間桐で女はアカンて!   作:ら・ま・ミュウ

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時は少し前に巻き戻る(Fate/strange Fakeネタ)


愉悦

聖杯問答に参加する前にやっておかなければならない事がある。

それは、我々の儀式を盗み見る時計塔の無粋な魔術師達への返礼であり、近い未来、不良品とは言え聖杯戦争を利用する愚者共への応酬である。本来ならこの役目は臓硯が任される筈だったのだが、何事にもイレギュラーという物はある。大量の蟲を失ったとは言え、ヤツでも時計塔の魔術師への対処が不可能とは思えないが、荷が重いのは確かだろう。

 

Fate/strange Fakeという並行世界の知識で、奴等が聖杯問答の時期にアインツベルン城へ使い魔を放ち映像を記録していたのは知っていた。

 

将来の学舎を共にする同士の中でも一人。

誠に遺憾ではあるが、《彼女》には魔術師として面子に泥を塗られたも当然の行いをされている。

魔術師としての己に誇りを持ち、先々代も前から受け継がれてきた聖杯戦争をある種の神聖視……とまではいかなくとも一定の感情を持っていた。

神造兵器と英霊を自由に動かせる私が臓硯の代わりに御三家代表として彼女と対面するのは、所謂避けられない運命というヤツだった。

 

 

 

 

 

▼▽▼▽▼

 

「う~ん。ここが聖杯戦争が行われる霊地か」

 

揺月の視線の先に一人の少女が立っていた。

四六時中傘を持ち歩いていそうな奇怪なメイクとゴスロリ服が印象的な十代半ばの少女――名はフランチェスカ。

 

我が肉親、臓硯と同じく二割、三割と跳んで九割ほど人間を止めたも同然の化け物であり、その生きた年月は百年を優に越える。

 

それに一度死を超越した存在だ。

こことは違う並行世界で英霊の座より己を呼び寄せるという変則的な行動を取ったり、粗悪品とはいえ大聖杯を造った神才。

英霊という精霊化した彼女よりはマシであろうが、聖剣やサーヴァントを持たない今の揺月が相対すれば、間違っても勝算などあり得ない相手だ。

 

(……決めるなら一撃だな)

 

聖剣を強く握りしめ、バーサーカーに合図を送る。

バーサーカーは近場の軍事基地から拝借したガトリング銃を茂みの中で構えた。

 

「――何か、来る?」

 

フランチェスカがそう呟いた瞬間である。

彼女は魔術回路をフルで回し結界を張る。二重三重と恐ろしい速度で並の魔術師なら脳が焼ききれる術式を構築して――殆どが無意識であった。

ただこうしなければ自分は確実に死ぬ。

《あの時》や、『あの時』とは違って偽りの死ではなく文字通りの死。いや、表舞台で目立ち過ぎた私の死後は英霊の座に招かれるだろうから――永久に人理の駒として星に利用される筈だ。

かつてない悪寒と恐怖が全身を駆けずり回る。

 

そして弾丸の雨を前に目を見開いて驚いた。

 

(…只の弾丸じゃない)

 

その通りである。

その弾丸の雨の大本であるガトリング銃は、バーサーカーの宝具【騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)】によってDランク相当の疑似宝具と化している。

本来の威力とは比べ物にならないほど強化された弾丸は、直撃であれば英霊であろうと消滅の危機を免れない。

よって雨細工のように砕けた結界と間をおかずに蜂の巣になるフランチェスカ。

 

「……違うな」

 

暗殺や毒殺が日常茶飯事の時計塔だ。流石にそこまで柔ではない。

決して余裕ではない鬼気迫る笑みを浮かべた彼女は、バーサーカーを見下ろせる建物の上に立っていた。

 

「まさか、私を警戒している参加者がいるなんて思いもしなかったなぁ」

『…Arrrrrrr』

「しかも、バーサーカーのマスターとはこれまた想定外。こんな魔力だけを無駄に喰う駄犬を使いこなすなんて、ロードエルメロイ以外はこの辺境の島の現地人の筈でしょう?」

 

フランチェスカは拡声の魔術を使って周囲に聞き渡るように口を開いていた。

バーサーカーのマスターが何処に隠れ潜んでいるか探しているのだろう。もしくは監視しているマスターの『使い魔()』を潰そうと躍起になっているのかもしれない。

人を小馬鹿にしたような口調とは裏腹に、震えが混じるその声は、心が死の恐怖に囚われていると明らかにしていた。

 

