親愛なる我が"赤"の家族へ   作:右京遠江

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第二話 いつも通りの登校

 〇

 

 “冒険者”。そう呼ばれる職種が存在する。

 明確な発足は約2000年前──全世界規模で発生した“混沌の災厄”後だとされているが、その前の“神代の時代”からその原型らしきものはあったとされている。

 その職の内容は“混沌の災厄”で発生した存在である“忌化生(テルフィング)”の討伐が当初の主なものだったが、段々とそれ以外の要素を帯びてきて、今では主にモンスター達が生息する()()()()──“アナザーワールド”での体である“アバター”を形成できる“アバタークリスタル”を公的に所持できる何でも屋の面が強くなっている。

 しかし、それでも忌化生(テルフィング)討伐がメジャーであり、字義通り“危険を冒す者”であるのに違いはない為、冒険者になるのは強制ではないがその危険度や公的に武器を所持できる等の要因から──少なくともこの国では──制限が掛かっており、冒険者になるためには専門の冒険者育成校に通い、証明書を取得しなければならない。

 春城や夏目が通う“焔ヶ原(ほむらがはら)学園”もその育成校の1つである。

 

 〇

 

「ふうん。また“感染刃傷”事件が発生したのか。物騒な事で」

 

 学園への登校中。春城が手元の空中に展開した己の表示紋(サイン・デバイス)──“己の事や考えを他者に見せる・知らせる”機能を持つ<意思表示・伝達>という、”ヒト”ならば誰しもが持つ“基本(ベース)スキル”の1つを“感応石”で強化する事で使用できる霊力(オド)でできた枠──で、この頃世を騒がせている朝のニュースを眺めていた時だ。

 

「よーっす、春城!」

「ぐおっ!」

 

 威勢のいい挨拶と共に背中に衝撃が走る。丁度息を吸ったタイミングだった為、突然の暴挙によって噎せてしまい思わず咳き込んでしまってから、春城は首をめぐらして「この野郎…………!」と犯人を睨みつける。

 春城と同じく襠が高く裾が脚絆で絞れた瑠璃色の筒袴に赤味掛かった小袖の上から瑠璃の袖なし羽織という──但し、こちらは少し着崩している──、学園の男子制服姿の少年が快活そうに笑っていた。

 短く刈った黒髪にチンピラじみた目付きの黒の双眸。背丈は現在180センチの春城よりも優に高く、190は達しており、筋肉がかなりがっしりと付いている。

 名前は巽・響一郎(たつみ・きょういちろう)。春城のクラスメートで、非社交的な気質である自分にとって数少ない友人の1人だ。

 

「ははは。すまんすまん。謝るからそんなおっかない顔で睨むなよ」

「……チンピラ顔のお前に言われたくはない」

「まず言うべきはそこじゃ無いんじゃないかな」

 

 左肩に引っ掛ける様にして持つ、中身の入った細長い布袋が付属している荷物を担ぎ直しながらニヤリと笑う響一郎に、漸く落ち着いて春城がそう返すと、2人の後ろから呆れた様な新たな男の声が掛かった。2人して振り向くと、そこにいたのは声の通りに呆れ顔をした170センチ程の制服姿の少年だ。

 響一郎と同様にクラスメートで且つ春城の友人の1人であり、名は歴隻・暦(れきせき・こよみ)

 後ろで1つに纏めた少し長めの灰色の髪に同色の瞳を収めたさっぱりした顔立ちで、体格もそれなりにがっしりとした春城よりも細く、それらの要素だけだとあまり目立つとは言えないが、両頬に描かれた何かしらの凶悪な文様の黒の彫物(タトゥー)がそれらが示す印象を見事に裏切っている。

 

「二人共おはよう。響一郎、君は(オニ)種の血を引いてて力が元々強いんだし、ただでさえ今の春城は()()()()()なんだから気を付けないと」

「よう、暦。そうだな。次から春城が()()()時は気を付けるさ」

「…………おい、言っておくが<霊装>状態の時でも衝撃の類は普通の時と同様に通すからな」

 

 “ヒト”の一種である人間(ヒューマン)種の中には“異能者”と呼ばれる、“ヒト”の全種族が持つ基本スキルの他に“異能(スキル)”を持つ者達が存在する。異能者は保有するスキルによって幾つかに種別(カテゴライズ)され──それ故に異能者固有のスキルは“種別(カテゴリ)スキル”と呼ばれる──、春城はその内の1つである“第Ⅱ種異能者(カテゴリⅡ)”──通称“霊装者”──に分類される。

 霊装者の代表的な種別スキルを<霊装>と言い、“霊力(オド)”──全生物が保有し、あらゆる所に存在する万能エネルギ────-を消費して自身の身体能力をブーストしたり治癒力を高めたりできる。

 

「解ってるって。心配するな」

「いや……………………もういい」

 

 〇

 

