※前話と今話は聖杯問答に繋がるまでの物語です。
――古代ウルク
(…皮肉な事よ、何者にも成れる才を有しながら魔術師として生きる道しか存在せぬとは)
生前の頃、ギルガメッシュはほんの気紛れで未来の己自身を対象に「並行世界を含めた未来」を最高ランクの千里眼で見通してみた事があった。
聖杯戦争。万能の願望器『聖杯』を求め“マスター”と呼ばれる参加権の令呪を与えられた魔術師達が過去の英雄をサーヴァントとして召喚し、最後の一人になるまで奪い合う殺し合い。
ギルガメッシュは目を細めて一人の魔術師を眼下におさめる。
間桐揺月…辺境の魔術師。神が世界の裏側へと撤退し神秘薄れた現代において、神代全盛期の魔術師らを思わせる、この時代には過ぎた才を秘める少女。
彼女は五回目の聖杯戦争で、例外的に八人目のマスターとしてギルガメッシュと共に戦場へ赴くことになった。
「――何故だ揺月、何故遠坂を桜に殺させた!!?」
「フッ……ふはははははは!可笑しな事を言うな赤毛の小坊主!私を笑い殺す気か?
桜はライダーのマスターでアレはアーチャーのマスターだ。ちと、手を貸してやったがこれで桜は根源へと一歩近づいた。なんとも喜ばしい事ではないか!悲観すべき点など何処を探せば見つかると言うのだ!」
剣の丘で高々と笑い声を上げる揺月。
「お前ッ遠坂や桜の気持ちも知らないで!」
「他家の考えなど知らんよ。私が知るのは間桐の者だけさ。ほらっお前もあの笑い声は聞いていただろう?桜は喜んでいたよ」
赤毛の青年の脳裏には赤の刺繍が施された黒いロングドレスを纏い、厭らしく顔を歪めて嗤う少女の姿が過った。
「あんなのがぁ……あんなのが!桜の本当の気持ちな訳があるか!」
「
揺月の叫びと共に飛来する黄金の剣。
「ッゥ!?」「贋作作成が自分の専売特許だと思わないことだ」
譲れない信念がぶつかり合い、これから始まるは神秘薄れた世には時代錯誤の英雄の戦い。
数多の剣とその頂にある黄金の剣。全てが偽り、全てが模倣。
ただ本物は己の心のみ。
それを美しいと思ったのはオレだ。
「――あ……ぁ、やはりこうなるか」
「…………」
下唇を噛みしめ揺月の胸元から血の滴る剣を握りしめる赤毛の青年。
『ふん、下らん』
そして、勝敗を汚したのはオレだ。
未来にあったのは戦士として誇り高く戦った臣下の遺体をゴミのように屠る下衆の自分。
この日ほど、己に怒りを覚えた事はない。
老い先短いギルガメッシュ王には揺月があまりにも不憫に思えて……ざっと数億。このオレがあんな雑種にも劣る畜生に堕ちる物かと間桐揺月を対象に未来を見通した。
(たった一つの例外を除いた)そのどれもが根源を目指し、世界から消え去るか、道半ばで挫ける物だった時にはギルガメッシュも目を見開いて驚く。
情に絆されやすいと言っても根源への二の次。腹を痛めて産んだ子が根源への足掛かりになるのなら喜んで首を絞めようという女。
老成して国を建て直したばかりのギルガメッシュは、その愚直なまでの信念には尊敬の念すら抱いた。
…だが、この魔術師の人生には“遊び”という物が抜けている。
それは世界を知らぬ若者だからと言うではなく、『生涯』『あらゆる可能性』をおいて変わりない。
例えば性欲。
愛を知らずに種馬と交わり快楽を知らずに子を得る。
例えば食欲
決められた量を決められた時間に摂取し満腹という感覚を知らない。
例えば睡眠欲
記憶の整理と肉体の疲労回復のために体を横たえベッドの温もりを知らない。
……魔術師という概念が人間性を獲得したと言われた方がしっくりくる(魔術師としての野望を抜きにすれば)無欲な存在。
どう動こうと揺月が人間らしく生きる道はない。
あれは生まれながらの奴隷なのだ。如何なる世界であろうと解き放たれる事も報われる事もない。
根源ですら、アレの救いにはなり得なかった。
――それを哀れと思うのは他人の勝手だ。
この時は知るよしもなかったが、外宇宙の神が干渉した影響で、この世界の未来はギルガメッシュの千里眼を以てしても見渡せない。
(間桐揺月……名は覚えたぞ)
臣下としての忠義を全うしながら死んだ世界があって、相容れぬ野望の衝突ゆえに対決した世界もあった。
だが、いつの世も彼は彼女を道具として扱い見て、非情に打ち捨てた。
何が英雄の中の英雄だ。何が賢王だ。
真にその名を名乗るならば、臣下一人にすら報いずして何が英雄王か!
……ギルガメッシュ王、最後の心残りはこの魔術師が人としての生を歩めるかと言うことだった。
そして、四次聖杯戦争が始まり。
生前のようにこの世界限定で千里眼が使えない事に不便を感じたギルガメッシュであったが、同じ時なら他にやりようがあると宝物庫から千里眼と似たような能力を持つ財宝を取り出して、(大筋の世界では)時計塔にいる筈の揺月を見た。
「よもや、そこまで大成しておったか」
この世界の未来が見通せぬ理由はその一瞬で理解した。
(神ですら、こやつが魔術師として歩む道を変える事は出来なかったか……)
そして感嘆とも呆れともとれる深いため息をついた。
外宇宙の神からの侵食を撥ね付けるほどの傲慢、その『在り方』はどうしようもなく魔術師然として固定され、オレの全てを以ても変える事が出来ない哀れな人間。
――その認識自体が誤りだった。
「これは、最早呪いではないか」
何が何でも世界はこの魔術師を消し去りたいらしい。
その為なら根源への蓋を開いてやるのも仕方ないと、その時代には過ぎた存在が故に抑止の刃すら向けられる。
「
オレの時代なら問題ない。
だが、彼女は生まれるのがあまりにも遅すぎた。
だから魔術師としての夢を見ている内に、歳を重ねて心変わりなどせぬ内に、成人間も無くして世界から
つまるところ、あらゆる並行世界のギルガメッシュはそれを理解し、同時に諦めた。
肉体としての死か根源の先まで上り詰めて帰らぬ存在となるか。
どのみち、世界はヤツが存在した全てを焼却する気である。
『何も遺せず消えるのならオレが覚えていよう。』
その大義名分を以て各並行世界のギルガメッシュは揺月に非道な行いを…時には進んでしていた。
オレという存在の中に間桐揺月が確かに存在していたという証拠として
余談
この士郎君は抑止力のブーストを受けてエミヤよりも強いです。
そして――最後に止めを刺したのはギルガメッシュ。
「さて、諸君。第二ラウンドと行こうか」
……胸を刺し抜いた――士郎が勝ったとは言ってない。