…………誰かの話し声が聞こえる。
1人じゃない。2、3……6人か。
どうやら俺は気を失っていたらしい。ただ前後の記憶が曖昧だ。落ち着くまで待とう。
『あ、気がついたみたいよ。』
ぼんやりとしている視界に穏やかな口調の女性がふわっと現れ、声の主の指(?)が俺の頬をぺちぺちと叩く。
「んぇ……?」
『おーよかったよかった。』
『大丈夫かい?名前とか思い出せるかな?』
「………………え?」
どうやら心配してくれているようだが、なんだこれは。
鮮明になっていく視界に入ってくるのは、30cmほどの大きさの桃色の妖精?精霊?のような生き物だった。
左右を見渡すと、同じくらいの大きさの黄色と青の精霊と、それとは正反対に4,5mほどの大きさの群青色の竜、薄桃色の竜、灰色と黒の竜の計6匹がいた。
俺と同世代の人ならすぐにわかる面々がそこにいた。ただ彼らは現実にはいない。
「えっと……」
どこから聞けばいいんだろう?困惑していると、黄色の精霊が近づいてきた。
『こちらから質問したほうがよいではないか?』
『そうね。じゃあ1つ質問を。正直に答えてね。』
「は、はい。」
『貴方は、私達6匹のことを知ってる?知らない?』
「えっと……知ってます。」
『そう。じゃあ彼から呼んでいってもらえるかしら。』
そう言って顔を向けた方にいたのは、群青色の四つ脚の竜。いざ本物を目にするとプレッシャーというものを直に感じる。
「……時間を操るディアルガ。」
『左様。』
胡座をかいている薄桃色の竜。
「空間を操るパルキア。」
『そうそう。』
黒い6枚の翼が目立つ灰色と黒の竜。
「裏側の世界に住むギラティナ。」
『うむ。』
さっきから俺の周りをくるくるしてる桃色の精霊。
「感情の神エムリット。」
『そうよ。』
同じくくるくるしてる青色の精霊。
「意志の神アグノム。」
『うん。』
最後に目の前にいる黄色の精霊。
「そして知識の神ユクシー。」
『よくできました。』
『今度はあんたが自己紹介しなさいよ。』
エムリットが再度俺の頬をぺちぺちしながら俺にも名前言えと言ってきた。まぁ言わない理由もないし別にいいか。
「蒼葉 誠。今年で17歳の人間です。ところで、なんで俺はここにいるんですか?」
『あ、敬語なしでいいよ。その方が楽でしょ?』
「あ……わ、わかった。それで、何が起きてるんだ?確か俺は……」
『飛行機に乗ってたはず、であろう?』
気さくなパルキアに敬語なしでと言われ、特徴的な喋り方をするディアルガに食い気味に言葉を遮られる。
「旅行の帰りの飛行機に乗ってて、何かトラブルがあって飛行機が墜落してて……覚えてるのはここまでだ。」
『墜落寸前のところを我と
『ニュースによれば、飛行機はシンオウに似た地域の南部の海に垂直に墜落。機体はバラバラになって生存者は0人と言われているわ。』
ユクシーが補足したことはどうやら事実らしい。ディアルガとパルキアが助けてくれなかったら俺も他の人と同じようになってたかもしれないと考え……たくはない。吐きそうになる。
「それは……助けてくれてありがとう。でもなんで俺が?」
『それが……』
歯切れの悪い言い方をしながらディアルガとパルキアの方を見るアグノム。
『その……俺と
『ね?じゃないわよ!何が『面白いことするからちょっと来てみ?』よ!!遊びで他所から人を連れてくるってバカなの?!お父様が聞いたらなんて言われるか……』
『親父に聞いたら『余程のワルじゃない限り1人くらい別にいいんじゃない?』ってさ。』
『そうよそういうヒトだったわね!!!』
人間の想像のつかないことを《遊び》と称しているあたり、流石は神といったところか。ただ彼らの性格は神とは思えないほど豊かであることは間違いない。おそらくこれが素だろう。
「あれ、親父って……アルセウス?」
『ご名答。詳しくはミオ図書館の本でも読んで。』
あとは自分で調べて、ということだろう。他所の世界の人間にベラベラ喋るワケにもいかないのだろう。
「まぁ俺からしたら助けてくれたことに変わりはないから。本当にありがとう。ディアルガ、パルキア。」
『いやぁ別にお礼なんて!大したことしてないけどね!ハハハ!』
『目の前の救える命を救ったまでだ。』
「ただ一つ聞きたいことがあるとすれば……俺はこれからどうすればいいんだ?」
上機嫌になっていたディアルガとパルキアが一瞬にして固まり、冷や汗をかいているように見える。
『あんた達こいつ連れてきた後のこと何も考えてなかったわね?!』
『だってさぁ……』
『だってじゃないわよ!!』
