悪役令嬢がフラグ回収に勤しむなら、自分も参加していいよね?   作:ジーザス

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第4フラグ相手にカタリナより先に会って大丈夫か?

「お前は俺の妹をどう思っている?」

 

いきなりの質問に俺は首を傾げていた。いや、俺ではなくとも初対面の相手にそんなことを聞かれたら、誰でも思考は回らないだろう。

 

ここはある貴族の自宅。何故そんな場所で貴族のお子様の相手をしているかというと、話は数時間前に遡る。

 

 

 

 

 

『え、俺がですか?』

『お前にも社会のことを知ってもらうべきだと思ってね』

 

というのも近頃は、俺やカタリナが訪問される側にいるから、どうにかしなければならないということらしい。来る相手といえば、何故か王子なので周囲からすれば可笑しな事だろう。知っている人物なんてほとんどいないが。

 

『いつかはお前も一家の柱として家族を守らなければならない。家族を守るには周囲との結束が必須だ。その結束をつくるには、普段からの交友関係がかかわってくる。それを学んでもらうために今日は私と来てほしい。どうだろうか』

『喜んで』

 

俺にはそこまでに拒否権はない。もともとこの家に養われているのだから権利はないに等しいからだ。もちろん本当にマズイことは遠慮させてもらうが。

 

『お兄様、何処かへお出かけですか?』

『父上と挨拶回りだよ。将来は家族を守る立場になるんだから、少しずつ外のことを知っておくべきだ』

『お気を付けて行ってらっしゃいませ』

『行ってきます。カタリナは魔法との対話を頑張るように』

『もちろんです!』

 

カタリナと母に見送られて、俺と父は家を出た。

 

 

 

 

とんでもなく簡潔な回想だが伝わったと思う。異常なのは王子が国内にいくらでもいるであろう公爵家の1つの我が家へ、3日と空けず頻繁に出入りすること。8歳とはいえ王子なのだから、公爵の家に来る暇はそれほどないのではないのだろうか。

 

まあ来たといっても大抵は午前中の数時間だけだから、午後にはそれなりの仕事が多く入っているのだろう。双子の王子両方が押し寄せてくるから、結局はカタリナだけでなく俺も相手をしなければならないのだが。

 

少し変わったことといえば、アラン王子の愚痴内容がジオルドから少しずつ離れていったことだろうか。割合はこれまでが10割だったのに対して6割程度まで減少している。これでも俺からすればまだまだ多いのだが、それだけ関係が少なからず好転しているということだろう。

 

噂では普段2人で行動をすることはなかったらしいが、近頃は距離をとりながらも、共に行動している場面がちらほらあるという。双子故に2人ワンセットでいろいろな場所に足を運んでいたから、それ以外の場所では一緒にいないという注釈がついていたようだ。

 

ジオルドとカタリナは婚約者同士だから、3日と空けずに会いに来るのはまあ許容範囲内だ。だがアラン王子は別段特別な間柄というわけでもない。出会った頃は愚痴吐きマシーンだったが、今ではストレス解消マシーンへと昇段している。

 

結局は道具だと思うかもしれない。だが俺からすれば良き昇級だと思っている。王子から少なからず認められたということなのだから。

 

そういうこともあってか王子がやたらと我が家に来るのは、それだけ居心地が良いからなのではなかと思ったりしている。

 

ではそろそろ現実に復帰しようか。この思考も精神世界でのものだから、現実世界での経過時間はほぼタイムラグなしだ。あったとしても言葉を探していると思うことだろう。

 

「妹様と仰いますとソフィア・アスカルト(・・・・・・・・・・・)お嬢様のことですか?」

「それ以外に何がある。で、どうなんだ?」

「もちろん噂は耳にしています」

「っ!」

 

そこまで怖い顔しないでくれよ。俺だっていきなりそう聞かれたら反応に困るし言葉も選ぶ。下手に刺激したら、取り返しのつかない事態になるかもしれないからな。

 

彼の妹の名からわかるとおり、今俺はニコル・アスカルトの話し相手をしている。無口で家族以外の他人を信用しないこいつは出会ってからずっと無表情だ。貴族の間で妹の悪口(良く言えば噂)を言われ続ければ、そうなっても仕方ないか。

 

よもやこんな早くに、カタリナの第4フラグ相手と相対することになるとは。ここに来たのはまったくの偶然だ。父が友人から若くして功績を残している人を紹介され、今日がその訪問日だったということらしい。

 

「だからといってどうこう言うつもりもありません。かといって素晴らしい人だとも申せませんが」

「そう言う理由は何だ?」

「単純なことです。噂だけで人を判断するのは人間として成長していない証。自らの眼で見てその人を知ってからでないと、真にその噂が本当なのかわかりません。信頼する人からの言葉であれば信じてしまうかもしれません。それを疑えばその人との関係性は崩れるでしょうから。一番正しい情報はその人を自分自身で下した判断、ただそれだけです」

 

爵位としては俺の方が2つほど上だが、ニコルが1つ年上ということもあって敬語になってしまう。初対面であるのも理由の1つにはなる。といっても同い年だろうと年下だろうと一番最初の挨拶は、必ずと言っていいほど敬語となる。

 

「初めまして自分は〇〇です」

「こちらこそ初めまして。〇〇と申します」

 

こんな風なのは想像に難くない。

 

「幼いながらもはっきりとした意見を口にするのですね」

 

