親愛なる我が"赤"の家族へ   作:右京遠江

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お久しぶりです。
空いた時間に少しずつ書いていたとはいえ、前の投稿からかなり時間が空いてしまい、すみませんでした。
私もどんどん書いていきたいですがリアルの状況がそれを許してくれず……次もだいぶ間を置く事になってしまうでしょう。

そして、前話にて名前だけ出した赬鎮・ゆいの性別ですが、女から男へ修正しました。ミスがそのままになっていました。まだ未登場キャラの事とはいえ、私にとってはおおいに気になる事なので謝らせて戴きます。申し訳御座いません。
修正のついでに、そこ辺りを少し加筆しております。



第六話 もう1人の転校生(1)

 〇

 

 時間帯は昼頃か。

 木々が(まば)らに立つ草原。その中で幾つか存在するある程度整備された道で、夏目の姿があった。

 但し、一人ではない。

 道を正面に立つ彼女の左右、両側の草原部分に2体の忌化生(テルフィング)がいた。外見はぱっと見大型の犬の様だが、頭部に3対の耳が存在していたり口だけがより大きかったり、目のような器官が額らしき平たい頭部の中央に1つだけ存在したり、骨に直接皮だけを被せた様な先端の尖った1メートル近くの尻尾を持っていたり、頭部を含め全身の殆どが濃緑色の鱗の様なものに覆われていたりと、明らかに通常の犬とは異なっている。

 “鱗狗(スケイル・ドッグ)”という名のそれ等は甲高く唸り、剥き出しの牙を噛み鳴らしながらこちらの様子を伺っている。

 そこに攻め込む。

 高ステータスにものを言わせて右手側の一体に向かって5メートルの間合いを瞬時に詰め、刀で斬りつける。下段から斜めの斬り上げ。即座に反応された。こちらに低い姿勢で突っ込む事でかわしたのだ。それも大きな口を開き踏み込んだこちらの右足を狙いながら。そして、夏目はもう()()()()()()を知覚した。

 すぐさま対処する。

「えいや、と」

 刀を振り上げた勢いをそのまま利用して、踏み込みをそのまま右足での跳躍に変えたのだ。約1.5メートルの放物線を体の前面を下にしながら描く。直後、こちらの50センチ下、立った夏目の腰辺りの高さを狙って、回り込んで来たのであろうもう一体が左斜め後方から飛び込んできた。

 擦れ違いざまに宙にいる方に刀を振るう。即座に持ち替えて両手で逆様に握った刀を目下──左から右に流れていくその背中、鱗の継ぎ目且つ骨と骨との間を瞬時に見極めて突き刺す。夏目から見て手前側の脇腹を貫通した。同時、種別(カテゴリ)スキルの1つ、<霊力放射>を発動。

 突き刺した刀の峰を起点に加圧した己の霊力を放射。瞬間的に加速した刀を同じタイミングで引き上げる事で、自動的に切り裂く動作となる。相手の進む勢いも利用し、途上にあった背骨ごと反対側まで斜めに切断。

 甲高い断末魔を聞きながら即座に2回目を発動。相手をやり過ごす為に宙でうつ伏せ気味になっていた全身を、脛の前面を起点とした<放射>で逆さまになる様に跳ね上げる。結果、前方へも体が流れる事になり、その通り過ぎた後を、

「おっと」

 宙にある仲間の骸を遮蔽にして下にいた方の鋭い尻尾が貫いた。着地の際に前足だけを地に着け、後ろ半分の胴を振り上げての攻撃だ。同様に遮蔽となって()()()()把握できなかった為、もしそのままであったら夏目の腹辺りに命中していただろう。──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から万全を規しただけなのだが。

 共に肉眼で捉えられていなかった筈の相手を捕捉できたのは同じ理由だ。

 即ち<霊感>である。

 存在の発覚から少なくとも千年半経つというのに(いま)だに謎が多い忌化生(テルフィング)だが、何故か<霊感>や一部の<共通スキル>、<種族スキル>を使用できる。しかも人間種との比較に限るならば大体の人間より性能が上の場合が多い。

