魔術師という物は子を弟子に取り、何れ家督を継がせるべく幼少期から研鑽を積ませるらしい。
そもそも子供を孕める年齢ではない私からすればそれはずっと先の事だろうと思っていた。しかし、桜という金の卵を改めて知覚した時―――。
私は根源を目指している。しかし、聖杯という手段が穢れ、またそれを元通りにしたとしても――到達出来なかった可能性という物は常に考えていた。
揺月は延命はするつもりだが、臓硯が望んだような永遠の命には興味がない。
ならば根源到達の夢を託すは次代の間桐になる。
(私が出来なかったのだ。私より劣る子孫が根源になど到達出来るとは思えない)
間桐は臓硯の代で限界だった。
ヤツと同じ父を持つ私にとって、それは他人事では済まされないことかもしれない。
男と女の違いがあるため、同じ道を辿るとは言い切れない。双子の子供がそれぞれ産んだ孫まで同じ顔をしてはいないように、遺伝子という物はたった一つ一マイクロの違いで如何ほどにも化ける。無限に等しい可能性を有しているのだ。
――けれど、一度盛り返した間桐が再び私の代で緩やかな滅びの道を辿る事になるとしたら?
………老いの恐怖を語るには生きた人生が短すぎる。しかし、今この金の卵を手放していいものだろうか?
「――フフッならばこの手を取るがいい。間桐は君を歓迎しよう」
揺月は気がつけば手を伸ばしていた。
家庭や家族なんて物は望んでいない。ただ単純に魔術師として――。
「お義母~さん!なぁにしてるの?」
「……お義母さんは止めなさい」
大人の姿になった己の腰にしがみつき、その頭を仕方なしに撫でる私がいた。
この姿で同盟相手と話すのだ。握手ぐらいは出来ないと不味かろうと少しばかりの質量を足してみたが、それが仇となって桜は親に甘えるという感覚を完全に思い出してしまったらしい。
地下水道を拠点とする上で障害となるキャスター陣営の対策に向け、着々と準備を進めていく私の気を引こうと桜は邪魔ばかりしてくる。
まぁ撫でてやればそこまでではないので無視してやっているが、地下水道攻略時に恐怖で叫ばれでもしたら面倒だ。桜の体内に仕込んだ蟲から監視しているであろう臓硯に任せる―――なんて馬鹿な事はしない。眠らせてバーサーカーにでも守らせておこう。
敵陣にたった一人で飛び込むのは危険だが、今回ばかりは問題ない。キャスター…真名をジル・ド・レェ。ヤツの攻略法は掴んでいる。
「あーあー、」
『グガッ!?』
バーサーカーはその顔に反応し、僅かに支配が乱れる。
……このレベルの“アルトリア顔゛本物と比べれば乱れる波はほんの僅かだ。
「
旗を振るい揺月は立つ。大人の姿から毛先は黄金へ、顔は凛々しくも慈愛に溢れ、青い衣を纏う純潔の聖女へと変化して。
「おぉお!おおおおお!!!!!やはり!あの小娘は間違いだった!あんな情けなくも尻尾を巻き、敵に背中を見せ逃げる下郎が彼女の筈がない!おのれ、匹夫めがァァァ!我が愛を惑わせようと愚かしい真似をォ!
……しかし、我が愛は試練に打ち勝ったのだ!!!この方こそが、このお方こそが!凛々しく美しきっ本物!!!!!すぐお迎えに上がらなければ、お待ち下さい我が聖処女よ!」
「…あぁ?旦那の知り合い?」
その光景は倉庫街から監視を続けていた二人の狂人に見られていたことを彼女は知らない。
ウェイバーは今、激しい憤りを感じていた。
これ程強い感情は時計塔のロード『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』に自信作であった論文をゴミのように捨てられた時以上の物であった。
「どうしたんだよお前!なんかバーサーカーのマスターを見てから、全体的におかしいぞ!」
「うぅむ…こりぁ参った」
燃える屋敷の上で彼は言う。
………これで、五軒目だ。
ライダーが突拍子もなく家々を破壊し回り、家の中をくまなく調べてがっかりと項垂れるのは。
魔術師は神秘の秘匿を大事とする。それは魔術師の子供が一番最初に教わる常識みたいな物だ。この聖杯戦争では、聖堂教会の協力もあって多少の漏洩は見逃されるのだろう。
ウェイバーも命のやり取りをしている最中に神秘の秘匿とやかくでサーヴァントと揉め事を起こす気はなかった。
「けど、こういうのは
もう我慢の限界だった。この戦争に大それた願いなどウェイバーにはない。そもそもがケイネスへの腹いせに参加したのだ。
願いも実力も半端者……それでもこのライダーの暴走をおかしいと判断してそして止める力が僕にはある!
