ロドス基地に備えられた大浴場“ろど湯”。
地下開拓中に偶然発見された温泉を引いており、オペレーター達に人気の湯である。
岩を削って作られた巨大な湯舟に一人の少女。
エイヤフィヤトラは頭にタオルを乗せて、湿った前髪を弄っていた。
「あぁ~いいお湯です~」
トポトポと湯が沸き出る音だけが響く誰もいない浴場。
今日は任務で少し遅れての入浴であるため、ラッシュを避けての貸し切り状態なのだ。
「ふわぁーごくらくー」
白く濁ったお湯を掌で掬い、肩から指先まで滑らかに延べていく。
肌から温泉のいい感じの成分が吸収される感覚が伝わってくる。
しばらく極楽を堪能していたエフィだが、ガラガラッと戸を開ける音によって現実に引き戻される。
「えっ?」
浴場の入り口から入ってくるのは、湯煙でよく見えないが男の輪郭
(ひっ! ま、まずいです!)
この大浴場は男湯女湯の区別はなく、時間交代制なのだ。
長居しすぎて男湯の時間になってしまったのだろう。
慌てて湯から飛び出そうとするが、もう間に合わない。
バスタオルも巻いていないため、絶対に診られてしまうのだ。
(と、とりあえず岩の陰に隠れましょう…)
湯舟に浮いている、人一人がギリギリ隠れられそうな岩の陰に隠れるエフィ。
「むっ…誰もいないのか」
入ってきたのは、すらりと伸びた白い長身。無駄のなく付いた筋肉によって引き締まった身体を持つ白髪の男性
(しっしっ…シルバーアッシュさんー!)
「るー♪んー♪ん―♪」
彼は湯舟に入ると大きく腕を伸ばしリラックスした状態になり、鼻歌を歌い始めた
その顔は完全に弛緩しきっており、尖った耳も伏せ柔和な笑みを浮かべている
普段の彼からは想像もつかない姿だった。
(ま、まずいです…こんな姿を誰かに見られていると知られれば…)
その焦りから体をより岩肌に寄せて隠れようとした時。
ちゃぽん…と決して小さくもないエイヤフィヤトラの胸が水面を叩く音が響く。
「誰だ?」
その音を彼は聞き逃さなかったようだ。
ゆっくりとエフィの隠れている岩陰へ近づいてくる
『貴様…まさかアレを見て……さらばだ…(シャキンシャキン!)』
(ひっ!わた…し、死…)
「む…?これは…」
恐怖から固く瞑った眼を開けた時、彼女の眼に映った光景は…
どこからともなく現れた黒羊が、勇猛果敢に岩陰からその男の方へ泳ぐ姿だった。
(ち、ちびめーちゃん!)
「これは…確かエイヤフィヤトラの…」
その黒い眼は一瞬エフィの方へ向けられ、『俺が時間を稼いでるうちに早く逃げるんだ!』と訴えてるように見えた。
(ごめんなさい!ごめんなさい!めーちゃん!)
エイヤフィヤトラは駆けた。
その目に涙を浮かべながら
「んー!可愛いでちゅね~!どうしてここにいるのだ^~?」
「きゅ~~~!!」
背後で聞こえるちびめーちゃんの断末魔に報いるためにも、生きて…彼女は生きねばならないのだ。