かさと心地良さ。
それが今も尚残っていた。
「ニソラ、大丈夫?涙が出てるわよ?」
「…え!?」
ロビンの声に驚き、すぐに頬を触る。感じられたのは湿った何か。見ると自身は先程と同じように涙を流していた。
「なんでだ…?…なんか…気分が良いのに…涙が止まらない…なぜだ?」
「?」
ロビンに尋ねてみると、彼女は驚きながらもニッコリと笑みを浮かべながら答えた。
「きっと良い夢でも見たんじゃないかしら?」
「そう…なのか…」
すると
どこからともなくケーキを乗せた皿を持ちながらチョッパーが走って来た。
「おぉ〜い!勝手に起き上がるなぁ〜!!」
◇◇◇◇◇◇
それからニソラは駆けつけたチョッパーから包帯を身体の所々に再び巻かれ始めた。
「おい狸。別に巻かなくていいぞ」
「トナカイだ!たとえ平気でも出血が多すぎると危険なんだぞ!止血はしねぇと!……あ…あれ?いくらなんでも傷が浅すぎる…それに骨折もしてねぇ…」
チョッパーはニソラがオーズから何度も殴られている現場を見ており、予想しなかった程までの傷の浅さに驚いていた。だが、それに対しては言及せずにせっせと包帯を巻いていく。
ニソラがチョッパーに包帯を巻かれているその一方でロビンはニソラが逃げ出さない様に両肩に手を置いていた。
「よし、これでオッケーだ。傷が治るまで外すなよ!」
「ん」
チョッパーからポンポンと叩かれたニソラは辺りを見回す。見ればルフィ達に加えてその他の海賊達が食事をしながらドンチャン騒ぎをしていた。肩を組みながら踊ったり、ドジョウ掬いをしていたり、そしてピアノを弾いていたりと。
そんな雰囲気を見ていると何故だか心の中が踊り出すかのように高揚してくる。
「楽しそうだな」
「うふふ。そうね」
そんな時だった。
「お〜いニソラ〜!目が覚めたんなら一緒に食おうぜ〜!!」
皆の輪からルフィがこちらに向けて手を上げて招くように振る。それに対してニソラもふと笑みを溢すとその輪に入った。
それからニソラはルフィ達のどんちゃん騒ぎに混じり、大いに楽しんだ。そしてその後はブルックの奏でるピアノのメロディーに乗るように『ビンクスの酒』も共に歌った。
「あら、アンタよく見れば素敵ね。結婚して」
「やだ」
『破談だぁ〜!!4445回目の破談だぁ〜!!』
因みに助けた海賊の中でも存在感のある『求婚のローラ』から目をつけられ求婚されたが、勿論ニソラは断った。その際にロビンが一瞬ながらローラに向けて殺気を放ったのは気のせいだ。
◇◇◇◇◇◇
それから宴を終えると、ルフィ達は船へ。その一方でニソラは少量の食料を入れた麻袋を肩に掛けながら島を発つ準備をしていた。
サニー号の甲板に立ち、太陽の登る空を背にニソラは見送りに来た皆に礼を言った。
「世話になった。いいのか?こんなに貰っちまって」
「気にすんな。俺たち友達だろ?それに仲間も助けてくれたしよ!こっちこそありがとな!」
そう言い見送りに来たルフィはニシシと笑いながら返してくる。その一方で後ろでは同じく見送りに来たナミが不服そうな表情を浮かべていた。
「それよりも本当にいっちゃうの?ロビンが寂しがるんじゃない?ねぇ?」
そう言いながらナミは隣に立っているロビンに目を向ける。それに対してロビンは首を横に振った。
「寂しいけど、彼には彼の目的があるんだから私なんかの為に使わせては勿体無いわ」
そう言いロビンはニソラに近づき膝を曲げ目線を合わせるとその身体を強く抱き締めた。
「元気でね」
ロビンのその身体に包まれ温かな温もりを感じる中、ニソラはその感触を夢の中で会った女性と重ねながら抱き締め返した。
「ロビンもな」
それからロビンと抱擁を交わしたニソラはゆっくりと飛び立った。日の指す空へと飛び立つニソラに向けてロビンはもちろんルフィやナミ、ウソップにフランキー、チョッパー、サンジ、そして仏頂面のゾロも手を振った。
「じゃあな」
それに対してニソラは手を振り返すと、次なる目的地へと向けて緑色のオーラの軌跡を残しながら地平線の彼方へと飛び立っていった。
そして、その姿が見えなくなるとルフィは皆に目を向ける。
「よし、俺達も行くか!」
それからルフィ達もサニー号へと乗り込むとローラ達に見送られながらスリラーバークを出航し、次の島へと向かっていった。
◇◇◇◇◇◇
スリラーバークから遥か遠く。シャボンディ諸島付近に立つ超巨大な鉄壁の要塞『海軍本部』
要塞の最上階に位置する元帥室のバルコニーには2人の男が立っていた。
海軍本部総大将もとい元帥“仏のセンゴク”
海軍本部中将“拳骨のガープ”
海軍本部最古参かつ最高峰の実力者たる2人は険しい表情を浮かべながら目の前の光景を見つめていた。
「こんな真似をできるのは奴しかおらん…」
「まさかまたシャバに出てくるとはな…」
そこには一隻の空を飛ぶ巨大な海賊船。
そしてその後ろには_____
_____海軍本部に停滞している全ての軍艦が宙に浮いていた。まるで大地がひっくり返っているかのように。
いや、それだけではない。海軍本部の堅固なる建物が一部、崩壊していたのだ。防護壁の含まれる砦は中身が丸見えになる程まで破壊され、大将の控室のある南の棟は完全に崩壊していた。
幸いにも大将の3人は別の棟にいたものの、もしも運悪くあの場所にいたとすれば重傷は免れなかっただろう。
それ程の威力のある攻撃が先程、本部を襲ったのだ。
辺りには駐屯係の海兵達が集まり復興作業を行なっていた。
「奴め…この20年間行方を眩ませていたかと思えば…一体何をしていたというんだ…」
「これはどう見ても人間ができるモンじゃねぇぞ…!!」
◇◇◇◇◇◇◇
空に浮かぶ空中戦艦の中にて白衣を着た多くの科学者達が操る巨大なモニターを目の前に映し出される景色を見ながら葉巻を吸う男の姿があった。
「ジハハハ!!コイツは絶景だ。まぁただの挨拶代わりだがな」
高笑いする男の名は__
___『金獅子のシキ』
すると、シキは自身の傍へと目を向ける。
「それにしても驚いたぜ。まさかたった数発の攻撃だけであんな風にしちまうなんてよぅ」
そこには1人の青年の影があった。シキに比べて遥かに小柄。全身には謎の黒衣を纏い顔はフードに覆われていた。
その青年は腕を組みながらもフードの合間から見える鋭い目をシキへと向けた。
「フン。別にあれぐれぇ朝飯前だ。なんなら、本部ごと消しても良かったんだぜ?親分さんよ」
「ジハハハ!それじゃあ面白くねぇ。最初に恐怖を与え、いたぶるからこそ更なる恐怖に怯えるその様をジックリと観察できるのさ」
「ふん。いい趣味してやがる。流石は世界を掴む男だ」
青年はシキを称賛すると再び目の前に映るモニターへと目を向けた。
「フッフッフッ。楽しみだな。“同族”と会うのは…!」
モニターを見ながら不敵な笑みを浮かべる青年の腰からは一本の毛深い尻尾が生えていた。