親愛なる我が"赤"の家族へ   作:右京遠江

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第三話 いつもと違う登校風景

 〇

 

「人気者だなぁ、春城よ。凄い”視”られてるぞ」

「嬉しくはないがな」

 

 自教室である4年6組の教室へ向かっている途中。()()()とした“視線”に、響一郎の感心と呆れが混ざった声にそう返しながらを周囲に目を巡らせる。その結果目に映ったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実だ。但し、“気配”だけは残っている。

 

「やはり新参者の俺達と違って、長年学園(ここ)に通っている者達は“見らずに視る”という技術は発達しているな」

「まあでもその”気配”は感じ取れるようにはなったじゃないか」

 

 目で見るのではなく“気配”で相手や周囲を“視る”。これは冒険者にとって基礎的であり必須と言って過言ではない技術だ。流石にレーダー並みの精度や範囲になるには才能や魔現が必要だが、アナザーワールドにおいてモンスターによる死角からの奇襲への対策としては言うまでもなく、冒険者としての活動の大半にこの技術は大きく関わる。例えば、探し物(生物)の様な活動でも、この技術を持つか否かで難易度はかなり変動するだろう。

 またこの技術はヒトの中での人間種の特徴の1つとも言える。<基本(ベース)スキル>の1つとして、周囲の霊力(オド)の状態を感知できる<霊感>があり、“気配で視る”技術の根幹にも関わってはいるが、他のヒト──精霊種(スピリトゥス)竜種(ドラゴン)人狼種(ルウガルウ)妖孤種(キュウビ)血魔種(ヴァンパイア)鬼種(オニ)の計6種の異種族──に比べ、人間種はかなり鈍い。<霊感>単独で人間の五感以上の性能を誇る種族がいる中で、通常の人間種のそれは絶望的なまでの隔たりが存在する。訓練を積んで行けば鬼種──ヒトの中で人間種に次いで<霊感>が鈍い──までは到達する事もあるが、個人差でそこまで到達できない者もいる。

 それ故に、人間種の中で“気配で視る”技術が発達していったのだ。

 無論この技術も取得にはそれなりの訓練を積まなければならず、先月の卯月の初めに入学したばかりの春城とって、現状“視ら”れているのを感知するまでが精一杯なのだが。

 

「だがここまで視られるのは、やはりさっきの記事だよな」

「まあそうだろうね。学内ネットでもかなり盛り上がっているよ」

 

 と、自身の表示紋に目を通しながら暦が応じる。それから一拍置いて、

 

「誰が()()暴虐夜叉(スサヤシャ)”に挑むのか、て」

「……………………」

 

 春城が黙っていると、今度は響一郎が「まあそうだろうな」と引き継ぐ。

 

「何しろ入学直後の実戦試験において、自称()()()霊装者でありながら乗力者、霊装者、魔現者、複異者、混異者が交ざった他の同じグループの他のメンバー計44名を、挙句抜き打ちで配置されていた特D級(Dプラス)モンスター3体を単独で撃破し、異例の()特二級冒険者のランクを持ったヤツについてだもんな」

「…………響一郎、まさかその時に春城に負けた事まだ引きずってるの?」

(ちげ)ーって。確かに何時かはリベンジしてやろうとは思ってるけどよ、これはただの心配だって」

 

 冒険者にはランクが存在し、冒険者組合によって定められるそれは定められた者の実力──戦闘技術に限らない──を示す。育成校への中途入学者にも入学直後の試験によって与えられるが──入学前までの各々の経歴にはバラつきがある為これは一時的なもの──、大抵は五級か四級で三級以上を最初から持つ例は珍しい。1年次から通う育成校の生徒でも在学中の()()ランクは特三級から準二級が殆どだ。プロまで行ってやっと()()ランクが三~準二級であり準一級以上となるとかなりの実力者の証明というのに、中途入学者でしかない筈の春城は試験でプロレベルの結果を叩き出し、《準》特二級なんていう異例のランクが与えられた。

 その結果、春城は学園の殆どの注目の身になったのだ。

 否、言い換えよう。

 学園の殆どから()()()()身になったのだ。

 

「…………本当に憂鬱だ。何だって“ちょっと試してみよう”なんて感覚で勝負を吹っ掛けて来るのかね」

「仕方がないって受け入れた方が気が楽だと思うよ。それが冒険者としての(さが)なんだって」

 

 冒険者の間、と言うよりは全ての──豊葦那に限れば──育成校共通の風習として、実力試しで他人(ひと)に勝負を挑むというものがある。この場合の実力というのは”自分の”か”相手の”またはその両方と区別を付けずに指すが、勝負の形式はその実力の方向性によって幾つかに分かれ、その方向性が戦闘系であればまず間違いなく戦闘形式になる。

 ただ、上級生が挑んでくる事は滅多に無いのが救いと言える。これは上級生の方が実力が上だという場合が多い為、たとえランクが上の下級生に勝ったとしても”勝って当然”や“寧ろ下級生相手の勝利を誇るとか恥ではないか”等の評価しかされない為である。しかし逆の理由で下級生は己の箔付けに出来る為よく挑んできて、下級生が上級生に勝つ”上勝ち”や上級生が下級生に負ける“下負け”──前者は名誉、後者は不名誉だとされる──なんて用語もあるくらいだ。

