*聴力と視力を失ったエイヤフィヤトラの話
病室の扉の前で立ち止まること5分。
決心を決めた俺は、スライド式の扉をゆっくりと開け中へ入る。
明け放れた窓からは秋の涼風が吹き込み、ベッドの上で半身を起こし風に当たっていた彼女は怯えるようにこちらを振り向いた。
「ひっ…だ、誰ですか…?」
ドアを開けて風の流れが変わったから気づかれてしまったのか…驚かせるつもりはなかったのに。
ゆっくりとベッドへ近づいた俺は傍に置いてある椅子に腰を下ろし、彼女の小さな手をとる。
びくっと震える彼女の身体、今にも泣き出しそうな不安げな表情を消し去るために、俺は彼女の手を上に向け指で文字をなぞる。
「お·れ·だ·よ エ·フ·ィ」
途端に落ち着いたように息をゆっくりと吐く彼女。
「先輩、無事…だったのですね。よかったぁ…」
儚げに咲く花弁のように
深い闇の中で微かな灯りを見つけたかのように
瞳を閉じたまま、下がっていた眉を上げ直して彼女は小さく微笑んだ。
その顔を見て、俺は顔をくしゃくしゃにして涙を流す。
…俺のせいだ
「す·ま·な·い」
3日前、レユニオンの大軍がロドスへ押し寄せたあの日。
彼女は身を焦がしてまで、限界を遥かに超えたアーツを使用した。
放たれた炎は大地を焼き焦がし、押し寄せた数千のレユニオン兵の大半を灰に帰した。
その代償か
エフィは聴力と視力を失っていた。
「いいんですよ先輩、私は大丈夫です。だから…泣かないでください」
「な·い·て·な·い」
「もう…バレバレですよ。見えなくても、聞こえなくても…好きだった人がどんな顔をしてるかなんて分かります。ほら、貰ったハンカチがあるので拭ってあげますよ。」
そう言って、伸ばされたハンカチを握った彼女の手は
俺の顔の前を空振った
*ジェシカの受難
(うっ…このドローンの量…落としきれない…)
ドローンの羽に照星を合わせて撃つ、煙を上げて落ちていく機体に目をくれず次のドローンに照準を合わせて引き金を絞る。
これで40機。銃を握るジェシカの指はリコイルにより悲鳴をあげ、その小さな手袋から赤い血がぽたぽたと染み落ちる。
弾倉を抜き次のマガジンを腰から取り出そうとするが
「うそ、弾切れ…!?いけない…」
後方にはドクターがいる。慌てて駆けるがすでに遅く、ドクターは今まさに自分が撃ち漏らしたドローンに銃口を向けられていた。
「ドクター!」
ジェシカはドクターに飛び掛かり、胸を掴んで引き倒す。次いでタタタッという連射音、地面を転がり、避けようとするが三発の銃弾がジェシカの背中を穿つ。
「うぐっあああッ!!」
歯を食いしばり、血みどろになりながらもドクターの頭を胸の内に抱え、射線を自分の背中で遮る。逃げようとしたが、先程の銃撃で足を撃たれ動けない。
「どくたぁ…、ごふっ…。私、役に立って…みせますから…」
ドローンの銃口が再びこちらを向いた。