綾小路の妹が転校してくるよくある話。   作:靄詩真輝

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再投稿です。


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「何故お前なんだ……千咲」

 

 CクラスからDクラスへの降格後、二年に進級して間もなく。

 我らがDクラスに転校生がやってきた。

 その転校生の姿を見て、オレは思わずそう呟いてしまう。

 

 懸念はあった。

 あの月城などという理事代行が就任した時点で、あの父親からのもう一人の刺客がそろそろ来るだろうと。

 しかし、これは予想出来なかった。……否、可能性はあったし、予想は出来たはずだ。おそらく、無意識の内に除外していたのかもしれない。こいつだけには来て欲しくないと。そう無意識に。

 

 茶柱の先導のもと、オレの妹、千咲は、長いセミロングの茶髪を揺らしながら教卓の前へと歩き、こちらを向いて立つ。

 気のせいか、一瞬目があった気がした。

 

「おー! カワイイじゃん!」

「確かに〜! 美人さんだね!」

 

 池がそう嬉しそうに言うと、何人かの女子がそれに同調して声を上げる。

 前でその黄色い声を聞いた千咲は、長い髪の毛先を人差し指でクルクルとして、照れるフリをした。

 

「カワイイぃ!」

「少し黙っていろ池」

 

 池が案の定また叫んだが、茶柱の一声によって制止される。

 

「皆もう察していると思うが、転校生だ。この学校では異例中の異例だがな。さあ、自己紹介を」

「あ、はい」

 

 茶柱の指示で、千咲は自己紹介を始める。

 

「えーご紹介にあずかりました、転校生の、綾小路千咲です〜。趣味は読書、好きな食べ物はイチゴケーキです!仲良くしてくれると嬉しいです!」

 

 そう快活に挨拶をする。なるほど、好印象を持たれる挨拶か。オレとは正反対だな。あの男、千咲には社交性を磨かせたのか?

 そう思考を巡らせていると、クラス中の視線がオレに集まっている事に気づいた。

 まあ、仕方がないだろう。オレは千咲を見て、軽くアイコンタクトを取ると、再び窓の方を意味もなく見る。

 

「えーと……。お察しの通り、あの端っこで窓の方を見ている清隆は、私と双子のお兄さんです〜」

「マジかよ千咲ちゃん! あ、綾小路が兄ちゃんなのか!?」

「いや、その驚き方おかしくない?」

「は!? 何だよ長谷部!」

 

 いつもなら山内も池と同じようなリアクションを取るのだろうが、今はもう彼はいない。

 一人でワアワアと騒いでいる池に、波瑠加がツッコミを入れて、再び騒がしくなる。

 そろそろ茶柱が一喝して黙らせそうだが、それよりもオレは、隣人、堀北からの鋭い視線に胃が縮みそうだった。

 

「本当に彼女はあなたの妹なの?」

「……まあな」

「しかも同じ年齢」

「……双子だしな」

「聞いてないわよ」

「……聞かれてないしな」

「あなたはやっぱり、分からないわ」

「分からない方がいい」

「……どういうこと?」

「さあな」

 

「気持ちは分かるが、静かにしろお前達」

 

 と、ここで。再度発せられた茶柱の一声に、教室が静まる。

 

「綾小路……妹、お前は兄の後ろに座れ。その方が色々と融通が効くだろう。机は……空いている机をあいつの後ろに持っていけ」

「了解しました〜」

 

 千咲は一度お辞儀をすると、テクテクと元々山内が使っていた机を運び、オレの後ろへと座る。

 当然だが、皆の注目を浴びている。兄も妹もだ。

 そうなのに、千咲は後ろからオレの耳元に顔を近づけ、囁いてきた。

 

「お久しぶりです。お兄さん」

「…………」

 

 語尾にニコッとつきそうな位に朗らかな印象を持てる声で語られるも、オレは無視する。

 正直オレは、この状況に酷い苛立ちを覚えていた。あの男が刺客を送ってきた事自体は、正直どうでもよい。よくはないが、分かっていたことだ。オレが苛立っているのは、後ろに座っている彼女を送り込んできたということだ。

 千咲……。オレがこいつについて覚えているのは、ごく僅かな事しかない。何せホワイトルームにいる間は、こいつと喋る事さえ出来なかったからな。

 千咲も確かに、ホワイトルームにはいた。しかしすぐに脱落した。その事実と、一度だけ、おままごとをしたという記憶がある。

 ホワイトルームが創設される、少し前の話だ。

 ……いや、別に深く語る必要も無いだろう。

 

✣✣✣

 

「きよぽ〜ん」

 

 昼休憩時。早速というか、波瑠加と愛里、そして啓誠と明人がオレの席にやってきた。

 千咲は、他の女子達に連れられて、食堂に行ったようだった。

 

 オレの机の周りに各々近くにある椅子を持ってきて座る。今気づいたが、全員弁当を持ってきていた。もう教室で昼食も済ませるつもりなのだろうか?