 鱗狼もその例に漏れず、視覚・嗅覚・聴覚こそ存在しないものの唯一保有する、額にある一つ目の様な器官をアンテナとする<霊感>は人間よりも遥かに優れている。

 だがそれはある程度は夏目も同じである。総じて低い性能にある人間種の<霊感>だが、開けた場所で至近にいる相手の動きを感知するくらいなら可能であり、加えて3年間冒険者としての訓練──“気配”を読む力──を積んできた夏目にとってはこれくらいの事は容易なものだ。先程の死角からの飛び掛りを察せたのも同様の理由である。

「せいやっ」

 飛び込むようにして地に落ち、刀から離した左手をついて衝撃を緩和、そのまま身を跳ね上げて側方倒立回転跳び1/4捻り(ロンダート)。まだ残っている鱗狼を正面に捉え続ける様にして着地。奇しくもそれは、鱗狼が振り上げていた尾の勢いを利用して胴後半を前脚を軸に半回転させ、夏目の方に向き直って着地した瞬間でもあった。

 但し、攻勢に出られたのは夏目の方が速かった。着地の際、前のめり気味にしていた体勢の不安定さをむしろ踏み出しに繋げたのだ。対して鱗狼はただでさえ長い尻尾を振り回していた余韻が妨げ(ネック)となり重心が後ろに寄り、犬等と同様の体の構造上後退できない為、精々瞬間的に立ち上がって、前脚の爪を振り上げ、牙をむき出すぐらいしかできなかった。夏目にとっては好都合な迎撃体勢。

 現在の彼我の距離は3メートル強。それを最初と同様に1歩で詰め、狙い易い高さになった首の比較的鱗の薄い前面部分目掛けて刀を振るい、首を斬り飛ばした。取得している戦種(スタイル)──『刀差(カタナサシ)』のスキルの1つ、刀を振るった速さに応じて斬撃時のみ刀身の強度が増す<タチテハヤ>を発動させていた事もあり、あっさりとした手応えを感じながら残心を極める。

 

 ○

 

 ふう、と一息つきながら残心を解く。

「んー、今回はどうかな」

 自らが切り捨てた鱗狼(スケイル・ドッグ)の方を見ながら呟く。否、正確には()()()()を見ながら、だ。

 鱗狼の骸は霊力光を発しながら、分解されるように消え散っている。数秒ほどでそれは収まったが、その場に残った物がある。透ける様でいて透明さはない、不思議な色の石だ。

「今回も素材は無しかぁ。今日は運が悪いなぁ」

 その石を見ながら溜息を吐く。これこそが、人が忌化生(テルフィング)を狩る理由の1つである“霊晶石”だ。そして偶にその忌化生由来の“素材”がドロップする。

 その割合は2割程である為、既に20体近く討った夏目からすれば充分“ツイてない”と言える。

「まあでも結果はそれなり、かな」

 今回の戦闘の目的は素材集めではない。あくまで趣旨は“被弾無し(ノーダメ)で忌化生を狩り続ける”だ。

 実を言えば、鱗狗程度ならば攻撃を直で喰らったところで全く問題無い位のステータスであるし、防具も着込んでおり、そもそもこの手の戦法は本来どちらかと言うとSTR(筋力)END(耐久)寄りの構成(ビルド)である夏目のメインとするものではない。だが偶にはこうやって“縛り”を付けて戦闘する事で対応力を高める事に繋げている。

 無論、己より下の忌化生にしかやらないが。流石に同格以上のものにも可能だと思える程自惚れてはいない。それが出来るのは一部の天才だけだ。才能はある方だと自分の事ながら思っているが、その領域までには至ってない。

 手に持つ刀に意識を遣る。『刀差』等の、刃物の使用を前提とする戦型(スタイル)が共通して保有する“刃を保持する(=刃毀れを防ぐ)”スキル<フキバ>により、鱗狼のそれなりの硬度を持つ鱗や骨等を斬ったにも(かかわ)らず刃毀れの心配はまず無いのだが、根雲郷(リアルワールド)での戦闘を意識してこの流れは常の所作(ルーチン)としている。

 その為、刀身自体にも忌化生は身体から零れたものは霊力になって散っていく為に血液等は付着していないのだが、血払いする様に一度振るってから鞘に納め、2箇所に散ってる霊晶石を拾い上げる。

