親愛なる我が"赤"の家族へ   作:右京遠江

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制服のデザインを変更しました。
設定の変更により、紡の獣眼設定を無くしています。


第一話 目覚めの朝

 〇

 

「……………………」

 

 目が覚めた。そのまま、緋袴・春城(ひばかま・はるき)は布団から上体を起こす。

 

「またあの夢か…………」

 

 昔から定期的に見る夢。とても奇妙な夢だ。後からはぼんやりとしか内容を思い出せないくせに、感情だけは大きく突き動かされる。

 悲哀が、絶望が、怒りが。そして、狂おしいまでの愛情が。

 それらが混ざり合って、昔から目覚めた後はしばらくその感情を引きずる。

 

(…………)

 

 否、“覚えている限り”と言う注釈が必要か。何しろ春城は記憶喪失で、11歳以前の記憶が一切無いのなのだから。

 どうも5年前にテロが引き起こされたとある地方都市の生存者の1人であるらしく、その体験による精神的ショックが原因だろうと言うのが医者の見解だ。その時に孤児になった己は同じ境遇──記憶の件も含めて──であった現在の義妹である少女と一緒にこの家に引き取られた。

 主観としては気付いたらこの家に住んでいたという感じなのだが。かろうじて引き取られる事についての手続きに立ち会ったのを覚えている程度だ。

 それ故に、この夢はその失われた記憶に関係があるのではと考えた事もあり、医者やその手の専門家、そこまでは行かないにしても誰か他の人に相談すべきかと悩んだ事もあったが、結局は誰にも相談してこなかった。

 今思い出せるだけでも荒唐無稽な内容なのだ。

 クレーターはまだしも、半ばから抉り取られたばかりの山々? ()()()()()()でそんなものが滅多にある筈がない。少なくともこの数年間、我が国である豊葦那(とあしな)では発生していない。何より登場する女性の容姿だ。朧気にしか覚えていないが、それでも“途轍もなく美しかった”と言う認識ははっきりと覚えている。

 そんなものが出て来る夢をだれかに誰かに相談する? 

 恥ずかしいじゃないか。

 

(…………まあいい)

 

 ようやく夢によりざわついていた気持ちが落ち着いた。行動を開始しよう。

 丁度鳴り出した目覚まし時計を止め──夢の所為で普段より早く目覚めていた──、布団から立ち上がり、畳からフローリング部分の床に足を付けたところで、自室の引き戸がノックされた。同時に少女の声が聞こえる。

 

「春城君、起きてるの?」

「ああ、今起きた」

 

 声の主は義妹である緋袴・夏目(ひばかま・なつめ)だ。

 

「なら開けるよ?」

 

 問われ、今の己の姿をざっと眺め、はだけはだけているかけていた衣の前身頃をさっと整えながら「どうぞ」と了解を返すと、戸が開かれ、「おはよう」と夏目が姿を見せる。

 端正な顔立ちをした少女だ。右の前だけが長いアシンメトリーなショートにした、一房だけ輝くばかりのプラチナブロンドになっている黒髪に、ぱっちりとした黒瞳の目はやや緩い目付きで、全体的に柔らかくて明るく、親しみ易い印象を見る者に与えてくれる。

 服装はとっくに寝間着の衣から学園の制服である、着物(キモノ)とも呼ばれる豊葦那の民族衣装──“那服(なふく)”を基調とした戦闘衣に着替えている。袖に向かって絞られている赤味掛かった衣に、膝半ば高さで前面にスリットの入った膝下丈の瑠璃色の行灯袴を履いている。本来ならば加えて、軽い装甲などが付いた瑠璃色の袖なし羽織を羽織り、刀等の武器を提げる為の革製の剣帯が腰に巻かれている筈だ。

 

「おはよう。ああ。今日は朝から用事があると言ってたな」

「そ。あと15分もしない内に出発するつもり。春城君、時々寝過ごすから、確認と朝の挨拶を兼ねてと思って」

「それはどうも」

 

 兄弟仲は悪くない。当初はお互いぎこちないものだったが、それは時が解決してくれた。

 

