親愛なる我が"赤"の家族へ   作:右京遠江

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2話連続投稿です。御注意下さい。






第五話 再会の会話

 〇

 

「はあ……………………」

 

 放課後。春城は下校の為に校舎の出口へ向かっている途中で、手元に展開した表示紋(サイン・デバイス)に目を通しながら重い溜息を吐いていた。

 

「なーに辛気臭い溜息ついてんだよ」

 

「まあ確かに気持ちは察せるけど…………。凄い騒ぎだもんね」

 

 春城の一歩後ろを歩いているのは朝と同じ面子(めんつ)、即ち、響一郎と暦だ。響一郎は()()()()()()()()()棍等の荷物を左肩で担ぎながら両方は後頭部で組んでおり、鞄を斜め掛けにしている暦は苦笑を浮かべながら自身も表示紋を展開していた。

 

「学内霊信網(ネット)じゃかなり盛り上がってるからね。それこそ朝の匿名宣戦布告以上に」

 

「元から学園(ここ)に通っているヤツらに訊いても、1日に3回も“ガハラ箱”が出たのはここ数年間無かったとの事だとよ」

 

「それを受けてこれからは更新を毎日一括にじゃなくて記事1つごとにするってなったみたいだし。“ガハラ箱”の製作に関わっている人達も大喜びだったけど大変だっても(こぼ)してたよ」

 

 暦が開き、春城が眺めていたページには“美少女転校生、まさかの“暴虐夜叉(スサヤシャ)”の妹!! ”という見出しから始まる記事が、続けて響一郎が開いたページには春弥についての掲示板が表示されていた。

 

「ただえさえ超絶美少女ってだけでも話題性が高いってのに、その美少女があの有名な“暴虐夜叉(スサヤシャ)”の妹だって言うんだもんな。霊信網(ネット)で凄い盛り上がってるが、これは逆に盛り上がらない方が無理ってものだろうよ」

 

「しかも春城の方が逃げ回ってばかりでコメントを一切しないから、好奇心がますます煽られているね」

 

「…………そうだな」

 

 苦笑混じりに告げられていく現在の春城を取り巻く学園の状況を伝えてくれる響一郎と暦。だが、当の本人の気の無い応答に、互いに目を遣り交わす。

 ここまで騒ぎ立ててあるというのに、その態度は不自然に思える。元々からそんな周りの盛り上がりに執着していなかったならともかく、今朝まで春城は自分の評判を──含む意味なしに──気にしていたのだ。いや、と言うよりは、彼のまるでそんな事は全くの瑣事だと言わんばかりの態度は、寧ろ他に気にしている事があるが故のものの様に思える。 

 そして2人にはそちらの方にも心当たりがある。

 

「あー春城?」

 

「ん? 何だ?」

 

「ああ、いや…………朝の一件の事なら俺達は気にしてないから落ち込むなよ」

 

「何?」

 

 おずおずという雰囲気で響一郎が切り出した話題。

 春城の開いている“ガハラ箱”にはトップにこそ春弥についての記事が踊っているが、その幾つか下には“朝の一件”──春城による突然の威圧感についての事が小さく記事になっている。学内掲示板をある程度見る限り、それに注目している者は皆無に近く、“どういうことなのか”と少し疑問に上る程度だ。

 背後にどの様な理由が存在しているのかは不明だが、あの状態は進んで人目に晒したいものではないのだろう。

 また、一月(ひとつき)にも満たない付き合いではあるが、それでも春城は社交的ではないものの友人等の繋がりを持つこと自体を拒絶している訳ではないと2人は理解している。

 それ故に、周囲から畏怖により人が近づいて来なくなりかねない様な朝の一件を気にしているのではないかと思ったのだ。

 

「そうなのか?」

 

「ああ。恐怖を感じなかったと言えば嘘になるしクラスの奴等の殆どもそうだっただろうが、俺の方は以前経験した事ではあるし、まだ短い付き合いではあるものの、お前が無闇に暴れまわる様な奴じゃないと思っているからな。むしろあの手の迫力は何時かは乗り越えなくちゃならない壁だと思ってるぜ」