 

 あれ?オレの昼食は……?

 

「き、清隆くん! これよかったら……」

 

 オレが少し昼食の件のせいで黙ってしまっていると、愛里が声をかけてきてくれた。そちらを見ると、なんと驚き。机の上に置いてある彼女のであろう弁当とは別に、もう一つの弁当箱を、オレに差し出してきてくれていた。

 

「ありがとう愛里。すまないな」

「う、ううん! 大丈夫だよぉ!」

 

 オレが感謝の言葉を述べると、愛里は気にしないでと返してくれる。

 しかし、本当にありがたい。女子からお弁当を作ってもらうなんて初めてだが、とても嬉しい。

 

「清隆、早速だが──」

「もうゆきむー! とりあえず食べながらでいいでしょ!昼休憩終わっちゃうし」

「そ、それもそうだな。すまない。早とちりしてしまった」

 

 啓誠が何かを聞こうとしていたが、波瑠加が遮り提案をする。『食べながら話そう』と。……嫌な予感しかしない。

 まあある程度何を聞かれるかは予想出来るがな。

 

「それじゃあとりあえず、いただきます!」

 

 波瑠加の音頭の後、各々食前の挨拶をして弁当を食べ始める。

 

「明人は、部活とかじゃないのか?」

「あ〜……今日はサボりだサボり。今朝のあれ見ちゃ、部活に集中なんか出来ないからな」

「だよね〜。あんなの見せられたら、ね〜?」

「そうだな。今回の話はそれだ清隆。お前には、洗いざらい話してもらうぞ」

「あ、で、でも、清隆くんが話したくない事は話さなくていいからね」

 

 オレの明人への質問のせいで、本題に入りやすくなってしまっていた。

 失態。まあ遅いか早いかの問題だ。キッカケが無くとも、波瑠加がいつものペースで聞いてきただろう。

 

「で、きよぽん。本当にあの子って妹なの?」

「言われてみれば似てる気がするって感じだけどな。目元とか」

「……まあ、本当だ。確かに千咲は、オレの妹だ」

「そう……なんだ」

 

 波瑠加からの質問に、オレは肯定する。愛里は何故か、落ち込んでいる。

 

「でも、何でこの時期、というかこの学校に転校してきたんだろうね?」

「……さあな。オレにはサッパリだ」

「そうか。兄であるお前にも分からないか」

 

 波瑠加のご尤もな疑問に、オレが肩を軽く竦めて返すと、啓誠がメガネをクイッと上げてそう言ってくる。

 ……まあ、転校してきた理由は前述の通りである程度分かっているのだが、彼らには言わなくていいだろう。

 何よりこの問題に、彼らを巻き込みたくない。

 

「だいたい、色々とおかしいよな今回の件。この学校って、転校のシステムとかあったんだな」

 

 明人が弁当のウィンナーをパクリと食べると、箸をクルクル回しながらそんな疑問を口にする。

 確かにオレも驚いた。

 クラス内での団結が何より必要なこの学校で、転校生を入学させ、そしてもうほぼ成り立っているであろう一クラスに放り込むなんて。色々と非効率で、非合理的だ。

 ……あの男の指示で、月城理事代行が勝手に決めたという可能性があるが。というか、十中八九それだが。

 

 

 

「まあ、適当に接してやってくれ。あいつは俺と違って、社交的だしな。愛里も仲良くなれると思うぞ」

「そ、そうかな……」

 

 愛里は顔を俯かせ、モジモジしてしまう。

 

「このタイミングで聞くのはおかしいかもしれないが清隆、妹の実力に関してはどんな感じなんだ?」

「あ、ゆきむーそういう事聞いちゃうの?」

「し、仕方がないだろう! そういう学校なんだ。今回はただでさえイレギュラー。しっかりと戦力を把握して、計画を立てていくのが当然だろう」

「でもさ〜、やっぱりタイミングってやつがあるじゃん」

「気にするな波瑠加。千咲の実力だが……まあ、オレと同じくらいだと考えといてくれ」

 

 千咲の事だ。オレが適当に言えば、合わせてくれるだろう。

 

「そうか……つまり未知数という訳だな」

「おい何故そうなる」

 

 未知数って表現はやめて頂きたい。普通にしてくれ普通に……と、言いたいところなのだが、前日の一年最後の特別試験では、目立ちすぎた感がある。

 押し付けられたみたいな感じとはいえリーダーを務め、クラスに指示を出した。表向きでは、堀北から出された指示を綾小路が出すといった構図になっているはずだが、察しのいい者は察しているだろう。ただ認めていないだけで。