「さて、どうしようか……」

 これからの事だ。本来ならば今日は春城(はるき)と武器屋等にショッピングに行く予定だったのだが、

「春城君、バックれてるし……」

 今朝の騒ぎを思えば仕方ないかなとも思うが、連絡の1つ位はあっても良かっただろうに。

 義兄への不満を心中で吐露しながら、表示紋を展開し、時刻を確かめる。

 そこには10:56と17:28という数字が二段に表示されていた。

「もう夕方だし今日はもう帰るかな」

()()()()()()()()()()()()()()を見上げながら、考えを纏める。

「うん、霊晶石(いし)を売るのは今度にしよう」

 よし、と表示紋を閉じ、左手で手遊びにしていた霊晶石を懐にある袋型の《アイテムストレージ》──内部の空間が拡張された別天原(アナザーワールド)でのみ使用できる物入型をした宝具の総称──へ入れ、夏目は移動を開始した。

 

 〇

 

 高さ50メートル程の壁に覆われた直径30キロの円形の“異相区画”の1つ“焔ヶ原”。その中央付近に敷いてある幅10メートル程の道に所々に設置された長椅子(ベンチ)に一人の女子生徒が座していた。

 その生徒の名前であろう、薙夜知(なぎやち)夕歌(ゆうか)という名が、傍に置かれた腰に巻くタイプと背負うタイプの《アイテムストレージ》に記してある。

 眉に掛からない程度の前髪と耳の高さのもみ上げはそのままに後ろ半分を団子の様に纏めた黒髪に、きつめの印象も与える涼やかな目つきをした黒瞳を収めた目。その目は展開した表示紋(サイン・デバイス)言伝(メッセージ)欄に向けて伏せられているが、傍目から見ると不機嫌そうな雰囲気を漂わせている。

 現在は座した体勢だが、背丈は160は少なくともあるだろう。焔ヶ原学園の戦闘衣(バトル・クロス)兼制服(筒袴型)に身を包んでいる為はっきりとは解らないが、逆に言えば制服越しでも解る程ではない。

 制服の他、何らかの生物の革と金属でできた胸覆いや肩当、手甲、脇盾、脚絆も身に着けている。大鎧や胴丸等程の重装備ではない、戦闘系には広く好まれている装備である。

 傍らには2つの荷物の他、1メートル半程の長さの槍が立て掛けられている。

 “焔ヶ原”という場所においては珍しい光景でもなく、探せば似たような状況の者は結構発見できるだろう。

 ふと、夕歌が顔を上げた。

 歌が聞こえて来たのだ。

 

 〇

 

 暮るる()の後 訪る夜の暗がり

 鳴かぬ木々の葉 ()かぬ春風

 消え行く篝火(かがりび) 上り霞む一筋の煙

 音無しの中 行く先照らさる事も無く

 戻る道なぞ本よりある筈も無し

 幽かなる されど燻りたる種火

 往かんとす想い既に無く 

 諸共留まり 

 ただ時たつままに身を委ぬるのみ

 

 〇

 

「あら、夏目。奇遇ね」

 口ずさみながら近づいてきた女子生徒──己の友人たる緋袴・夏目に声を掛ける。

(ほんと好きよね、その歌)

 確か彼女の義兄から昔教わったと言っていたか。本人の弁によると歌詞から温かみを感じる為気に入っているらしいが、夕歌からすると、この歌は傍から聞いてて悪くはないものの、如何せん暗く感じる為そこまで好きなものではない。

 前に進み続ける事を諦めた様に感じられてしまうのだ。

 まあ本人には言うつもりはないが。自分がどう思おうとも、己の友人にとっては大切な歌なのだ。無意識内にだろう、よく鼻歌に出す程に。態々その気持ちに水を差す必要はない。

「夕歌ももう帰り? いつもより早いよね?」

「ええ、父さんが出張になったから夕飯の当番のローテが早まったのよ」

「そう、お疲れ。じゃあ一緒に行く?」

「ええ、そうするわ」

 丁度作業も終わった所だ。

 表示紋を閉じながら立ち上がり、2つの荷物の内、片方をからい、腰に巻く方は左手に持った槍の刃の根元部分に垂らす。

 2人並んで歩き出す。と言っても第1の目的地はそう離れた所にある訳ではない。

 5分も経たない内にある建物に辿り着いた。

 高さ約20メートル・四方各約50メートルずつと中々大きく飾り気の全く無い無機質な建物だ。壁面の中央から高さ4メートル・幅10メートルに切り抜かれているものの扉等は設置されていない──一応(ひさし)としてその部分の上縁がとび出している──。そこがこの建物の通常の出入り口で、他の生徒達が出入りしている。

