間桐で女はアカンて!   作:ら・ま・ミュウ

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第四次聖杯戦争
英霊召喚


万全を期してもまだ足りぬ。それが聖杯戦争である。

現存する最高位の魔術師が、時計塔の栄えあるロードが、魔境と化した工房を築こうと準備に準備を重ねたとて、一度(ひとたび)その戦場に足を踏み入れれば命の保証は出来かねる。

命が惜しくば逃げるがいい。

――だが心しておくんだ。聖杯に参加者と認められ令呪を授かった時点で君はこの聖杯戦争、戦いの場に足を踏み入れてしまっているという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ聖杯戦争も間近となり、肩を怒らせた間桐雁夜が間桐家へと帰って来た。

目的は語るに及ばない。桜の間桐家からの解放だ。

本来の歴史ならば、雁夜は臓硯に自分が聖杯戦争で聖杯を獲得することを条件に桜解放の約束を取りつけ、そこから己の寿命を使い潰す勢いで魔術師として鍛え始めるの……だが、

 

「残念だが、雁夜。此度のマスターは我が妹に任せておる」

「――妹だって?お前、自分が何百年生きてると思ってんだ」

 

この四次には魔術師の天敵のようなマスターと最古最強のサーヴァントに征服王など、豆腐メンタルのアホ毛と馬鹿な人…を除き化け物揃い。

聖杯製造に関わった御三家は参加権を優遇される為、間桐()()()()である私に令呪が宿るのはある意味必然であった。

 

「会うのは初めてであろう。揺月(ユヅキ)、挨拶せい」

 

光を閉ざす薄暗い廊下から小さな足音が断続的に響き、視線を移せば彼らの腰ほどのシルエットが浮かび上がる。

魔導書を片手に少女を侍らせ薄ら寒い笑みを浮かべるのは彼女の機嫌の悪さからか。

 

「――あぁ、面倒だ」

「なっ!桜ちゃん!?」

 

雁夜は口を大きく開き間抜けな声を漏らした。

てっきり臓硯の手で酷い目にあっている――と思い込んでいた遠坂桜…今は間桐桜だが、彼女は想像に反してとても楽しそうに花色の笑みを浮かべ、さらに魔導書を片手に持つ幼女のもう一方の手をとってステップを踏んでいる。

此方をみた途端、慌てたように幼女の背中に隠れてしまったが髪の色は――黒であり、一目見た感じでは怪我があるようにも隠しているようにも見えない。

 

「雁夜叔父さん……いや、孫なのか?

――間桐揺月。揺れる月と書いてユヅキだ」

 

声がする方に目を向ければ、桜ちゃんよりも一回り小さく少し前まで赤ん坊だったであろう幼女が此方を見上げていた。

顔立ちは整い髪は鮮やかな紫であり、キラキラと宝石のように輝いている。

 

(この子が、あのジジイの妹なのか?)

 

「魔術的に保管された精液を私の母の卵子に受精させたんだ。混乱するのも無理はないだろう」

 

まるで雁夜の思考を読んだかのようにユヅキが補足し臓硯が頷く。2020年では人工受精の概念は魔術よりも科学の方が先んじているのだが、この時代ではまだ早かったようだ。

 

雁夜はこめかみを押さえ、鼻歌を歌い出す桜とジジイに呼ばれたから来ただけで自分には興味がないのか手元の本に視線を落とすユヅキを交互に見つめ声を震わして言葉を紡ぐ。

 

「……これは、どういう事だ」

 

どうもこうも私がマスターなんだ。

悪いね間桐雁夜。君は聖杯戦争の部外者になったんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ヘタレめ」

 

あの後、間桐雁夜は聖杯戦争が終結するまで冬木に留まる事をその場の全員に打ち明け、ご丁寧に私にだけ自分が泊まるホテルの住所を教えてきた。何かあったら頼ってくれとの事。

全く…復讐に囚われるのも変な正義感に駆られるのも勝手だが、それならこの屋敷に留まるぐらいの漢気を見せてほしいというものだ。

 

だから好きな人に想いを伝えられないばかりか凡才ナルシスト男爵なんかに取られるんだよ。

 

観測次元の魂はそんな彼を見て不憫に思っていたようだが、私はあんな未来の見えない若造を進んで救うほど破滅願望に溢れてはいない。

この街に留まればマスターでなくとも聖杯の泥や他のマスター(切嗣とか切嗣とか)に殺される可能性だって十分ありえるのに……馬鹿な人。

 

「――されど汝はその瞳を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――」

 

しかし雁夜がマスターになる可能性も考えて臓硯がバーサーカー適性のある彼の触媒を用意していたのは僥倖かな?

 

「……!揺月、貴様ァ!?」

 

まだセイバークラスが召喚されたという報告は聞いていない。臓硯は私が“彼”をセイバーとして召喚するものと思い込んでいたのだろう。

教えた覚えのない一節を加えると珍しく動揺したような声を漏らし詠唱を中断させようと動くが――気付いているだろう?

 

私が天才だと……。

 

『久しいな、我が仇敵よ』

 

「――何故…」

 

事前に仕込んであった術式を起動しユスティーツァの幻影を投影する。所詮作り物だが、声や原作から予想できるおおよその口調や態度、髪の毛一本一本に至るまでかなり精巧に編まれた偽物の前には如何に臓硯といえど一瞬たじろぐ。

 

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

その間に詠唱は終わる。

 

「Arrrrrrrr!!!!!!」

 

掲げられた令呪が血のように輝いたと思えば、とてつもなく大きな魔力が渦巻き説明不要の突風が魔法陣の中心から発生する。

 

バーサーカーのサーヴァント。真名『ランスロット』

彼の召喚を私は成功させた。




狂スロを選んだ理由は後々分かります。

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