間桐で女はアカンて!   作:ら・ま・ミュウ

5 / 30
最終準備

遠坂家の監視をさせていた眷属からアサシンがアーチャーに討たれたという映像を入手した。

十中八九、あのヤらせだろう。

映像を見分して画像解析までしてみたが、アサシンはハサンだし、『百貌のハサン』の一体に違いなかった。

逆光で顔を収める事は出来なかったが、無数の剣や槍を投擲するあの攻撃方法は『ギルガメッシュ』で間違いない。

私という異物が存在している時点で彼の観測した並行世界とは別物であることから何らかの相違点――バタフライエフェクトの影響を考えていたが、大まかな流れは今の所問題なさそうだ。

 

ただでさえ制御の利きにくいバーサーカーを使役している現状でノーリスクで手に入れたこれらの情報が活かせるのは非常に喜ばしい。

……んっ

言葉に違和感があるだと?

 

 

今さらかもしれんが、私の中にある観測次元の溢れ玉……佐嶋(さとう)加穂留(かおる)の意思が表に出ることはもう二度とない。彼の知識で云うなら……乗っ取り返し、落ちた種子は器にあわず腐り始めたその末路。

むしろよく五年も持ったものだろう。只でさえ低次元に落ちた魂は酷く摩耗し不完全な状態にあった。

彼の記憶や知識は我が魂の下へと吸収され私という自我の形成を大幅に早めてくれたが……なに、そこまでしてくれた恩人を無下にはしないさ。いずれ何らかの形で恩は返そう。

 

『Arrrr……』

「――どうした。バーサーカー、アサシンの気配でも感じ取ったか?」

 

前触れもなくバーサーカーが獣のように唸り、それを見下ろすユヅキは首を傾げる。『臓硯には及ばない(自慢じゃない)』が私の支配系統魔術は時計塔でも通用するほどかなり高位だ。その類の書物が間桐家に多く残されていたのが原因だが、令呪で縛らなくとも私ならある程度は御しきれると踏んでいた。

流石にバーサーカー(ランスロッド)セイバー(アーサー王)を見てしまうとそれも難しくなるだろうから別の対応策も用意している。とは言え、四六時中間桐家にはりつくアサシン程度に支配を乱されるほど生易しい術式は仕込んでいないが、はて?

 

パッと見、術式に異常はなく、とても逆らえる状態には見えない。

魔力が急激に抽出されるような感覚もないし……いや、それでもいきなり声を上げるなんて事、何処かしらに狂いがある筈だ。

後で工房で詳しく調べ直さねば……と、ユヅキは頭の片隅に思考をやりながらバーサーカーを召喚したのは間違いだったのか。

一瞬、くだらない考えをして切り捨てる。

 

対ギルガメッシュ用にバーサーカーの宝具は必須だ。

散々頭の中で最善を模索した結果だろうと己を叱咤する。

欲を言うならエルキドゥやソロモンを召喚したかったが、彼らを召喚できるだけの触媒を用意することは不可能だった。アキレウスやヘラクレス等の大英雄を召喚する為の触媒は用意することも出来たが、ギルガメッシュ相手だとどうしても不安が残る。何より下手に理性を残すサーヴァントを召喚して離反でもされたらたまった物ではない。故に多少のリスクを冒してでも狂スロを召喚する方が適切だと私は判断した。

 

時計の針は午前の終わりを告げ、鐘が鳴る。

今宵、流れが同じなら聖杯戦争の幕があける。

 

「私は勝つ……勝って根源に到達するついでに君を元の次元へ戻して上げよう」

 

妖しく微笑む間桐揺月は、窓の外に広がる快晴の空を見上げそう囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『沖田さん大勝利~!』

 

「グガッ!??」

 

そんな彼女とバーサーカーの前に映し出されるのは桜セイバーこと沖田総司。観測世界の魂から記憶を取り出し言うに及ばず揺月が投影した幻影である。

 

「――チッ、やはりアルトリア顔を見せると支配が揺らぐな!」

 

これは決してふざけてやっている訳ではない。

彼女の支配に逆らってその幻影へと飛び付かんとするバーサーカーの制御に集中している揺月を見て分かる通り、セイバー(アルトリア)を目にしたバーサーカーが暴れだした場合を想定したシミュレーションである。

 

「私に従え!」

 

揺月の魔術回路が熱を帯びたように激しく回転し、伏せをした犬のようにバーサーカーが踞る。

その視線こそ沖田さんから離れてはいないが、主の言葉には逆らう意思はないという訳か、魔力を吸い上げようとする不快感は感じない。

 

『ノッブ、死すべし!』

 

「……Arrrr」

「桜セイバーはokのようだな」

 

揺月は額の汗を拭い懐から一枚のチェックシートを取り出した。

そして青セイバー、黒セイバー、セイバーリリィ、赤セイバー、ルーラー、桜セイバー、ヒロインX、ヒロインX(オルタ)、槍王、グレイ―――等々、アルトリア顔に該当するメンバーの一つ、桜セイバーの欄にチェックマークを付ける。

 

正直かなり面倒な事をやっているという自覚はある。間桐の支配術だけではやはり限界があるため、令呪を温存できるように昨晩から試行錯誤を続けていて、今宵の戦いまで半日以上の時間はまだ残っているのだが、ヒロインXあたりからどうしても支配が揺らいでしまうのが現状であった。

 

いっそのこと、教会の監督役を殺害し大量の令呪を奪って令呪による束縛で雁字搦めにしてしまおうと言う案もあるが、原作知識の無力化やバレてしまえば他のマスター達を一気に敵に回してしまう等の危険性もあり、行うにしても終盤あたりが理想と見ている。

 

「地道にやるしかないか……」

 

肩を落として投影の準備を始める揺月。

そんな彼女を無表情に観察する黄金の後ろ姿があった。

 

 

「よもや、そこまで大成しておったか」

 

彼の王は宝物庫から取り出した――おおよそ現代の魔術師には探知出来ない『真実の鏡』の原典とも云われる姿見にて間桐揺月の行動を映し出す黄金の鎧を纏う男。

四次聖杯戦争―アーチャーのクラスで召喚されたギルガメッシュ王だ。

 

(オレ)の時代に生まれていれば間違いなく囲い込んでいたものを」

 

彼は感嘆のため息と共に姿見を撫で頬をつり上げる。

 

 

この時点で揺月の有する原作知識に綻びが生まれ始めているが、それが後の聖杯戦争にどう影響するのか……。

聖杯戦争の開始まで後――数時間。




主人公のイメージは吉良吉影。他人を信じず魔術師としては当然の根源(平穏)を求める、しかし魔術師としては異端な『情け』という甘さを抱かずにはいられないキャラ。
しかし、情けは罪(人間的弱さ)だとしっかり認識しており、それを直す事が出来ない自分を歯痒く思っている。

間桐桜を助けてしまう自分が嫌い。ぼろ切れみたいな魂に恩を返そうとする自分が嫌い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。