 2人もその中に混ざって入る。

 内部は伽藍堂で階が存在せず、区切りすらも無い。床が張られている他は外面と同様全く装飾の類は存在しない。唯一、出入り口の反対側に両開きのスライド式ドアが壁一面を覆い隠す規模で設置されている。

 一見すると体育館の様に思えるが、この施設の使用目的は運動とはまるで関係無い。

 ある意味ではとても単純とも言えるか。

 2人してしばらく奥に進んだ所で、【シフトアウト】と唱えた。

 視界が切り替わる。

 

 ○

 

 風景は変わり映えは無い。相変わらずの殺風景な建物の内面だ。但し、よく見ると周りにいた者達が異なっている。

 何よりも自分の恰好が変化している。

 制服はそのままだが、他に装備していた胸覆──胸部のみを覆う装甲──や脇盾、籠手、脚絆等が消失している。

 対して夏目の方は元々今日は防具の類を身に付けていなかった事で、見た目は一見変化は無い。

 また武器は帯びたままであるが、武器そのものの外見が双方共に異なっている。

 この建物の外に出てみると周囲の風景までも一変している。元々は高い壁に囲まれた町の様な所の中にいた筈なのが、今見えるのは一般的な学校らしい校舎を始とする建物群とその周囲の半分強を取り囲む山。

 そして時間。建物に入る前までは昼時だったのに、今は陽も殆ど沈んだ黄昏刻。

 二人は今、別天原(アナザーワールド)から根雲郷(リアルワールド)へ、別架身(アバター)から“本来の身体”へと“シフト”したのだ。

 己と夏目の装備が変化したのもそれ故。“向こう”で作られたものは“こちら”へと持ち込めない。

 今出てきた建物は“シフト”専用の施設だ。否、正確には“シフト”が可能な重界区域を取り囲んで出来た施設だ。当然用途も“シフト”する為のみであるからこそ、快適性等を度外視したああまでの無骨な造りなのだ。

 建物から出た後は訓練棟へと向かう。

 その最中、ふと気になった事を訊ねてみた。

 向こうの方が約170と自分よりも背が高い為、見上げながら。

「そういえば、夏目、今日は用事があるって別行動してたけど、結局何だったの?」

「え? あ、うーん、今日本当は春城君と買い物(ショッピング)に行く予定だったんだよね。専用の武器とか防具とか見て回ろうと思って。けど、その春城君がばっくれちゃってさ。まあ、仕方ない面もあるんだけどね……」

「ああ。まあ、あんな騒ぎだもの。逆に“こちら”に来てた方が色々と面倒だったでしょうね。多分、(いや)、絶対勝負を吹っ掛けられていたでしょうし。主に男子連中から」

 赤衣・春城についての評価は他学年でも勿論知っているが、普段見せる噂や見た目に反して勝負自体には消極的なその態度やその問題の試験の映像を見た事無い事から──学校主体の戦闘の場合は一部を除き生徒側には公開されない──、加えて中途入学者という事もあって、特に後輩の中には彼を“見た目だけだ”となめている者が多い。実際、夕歌もその連中程には行かなくとも、一部の先輩達──春城と実際に闘った者達──程に春城の実力を高く評価していない。

 その為とも言うべきか、非公式ファンクラブがある程の人気者である夏目が妹としているばかりか、実は更に途轍もない美女までも存在してとあっては、彼の存在を好ましくなく思っている嫉妬に駆られた者達──と一部の暇人──が“憂さ晴らし”として戦闘を挑んでいただろう。

 勿論それは夏目も把握している──正確な経緯はともかく、“春樹が特に彼の後輩達からなめられている”と言う事は。

「そうなんだろうけどね……。春城君、面倒臭がりだからそうならない様にさっさと帰ったんだろうってのは解ってるんだけどね。けど連絡の1つ位はあったって良かったのに……」

 成程。“兄がいない事”にではなく“自分に連絡をしてくれなかった事”にむくれているのか。

 夏目が自身の兄を好いているのは既に気付いている。ある程度彼女と仲が良い者ならば殆どが気付ける事だろう。ただそれが異性としての“恋愛”なのか家族としての“親愛”なのかまでは傍目からは判断つかないし、おそらくは本人すらも気付いていない。

