「――さて、工房の準備も先ず先ずといった所だろう」
藍色の着物を纏う間桐揺月は満足げに頷いて椅子に腰掛ける。
最低限の清掃だけ済ませたこの薄暗い場所は、何の変哲もない、とある廃屋の地下室だ。
地下水道に居座る予定だった彼女が何故そんな場所にいるかと言えば、キャスターの助言を受けたからに他ならない。
『貴方のようなお方が糞尿にまみれた地下水道に身をおく等私が許せないっ!』
妄信的な狂気から少し感情の荒い状態まで持ち直したキャスターは地下水道にジャンヌが身を置くのを酷く反対し、彼女が持ち込んだ地図を舐めるように見渡すと一点を指差し、ここ以上に安全な場所はないと太鼓判を押した。
「お義母様、バーサーカーが帰ってきた!」
瞳の色を輝かせる桜がぴょんぴょんと跳ねる。
工房の調整も丁度終わった頃だし、タイミングの良いことだ。
彼女は桜の頭を撫でて、バーサーカーを出迎える。
「私は、揺月……汝は間桐……私は、根源を目指し……私は……晩鐘の音は……私は」
そんな彼女の前に現れたのは、霊基改造により【狂化】スキルを強引に下げることで可能となった宝具《
「これは随分と……術式が壊れかけているじゃないか。
ご苦労だったね、バーサーカー」
彼女は片手を払って、自らが植え付けた術式と記憶を破壊する。これと同時に狂化スキルのランクも元に戻ってしまうのは難点だが、
《
「ほぉ、単純な魔術の強化と刻まれた九十九の魔術を持ち主の魔力を動力に発動する魔術礼装・限定礼装、両方の性質を持った杖とはギルガメッシュ王も粋な事を」
「Arrrrrr……」
「あぁ、術式が壊れかけていたのは起源弾を撃ち込まれたのか。セイバーの直感スキルを突破する技量を持たないが為の宝具だったが、これはこれで正解だったな」
彼女は杖を壁に立て掛け、先の潰れた弾丸を手の上で転がし裾のポケットに仕舞う。
「それにしても……『バーサーカーのマスターは魔術師としての腕だけでなく戦士としても一流なのか!?』だったか。
あんな節穴小僧でも何れは時計塔のロードにまで登り詰めるのだから運命とは数奇な物だ」
剣を一度も握った事のない人間が英霊相手に敵う訳がなかろうに…
「フランチェスカ迎撃後に思い直して引き返したのは正解だったな。
我が間桐の策に彼ら全員が踊らされているとは夢にも思ってはいまい」
揺月は果実水の注がれたグラスを指で挟んで持ち上げる。
「――我々が表舞台に立つのは今回で最後だ。
以降は影に潜み魔術師らしく漁夫の利でも狙おうではないか」
「かんぱーい!」
「あぁ……乾杯」
桜に促され互いのグラスを軽く打ち付ける揺月。
その次の日、間桐揺月の死体がキャスターの工房で発見された。
「なんだとぉぉ!!?」
「何でッお前が!?」
第一発見者となったのはライダー陣営のイスカンダルとウェイバー・ベルベット。
「よくも、よくも、よくもよくもよくもよくもよくもよくも!!!貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!?」
その状況で現れたキャスターは血涙を流し、そして亡骸を抱き抱える。
――さぁ狂気に身を委ねろ。
一体いつから―――目に見える間桐揺月が“本物”だと錯覚していた?
読み返して確認してみるといい……節々にある“違和感”を。