「ところで何の記事読んでたんだ?」

「これだ。“感染刃傷”事件」

「ああ、斬られた者の受けた刃傷はその時はすぐに塞がるけど誰かを斬りたくなっていき、そう時間が経たないう内に第2、第3の通り魔になっていく、て言う事件だよね」

「そして斬った側は誰かを斬った瞬間に正気に戻るけど同時に塞がっていた刃傷が開くってな。人が密集している所ではまだ起きていないというのが今の所救いだぜ」

「そう。それが昨晩隣の都市でも発生したってニュースになってるんだ」

 

 2人も各々の表示紋を展開して冒険者の殆どが利用する国際情報機関の1つ“本の館(The House of Books)”──“Thob(ソーブ)”──のニュースサイトにアクセスする。

 

「今回の被害者数は14人か。最初に発生した時は精々5人程度だったってのに段々増えてきたよな」

「しかも犯人──って言うより“感染源”はまだ不明だと言うからだから気が休まらないね。冒険者への護衛の依頼数はずっと増え続けているらしいし」

「ああ、それがな。人はまだ判明してないが原因は大体見当がついているらしいぜ」

「そうなのか?」

「初耳だけど」

 

 響一郎が別のページを開いてこちらへ向ける。

 

「ほら、これだ。《千子詩壱(ちごうたいち)》ってヤツ」

「…………成程、“宝具”か」

「そう。この宝具がそんな力を持ってるらしい」

「確かに宝具って何らかの特殊能力──“魔現”を持つ道具や物の総称だからそんな魔現を持つのが有るのかもしれないけど、その多様性故に実はただの伝説だったりするのが多いからね。それ本当に存在するの? ──ああいや、何百年か前にその宝具に因る事件が起こったって書いてあるね」

「じゃあこの事件は伝説の再来か」

 

 溜息を吐きつつそう言うと、「まだ確定じゃないけどね。このサイトも普段は都市伝説とかを中心に扱ってるものだし」と暦はそう応じつつ冗談めかして言う。

 

「仮に本当に伝説の再来だとして、この調子で他の伝説も再来、なんて事にはなって欲しくないね」

「まあそうだな。有名な伝説の中にも大惨事になりそうなのがあるからな。ほら、“赤衣一族”とか」

「おい響一郎。お前が言いたいのは“赤衣の災厄”の方だろう。赤衣一族自体はちゃんと実在しているぞ。ただその実態の殆どが謎に包まれているってだけで」

「いや、その通りなんだけどそれ聞いたら赤衣一族も随分だと思う…………」

「俺も今言ってみてそう思った」

 

 そう話していく内に話題も変わっていく。

 

「まあいい。それよりも響一郎。お前がこんな時間にまだ登校中というのは珍しいな」

「朝起きるのが遅かったんだよ。ほら、この前授業で二輪免許取ったからその駆動二輪(バイク)を買おうとカタログ見てたら結構遅くまで掛かったんだよ。駆動二輪を持つのは念願だったからな、じっくり選んでいたらそうなった」

 

 豊葦那では駆動二輪免許は15歳から、駆動四輪(ヴィークル)──通称“クルマ”──免許は17歳から取得できるが、冒険者に限っては順に3年生(14~15歳)、4年生(15~16歳)から取得可能で、更には授業の一環として取得できる。一年次から学園に通っている夏目も今度受けると言っていた筈だ。春城、響一郎、暦は今年度からの中途入学だが、先週駆動二輪の免許を受けさせられ、見事全員合格している。

 

「結局決めたの?」

「ああ。俺の手が届く範囲でなかなかに見た目と性能が良かったヤツをな。数日後には届くらしいが昨日からずっと楽しみだぜ。お前らはどうすんだ?」

「俺はまだ自分で買おうかも決めてない。別に学園からのレンタルでもそんな不便な訳でもないからしばらくはこのままだな」

「僕も春城と同じでしばらくレンタルしようと思ってる。ただ駆動四輪の免許を取ったら駆動四輪を買うよ」

 

 そんなこんなで会話が続いていき、今日来る転校生について話題にしていた時だ。ふと暦が「あれ?」と驚きの声を上げた。

 

「“ガハラ箱”が今更新されてる。今日の分はもう発行されていた筈なのに」

「ん? …………ホントだ。何だ? 号外でも出たか?」

 

 “ガハラ箱”というのは、元々は情報を重視する冒険者──の見習い──の為に情報関連に強い有志達が結成した同名の組織による校内新聞だ。学園側からは黙認という形な為ある程度自由に立ち回っており、先術の“Thorb”や“NeckoM(ネッコム)(The Neck of Mimir)”等の大手情報機関とのコネも持っているらしい。

 毎朝“ガハラ箱”は発行されており、今日の分も暦が言った通り既に発行されている。それにもかかわらず1日に2回以上発行されるという事は余程のニュースという事なのだろう。

 

(さて、どんなニュースが出たのやら)

 

 そんな軽い気持ちで号外に目を通した春城は、「は?」と数舜思考が止まってしまった。

 ““暴虐夜叉(スサヤシャ)”緋袴・春城への宣戦布告!? ”

 そんな見出しが第1面にでかでかと飾られていた。

 




春城と響一郎の口調の書き分けが難しい・・・・・・。
ちゃんと区別できる様に書けているのかが心配です。


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