冬木市に立地する高級ホテルの最上階。
ケイネス・エルメロイはお気に入りの銘柄のワインが注がれたグラスを揺らし、膝を折って座するランサー……ディルムットに世間話でもするかのように口を開いた。
「ランサー……貴様はバーサーカーに誉れある戦いを穢されたと愚痴を溢していたな」
「ハッこのディルムッド・オディナ。次こそはあの狂犬めの首を主の下へと――」
「ならぬ。昨日を以て我が陣営とバーサーカーのマスターとは正式に同盟関係になった」
「なっ!?」
「……驚いたか。まぁ貴様の足りない脳では無理もない」
胸ポケットを探りピンク色の液体が揺れる小瓶を取り出す。
「まさか、辺境の魔術師に後れを取るとは」
これは、ディルムット・オディナの異性を虜にする黒子。それに対特化された霊薬の一つ。
この聖杯戦争が始まる前に聖杯製造に関わった御三家の間桐から同盟を持ち掛けられ、先日ようやく形になったらしい――それをケイネスが同盟を条件に譲り受けたのだ。
「バーサーカーのマスターとはある盟約を交わしていた。
私の心の闇を晴らす事が出来れば同盟を結んでやろう、とな。」
まさか、完成させるとは思わなかった。
この天才の私ですら不可能だと膝を屈し、時計塔で己と比肩する腕を持つ知り合いの魔術師達にも掛け合ったが、より強い『
……それでは意味がない。ケイネスはソラウという想い人の顔や声に惚れた訳ではない。あくまで彼女が彼女だからこそ惹き付けられた。
故に、純白のキャンバスを黒い絵の具で塗りつぶすような行いを彼は許せなかった。
「主よ……奥方様の姿を昨日の晩からお見かけいたしませんが」
「フンっお前の知るところではない」
この男から
バーサーカーのマスターには借りを重ねるようで癪だが、欲をいえば対英霊用の自白剤でも用意してこいつの豚の糞のように醜い本性を剥き出しにしてやれば良かったと今になって後悔していた。
「(いや、彼女の錬金術師としての腕は時計塔としても目を見張る物…私の講義を受けたいと然り気無くだが言葉を漏らしていた……分家と結ばせるか?)」
いっそのこと親戚関係になって彼女の才能を我がエルメロイ家に取り込むのもありかもしれない。
「バーサーカーのマスターと交わした同盟は互いが最後の二騎となるまで不可侵を貫くこと。
……支度しろ。ランサー、手負いの獣狩りの時間だ」
バーサーカーの評価もそこそこに、
ランサー陣営はセイバー陣営への攻略を開始した。
何故、ランサーの『愛の黒子』を打ち消すような霊薬を揺月は作れたのか?
――とある日、間桐の蔵書室から顔を真っ赤にして出てきた事があった。「えっちぃのは嫌いです!」※当時一歳
《その手》の資料が数多く残されていたらしい。
↑慎二がHeaven's_Feelで媚薬を持っていた理由?