「じゃあ、気を付けてね。始業まであと半刻以上あるし紡さんもいるから大丈夫だとは思うけど、春城君、二度寝もしたりするから」

「了解了解。心配するな。ちゃんと行くさ。行ってらっしゃい、夏目」

「うん。行ってきます。放課後、“戦闘訓練”の時間にまた会おう」

 

 戸が閉じられ、去っていく。その音を聞きながら布団を畳み、顔を洗おうと自室を出て同階にある洗面台に向かう。

 

 〇

 

 タオルで顔を拭き終わると、鏡の中の己の顔とめがあった。

 黒と白の虎模様を描く、前は眉辺りまで、後ろは首に掛からないぐらいの長さの髪に、深紅色の瞳を持つ鋭い目付き。シャープと言う訳ではないが、奇跡的なまでのバランスで、黙っていると意識するまでもなく見る者に威圧感を与える顔付き。

 自分でも()()()この顔を見た時は大層驚いたものだ。今では流石に見慣れたが。どうしようもないのだから割り切って受け入れるしかないのだ。精々、年齢より老けて見え易い事が気になる程度だ。それに自分の低く深い声は割と気に入っている。

 しかし、こうして自分の顔を見ると時折夢の女性の“影”のようなものが己に重なる様に感じられる。細かな容姿など覚えてないと言うのにだ。

 覚えている“美しい”という認識だって己の容姿に当てはまるとは決して思えない。

 

(…………)

 

 頭を振って幻影を振り払う。

 

「さて、飯だ飯だ」

 

 〇

 

「あら。おはようございます、春城君」

「おはようございます、紡さん」

 

 食堂に行くと、台所で、山吹色の帯を締めた二藍色のシンプルな那服の上から割烹着を着た、20代半ばに見える若い女性が丁度皿を洗っていた。

 紙帯で緩く1本に纏めて左肩から胸の高さに迄流した紺色の長髪に、深紅の瞳を収めた穏やかな目元をし、落ち着いた微笑みを浮かべている。

 また、那服によって体型は出にくいが、実は結構グラマラスだとも知っている──決して自分で調べた訳ではなく、偶然知っただけだが──。

 名前は赭楽・紡(しゃらく・つむぎ)。この家で昔から働いているたった侍女だ。この家では何故か紡1人しか侍女はいない。ならば大変かというとそういう訳ではなく、自動人形が数体いる為、そこまで苦ではないらしい。

 因みに、この家の主人であり春城や夏目を引き取った人物である"よつぐ"という男は何の仕事をしているのかよく解らないが、この家には殆どおらず、更には2年以上前から全く帰って来ない。一応生きてはいるらしく、生活費は振り込まれている。

 春城としては、自動人形が女性型である事もあり、男女比の関係からかなり気まずいのだが。

 

「朝御飯の準備はできてますから、少し待っていて下さい」

「解りました」

 

 個人的には春城にとって彼女は、恋愛という意味ではないが好ましい人だ。初めて会った時、彼女はこの容姿に何ら反応を見せる事はなかった。その後会った人たちの殆どは、大きかれ小さかれ何らかの反応を見せていたというのにだ。たとえプロの侍女としての当然の事だったとしても、春城にとっては有り難いものだった。

 その認識がある所為か、未だに紡へ対してはついつい丁寧な口調になってしまう。夏目などはフラットな口調で彼女に接しているというのに。

 

「ではどうぞ」

「いただきます」

 

 ○

 

 1刻後。

 

「いつも通りにそこの掃除をお願いね」

 

 自動人形たちに指示を出し、自分も自分で掃除を開始しようとしたところ、自身の表示紋(サイン・デバイス)に一通のメールが来た。

 

「あら?」

 

 差出人を見て、紡は驚いた様な声を上げ、作業の手を止めてしまう。内容を読んでいくにつれ、表情が真剣なものへと変化していく。

 そして最後に。

 

「ふふ。そう、()()()()が戻ってこられるのですね」

 

 紡は満面の笑みを浮かべた。嬉しそうに、とても嬉しそうに。

 

「さて、人数が増える事ですし準備をしなくてはなりませんね」

 

 




作中において

那服:和服のこと

1刻:2時間

表示紋:ホログラムウィンドウみたいなイメージのもの。

 
後々用語などをまとめようと思っています。
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