 

「しかも春城の場合は断る方が多いしいざ挑まれても精々準三級レベルの戦いしかしないからな。実力隠しは別に珍しくはないとは言え、寧ろ誰が評判通りの実力を引き出させきれるかって議論…………と言うか賭けまで出ているぞ」

「外野がどう盛り上がろうと、当事者からしたら迷惑極まりない事には違いがない」

「まあこればかりは僕達にはどうしようもないから、気を付けてとしか言えないけどね」

「ああ。しかもここじゃ大人気の妹もいる所為で一部の男子勢からは良い目では見られてないからな。これに乗じて無関係な奴がここぞとばかりに干渉してくるかもしれないから精々気を付けろよ」

「そうするよ」

 

 と思わず天を仰ぎながら応じ、内心で“納得できんが…………”と溜息を吐く。但しそれは勝負を挑まれる事に対してではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()に対してだ。

 

(何しろ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 試験の初め辺りまでは覚えているが、周りが言う“プロ相当の動き”を自分がしていた記憶は全く無いのだ。ただ映像には残っていた為独りで観てみたが、映っているのは本当に自分なのかと──勿論自分だったが──正直疑ってしまった。入学前にちょっと道場に通っていただけの春城にあんな動きが出来るとは我ながら到底思えない。それまではそんな兆候は少しも無かったのだ。

 だから春城としては試験の時の結果は何かの間違いだと思っている。現に、それ以降どう頑張っても周りの言う実力を発揮できないのだから。

 しかしそんな思いは周囲には──それこそ響一郎や暦、夏目にさえも──告げていない。どう主張したところで事実として映像には残り、ランクも既に与えられているのだ。試験時以降それらしい戦闘をしていないといっても、響一郎の言った通り手の内をなるべく明かさぬ様普段は実力を隠す事は珍しい事ではないのだ。結局は行き過ぎた謙遜と捉えられるのがオチだろう。

 3人で階段を上りながら、どうしたものかと何度目になるか解らない疑問を独り内心で悩んでいる時だ。

 

「通してくれないか」

 

 凛々しくも冷たい声が背後から掛けられた。

 

 〇

 

 振り向くと3、4段ほど下に女子生徒が1人立っていた。

 前は眉のラインで真っ直ぐに切り揃え、黒青色の布帯で背中中程(なかほど)までのポニーテールに纏めた燃え盛る炎の様に鮮やかな橙赤色の髪に、同色の瞳を持つ鋭い訳ではないが意志の強そうな目つきをした顔立ちは整っているが、美しさよりは凛々しさ、そして何よりもまるで外界を締め出している様な排他的な冷たさを備えており、気圧される。

 160半ば程の体躯は制服にきちんと包まれており──その為体型ははっきりとは解らない──、左腰には──羽織に隠れ全体は充分には解らないが──白い柄の刀を提げている。

 

「そう3人で広がられて階段を歩かれると邪魔だ」

 

 階段の幅自体はそんな狭い構造をしていないとはいえ、3人が──しかも内2人は大柄な体格──広がって並んでいたら目の前の女子生徒の言う通り通行に支障は出る。というか現に出ている。それ故に即座に3人は行動を開始した。

 

「すまない」

「すまん」

「すみません」

 

 三者三様に詫びから片側に寄ってスペースを空けると、女子生徒はもう何も言わずに、軽い装甲のついた靴の足音も静かなままさっさと上っていった。

 充分に離れていったと判断してから響一郎が口を開く。

 

「いやはや驚いたな。彼女に話し掛けられるとは」

「同感。今日は朝から驚く事が多い」

「そういや春城。さっき話した“誰が春城の実力を引き出させるか”って議論での最有力候補が彼女だぞ」

「…………それは勘弁もいいところだな」

 

 本心からそう願う。

 火乃崎・朝織(ひのさき・あさおり)。それが彼女の名前であり、同時に若干4年生にして()()()()()()二級冒険者のランクと“閃花”の字名を持った人物の名前である。一見すると春城よりもランクは下だが、それまでの実績が無かったために“準”なんてものが付いた──加えてよく解らないままなった──春城のとは違い、彼女のは1年次から通い実績を積み重ねていった末のものであり、つまり──周りからはどうであれ本人からしたら──到底太刀打ちできない存在なのだ。

 幸いにしてと言うべきか、先程の春城達への態度の様に常日頃から周りへはまるで何ら興味が無いかの様に排他的に振る舞っており、また関わってもあの高圧的とも言える態度の所為で、お互いにそうそう進んで関わろうとはしない。つまり向こうが挑んで来る事はまず無いだろう。

 そこには心底から安堵する。

 

「さて、そんな事よりさっさと教室に行こう。今の様な事態を何度も引き起こしたくないからね」

 

 

 

 




なかなか区切りが上手くつかない…
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