ちょっとだけシリアス入ってます!
気が付くころにはそこに立っていた。いや、立っているという表現はあっているのだろうか。重力という概念がないかのように宙に浮いた感覚が皮膚を伝って教えてくる。でも不思議と足元には地面がある気がする。気がするだけだが。
周りは薄暗く、何があるのかが分からない。それでいて上下感覚も足元にある違和感以外に測るものがなく、嗅覚、聴覚も機能していない。体を動かしてみる。腕や指先、肩などは無事に動いた。上半身は問題なく動かせるようだった。問題は下半身である。全く動かない。まるで自分がここにいたいと“本能”が脳の指示に拒否反応を起こしているようだ。金縛りなのか?
「…っ!」
頭上から何かが降ってくる。暗くて何かわからない。鎖?縄?だめだ、分からない。その“何か”は俺の体を締め付けるように絡まっていく。解こうにも解けない。必死の抵抗も無駄に終わるようだ。もう、息もできない。きっとこのまま死んでいくのだろう。でも確かに聞こえたんだ。脳に響かせるような声。性別も年齢もわからないけど、聞こえたんだ。
「もう、やめちゃえば?」
プツンと音がしたところで記憶が途切れた。
「…っん」
「ああ、起きましたか。」
綺麗な透き通る声と共に意識は覚醒し始めた。綺麗だけで表すのは失礼なのかもしれない。その声には幼げは残っておらず、酷く落ち着き赤子をあやすような声だ。それでいて少し攻撃的な短期らしさがあふれる口調で心配してくるのだから調子が狂う。
その声の持ち主に自分の生存を伝えようと体を起き上がらせようとする。…も、頭痛という邪魔者が体を押さえつけてくる。何だこれ…実弥さんのドロップキックでもここまで痛くないぞ←
「あぁ、無理に起き上がらないでください。風巻さん。」
「そうさせていただくよ…胡蝶妹さん。」
おとなしく寝台に背中を預け、やっと心配してくれる心優しき知人と対面できる。態度も優しければいいのに。まぁ、そんなこと言ったら二度と瞼は開けられなくなりそうだから言わないけどね。ただでさえよく怒らしてるんだ。次は蝶屋敷出禁かな?あらやだそれ死亡ルート確定じゃん。
「うん、今日もきれいな顔してるね!」
「あなたに褒められるくらいなら整形した方がマシです。」
「俺への好感度どんだけ低いんだよ…。朝起きてからそれは精神に来るわ。」
「そのまま死ねばいいのに。」
「仮にも上官なんだけど!」
こいつどんだけ俺のこと嫌いなのよ、現実世界のツンデレとか本当に需要ないから!あれ?こいつのデレ見たことなくね?ツンツンとかラブコメでも見たことないよ…。ハリネズミみたいで痛そうだし。
「冗談は六分の一くらいにして、『六分の一本気なの?!』うるさいです黙っててください。
…寝ているときうなされていましたけど大丈夫でしたか?」
確かに悪夢のようなものを見ていたような気はする。その証拠に寝巻が汗でびしょ濡れだ。敷布団の方にも染みついているかもしれない。なにより、体の違和感がすごい。宙に浮いたような感覚で無意識に落ちていく感覚がする。おいそこ語彙力なさすぎとか言って笑うな。語彙力ないのは事実だけど言わなくてもいいじゃないか。
「そうみたいだね…。でも大丈夫だよ。寝る口実にもなるし働かなくてもいいしね!」
「これが上官だと思うと、隊士の質が落ちているのも頷けますよ。」
辛辣ゥゥゥ!!もう年下にも向けない哀れな目でこっち見ないでほしいですね!喧嘩するほど仲がいいってか?誰が作ったんだその言葉!今俺は喧嘩した結果、心がボロボロだぞ!パワハラか?新手のパワハラか?部下から受けるパワハラってなんて言うんだろう。部下ハラ?なにそれネーミングセンス悪すぎ!…一人でいくらでもしゃべれそうだな、ぼっち極められそう。今度一人でかくれんぼしよっと。あれ?これ冨岡さんじゃね?