「――令呪をもって命ず!」「ッゥ!?ま、待て坊―」
「ライダー!英雄として生きろ!!!!」
三画の刺青のような赤い一画が溶け、ウェイバーの拳がライダーの顔に走る。少しの衝撃と同時に強い何かが身体中を駆け回る感覚を感じる。雷気を纏う二匹の神牛はライダーの意思に関係なく戦車とともに消滅し二人は空間で投げ出された。
その高さは三十メートルはあろうか。いくら英霊と言えど打ち所が悪ければただでは済まない。況してやマスターのウェイバーは重症か死か。
「……全く、面白い奴よのぉお主は」
令呪の硬直から解かれたライダーは憂鬱そうな顔から一変、豪快漢という言葉が相応しいニヤリとした笑みを浮かべウェイバーを脇に抱えると腰の剣を空に振るい、再び二匹の神牛が戦車を引く彼の宝具『
彼はウェイバーとともに戦車に飛び乗るとかなり荒い運転で勢いを殺し地面に着地する。
「惚れた女をこの手に略奪せんと暴れまわるクソ野郎の鼻っ柱をぶん殴って止めるとは、とんだ度胸を見せられたもんだわい!
英雄として生きろか……ハハハ!!確かに先程までの余は英雄らしくないわなぁ!」
「は、はぁぁぁ!!!?」
バーサーカーのマスターに惚れて探し回っていた。
下らないにも程がある理不尽な理由にウェイバーはまた叫んだ。
「誠にすまんかった!!!!」
だがそれも戦車を降りたこの大男が何の躊躇いもなく頭を下げたことで熱が冷める。
「……もう、いい。頭を上げてくれ」
一国の王が僕なんかに頭を下げている。恐らく僕が何も言わなければ頭を下げ続けたまま彼は謝罪を口にするのだろう。
イスカンダルというそれは大層な重みを背負って。
「征服王イスカンダルは女に目がないヤツだった…人間、誰だって欠点はあるさ」
「……だがなぁ、余はお前の示した勇気に応えなければならん」
「だったら!言葉じゃなくて、行動で示せよな!一々小言を言われるのは時計塔で飽き飽きなんだよ!!!」
ウェイバーのそれとこれとは違うだろうという感情の吐露に一瞬きょとんとするライダーは、くしゃりと顔を歪めて豪快に笑い彼の背中を力強く叩いた。
「よかろう!このイスカンダル!王として、一人の戦士として、そして、なにより古今東西森羅万象あらゆる英傑達にも負けぬ最強最高の英雄としてマスターを勝利に導こうではないか!!!」
「…ったく、やっといつもの調子に戻ったな」
偉大なる王とそんな彼でも道を違えそうになった時、正してくれる勇敢な
聖杯戦争、ダークホース誕生の瞬間だった。
キャスターの勘違い
セイバーはジャンヌではない○
聖女が自らの姿を偽るのを止めた×
揺月が聖女に化けた○
ちなみに、イスカンダルの破壊行為で犠牲となったのは、ろくな研究をしていない(人や小動物を主に使う黒魔術の類)野良魔術師達だから冬木の人達にとってはプラスだね!
――えっ?
蟲の翁は……是非もないよね!
ライダーとの絆が161.8000増えた
次回からの流れ
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その前に今回の桜視点はよ
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キャスター編