昼間にコリンクをゲットし202番道路を歩ききると、シンオウ最大の都市・コトブキシティに到着した。マサゴタウンの風景とはほとんど真逆と言っていいほどの大都会で、高層ビル群が大通りを歩く人々を見下ろしている。街の中心部にはテレビコトブキ、トレーナーズスクール、ポケッチカンパニーなどの会社、施設が集まっていて人の往来が特に激しい。
時刻は18時頃。陽はすでに落ち月明かりを上書きするかのようにビルや街灯が人々を照らす中、俺とヒカリはポケモンセンターに部屋を取って荷物を置き晩御飯を食べた後、何度か訪れたことがあるというヒカリに簡単に街を案内してもらっている。
「それでここがポケッチカンパニーだね。私も会社の前にまで来たのは初めて。」
「そうなんだ。テレビコトブキと以外と近いんだな。」
ポケッチカンパニーは218番道路行きの大通りに面しており、隠れすぎた釣りの名所といわれる218番道路から釣竿を持った人が帰路についている。
「やぁやぁそこのおふたりさん!」
突然声をかけられ振り返ると、1人の中年男性がいた。こんな時間に俺らに声をかけるって割と危ない印象が強い。
「な、なんでしょう?」
「見たところポケモントレーナーだよね?おじさんポケッチ作ってて、今キャンペーンやってるんだよねー。」
「カンパニーの人ですか?」
「そうだよー!実は今コトブキシティ中心部に3人のピエロがいるんだよね。彼らを探し出せたらポケッチをプレゼントしちゃうよ!」
ポケッチをもらえるの言葉で少し胸が踊る。しかし滲み出る胡散臭さ。本当に大丈夫なのか……?
「あぁごめんね、先にこれ渡すべきだったね。はい。」
そう言うと名刺を渡された。名刺には
『ポケッチカンパニー 代表取締役社長』
とあり、目の前にいる人が正真正銘のカンパニーの関係者……というか社長だというのがわかった。結構フランクな人でびっくりした。
「そのキャンペーンをやれば本当にポケッチをもらえるんですか?」
「そうだよー!ただもう暗いから気をつけてねー。」
そう言うと社長さんはカンパニーの中へと入っていった。
「なんというか…………悪い人ではないかもね?」
「そう、だな……ん?あそこにいるのって……」
「ピエロ、だね……」
さぁピエロ探しといこうとしたとき、カンパニーの看板横にいた黄色い服の曲芸師を見つけた。おそらく彼がそうなのだろう。まずは声をかけてみるか……。
「すみません、ポケッチキャンペーンのピエロさんですか?」
「はいポケッチキャンペーンです!では早速クイズをば!ポケモンだけでなくポケモンの技にもタイプがある?」
「「えっ?は、はい!」」
「ピンポーン!正解です!ポケモンと技のタイプが同じだと威力が高まるのです!ではこのポケッチの引換券をどうぞ!」
唐突なクイズにほぼ反射で答えると、ピエロは懐から2枚の紙切れを出して俺たちに差し出した。紙切れには『ポケッチ 引換券2』と書いてあった。
「ヒカリ大丈夫か?びっくりするくらい話が進むの早いけど。」
「だ、大丈夫。クイズを出されたのはびっくりしたけど。」
「たぶん他の2人も同じ調子だろうな。夜も更けてきたからチャチャっと見つけてポケッチもらうか!」
「うん!」
残り2枚の引換券を求めてヒカリと相談し、テレビコトブキのほうに行こうと決めた。
「ポケモンに道具を持たせることができる?」
「「はい!」」
「ピンポーン!正解です!道具の種類によって持つだけで効果が現れたりするものがあります!」
「ポケモンは他のポケモンを倒すことで経験値を得て強くなる?」
「「はい!」」
「ピンポーン!正解です!中には進化といって姿形をまるっきり変えるときもあります!」
「引換券が1、2、3枚!お見事!では君たちにポケッチをプレゼント!色は青とピンクの2種類!好きな方を選んでね!」
「じゃあ青で。」
「私はピンク!」
「はいどーぞ!色んなアプリが随時更新されていくから、お気に入りのアプリを見つけてくださいねー!」
引換券を集めきってカンパニーに行くと社長さんとちょうど鉢合わせ、引換券3枚と交換してポケッチを手に入れた。ポケッチの2つあるボタンを押すと電子音とともにアプリが切り替わり、デジタル時計から電卓、歩数計、そして手持ちポケモンの様子を見れるポケモンリストが表示される。