「じゃあ、私そろそろ行きますね。」
「分かった、あ、待って!」
「どうかしました?私あなたみたいに蟻の行列眺めて一日終わるほど暇じゃないんですけど。」
「俺の印象、蟻眺めてる四歳児かよ…。
いや、お礼を言おうと思ってな。し(・)の(・)ぶ(・)、面倒見てくれてありがとう!カナエさんにもよろしく言っといてくれよ。」
「っ!分かりました伝えておきますくれぐれも病室から抜け出さないように抜け出したら実験台ですからね姉さんからの制裁もあると思っていてくださいそれではまた!!!」
「すげぇ、あいつ一息で言ったぞ…。どんだけ早口言葉得意なんだよ。趣味は早口言葉ですってか、うわぁ趣味渋っ!おっさんでもいないわ!面接で有利になるのアナウンサーと声優くらいじゃね?」
あんな怒るか普通?顔も真っ赤だったしめっちゃ急いで出て行ったよ。わざと名前呼びしたんだけどあそこまで嫌がられると心に来るものがあるな…。
あ、銅貨忘れて行ってる。あの銅貨カナヲちゃんのだよな?やばいじゃん届ないと。まぁアオイちゃん来てからでいいか。さぁ寝よ寝よ。あれ?何か忘れているような…。
朝日が地面を照らし、鎹鴉の鳴き声が少なくなる静寂な空間でまた鳴は夢の空間に意識を移していた。残された銅貨は表を向け日光を反射させ続けていた。その反射先は、まだ誰にも分からない。
「で、俺が夢の世界に浸っている中。あんたらは俺のかわいらしく凛々しい顔に落書きをしたと。」
「部屋に筆があるのが悪い。」
「…(俺も賛成はしていたが実際に書いたわけではないので)俺は悪くない。」
「大事な部分省きすぎて私が犯人ですって言ってるのと同じだわ。てか賛成してんじゃねぇか!」
今の現場の状況(カオス)を説明しよう。鳴の就寝中にお見舞いにやってきた先輩組(伊黒、冨岡、宇随、おはg…ゲフンゲフン、不死川)は寝ていることをいいことに悪戯決行を決断。第七十四回悪戯作戦会議の結果、顔に『私をいじめて下さい♡』と書くことに決定。決行者は伊黒。
何も知らず起きた鳴は胡蝶に再度起きたことを報告。そしたらめちゃくちゃ罵詈雑言を受けたわけで、鏡を見て状況を理解した鳴に正座させられる伊黒と冨岡(理不尽)の姿を見て爆笑する祭りの神とおはぎの完成である。
「その辺で許してやれ鳴w」
「そいつらも反省してると思うぞォw」
「そうだ、俺は反省している。そもそも俺に説教する時点でお前は間違っている。いつ俺に文句を言っていいと許可した。年上に向かってその言い分は認めてやれないな。こんなやつが柱とは、お館様に申し訳ないと思わないのか。」ネチネチ
俺に間違っている部分はあるのだろうか。ただ悪戯を注意しようとしたら逆切れって理不尽じゃない?やっぱブラックだよここ。
「はぁ…」
「じゃ、許してもらえたところで、『許したことになってんの!?』…溜息は肯定ってことだろ?常識だろ?」
沈黙は肯定と同じ認識かよ。電車の中でため息つくおっさん達は何を肯定しているんですかね?あ、嫁や上司にこき使われる日々か。なるほど。
「お前が意識を失うほどの怪我を負わせた鬼で十二鬼月じゃない。どういうことだ?お前の怠惰が生んだ過失であればとやかく言うつもりはないが、違う場合であれば鬼の情報を詳しく聞きたい。次の柱合会議まで時間がない。ただでさえ隊士の質が落ちてきてるんだ。情報は圧倒的戦力になる。それも柱に重体を負わせた鬼となればなおさら必要不可欠な情報になるしな。いまだ現れない“上弦”の規模を図るのにも使えるしな。」
空気が変わる。重々しく流れる静寂に包まれている中でやはりその場にいる者たちの表情も自然と強張ってくる。そこにいるのは先程まで笑って談笑していた“友人”としての顔ではなく、歴戦の死闘を繰り広げてきた“柱”としての顔であった。…冨岡さんはあんま変わんないな。表情筋あるのかな?
ともかく、冗談を言っている場合ではない。ここまで真剣な顔をして情報を求めてきたんだ。ならばこちらもそれ相当の態度と答えを出さなくてはいけない。彼らは俺の過失で怪我をしたわけではないとすでに理解しているのだろう。ここで彼らの望まぬ答えを言ったら黙秘として隊律違反を疑われかねない。沈黙の末、鳴は口を開いた。
「…任務先は草木が生い茂る森だった。木が日除けの役割をしていて地面に日光は届いていなかった。その森は『探索に出かけた者たちが揃って消えていく』という噂が絶えなかった。その森調査が俺の任務だった。」
「鬼はすぐ見つかったさ。血痕を辿れば一発だったさ。暗然さが溢れる洞穴でそこを住処にしていた。対してその鬼は多くの人を食らってたけど十二鬼月には程遠かった。」
「待てェ、それだったらなおさらおかしいだろォ。下弦にすら満たないやつにお前は怪我をくらわされたんだァ、お前の実力は柱の中でも上位に入るだろォ」
そう、そこが最大の疑問点であり、見舞いに加え調査に来た彼らの聞きたいことである。柱になるためには十二鬼月を倒すか鬼を50体討伐すること。鳴は下弦の肆を討伐したことで柱となったがその鳴が下弦でもない普通の鬼にやられたとなると鬼全体の戦力が大幅に上げられたと考える他ない。事実、鳴の実力は柱の中でも上位に値する。その柱が下弦にすら負けるとなると鬼殺隊の指揮を下げる原因となる。
しかし、鳴は“十二鬼月に程遠い”といった。ならなぜ怪我を負ったのか。彼らの理解を苦しめる矛盾を前に鳴は口をまた開いた。
「なぜだか分からない。でもその鬼を見ていると、どこからか体が温かくなるんだ。」
鳴の目は慈愛に満ちていて、それでいて…
冷たく見えた。
ここからの方針が何となく決まってきました!
戦闘描写も少しずつ入れていきます!