悪役令嬢攻略物語 作:助難
ある日目が覚めたら乙女ゲームのヒロインになってました。
何でや。
ある国の男爵家次女に生まれた私、ローダンには日本の女子高校生だった前世の記憶がある。
勿論最初からそんなものを持っていた訳ではなく、最近通い出した学校で、紫髪を持つ美人に呼び出された時覚醒した。
放課後特に予定もなく帰り支度をしていた私は、同じクラスの眼鏡をかけた女の子に誘われ、一緒に校舎裏に向かった。
決闘か何かだろうと理由も聞かずについていったのは間違いだったかもしれない。
ついた先には紫髪の美人と、その他のモブ女たちが射殺すような視線を向けて立っていた。
一緒に来ていた女の子はいつの間にかいなくなっていたので、使いっぱしりにされただけなのだろう。
特に頼んでもいないのに懐いてくる王子たちのせいで、私に嫉妬の目を向ける女子は多く、陰湿ないじめを受けていた。
嫉妬を向けてくる女子たちの中でも、公爵家長女であり王子の婚約者でもある紫髪の美人──ロベリアは私を虐める筆頭格だ。
今覚醒した頭で考えると将来王妃になるかもしれないロベリアから直々の虐めを受けるのは、ちょっとした背徳感がある。
ロベリアは私の事を「小汚い雌犬」やら「平民の娘」やら「身体を売って学校に入ってきた娼婦」なんて言って笑ってきた。
周りにいた頭の悪そうな女たちも何か言ってきたが、そこら辺は覚えていないので割愛する。
まあ、私の父は一代で平民から男爵位に登り詰めた人間なので、血統を重んじる上級貴族のロベリアから平民の娘と言われるのは少し納得できる。だってうちの家系は皆農家だし、父は男爵位を貰ってからも農業に励んでいるし。
かくいう私も農業をしたり、乗馬をしたり、犬と一緒に羊を追いかけ回したりと自由な暮らしをしていたので、ご令嬢っぽさは少し欠けている。そこが王子達にはツボなんだろうけど。
少女漫画みたいに目を潤ませて震えていればヒーローが助けに来てくれる。
そんな甘えた事を考えもしなかった私は、ロベリアに言い返していた。
何て言ったんだっけな、確か「私が雌犬ならお前らはご主人様に尻尾振れば交尾できると思ってる雌豚だな」的な事をお嬢様言葉で言っていた気がする。
今思えば、乙女ゲームにあるまじき主人公の暴言である。
しかしあの時の私はここが乙ゲーの世界なんて知らなかったし……、それに腹が立ったら言い返さないと気がすまないタイプなのだ。
ロベリアは私が言い返した事にカチンと来たのか顔を真っ赤にして、「犬風情が学園の制服を着るなんて烏滸がましいと思わないの」なんて言って取り巻きの頭も悪ければ口も悪い女たちに私の服を脱がせるよう命令していた。
何度も言ったと思うがこれは乙女ゲームの世界である。
エロゲーではない。
あと間違えても百合ゲーでもない。
何故かあのゲーム、BLルートはあったけど。
さて、服を脱がされるピンチにも関わらず、押さえ付けられた手足を何とか振りほどき、悪逆無道たるロベリアとタイマンを張ろうと拳を握った時、私は見てしまったのだ。
ロベリアの半泣き顔を。
薄い青色の瞳が潤むのを。
ローダン15歳。この世界で初めて恋に落ちた瞬間だった。
見惚れている間に何か固い物で殴られ、気絶したのはご愛嬌である。
そして、目が覚めたら前世の記憶を思い出していたということだ。
多分殴られた衝撃で何か記憶を司る神経がバーンってなったんだと思う。いや、よくわからないけど。
なんてことはない普通の女子高生だった私の記憶は、ローダンである私の記憶と融合し、ベッドの上で落ち込んでいる。
そう、落ち込んでいるだ。
おい、
お前は腐っても乙女ゲームの主人公だろう、攻略対象の王子とか騎士団長の息子とかに落ちるべきだ。
そもそもこの乙女ゲームには悪役令嬢ルートとか無かったぞ。まあそれはそうか、百合ゲーでは無いのだし……。
まあ、この乙女ゲームの主人公には前世の記憶云々の設定はなかったし、似た世界っていうのが一番納得できる、かなぁ?
しかしおまえ、初恋って。とある国日本では、初恋は実らないとか言われてるんだぞ。どうするんだお前、おい。
初恋はしょっぱい涙の味とか嫌だぞ、おい。
何より一番の問題は前世の私も、恋をしたことがない事だ。
前世を通しての初恋と言うものである。ロマンチックぅ! アホか。貴女を前世からお慕いしていました、とでも言うつもりか。
あと泣き顔で落ちるってお前、そういうのは漫画に出てくるドS俺様的なイケメンやるべきだろう。ローダン、泣き顔が唆るとか声に出して言うもんじゃない。分かってる、知ってる。お前と融合してしまった前世のお前も変態だ。だから落ち着いて。
そんなに騒いだら人が来ちゃうから!