 

「そうだね。まあ、僕の様な生産系の戦型(スタイル)の人達もいたから、全員がそんな戦闘系の人達みたいに考えるとは限らないけど、少なくとも僕も気にしてないよ。それにそういった人達だってこの稼業に身を置く(冒険者である)以上、何処かで折り合いを付けないとならないだろうしね」

 

 信じられないという様に意外感を滲ませて訊ねてきた春城だったが、2人して朝の一件は気にしてない旨を伝えると、やっと──少なくとも表面上は──納得した様に頷いた。

 

「……そうか。いや、ありがとうな響一郎、暦。そう言ってもらえると助かる」

 

 〇

 

「そういえば残り2人の転入生はどうだったんだ? 俺はそれどころじゃなくてまだ碌に情報を仕入れたないんだ」

 

 焔ヶ原学園の敷地は広い。正面玄関から出た後も正門まで辿り着くまでに徒歩だと優に5分以上は掛かる。そんな道中でそれまでの重い空気を振り払うように春城が問い掛ける。

 2人も即座に乗ってくれた。

 

「ああ、ええと」

 

 暦が表示紋のページを切り替える。

 

「一人は三年一組に入った、赬鎮(てしずみ)・ゆいって言う名前の男子だね。今新たに入った情報だと、戦型(スタイル)はどうも『万闘師(マルチ・フォーサー)』だそうだよ」

 

「……ほう」

 

「ん? この男子がどうかしたのか?」

 

「ああいや……随分と珍しい戦型(スタイル)を取ってるなと思ってな」

 

「『暴闘師(ランページ)』なんていう奇特な戦型(スタイル)を取ってる春城が言えた筋合いはないと思うけど」

 

「仕方ないだろう、俺にはそれぐらいしか適性が無かったんだから」

 

 この自然な会話の流れに、2人は春城が小さく「赬鎮か……」と呟いたのには気付けなかった。

 

「あと、ほら、写真がもう挙がってるけど結構中性的な顔立ちをしてるね。顔だけだったら女子と見間違えられそうだけど、見る?」

 

「いや後で自分で見るさ。別に今しか見れない訳ではないしな。だがそんなに可愛らしい顔立ちをしているんだったら俺より響一郎に見せたらいいだろう」

 

「俺はもう見たぜ。確かに結構女顔だったが、あくまで中性的であっただけで、そんなに綺麗って程でもなかったぞ。あと、俺は可愛い顔していりゃ誰でもいいって訳じゃねえ。いくら可愛い顔していたって野郎(ヤロー)は趣味じゃねえよ、失礼な」

 

「その言い方も充分失礼何だけどね。まあいいや。で、もう1人の方なんだけど、そっちは本来は三年三組に来る筈だったんだけど、何かトラブったらしくて一週間遅れるみたい。だから写真もまだ挙がってない。ただ、情報自体はゼロじゃなくて幾つか判明しているけどね。こちらは男子で、名前は迅猫(じんびょう)。姓は無いみたい」

 

 今でがこそ姓が有るのが豊葦那でも殆どに浸透しているが、昔はそこまで一般的ではなかった。今でも、背景こそ元々姓がいらない様な地方田舎に住んでいただったり育ちや過去に経験した事があったりと様々だが、姓が無いのは少ない話ではない。ただ共通の認識として、役所仕事でもない限りその事については何も言及したりしない事が暗黙の了解になっている。

 

華蓉(かよう)系みたいな名前だな。泰江(たいこう)出身か?」

 

「いや、一応国内からの転入ってなってるよ。ただ、生まれは泰江かもしれないけどね」

 

 等と話しながら校門を出た時だ。ふと、横を向いた春城が歩みを止めた。後の2人もつられて足を止め、春城が目を向けている方に同じく目を向ける。

 校門の脇に立ち並ぶ木々の1本の(もと)に人影が1つある。

 果たして、そこにいたのは。

 

「春弥…………」

 

 

 〇

 

