「これは……予想以上だ」
アインツベルン城上空に待機させていた使い魔の視界と同期させ水晶球に映し出した光景の一部始終を観察し終えた時臣は、沸き上がる興奮を抑えきれず、水でも呷るようにグラス一杯に注がれたワインを飲み干した。
「素晴らしい……まさか、魔術師がサーヴァントに勝ってしまうとは。
――綺礼、君から見て彼女の戦いはどう映ったか聞かせてくれないかい?」
元々、酒に強い方ではないのだろう。
頬をよりいっそう赤くした時臣は上機嫌に言峰の方へ振り替える。
「…………」
言峰綺礼はその問いに困った。
魔術師がサーヴァントに勝った。
それはとても凄い事だと言うのは理解出来たが、正面から下した訳でもなく結果だけ見れば策に嵌め落としたという感じだ。だから言峰は困った。
あの骸骨の騎士は何なのか。何故あれを見た途端にアサシンの戦意が消失したのか。前半の演舞めいた剣技は自分の技量を越える物を感じたが、何故初めから骸骨の騎士を出さなかったのか。
そして、アサシンの首を跳ねる瞬間に変幻を解いて、仮面越しにも分かるほど狼狽と困惑を極めたアサシンの顔を―――
「君が笑う姿を見るのは初めてだな」
「―――!?」
時臣の言葉にハッとなって口を抑える。
(何だ……今のは)
初めての感情だった。未知の感覚であった。
妻が死ぬ時でさえ崩れる事のなかった表情筋が崩れ、あんな強者の傲りとも言える無意味な行いに笑みを浮かべるなんて…馬鹿な。
自らの愛はあれに敗れたのか。
あれは――私が探し求めていた答え…なのか?
魔術師ではない言峰綺礼には彼女の為した偉業がどれ程のものかは分からない。
けれど、最後のあの瞬間だけは何故か理解できた気がした。
(…間桐揺月、やはり私はお前に問わなければならない)
「…………あー、綺礼?」
その蹂躙を前に誰も何も言葉がなかった。
「嘘……だろ?
バーサーカーのマスターは魔術師としての腕だけでなく戦士としても一流なのか!?」
ライダーのマスターの小僧の言葉を皮切りに場の沈黙は破られる。
「底が見えん」
「あの剣を私は――」
「バーサーカーのマスターか」
「流石です」
「あんなの……反則じゃない……」
畏敬の念を抱く者や畏怖や恐怖心を覚えた者。
「これにて、余興は終了でございます」
「フハハハハ!!!」
此方を振り返り舞台役者のような礼を払う揺月に、アーチャーは拍手喝采を送り黄金の波から一つの杖を取り出す。
「褒賞を賜わす。受けとるがよい」
ネジくれた木製の杖に色鮮やかな布が巻かれている。
どことなく魔術師マーリンの杖と酷似している気もするが、揺月は有り難くそれを受け取り、今の彼女の腰ぐらいはあるそれを持ち上げ軽く振るってみた。
「なんて言うか……似合うな」
ウェイバーはその姿がお伽噺に出てくる魔法使いのようで、とてもしっくりときた。まるで彼女が初めから持っていたみたいだ。
「それはありがとう」
「っぅ!?」
声が届いていたのか彼女は女性経験のない少年にはいささか刺激の強い蠱惑的な笑みを向ける。
ウェイバーは茹で蛸のように真っ赤になった。
「今宵はとても楽しいものとなりました。次会うときは敵どうしですが、この記憶は生涯色褪せる事はないでしょう。それでは皆さんごきげんよう」
揺月は来た方向と同じ方へ体を向け……そして帰るのだろうとこの場の誰もが思った。
――――パスッ
「……今何か」
「――――と、ととと。」
乾いた音がして彼女は躓いた。着物の一部分に先ほどまでなかったシワが出来ていた。
……でもそれだけだ。
他のマスター達に見送られ間桐揺月は森の中へ姿を消した。
「…………起源弾が、効かない……」
衛宮切嗣の喘ぐような悲鳴が夜空に溶ける。