間桐で女はアカンて!   作:ら・ま・ミュウ

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取り敢えず修正完了。


ランサー陣営の時間

冬木最高峰の霊地であり、私の工房として現在改良中の間桐の屋敷が焼き払われた。

 

幸いにも自身を核にした投影魔術に一時的な実体を持たせる事を目的に作成した魔術礼装や、間桐が保有する土地の契約書等の類は私が肌身離さず身に付けていたり、脱出の際に臓硯が持ち出していたので完全には失う事はなかった。

回収出来たのは9割といった所。別に残り1割を切り捨ててよいというわけではないが、

……エルメロイや遠坂次期当主の貧乏症の煽りを此方まで受けてしまっては目も当てられんからな。

魔術殺しと言えど……と、我が工房の質を過信するのではなく、アイツならばセイバーの宝具で屋敷ごと塵に返しかねないと用心に用心を重ねておいて正解だった。

 

その為のエクスカリバー強奪でもあった訳だが、結果はライダー陣営の漁夫の利……しかし今回は初陣だ。詰めが甘かったと素直に征服王の実力を讃え、以降の糧とすればよいではないか。

 

聖杯戦争は始まったばかり、サーヴァントの真名や宝具の能力を隠し通しセイバー陣営の大幅な戦力ダウンを果たせただけで、今は上々としよう。

 

――なに、魔術世界で換算すれば()()()数千万の損失など、数年もあれば取り戻せるとも。

 

 

 

「……さて、本当に何処にあるのだろうな」

 

キャスター工房の捜索を開始してから六時間が経った。月は傾き初め、遠くの空がうっすらと赤みを帯びて行く。

 

其処らの虫を即席の眷属にして捜索範囲を広げているが、一向にそれらしい影は確認出来ない。道ゆく人に道を訪ねるが分からない。

 

虫に各地の水を運ばせ、ウェイバー・ベルベットの手法で探してみたが、ヤツが本格的に動かす時期はまだ先であるのか魔術の残り香は感知出来なかった。

つまり私は宛もなく外国人の装いをして夜道をさ迷っているという事だ。

――決して私が方向音痴とかではないぞ?

キャスターの手腕が想像以上に高く手こずっている。それだけだ。

 

「ちょっとそこの君――」

「“私の目を見ろ”」

 

既に何回目となるパトロール中の警官を手慣れた様子で撒きながら、帰って休みたい。いや、帰る家など存在しないのだが……深く息を吐いて近場のベンチに腰をおろした。

 

「……ハァ」

 

今では白紙になってしまったが、プランAとも言うべき倉庫街の戦闘を恙無く終えた後の予定では、私は暫く工房に隠りアサシン、キャスター、ランサー、ライダーが脱落するまでは穴熊を決め込むつもりであった。

その後、宝具返還を条件に此方が一方的に有利な条件でセイバー陣営と同盟を結び、アーチャーを打倒した後はバーサーカーの真名を明かして動揺したセイバーの隙をつき、首を討ち取って晴れて聖杯戦争の勝者となる。

 

宝具を奪われたセイバー陣営が早期退場する可能性は、魔術殺しの機転や近代武器を容赦なく投入する我々(魔術師)にはない発想力、アインツベルンの手もあるため、限りなく低いと判断した。

それに、あのセイバーには戦闘用の宝具が遺されていないわけではない。

 

その気になれば()()()()()()()()アイツベルンなら造作もないだろう。

 

聖杯は汚染されているが根源到達の足掛かりになることは確か。じっくり調査して問題ないようならそのまま使用し、無理のようなら泥の浄化に掛かる。

障害となるのは、此方を覗き見る魔術協会の下銭な者共。そして抑止力(=代行者)ぐらいだと思っていた。

 

 