 春城が春弥と共に帰って行ったのを見届けた後、暦とも別れて己の帰路に着く。

 独りで歩いていたら人は案外色々と考えてしまうものだ。響一郎もその例に漏れず、勝手に思考が回っていく。内容は必然的にと言うべきか、今日転入してきた、友の妹を名乗る美女、即ち緋袴・春弥についてだ。彼女について考え始めーーーー思わず身震いする。

 見る限りにおいて春弥は、殆どは無表情ながらも他者と衝突する様な事は起こそうとはせず、他社と接する時は控えめな微笑も浮かべたり──それでも見る者を充分魅了できるもの──している。 そう、一見するとその派手な美貌と裏腹にと言うべきか静かで穏和な雰囲気なのだ。しかし彼女と接した者や共に過ごした者の大半は漠然とした恐怖を感じるだろう。彼女のうっすらと醸すどろりとした雰囲気の不吉さに。

 響一郎もその1人だ。確かに彼女が生まれて初めて見るレベルの美女だと言う事には全面的に同意できるが、その美の魅惑以上に漠然とした底知れない“恐ろしさ”を、“危機感”を本能が感じ取っている。“美に魅入られる”とはまた別の次元で。

 正直、春城の関係者ではなかったならば彼に“関わらない方がよくないか”と言いたくなるくらいだ。

 実は掲示場では、学園の非公式アイドル──本人は認めてないが──である夏目もいる上にあんな美人の妹もいたという事への嫉妬や羨望のコメントが夏目の非公式ファンクラブの面々を中心あったが、実際に春弥と対面した身としては、その理由故にそこに加わろうとは到底思えない。

 春城の“美人の妹、というか家族がいる”という状況は確かに羨ましいと思わないでもない。特に、その美人の1人である夏目は何度か春城繋がりで面識があるが真面目で性格も良く、最近反抗期に突入した我が生意気な妹に見習わせたい程に羨ましく感じる。

 だが、春弥は別だ。まだ性格はどうこうだと断定できないが、本能が彼女を警戒している。

 予測に過ぎないが、今この掲示板に書き込んでいる者達も彼女と直に対面したら現在抱いている嫉妬等消え失せるだろう。

 それ程迄に彼女が──緋袴・春弥が恐ろしい。

 そこまで考えて溜息が出る。

 

他人(ひと)の、(いや)、友達の家族に掛ける評価じゃねえよな)

 

 よく知らない物相手に随分と失礼な考えだ。我ながらだが苦笑が出る。

 ただ、実際春弥についてーー連鎖的に春城についても含んでしまうがーーは転入してきたばかりという事を差し引いても、寧ろ彼の過去の事情を知っているからこそ謎が多い。

 彼女が妹を名乗るにもかかわらず、その兄である春城が彼女の登場を知っていた様子が一切無かったのはまだ解る。過去の記憶が無いという事は本人から既に聞き及んでいるからだ。

 だが本当に妹であると言うのならば、何故このタイミングで姿を現したのか。何故今迄姿を現さなかったのか。

 仮に春弥側(向こう)で最近春城が春弥の兄だと判明したのだとしても、今日の今日まで一切それらしき連絡が無かったのは何故なのか。

 春弥は無法区から来たが、春城も元は無法区(そこ)に住んでいたと言う事なのか。 

 そして最大の気懸かり。

 春城の“様子”の変化。

 今朝の()()春城の“振る舞い”は傍からすると恐怖を抱かせるものに他ならなかったが、それなりの付き合いがある響一郎からするとまだ“彼女”の登場に驚いている様であった。

 だが治療室から戻ってきた後からの春城は“何か”が違った。表面上は同じに見える。今話していた限りでも明確な違いは感じられなかった。ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その後も度々彼女を見て何かを考えている様子は見掛けたが、彼女の存在自体に戸惑っている様子はまるで皆無だった。先程の様子を見てもそうだ。春城は“春弥の登場”よりも己の今朝の“振る舞い”のみを気にしていた。

 更に言えば、2人の間に流れる“空気”も気になる。2人が一緒にいるのは今朝の一件以来今のが初めてだが、互いの間に流れる“空気”は何か不可解だ。互いが互いを牽制し合っている様な、欲し合っている様な奇妙な雰囲気。