やかましいわ。こう見えてもこちとら精神年齢は29歳じゃ。お前より人生経験3倍以上あったら大人の意見になっちまうんだよ。そう言うお前も10歳だろうが。普通ならそんな達観した言動と行動はしないぞ。

 

…いや、妹のことで苦労してきたんだ。精神的な成長がそれに刺激されて、他の子供より達観しているのは当然なのかもしれない。

 

「両親が慎重な人だし、『自分の眼で見たものこそ真実』って口うるさく言うから、どうしてもそうなってしまう。もしかしたら性分なのかもしれないけど」

「はははは。こんな短い時間で人と親しくなれたのは初めてです。普通の子供なら妹の話を振られたら、好き放題に悪口を言いますから」

「妹さんが大好きなんですね」

「ええ、妹はとても大切な存在です。妹がいなければ自分は幸せにはなっていませんでしたから」

 

どうなんだろうなそこは。妹がいたから苦労してこういうことになってるんだ。いなければいなかったである意味幸せな生活だったのかもしれない。でもいるからこそ兄妹愛がしっかりと出来上がっている。いるからこそ幸せがあると理解できるんだろうな。

 

幸せがあることが当然だと思ってはいけない。これから我が家にやって来るキースも自分が生まれた家では、幸せからほど遠い生活を送ってきたのだから。

 

「カルナ、そろそろお暇するよ」

「はい父上」

 

どうやら思っていた以上に時間が過ぎていたらしい。自分の前に置かれていたカップの紅茶を飲み干してソファーから下りる。この世界において食べ物や飲み物の残し方が、どうあるべきかはなんとなく察している。前世の日本と同じで残すことは失礼に当たるようだ。

 

中国では残すことが礼儀とされている。その理由として、皿を空っぽにすることは「まだ足りません」という意思表示になるからだそうだ。残すと言っても限度はある。あまりにも大量に残すことは日本だけでなく世界共通のことかもしれない。

 

中国での残し方はレンゲ1杯より少し多い程度ということらしい。といっても俺は中国はおろか海外に行ったことがないので、直接眼にしたことはないが。

 

ただ紅茶の正しい残し方がわからないので取り敢えず飲み干しておく。俺の礼儀作法が日本風だからというのもあるのだが。

 

「短い時間でしたがありがとうございました」

「こちらこそ有意義な時間でした。またいつでもお越し下さい」

 

うお、無表情の中にある魅惑の微笑みはずるい。いつかは俺も微笑みだけで人を魅せられるようになりたいものだ。

 

小さく手を振るニコルに大きく手を振り返してアスカルト家を後にした。

 

 

 

帰宅する馬車に乗りながらあまり見慣れない景色をぼんやりと眺めていると、父が意を決したような表情で俺を呼んだ。

 

「いきなりで驚くかもしれないけど、お前の弟ができるよ」

「母上がご懐妊されたのですか?」

「残念ながらそういうわけではないよ。その子はお父さんの親戚の子供なんだけど、事情があって我が家に来ることになったんだ。いきなりでごめんね。対面するのは今日の夜だよ」

「どのような事情があったのかはお聞きしません。何があっても弟は弟ですから」

 

カタリナからその子供の情報はある程度もらっている。

 

キース・クラエス旧姓キース・コールマンは当主と娼婦との間に生まれた子供。そういった事情もあって義母やその兄弟から虐められて育った。クラエス家に引き取られても本来のクラエスと母親に虐められ、孤独な少年期を過ごす。

 

その結果、成長したキースはその寂しさを埋めるかのように数多の女性達と関係を持つプレイボーイへと変貌する。しかし主人公と出会ったことで本当の愛を知る。

 

ということらしい。もちろん知ってたけど面倒なことにしないためにも上手く動かないとなぁ。

 

前世は一人っ子だったし親は共働きだったから、弟や妹がほしいと思っていた。妹という存在は若干違った形でできている。付け加えれば、キースだって直接の血縁がある弟ではない。まあクラエス家の分家の子供だから血が薄いわけでもないが。

 

上手く関係を改善してブラコンに育て上げてやろうではありませんか。そうすればカタリナのフラグ回収にも繋がるからwinwinの関係となる。悪い話ではないだろう。

 

「お前ならそう言ってくれると思ったよ」

「何故自分だけにお話しされたのですか?」

「もちろんお母さんには話してあるよ。カタリナに話していないのは驚かしたいからだよ」

 

悪戯っ子の表情されとる。やっぱり俺の父は腹黒い人だわ。人のいい笑顔の下には少しばかり牙が生えた笑顔があるようだ。

 

「悪い人ですね父上は」

「ジオルド王子と婚約されてから少しお転婆な気がするからね。お仕置きだよ」

 

いえ、カタリナのお転婆な性格は元からですとは言えない。8歳までは我が儘な素のカタリナだったが、記憶を思い出してからは17歳の現実世界のオタク女子そのもの。タイミングがそうだったから浮かれていると思われているのだろう。

 

こればかりは俺の手に余る。俺は20年間、カタリナは17年間の生活が脳に詰まっている。どうしたって現実世界の癖はでてしまうものだからだ。

 

その後は、アスカルト家の功績についてわかりやすく説明してもらいながら帰宅した。ただ一番辛かったのは馬車の振動で尻が痒くなることだった。道の舗装を提案してみるべきかなと年齢のくせにそんな夢を見ていた。

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