「確かにこれは便利だね。」
「あぁ。すごいなこれ。」
「もしも〜し、ちょっといいかな〜?」
ピカピカのポケッチに感動しているところで、後ろから成人男性と思われる2人がねっとりとした声で話しかけてきた。金髪オールバックでピアスをした男とその子分のような小柄な男のいかにもヤンキーな2人組だった。
「お、お嬢ちゃん可愛いね〜。見たところ旅立ってからまだそんな経ってないよね?」
「は、はい、そうですけど…………」
「したら俺が先輩トレーナーとして手取り足取り教えてやるからさ!一緒にちょっと向こうに行こうぜ!」
「えっ、ちょっと!」
強引にヒカリを連れて行こうとする金髪男の腕をほぼ無意識に掴む。それと同時に俺のことが気にくわないのか金髪男が睨んできた。
「あ?なんだガキ。離せよ。」
「勝手に話を進められちゃ困るんですよ。悪いですが俺と旅をしているのでそれはできないですね。それにもうすぐ21時になるんで帰らせていただきます。」
「テメェに用はねぇんだよ!失せろ!」
「ぐあっ!」
手を振り払われ腹に蹴りをくらってよろめく。反射的に腹筋を力を入れてダメージは軽減されたが、それでも成人男性の蹴りをモロにくらった。結構痛い。
「マコト君!」
「はぁい君はこっちね〜。」
「いや!離して!」
ヒカリがもう1人の男によって俺に近寄れないようにすると、よろめく俺の胸ぐらを金髪男が掴んだ。
「新米トレーナーのガキが調子のんなよ?」
「はっ…………情けないな。」
「あぁ?」
「情けないって言ったんだよ。外見でしか強く見せられない大人が、こんな人通りのある場所で、未成年を痛めつけてるなんて、あぁ情けない。」
気がつくと周りには野次馬ができており、痛々しい視線が金髪男や子分に注がれている。
ようやく状況を理解したのか、金髪男は舌打ちをすると俺を横に投げ捨て、ばつが悪そうに子分を連れて路地裏に消えていった。
「マコト君!」
「キミ、大丈夫!?」
拘束を解かれたヒカリと金髪男と入れ違いで来たジュンサーさんが駆け寄ってきた。それと同時に野次馬も散っていき、何事もなかったかのような街の騒がしさが戻ってきた。
「なんとか大丈夫ですね。1回蹴られましたけど。」
「ヤンキーに過剰に絡まれてる子がいるって聞いて来たんだけど、そのヤンキーは?」
「そっちの路地裏に消えました。」
「そう。未成年がだけでこの時間をうろつくのはあまりオススメしないわ。歩ける?」
「大丈夫です。」
「なら良かった。いるのよ、新米トレーナーを狙うよくないトレーナー。君たちも今後気をつけてね。」
「はい。ありがとうございます。」
ジュンサーさんは金髪男を追うように路地裏へと向かった。立ち上がってふとカンパニー2階の窓を見ると、社長さんがこちらを心配そうに見ていた。おそらくジュンサーさんに電話をしてくれたのだろう。俺の顔を見るとホッとして建物の奥に消えていった。
そしてさっきから俯いて俺の左腕を掴んで離さないヒカリ。その腕は少し震えており、無理矢理連れて行かれそうになったのが怖かったのだろう。
「大丈夫。もう大丈夫だから。」
「…………無茶しないでよ。」
「……ごめん。」
「でも………ありがとう。」
「……どういたしまして。」
まさか旅立った初日の夜にこんなアクシデントに合うとは思わなかった。しかしヒカリを守れたなら、ひとまずそれで良かった。
「……落ち着いたか?」
「うん…………もう大丈夫。」
「じゃあポケモンセンターに戻るか。はい。」
そう言ってヒカリに左手を差し出す。
「その、はぐれないようにっていうのと…………さっきのみたいのに絡まれにくくする方法?いやそのヒカリが嫌だったら別n」
「……はい。」
ヒカリの右手が俺の左手に重なり、自然に握る。自分からやっておいてナンだが、とても恥ずかしい。おそらく顔も少し赤くなっているだろう。しかしヒカリの顔も少し赤くなっているように見えたのは気のせいだろう……そうだよな?
「じゃ……戻ろっか。」
「ぁ……そうだな。」
眩しいくらいの街明かりを浴びながら、俺たちは握った手を離すことはなくポケモンセンターへと向かっていった。
都会ならではの喧騒を包む街明かりは、今日も色んな人を照らしている。
fin
「いやぁ〜、若いっていいね〜」