「……貴女もう起きていたのね」
ほら、来ちゃったじゃん! バカ、バカローダン!
とくん、運命の人! っじゃねぇから! 胸をときめかせるな、頬を染めるな、ロベリアが戸惑ってるじゃねぇか!
「! あんなに頭を強く打ったのにもう笑ってるなんて、本当庶民は身体だけは丈夫ね」
そう言って顔を背けるロベリア。
で、デレキター! これはあれだ、「心配したこっちがバカみたいじゃない」って言われるやつだ! 知ってる、テレビで良く見た!
どうせほっとした顔を隠すためにそっぽ向いたんだろ! そうなんだろ! 見せておくれ、私は貴女のそう言う顔が大好きになってしまったんだ!
「元気になったのなら早く部屋に戻りなさい。娼婦が医療室にいるなんて漏れたらどうするつもり。それに貴女には物置っていう相応しい部屋があるでしょう?」
つまり明日も早いから早く休みなさいって事? ロベリア、貴女――
「本当に素敵ね!」
「はぁ?」
おっと、口に出ていた様だ。
◇◇◇◇◆◇◇◇◇
部屋──ロベリアが言うような物置ではない──に戻ってきた私は、明日の準備を終えてベッドに寝転んだ。
第一回ロベリアと仲良くなろう作戦会議を決行する為だ。
似たような性格の為かすぐに融合した私たちは前世の妄想力と今世の知識力を駆使し、ロベリアを落とす想像を重ねる。
吊り橋効果で上手くときめかせる?
──ご令嬢に吊り橋効果が発動するような目に合わせるなよ。一歩間違えれば首が飛ぶぞ
ロベリアが今惚れてる相手にこっぴどく振られている所を慰めて、あれよあれよという内にベッドへ?
──いや、ロベリアの幸せを第一に考えて行こうぜ
うんうんと唸りながら、考えを絞り出していく。
そもそもこの世界のご令嬢が仲良くなるには、家柄とか派閥の事込みで打算的な部分を持って友達になるのが一般的である。
個人的な付き合いは本当に仲が良い、それこそ前世で言う親友の様な存在にならないと出来ないし、それまでは二人きりなんて以ての外。
前世でのお友だちのなり方なんて覚えてないしなぁ。そもそも今世では使えなそうだ。
元となった乙女ゲームには、男と仲良くなる方法なら沢山描かれていたけど、女の子、しかもライバルで悪役であるロベリアと仲良くなる方法なんて全く描かれていなかった。
やっぱり手っ取り早いのはお茶会に誘うか誘われるかしか無さそうだな。誠に遺憾ながら嫌われている手前私から誘うのは気が引けるけど……。
「いや、これも仲良くなる為だ! ロベリア嬢と面倒だけど取り巻きたちに招待状を書こう!」
殴りかかってきても大丈夫な様に、刃物やフォークを使うようなお菓子はなしにしよう。
◇◇◇◇◆◇◇◇◇
何てこった。
お茶会を開こうとしたらロベリア嬢から招待状が来た。
もう一度言おう、何てこった。
何でも先日怪我をさせてしまったお詫びに謝罪の意味も込めてお茶会に招待させてくれないかとのこと。
誠に、誠に遺憾ながらめちゃくちゃ嫌っている私にこんなものを送るなんて、素直に喜べないのが現状である。
だってこれ果たし状じゃん……ご令嬢達が集団で襲ってくるやつじゃん……。
届けに来たロベリアの使用人さんも心なしか不安そうにしてたしな。絶対来るんじゃねぇぞ的な目をしていた。
ロベリアと二人きりならいつでも参加するんだけど、というかこちらからお願いするけど……いや、これはチャンスだ。ただでさえ滅茶苦茶嫌われているのに、そんな我が儘ばかり言っていたらロベリア嬢とくっつくまでの時間が長くなる……!
日時は明後日の昼二時。学園の薔薇園でお茶会。
その日は休日だからお茶会を開くための準備とか諸々しようとしていた日であり、そんな予定は最初からなかったのである。
「よっしゃ、この日に思い切って告白するぞ!」
待て
そうと決まればお茶会に着ていく服を選ばなければ。
ロベリアを意識して薄紫のドレスとか? いや、残念ながら可愛い系の私には似合わない。
ロベリアを意識して青色のドレスとか? 涼しげな色で良いかもしれない。
季節感的に黄色とか? もうそろそろ秋かぁ、サツマイモ食べたい。
あとは王子にもらったドレスぐらいしかないなぁ。
……ん? 今なんて?
次の更新は6/1です。
約一年間書き続けてきてこの文量である。