現在私が使える魔術の数は少ない。
今現在最も使い勝手のよい魔術が水に投影の特性を加えたランスロットの『己が栄光の為でなく』を模倣した変身能力であることから分かる通り、剣からビームだの空想具現化などの大魔術は――後々習得出来るかもしれないが、攻撃に特化した魔術の習得速度は乏しい物だった。
間桐臓硯は超一流の魔術師であったが、彼はあまりに蟲使いとして振り切ってしまっていた為、蟲や支配の魔術以外に関心を抱こうとしなかった。歴代の当主達もそれに習い、進んで他の系統に手を伸ばさなかった事から……そういった魔導書を収集しておらず、何も残されていなかったのは想像以上の痛手である。
(……!愚か者どもめ、一芸を極めるのもよいがそれ以外の全くを疎かにするようではただの道化であろう!)
やはり、危険性を覚悟した上で時計塔に留学するべきだったか。
なまじ時計塔の恐ろしさを理解しているせいで躊躇っていたが、原作知識と超一流の才能ごときで魔術の再現が出来るほど『型月』は単純ではない。
基礎を知り、分解し、理論を構築し、魔術を行使する――小説やアニメでぼかされていた空白が今の彼女には決定的に欠けていた。
間桐ユヅキは学舎を渇望している。
一を学び十を知る人間でも、一がなければ零のまま。四次やその十年後に起きる滅茶苦茶ヤバい五次を生き残るには、最低でも全盛期の間桐臓硯位には魔術師として完成しておきたい。
○○○○は平穏な生活を。
間桐ユズキは根源を。
生き残る目的は微妙に違うが本筋は同じだった。
―――あと、一時間ぐらいか。
蟲風呂に浸かるユヅキは瞳を開け、眼前に渦巻く蟲の群れを払い除ける。
このような場所で落ち着いた精神状態でいられる彼女は端からみれば――かなり狂っているのだろうが、仕方ないじゃないか。
魔導書に目を通すときは集中せねばならないし、夜は夜泣きの激しい桜を慰めるので忙しいのだ。
私、間桐ユズキの尽力によって蟲風呂に放り込まれていない彼女は年相応の感情を持ち、年下の私を心の支えにしてしまうほど
本当ならその道のプロに任せたいが、精神的なケアを勤められるのは屋敷の中では私しかいないし、だからと言って臓硯に委ね、桜の心をぶっ壊すような畜生に堕ちる気は一切ない。
現状生き残るという目的には足枷にしかなっていないが……縛りプレイ、ゲーマーの血が騒ぐだろう?
桜のグッドEND
プレイヤーの生存
同時進行で進め“桜の側に居る”や、“慰める”コマンドを打つと『魔術師』の成長スピードが落ちて行く。時計塔留学(ボーナスステージ)も禁止になる。
死にゲーしかもノーコンが条件でそんな事をするなんて狂っている?
それでクリアするのが真のゲーマーさ。
――まぁノベルゲームしかやったことないがね!
現在の間桐ユヅキ
近接戦闘に持ち込まれると詰む。
蟲使いでもあるが臓硯のように極める気はない。其処らの蟲を即席の眷属として索敵や諜報をさせる程度。
変身能力がある。(直感スキル持ちには一瞬で見破られる可能性アリ)
ウェイバーが使えるような初歩的な魔術なら一通り使えるが一歩踏み出すと使えたり使えなかったりとムラが大きい。
魔力は五次の遠坂凜以上。
次回から『四次聖杯戦争』