「宝具も消滅し、霊核も砕かれてしまったか」
新都を包み込む、柔らかな陽日に照らされ廃病院。
その手術台の上に寝かされたキャスターの亡骸の傍らに間桐揺月はひっそりと佇む。
「ジル……私は偽物なんですよ?」
ジャンヌ・ダルクの姿でそんな事を言っても死体は喋らない。変装を解いた揺月は冷たくなったキャスターの頬を撫でて薄く笑う。
「……貴方は本物だとは言ってくれないか」
この器にキャスターの自我は残されていない。
彼女はギルガメッシュから賜った杖を振るい、強固な結界を展開する。それは、戦場から離れた彼の遺体を辱しめないためのせめてもの慈悲か。哀れむような何処か寂しげな表情の窺える揺月は踵を返す。
すると、一体どういう事なのだろうか。
キャスターの遺体は身を起こし、胸に埋め込まれた消滅防止の為の肉塊が跳ねるように脈動する。
『コノ星ノ癌……間桐揺月。貴様ハココデシネ』
無機質で機械的な声が彼女の脳内を反芻する。
「……なんだと?」
揺月が振り返ればキャスターの面影を一ミリも残さない、強いて例えるならば吸血鬼のような二つの牙を生やし黄金の髪と紅色の瞳を持つ二メートルほどの女型の怪物がそこにはあった。
「まさか、ガイヤの干渉……いや、この世界でガイヤの力はアラヤよりも弱い筈。何より聖杯には抑止力への対策が施されているのだぞ……ガイヤが動けばアラヤが動く……アラヤの抑止力である英霊をガイヤが使う……?」
キャスターのエーテル体を分解し再構築されたと思わしき怪物に、彼女は疑問を抱く。状況的に見れば数多の並行世界で『私』を排除又は追放してきた『星が願う生命延長上の祈り、その無意識集合体たる《
「そんな壊れかけの玩具で私を廃するつもりだと言うなら随分と嘗められたものだ」
外見上は怪物のようでも、純粋な英霊としてのスペックはキャスターを少々弱体化させたといった所。
ここは霊地でも何でもない街中の廃墟だ。地脈から魔力を吸い上げるという荒業も使えないこの場所で、私の敗北はありえない。
「その体は桜の虚数魔術の実験材料として役立てる為に残したんだ。ガイヤよ、人の物をくすねて人殺しの道具に使おうとは……中々どうして、ムカつく事をしてくれるじゃないか」
『我ハ星ノ代行者、星の存命ヲネガウモノ』
交渉の席につかない相手への対処とは古来より暴力と相場が決まっている。
魔杖を取り出した揺月は根源到達の障害として排除する事を決めた。
「私の魔術回路の鍵はこの名に由来する
――水面に映った月を揺らす。つまりは波紋だ。」
天上を見上げ涙する彼女。その瞳から雫がこぼれ落ちた時、爆発的な魔力が全身を駆け回る。
「言葉にするのは三流……沈黙を魅せるのが一流だよ」
此処に、人と星の戦いが始まる。
ジル「あぁ、ジャンヌ。そんなに私の事を…」
揺月「娘の為に用意した実験道具が!」