 夏目の事情を知っている身からすればその曖昧さは仕方ない事だろうとも思うし、一方で早めにその区別は決した方が良いと思うが、それを告げるのには躊躇ってしまう。他人(ひと)様の家庭事情とはいえ友人だからこそ言った方が良いのだろうが、現状これで綺麗に整っているし、下手に刺激して無事に済めばまだしも、今の彼女等の関係が狂ってしまったりしたら申し訳なさ過ぎる。

「向こうもそこに気が回る程の余裕が無かったんじゃないの。ほら、そんな細かい事を一々気にしていたらこの先身が()たないわよ。さっさと気を取り直しなさい」

 結局そんなおどけた様な気休めしか毎回言えないし言わない。

 そうする内に訓練棟に着いた。

 

 ○

 

 訓練棟、といっても、用があるのは正確にはそこに隣接している個納庫室(ロッカールーム)だ。一応男女別に分かれており更衣室としても利用できるが、そうするのは実習時間を根雲郷でのトレーニングに使う者だけで、豊葦那に行く者は荷物置き場にしか使っていない。現に夏目達も預けていた荷物を取りに来ただけだ。

 女性用の部屋に向かう途中、曲がり角を曲がってすぐの廊下に設置してある長椅子(ベンチ)に、1人の男子生徒が座っていた。その生徒は自身の表示紋を開いて何かしらの作業をしていたようだが、足音に気付いたのかこちらを一瞥すると表示紋を閉じて立ち上がる。そしてそのままこちらの方を向いて、

「どうも、先程はありがとう御座いました」

 突如として御辞儀してきた。

 見知らぬ顔ではない。赬鎮(てしずみ)・ゆいという名の夏目のクラスに今日転入してきた生徒だ。

 肩程までの長さの三つ編みを一房垂らしたショートの淡い水色の髪に、薄茶色の瞳を収めた大人しそうな目。顔立ちは整っている方だが、如何せんぱっとせず、真面目そうな顔つきである。

 恰好は普通の筒袴型の制服であるが、速度重視型が好む、小袖の袖を肩口からと袴の裾を切り落としたものになっている。ただ本人の趣向なのだろうが、通常は膝丈なのに対し太腿半ばまでの丈に改造されている(上下共々鎧下(インナースーツ)を着てる為露出は無いが)。体格は160センチ程で、自分や夏目と比べてやや低く、体系も細身であり、中性的な容姿も相まって女子と言われてもぱっと見て違和感は無い。流石に肩幅で判別は付きはするが。

 袴の両側の隙間(スリット)には自動拳銃が1丁ずつ差してあり、腰裏の両側からは短剣らしき物の柄が1つずつ覗き、腰に巻いてある2つの剣帯には、柄こそ通常の物ながら刃先が脇差等と比べても異様な程短い刀がそれぞれ1つずつ吊ってある。更に制服の膨らみ方からするに懐にも何か仕込んでいるし、傍に置いてある荷物の量からして他にも何か持っていそうだ。

 1つの武器しか持たない冒険者は余程の特殊な事情を持つ者を除いてまずいないとはいえ、逆に普段ここまで重装備な者もそんないない。斥候や先頭補助を主とする者にも結構な数の武器を持っていたりするが、それでも通常は苦無や投げナイフ等と系統は纏まっているものだ。

 同じ組である事と人付き合いの良さ故に既に互いの紹介は済ませているが、お礼を言われるような事に心当たりが無い為、果たして今のは自分に掛けた言葉であってるのかと疑ったが、

「あら、ゆいさん」

 夕歌の方が既に見知った相手にする様に応えた事でその疑問は解決した。

 だが驚いた。

「あれ、ゆいさんの事、夕歌もう知り合ってたの? 紹介しようと思ったんだけど」

 同じ学年故に顔は既に知っていただろうが、組が違う為に互いにまだ“知り合って”ないと思っていたのだが。

「ええ、さっき別天原(向こう)で赬鎮さんの模擬戦の相手をしたのよ。あとちょっとした案内」

 軽い調子で夕歌が告げる。

「はい。焔ヶ原学園(ここ)での振る舞い等の案内をして頂いたのみならず、僕の模擬戦の相手まで努めてくれて、薙夜知さんには非常に感謝しています。御蔭で大変助かりました」