日頃からよくするのか、パルキアとエムリットが口論をしていると、アグノムが仲裁に入り、2匹を宥めると俺を見た。
『君はどうしたい?』
「俺の、意志か……」
『そ。』
元の世界に帰してくれと言えば帰してくれるのだろう。だが俺と帰還先の状況が状況だ。元の世界に帰ったとすると、飛行機事故の唯一の生存者として色々面倒くさいことになるのが目に見える。未練はないと言えば嘘になるが、将来が不安な部分があったからある程度路線が定まっているこの世界ならやりたいことも見つかるだろう。何より異世界、それもポケモン世界ならワクワクしないわけがない。家族には本当に申し訳ないが、俺はこの道を選ぶ。
「俺は、この世界で新しく生を謳歌したい。旅をして、いろんなポケモンに出会いたい。 これが俺の意志だ。」
『うん、わかった。ボクは彼の、マコトの意志を尊重するよ。』
アグノムがそういうと、他の5匹も納得したような表情を浮かべて(エムリットはやれやれと呆れていたが)承諾してくれたみたいだ。
『そうと決まれば早速動くわよ!』
『とりあえずマコトをどこかの街に送らないとね。どこか行ってみたい場所はあるかい?』
「あ、じゃあマサゴタウンに行きたいかな。旅をする上でまず行っておくべきだと思うし。」
『あー確かあそこに博士とかいうおじいちゃんがいたわね。私もちょっと用があるし途中まで一緒に行くわ。』
「ありがとうエムリット。あ、でも金とかどうすれば……」
『問題ない。』
ディアルガがそういうと目の前に現れたのは飛行機墜落の際に紛失した旅行鞄だった。中には3〜4日分の着替えと財布が入っており、財布の中身は元の世界のものからこの世界に合わせた紙幣、硬貨に換金(といっても紙幣の肖像画が変わっている程度でお金そのものの価値は変わらないようだ)されていた。
『探しておいたぞ。これで間違いないな?』
『お金もこの世界で使えるようにしといたからね〜。』
「鞄までわざわざ……本当にありがとう。」
『ほら早くしなさい?置いて行っちゃうわよ!』
エムリットが催促するので鞄を持ってディアルガ、パルキア、ユクシー、アグノムの4匹に挨拶。
「改めて、これからこの世界の住人になります!よろしく!」
前脚や手を振る4匹を背にエムリットの方に行くと、裏側の世界へと通じる穴ができていた。もしかするともしかするかもしれない。
「なぁ、もしかして。」
『そ。ギラティナに乗ってマサゴタウンまで行くわよ!』
『落ちないようにしっかり掴まっていろよ?安全運転は心がけるけども。』
思い切って穴に飛び込み、アナザーフォルムからオリジンフォルムになったギラティナの背に着地。エムリットも降りてきたと同時に穴も閉じた。
『では行くぞ。しっかり掴まってろよ!』
「お願いします!」
『それじゃあマサゴタウンにゴー!』
エムリットの掛け声とともにギラティナは進み出す。方向感覚を失いそうになるが、進んでいる方向はさっきまでいたテンガン山頂上の【槍の柱】から西に向かっているだろう。
『ところであんた、出身地とかどうするのよ。』
「出身地……あーそっか。」
ギラティナやエムリットと雑談している中、エムリットから出身地などの身分証明に値する情報をどうするのかと聞かれた。
そもそも俺は異世界人なので当然この世界に身内はいない。出身地も元の世界と照らし合わせれば場所くらいならわかるが、戸籍がないため身分証明が難しくなる。
「どこかの家とか会社とかに拾われるくらいしかないよな……」
『あんたが行こうとしてる研究所でもいいんじゃない?』
「それが一番助かるけどそんな都合よくいかないでしょ……」
『悩んでるところ悪いが、もうすぐ着くぞ。』
ギラティナの進む先を見ると、現実世界へと通じる穴ができていた。穴の向こうには青々と生い茂る木々とその間から見えるマサゴタウンが見えた。
「ありがとなギラティナ。」
『なんの、お安い御用だ。また何か用があれば【送りの泉】にでも来てくれ。何もないとこだが歓迎する。』
「じゃあ、またな!」
ギラティナの背から飛び降り、穴をくぐって現実世界に戻る。振り返ると穴はすでに塞がっていた。送りの泉は確かリッシ湖の近くだった記憶がある。いつか通りがかった時に寄ってみるのもいいかもしれない。
『なにボサっとしてんのよ。博士とやらに会いに行くんでしょ?』
「あぁ、すぐ行くよ。」
こうして俺のポケモン世界での人生が始まったのだった。
fin
どうも窓風です。
はい。久しぶりに書いてみたら約2年ぶりの投稿となりました。
お久しぶりです。
しかもSAOじゃなくてポケモンでっていう。
しばらくはポケモンメインで書いていくと思いますのでよろしくお願いします。