 妹がいる身としては、あれは“兄妹”ではなく、また別の“何か”ではないかと思うが・・・・・・

 

(ここまでだな)

 

 それ以上彼等について及ぶのは自分の信条に反する。

 響一郎は“友情”と言うものを大切にする。これはある過去の経験の反動の様なものだが、現在の己の重要な根幹だ。

 そして春城は友達だ。出会いこそ、実力試験での()()春城が初見であった為恐怖したものだったが、話し掛けてみた甲斐はあった。今では“友”と呼べる程の仲は築いたつもりだ。少なくとも響一郎は春城を友達だと見做している。

 朝の一件でも、春城は彼に恐怖を抱いたものの、春城は別に友情を反故にする様な事をした訳ではない。

 だからこそ、響一郎は何か春城に変化を感じても今迄通りに接するし、だからこそ、気になる事は多々あっても、向こうが話さないのならばそれを問い詰めようとは思わない。

 親しき仲にも礼儀あり。 

 友達だからと言って何でもかんでも知ろうとするのは、少なくとも響一郎の価値観とは異なっている。誰にだって話したくない事はある。もしも話してもいい事なのであれば、その内向こうから話してくれるだろう。それまでは訊ねないつもりだ。

 それに。

 何より響一郎自身にも春城や暦に隠している事があるのだ。

 

 〇

 

 響一郎達と別れてからしばらくして、

 

「何故ここに来た?」

 

 春城が静かに、しかし内包した重圧で硬くなった声で左隣を歩く春弥に、目線すら向けずに問いを放る。

 

「ふふ、今更ね」

 

 対して春弥の口調は楽しげだ。その美貌には微笑すら浮かんでいる。

 

「貴方には解りきった事でしょう、その理由は」

 

「……そうだな。なら質問を変えよう」

 

 一息。

 

「何故()来たんだ?」

 

「理由は色々あるけど、どうせある程度の予想はついてるんでしょう? でも。そうね、あえて言うなら────()()()()()()()

 

「初めに気になったのは貴方のその()()。飽く迄も学生身分であるとは言え、よりにもよって冒険者なんかになってると知った時は本当に驚いたわ。────ねえ、春城、赤衣(あかぎぬ)夜影(よかげ)・春城。どうして‟そんな事”をしているの? もしかして冒険者が嫌いな私へのあてつけ?」

 

「…………」

 

「違うわよね。春城って基本面倒臭がりだもの。今迄だって態々(わざわざ)育成校(こんな所)に通わなくても冒険者紛いの事は可能で充分だったのに、何故かあえて育成校(こんな所)に通ってる。────夏目、だっけ? ()()()()()()()()()()()()()()みたいだけど、その()でしょう、理由は」

 

「………………」

 

「次に気になったのが、その()。昔から貴方が子供を拾って育てるのは時折あったけど、それは皆“一族”が相手だった。だからこそ“一族”ではなかった“あの子”の代わり足り得なかったから見逃してきたけど……。夏目、何か魔現を持ってるみたいだけど、“一族”じゃないわよね? どうして“一族”でもない者を育ててるわけ?」

 

「……………………」

 

「まさかと思うけど」

 

 春弥が足を止め、同じく歩みを止めた春城にやっと顔を向けた。楽しげな口調と微笑はそのままに、しかしその艶やかな声の内には凄みが宿る。

 

「──“あの子”の代わりのつもり?」

 

「…………………………」

 

 長い沈黙を続けている春城もじっと己の左を見遣る。そうして(ようや)く己の沈黙を破った。

 

「いいや、違う」

 

 途端、春弥の顔から表情が消えた。無表情のまま、真偽を図る様にじっと自身より高い位置にある春城の顔を覗き込む。長い間をおいてやっと「そう。本当に違う様ね」と応じ、姿勢はそのままに先程と同じ表情に戻る。

 

「安心したわ。まあ、違うでしょうとは思っていたけれども、こんな事態は初めてだから一応と思って確認したの。そうよね、落ち着いて考えれば違って解るわよね。何しろ“あの子”は特別だったもの。そもそもそこらの小娘(ごと)きに代わりが務まる訳ないものね」