『らしくないですね、フランソワ』

「…ッゥ!その声はまさかジャンヌかい?」

 

予想だにしない女の声にフランチェスカは息を呑んで問い掛ける。

 

『貴方がジルに会いに訪れる事を私は知っていました』

 

拡散の魔術で居場所をはぐらかされた馴染み深い声。

何故、ジャンヌが魔術を使えるのか。フランチェスカにはこの際どうでもよかった。問題は何故ジャンヌがここにいるのか。

 

(調停者(ルーラー)として召喚されたのか?それともジルが呼び出した?)

 

聡明なフランチェスカの脳内で様々な憶測が飛び交う。

その中に《このジャンヌの声が偽物である》という可能性は存在しなかった。自分がこの聖処女の声を聞き違う筈がない。それに我が友の名をそんなに慣れ親しそうに呼べる存在なんて限られている。

激しい焦燥故の誤った思い込みというヤツだ。

その時の彼女は、永劫に人理の奴隷として使われる恐怖と、存在する筈がない相手の出現のせいで酷く混乱していたのだろう。

 

「つ、ツレナイなぁ。久しぶりの再会なのに声だけなんて、姿を現してはくれないのかい?」

 

『私は今の貴方と過度に関わりを持つつもりはありません。去りなさい』

 

ジャンヌの声は冷たい拒絶を告げる。

 

「そんなの嘘だ!君なら分かるだろう!今の()が聖堂教会にとってどれだけ異端な存在か!神の奴隷である君が僕を見逃す訳がない、きっと後ろを見せた途端にそこのバーサーカーに攻撃させるにきまってる!」

 

フランチェスカは逆にそうであって欲しいのか声を荒げて髪を掻き毟った。

それを遠目にジャンヌの姿をした揺月は口元を弧に歪める。

 

精神的な余裕を崩された人間はここまで脆いのかと、黒い衝動に感情を抑えられずにいた。

 

(…あぁ、そうか。この沸き上がる衝動こそが…愉悦か)

 

知識では知っていたが、己にこのような嗜好があるとは。

臓硯や言峰綺礼が好むのも無理はない……愉悦とは一種の麻薬ではないか?

愉悦を知った揺月には、フランチェスカを中心に世界が輝いて見えた。

そして同時に、ここで殺してしまうのは惜しい。

彼女の恐怖と絶望はより熟成させるべきではないか?

そんな妙案が頭に浮かんだ。少し前の揺月なら非効率的だと断じていた考えだった。しかし、愉悦という快楽に一度浸かってしまった彼女は“遊び”を覚えたのだ。

 

『ならば、私の手で神の身元へ貴方を送って差し上げましょう』

 

それは幼子が虫を潰して笑うような残酷な物なのだろう。

言葉を聞いて絶望したように傘を取りこぼし恐怖のあまり失禁するフランチェスカ。その瞳にはガトリング銃を構えるバーサーカーと旗を掲げた聖処女が此方を目指し歩いてくる姿。

 

「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!?」

 

ジャンヌ・ダルクに殺される。その盲念に取り憑かれたフランチェスカは自らの粗相を気にしようともせずに走り出す。

 

(ここで逃げ切ってもヤツの言葉なら聖堂教会だって本気で動いてくる。時計塔から出てはいけない。魔術協会に見捨てられれば僕は終わりだ!)

 

口調はジャンヌの影響か男の物へと変化し、涙ならがに生き残る道を模索するフランチェスカ。

追わない鬼と逃げる人。最早どちらが化け物なのか分からなくなっていた。

 

 

「思ったより時間が掛かってしまいましたね」

 

ハックしたクルーザーを走らせるフランチェスカを見送り変身を解いた揺月は愉しげに呟く。

 

これからアインツベルン城へ向かって聖杯問答には間に合うだろうか?

 

ライダーの宝具が明らかとなりセイバーの傷心が加速するのを加味しても自らが赴く理由などはない。

だが、絶望する騎士王の顏を覗き見たいと思ってしまうような今の私は――奇怪しいのだろうか。

彼女の表情には無垢なる物ではなく禍々しいまでの邪悪な笑みが浮かんでいた。




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