 中世的で大人しい声だが、(へりくだ)るとまでは行かないものの、同年代の自分に対しては身構えたくなる様な丁寧な言葉遣い。

 ちなみに夏目も夕歌も彼女の事を下の名で呼んでいるのは、ゆい自身が最初にそう頼んだからだ。

「別に礼を言う程でもないわよ。こっちに何か損害があった訳でもないし」

 深々と御辞儀する彼女に、あっさりと返す己の友人の姿にはちょっとした憧れを持ってしまう。

 “相変わらず面倒見が良いなあ”と。

 

 ○

 

 夏目は己の事をそれなりに人付き合いは良い方だと思っているが、そうなった要素の1つとして夕歌の存在があると思っている。

 彼女は決して取っ付き易い見た目であるとは言えないものの、かなりの優しさが存在している。

 彼女と知り合ったばかりの当初は“事件”の影が精神的にかなり影響してあり、“緋袴・夏目”となってすぐであった事もあって、人を信用していなかった。否、他人(ひと)と関わりを持つ事に怯え、恐怖していた。

 一時的な処置として初めに預けられた施設では似た境遇の者達が沢山いたし、施設の大人達も一気にそんな人数が増えた事で忙しくなり、個々に構ってあげられる時間が無く、緋袴家に引き取られたのもすぐの事で、結局施設の大人達から“安心”を得る事は無かった。

 その緋袴家でも、主人であり自分の養父となる“継識(つぐしき)”という男性も最初に顔だけ会わせたものの、しょっちゅう仕事の都合上という事で滅多に家におらず、現在も引き取られてから5年経つというのに顔を会わせてない時間の方が長いという状態になっている。それどころか、未だ引き取られた理由すら知らされていない。

 夏目と同じ様な経緯で引き取られたという自分の義兄たるそれまでの記憶を失った春城についても、当初は彼の顔を恐ろしく感じていた事もあり、向こうは何とかこちらに寄って来ようとしていた様だが、なかなか心は開けなかった。(つむぎ)についてもその2人よりは安心できる人物であったが、当時の夏目にとって“立派な大人”である筈の紡が、ただの子供である自分に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるという状況への戸惑いから避けがちであった。

 そんな自分に“優しさ”を持って接してくれたのが転校先の初等学校で席が隣になった夕歌だ。彼女こそが、今の“家族”から満足な形で得られなかった、被災時である己への憐憫等から来るものでもない、対等な者と見做した故の優しさで初めて接してくれたのだ。

 最初こそはこちらの態度故に様子を見計らっていた様だが、数日も経たない内にぶっきらぼうな口調による初等学校の案内の申し出をしてくれた。それ自体はありふれたものであって向こうもそこまで意識してのものではなかっただろう。そもそも当時“事件”が起きた場所からは離れた所に移動して来た事で、夏目が被災者の1人だという事を夕歌は知らなかった筈だ。事実、後になって夏目が話した事で初めて知った様だった。

 だが前提条件がどうであれ、相手の心情を“察しやす”かった為に己はその優しさに正しく満足する形で触れる事ができ、“安心”を得られ、今の"夏目”になった切っ掛けになった。

 今では友人の筆頭として挙げられる程の仲までになったが、その事への感謝は持っているが本人には気恥ずかしさから伝えていない。と言うより、それこそ態々言葉にしなければその思いが伝わらない仲ではない。

 

 ○

 

「では僕はこれで失礼します。また明日」

 別にたいした用事であった訳でもなかった為、立ち話に時間を掛けることもなくそう一礼し、鞄を拾ってゆいは去っていった。

 夏目達にも彼を引き留める理由も特に無く、見送る事もせずに女子用個納庫室に向かって進んでいった。

 

 




・作中で出してる“気配を読む力”ですが、大体は幾ら訓練を積んでも受動的には周囲1,2メートルの存在を感じ取れる程度です。しかも細かな動きとかは解りません。視線の有無等は解りますが。但し、能動的の場合は範囲や精度は広まります(“後頭部に打撃の気配”等)。一部の例外は、それこそソナーレベルの精度を誇りますが、あくまで意識して行っている時の話であり、常日頃から皆が皆こんな技術を万全に使える訳ではありません。


お詫び
前書きで述べた通り、私のリアルでの都合により、次も暫く更新できません。何とか時間を見つけて続けたいとは思っていますが、半年以上更新が出来ない可能性が高いです。エタるつもりは毛頭ありませんし、むしろ書きたい展開が沢山あるので絶対続ける覚悟です。どうかこれからもよろしくお願いします。

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