 啓誠は、というより、ここにいるグループの全員は、オレの事を完全に上として見ているらしい。それでも今まで通り普通に接してくれているので、感謝している。

 

「まああれだな。二年も始まったばっかりだし、気長にやろうぜ」

「お、みやっち良いこと言うね」

「だろ?」

「うわ〜お。今ので台無し」

「おい」

 

 

 

 こんな具合で千咲の話の後は、いつもの様に昼食を楽しんでいたのだが、昼休憩も終わりに差し掛かっていた時の事である。

 

「お兄さん!」

 

 明るい声で、千咲がオレを呼ぶ。

 オレが声の方を向くと、千咲はハグをしてくる。

 

「会いたかったですよ〜!」

「そうか」

「……反応薄くないですか?」

「いつもこんな感じだろ」

 

 正直、面倒くさい。

 昔はこんな風にベタベタしてこなかったというのに、何故か今はこんな感じだ。

 全く会わなかった一年間で、こいつに一体何があったのだろうか?

 

 後ろに座っている綾小路グループの皆は、ポカンとしてしまっている。愛里と啓誠に至っては、眼鏡がずり落ちてしまっている。……まあ無理もない。自己紹介の時とのギャップが、激しすぎる。

 少し経ったあと、千咲が落ち着いてきた所で、オレは周りに聞こえないよう小声で彼女に話かける。

 

「おい、今日の夜話せるか?」

「……はい」

「なら22時に、オレの部屋な」

 

 一秒にも満たない会話。

 

「ごめんなさい皆さん。食事の邪魔をしてしまって」

「え? あ、いいや全然大丈夫だよ〜」

「兄妹仲がいいのは素晴らしい事だしな」

「そうだな」

「うんうん」

 

 オレから離れ、後ろの皆へと千咲が一礼して謝罪する。

 波瑠加、明人、啓誠、愛里の順で返す。

 

「千咲」

「ん?どうしたんですかお兄さん?」

「友達はいいのか?」

「……は! そうでした! 失礼します皆さん!」

 

 千咲は残像が見える程に素早く礼をすると、風のように去っていった。……相変わらずだな。

 と、ここで──チャイムが鳴った。

 

「凄いねきよぽんの妹。きよぽんとは正反対」

「そうだな……ぶふっ! 清隆があんな感じで接して来るのを想像したら笑えるな」

「笑うな明人」

「で、でも、良い人そうだったよ!」

「双子でもこう違うものなんだな」

 

 各々最後に軽くオレのことをディスってから、席に戻っていく。

 ピロンっと音が鳴る。

 オレのスマホからだ。

 

 恵からのメール。要約すると、『どういうことか説明しろ』という事だ。

 いつの間にか自分の席に着いていた恵を見ると、物凄く鋭い眼光で、こちらを睨みつけている。

 おっと怖い。とりあえず、『今日の22時にオレの部屋に来い』とメールを送っておいた。

 

「綾小路くん」

 

 送信完了のメッセージが表示されると同時に、俺は隣人から声をかけられた。まあ、堀北だ。

 

「何だ?」

「説明しなさい」

「……もう授業前だぞ」

「そうね。だから簡潔にまとめなさい」

 

 ……こいつ。あの最終試験後は少し丸くなっていた気がしたが、気の所為だった。

 

「……双子の妹だ」

「それは聞いたわ。私が聞きたいのは、何故このタイミングで彼女が転校してきたのかを知りたいのよ」

「理由は別に、知らなくていい。教えたくないしな。でもこれだけは約束しよう。千咲は決して、このクラスの害になるような事はしない」

「彼女はあなたの様に、実力を隠すなんておかしな事をする人物では無い……という解釈でいいのかしら?」

「……それは本人に聞いてくれ」

 

 大して意味もないこの会話は、千咲が教室に入ってきた事により止められる。授業開始ギリギリだな。

 オレの後ろの席へ腰掛け、慌ただしく準備をする。

 

「……全くあなたと似ていないわね」

「昔からよく言われるよ」

 

 小声で少し失礼な事を言ってくる隣人に、オレは適当に返す。……適当と言ってもまあ、これは事実だ。

 オレと千咲は全く似ていない。それは外見的な意味ではなく、内面的な意味でだ。

 千咲がオレの事をどう思っているのかは知らないが、オレは彼女が嫌いだ。

 

 

 

 オレらしくなく、少し感情的な思考に入っていると、茶柱が入ってくる。

 午後の授業の時間だ。

 いつも通り、オレはまた、窓の外を頬杖ついてから見始めた。




亀更新。

気が向いたら書きます。
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