しかし、現状はランサー陣営―魔術的、相性的な問題で不可侵の同盟状態。

ライダー陣営―確執が生まれ、キャスター陣営―未接触、アサシン、セイバー陣営―おおよそ予定通り、アーチャーとの関係は予定する未来図の中で最悪に近い。

拠点を失い、予想だにしない強敵の出現か。

「いやはや、子供に容赦ない戦いだね」

 

この姿をしていれば彼方から勝手に迎えにくるかもしれないと淡い期待を寄せていたが、ここまで上手くいかないとなると、五次のキャスターの真似事をした方がよかったかもしれないな。

 

「お迎えに上がりました、ジャンヌ」

 

 

 

 

……どうやら私の運命力も捨てた物じゃないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ケイネスside》

 

自らの婚約者であるソラウをランサーの『魅了の黒子』から解き放ち、すぐさま本国へ帰らせたケイネスは、ソラウの抜けた穴を埋めるよう魔力供給の負担を背負い、一人の魔術師として十全な戦闘を行う事が難しくなっていた。

 

 

夜中、聖杯戦争のルールに則りアイツベルン城に襲撃をかけたケイネスらランサー陣営は、森の中で分断され、ケイネスはセイバーのマスターと思わしきホムンクルス、その付き人と相対することとなった。

 

「成る程、セイバーのマスターはホムンクルスか…アイツベルンの錬金術は興味深い。鉱石科においては何か通ずる物があるやもしれんな」

 

と言っても攻撃魔術に毛が生えた程度の術式しか構築出来ない錬金術師と片や魔術行使すら覚束ない女一人。

魔力分配のハンデこそあれどケイネス・エルメロイに敗北の二文字はない。

 

白銀の魔鳥が水銀の網に絡み取られ地に落ちる。すかさず次の魔鳥を銀の糸で編み始めるアイリに魔術礼装と化したナイフを投擲しながら牽制する舞弥。

ケイネスは水銀の壁でそれを防いで、真上から飛び出したアイリの魔鳥が鋭い嘴で彼を襲う。

 

―――両者が互角に戦っているように見えるのはケイネスが単に残量魔術を気にしているからで、魔術師としての決闘に準じていたからだ。

 

「失礼、アイリスフィール!」

 

「舞弥さん!?」

 

しかし、薄氷の上に立つような均衡においての話である。

イリヤのように髪を媒介にする事が出来ないアイリの銀の糸は着実に数を減らしていき、舞弥のナイフはついに残数が尽きた。

 

最後の魔鳥が水銀の海に呑まれて壊れ、

最早、手段を選んでいられなくなった久宇舞弥は閃光弾をケイネスの眼前に投げ込み、眩い光にケイネスが警戒を強める中で、アイリにセイバーを呼ぶべきだと助言する。

アイリはそれに素直に従ったが、よりによって『それ』がケイネスの逆鱗に触れた。

 

「おのれ魔術師としての決闘に下賤な武器を持ち込むなど!」

 

閃光弾の残骸を握り潰し、額に青筋を浮かべながら怒気を表にするケイネス・エルメロイ。

舞弥とて、切嗣から渡された資料の中で生粋の魔術師である彼が近代兵器を嫌い、魔術師同士の正々堂々とした戦場でそのような反則行為に手を出せば反感を買うだろうことはリサーチ済みだった。

 

エルメロイ家に代々受け継がれてきた魔術刻印に唸るような魔力が流れ出す。

嫌な予感に一歩下がるも、アーチャーを思わせる水銀の波紋がアイリ達を囲い込み無数の槍を象った。

 

「これ以上、無様な様を晒してくれるなよ!」

 

「切嗣…使わせてもらいます」

 

ケイネスの怒号を涼しい顔で流して

アイリを背に舞弥は大型拳銃に一発の弾丸を込める。

並の弾丸ならば、あの水銀の波を突破出来ない。

槍の数からして次弾を装填する暇もないだろう。それに加え、急な襲撃もあって現在持ちうる武器は御守りのように常に身に付けていたこの弾丸のみ。

誰もが生を悲観する状況…まさに現状がそれだろう。

しかし、この弾丸――彼の魔術礼装だけはその絶望から一筋の活路を見いだす。

 

