バーサーカーのマスター死亡の知らせは教会を通じて瞬く間に他の陣営へと知れ渡った。
しかし、昨夜の宴に参加した者達の反応はかなり悪く、直接死体を目にしたライダー達でさえ懐疑的思考を振り払う事が出来ずにいた。
「目的はキャスター暴走か」
衛宮切嗣が真っ先に疑ったのは、監督役の神父から続けて語られたキャスターの討伐要請であり、対価として提示された令呪の補充を狙っての物かと考えた。
聞けばキャスターはバーサーカーのマスターの死を目撃したのが発端で、あのような怪物を生み出したらしい。
あのサーヴァントは外面上は思慮深く、宴でも真名に繋がるようなボロを出すことはなかったが――他者の死が原因で人が変わってしまった等の逸話を残すなら、バーサーカーのマスターがそれを利用したとして違和感はない。
問題の方は死体だが――――、
「……残念だけど魔術の残滓は感じないわ」
「だが、アイリにバーサーカーの霊基が返還されていない現状でバーサーカーの消滅は現実的にあり得ない。利き腕を切断され令呪を抜き取られたような形跡はあるが、魔術を用いなくても偽の死体を作る方法ぐらい幾らでもある」
切嗣は別の魔術師、又はマスターに闇討ちされてバーサーカーを奪われたというより、それ自体がフェイクであると言う。
「――しかし、切嗣。それならば本当に死んでいる可能性も考えるべきだ。あえて存在しないかもしれない敵に注意を割くより、目に見える敵に集中する方が理に叶っている。」
「……アイリ、セイバーに伝えてくれ。あのマスターに背中を晒せば今度こそ僕たちは終わりだと」
「え、あっはい」
キャスター工房跡地にセイバー陣営の姿はあった。
セイバー弱体化を補う為に本家に連絡して護衛用のホムンクルスを寄越してもらい、計五体の戦闘用ホムンクルス達に囲まれたアイリは少し居心地悪そうにしている。
セイバーは今さら切嗣の言動にとやかく言うつもりはないらしく口を閉じて、弾の残数や所持武器の確認をし終えた切嗣はリュックを背負って立ち上がる。
「結界を破壊され、全ての陣営に明らかとなったあの城に身を置くことは出来ない。これから予備の拠点へ向かうよ」
「え、キャスター討伐は参加しないの?」
「あぁ、聞くところによるとアレは出鱈目な再生力を誇るらしい。聖剣のない騎士王様はお役ごめんさ」
「ちょっと……切嗣そんな言い方!」
「落ち着いて下さい。私は気にしてなどいませんから」
前を歩く切嗣の肩を掴むアイリをセイバーが諌める。
彼はアイリの手を振り払うような事はしなかったが、セイバーに謝罪する気は更々ないらしくアイリだけを見て「気を付ける」……などと。
良くない雰囲気だと、アイリは思った。
『生前伝え忘れていたことがありました、貴方と共に戦えて私は幸せでしたよ』
今の私は騎士ではない、私は青髭と恐れられる悪なる者。
夜な夜な子供を拐い、そして殺し。
個として完全なる負の存在として確立している。
故に狂わざるをえない。どれだけ己を否定しようと根本を覆すことなど不可能だ。
「貴方様のお言葉ですら……私の内の狂気を祓う事はできなかった」
あぁ……何故、私は青髭として喚ばれてしまったのか。
「伝達者よ、申し訳ありませぬ」
その言葉を最後に、怪物は理性を失った。
FateZero風予告
「さぁ再び集え、共に最果てを見た猛者達よ!
抉れ!ゲイ・ジャルグ!
新しいバーサーカーのマスター!?
ジル、私は偽物なんですよ?
……貴方は本物だ」
次回『真理の扉』