 

 そう、楽しげな口調に同様の微笑、そして──

 

「でも、もしもそうだったら、私はその(むすめ)を殺していたわ」

 

 終始冷たい輝きを宿している全く笑っていない目。

 囁く様にさらりと紡がれたその言に春城の肩が強張るが、それは刹那の事で、すぐに力は抜けた。その様子はそれなりの通気性はあるものの使用目的上やや厚めの制服越しには微かに解るか否かであった。

 その変化を知って知らずか、春弥は視線を下げ、己の右手を春城の左上腕部に這わせる。

 

「まあ、これが答えね。貴方が夏目って娘をどうしていくのか気になったからこそ、態々嫌いな冒険者の身となってまでして来たの」

 

 撫でる様にして右手をそのまま肩までに這わせる。対してそんな彼女の言を聞いて、

 

「そうか。戻ってきてくれるのか」

 

 春城はそう言葉を漏らす。そこには先程迄存在していた重圧や硬さは薄まっていた。寧ろ、喜色すらもが少しばかり混ざっている。しかし、それ以上の言葉は続けられなかった。

 

「ーーッ」

 

 いきなり首を鷲掴まれたのだ。

 

「苛つくわね、その態度。まるで私に()()()()()()()()()()()()その態度。何喜んでいるのよ。白々しい。“戻ってくる”? ハッ! ええ、その通りよ。()()()()()()()()()()()()()()()。そうでしょう?」

 

 浮かべていた微笑は消えて口調も変わり、今までと打って変わって今の春弥の表情はその目の輝きと同じく冷たいものとなり、口調も憎悪や怒気の色が大いに滲み出ている。

 鍛えている為筋肉が付いてそれなりに太い首には半周分しか彼女の指は届いていないが、それでも指先を立てる事で固定し、喉仏を親指と人差し指の間で押し込む事で的確に気管だけを潰していく。そしてそのまま無理やり引き寄せる事で春城の顔を近付け、

 

「拒否権なんて無い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。貴方が“そう”したんでしょう、春城」

 

「…………ああ、……その通りだ」

 

 首を絞められているが故に声を掠れさせながらも、何とか答える。しかし、不思議な事に()()()()()。声を出しにくい事への不快感こそ見て取れるも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 対して、今や春弥はその美貌を激情に塗れさせ、憎悪を込めたその深紅の目で射殺さんばかりに春城を睨みつけている。首を掴む手にもますます力が籠もりーーーーーーーー()()()()とその首から水気の混ざった音が鳴った。

 瞬間。春弥の雰囲気が変容した。

 音に気付いて視線が己の右手に下りる。そしてその間に憎悪と激怒が籠もっていた瞳に別の妖しい色が混じっていき、吊り上っていく口の端から赤い舌の先が()()()と小さくも艶かしく覗く。そのまま右手が掴む春城の首を見つめたまま、異様な雰囲気となっていき、

 

「…………夜、まで……待て……ない、か……」

 

 春城の掠れ声による問いで、霧散した。我に返った様な春弥はゆっくりと右手を首から外す。そのまま己の右掌を憎々しげに見下ろし、

 

「忌々しい」

 

と吐き捨て、春城を再び見遣る事無く踵を返して無言のままさっさと歩きだす。

 春城は「ふう」と息を吐きながらもやはり咳き込む事すらなく、ただ()()()()()()()()()己の首元を一度右手で撫で、遅れない様に自身の歩みを再開させる。だが、追い付く前に、春弥に聞こえない様に小さく呟いた。

 

「お前がどう思おうと、やはり俺はお前が戻って来てくれた事は嬉しいさ、春弥」

 

 そこには当初存在していた重圧や硬さは最早無い。親しみや嬉しさ、そして何よりも深い愛情が込められていた。

 2人の様子は終始対称的であった。

 

 




次回、やっと戦闘シーンが書けます。
ただ、今度も時間が中々取れないだろうから投稿はかなり遅くなると思います。
どうか御寛恕ください。
 
感想や意見、質問待ってます。
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