水銀の槍がこちらを串刺しにせんと迫りくる瞬間、彼女の切り札

【起源弾】は放たれた。

 

 

 

 

《ランサーside》

 

ランサーはこの無益な戦い、本来なら呆気なく勝敗が付くだろうと思っていた。

手負いの獣。それが魔獣ならば恐ろしいだろう……が、牙を失った獅子とも言えぬ二足で立つ事がせいぜいの相手。

油断していた。それは否定出来ない。

武勲を立てるのを焦っていた。それもある。

この聖杯戦争は、常に我が前世の非業の追体験をさせられているような不快感があった。主の婚約者の心を奪い、不信を買い、我が主への忠義を示そうと私は冷静さを見失っていたのだろう。

 

森の中でマスターと分断され、我が槍を前に“英霊は神秘なき物では傷つかない”が故、急揃えの概念礼装を構えて対峙したセイバーの嘲笑。

 

「どうしたランサー、手負いの獣に怯えるか?

それとも、野獣の猪にでも怯えているのか?」

 

「舐めるなセイバー。この俺が敵を前にして恐れおののくなどっ!」

 

明らかな誘いにも関わらず腸が煮えくりかえる感覚を抑えられないランサーは荒い息を繰り返す。

 

――あぁ、ダメだ。やはり此度の聖杯戦争は俺の生前の闇を強く意識させられる。

ランサーは片手で額を抑え、早く終わらせなければ怒りで我を忘れるような気がして二本の槍を構える。

 

「そう言えば―――、」

 

さてはセイバーは時間稼ぎでもしているのだろうか。

ランサーの闘志にも涼しい顔をして口を開く。

 

「フィン・マックールという男は女にだらしなく、我々英雄の恥だと思わないか?」

 

……ランサーは手の皮が剥げるほど槍を握る手に力が入った。

 

「セイバー、貴様……騎士の誇りを捨てたか」

「私は騎士になるために『騎士王』となったのではない。祖国を救う為に『王』となったのだ。

騎士としての誇り(聖剣)を失った今、私に残されたのは王として責任だ。ランサー、私は国の為ならどれ程の非道にも堕ちてみせよう。」

 

「ならば、その減らず口を我が槍の錆とするまでよ!」

 

二双の魔槍が轟音を発てて火花を散らす。

宝具を受けた剣は激しく撓んで、亀裂を作る。完全に砕けてしまう前にセイバーは高密度の魔力を流し込んで剣を爆発四散させ、風の魔力で予めガードしていたセイバーとは違い鋭い鉄片がランサーの肌の表面を傷付けた。

 

「――――くっ」

 

ランサーが一瞬細めた視界の中で見たのは二本目の剣を何処からともかく取り出すセイバーの姿であった。

 

 

それを卑怯とは言うまい。

しかし……何が手負いの獣か。

こんな冷酷な眼をした者が国の頂点にあっていいものか。

 

ランサーの手足は怒りとも未知の恐怖とも区別がつかぬ震えに襲われ、槍を握る力が鈍るように感じた。




感想でご質問いただいたので。
Q,ギルガメッシュの勧誘に乗ってたらどうなった?

分岐は多々あれど、魔術師としてのプライドを折った揺月は最終的には抑止力に消されます。つまり生存Zeroです。
ギルガメッシュの勧誘に乗ると、強制『Heaven's_Feel』ルートになり、桜生存の場合は遠坂凛に、
桜死亡の場合は衛宮士郎と対決して何れも死亡します。

唯一の根源到達を諦めた条件での生存ルートは士郎との間に子を成して、その子供を間桐の後継として育てる事に新たなる希望を見いだしたルートです。
その場合、男でも女でもその子供は“確実”に根源に到達します

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